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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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黒の魔導士 パウロ・バレー



   「な、な、な、何、何、何だ、何だあれは」


キリアは、その恐ろしい姿に、反射的に身を伏せると、必死で穴に戻り、グースに

逃げだす事を告げた。

幸い聖王国の兵士の多くが裏門に集まっており、雑草に身を隠しながらなら、見つ

からずに逃げだす事も可能だ。


グース「一体何があったんですか!」

キリア「シィッ、大きな声を出すな‥‥」

グース「は、はい、でも何が‥‥」

キリア「奴ら、街に魔獣を連れ込もうとしてやがる」

グース「そんな、嘘でしょ」

キリア「早く来い………とにかく………」


<<ギャアアアアアアアアアアァァァァァァ……ァァァ………ァァ……>>


そこまで言いかけた時、街中から住民たちの悲鳴が聞こえて来た。


前日の夜、ドラムの北西にある街道から離れた村に、グラム聖王国元帥にして第一

王女の伴侶であるモントレイ・ギム・パンダームと黒の魔導士その第五席に座する

パウロ・バレーの姿があった。


  パウロ「ああ、お前がモントレイか、話は聞いているよ」

モントレイ「ぐっ、ああ、よろしくお願いする」

  パウロ「くっくっ、何だ、怒ったのかい、元・帥・殿」

モントレイ「魔導士殿………………からかうのは、やめて頂きたい」

  パウロ「おや、我慢したのか、殴りかかられると思ったのに、つまらんなぁ」

モントレイ「………………御冗談を」

  パウロ「お~お~、無理しちゃって」

モントレイ「準備はもう終わっています、お急ぎを」

  パウロ「ヘイヘイ、面白味の無い男だなぁ…………」

モントレイ「…………っ……」


パウロは不満げに答えると、地下に続く広い通路を降り、重厚な石の扉に手をそえ

魔力を流した。


          《《 開錠 》》


左右に開いてゆく分厚い巨大な扉が開くと、更に新しい石の扉が現れ、再びパウロ

が魔力を流し、それを繰り返しながら、通路の奥へ消えて行った。


  部隊長「元帥!あの顔だけは綺麗な無礼者は何者ですか!」

モントレイ「ああ、ローブを着て無いから分からなかったのか」

  部隊長「ローブ?」

モントレイ「奴は黒の魔導士、その第五席だ」

  部隊長「げっ、本当ですか?」

モントレイ「ああ、他言無用だぞ」

  部隊長「わかりました、つまり、あれ絡みと言う事ですね」

モントレイ「そういう事だ、関りを持つなよ」

  部隊長「勿論ですよ、あんな気持ち悪い連中、こっちから願い下げです」

モントレイ「同感だが、俺はそうもいかん」

  部隊長「………お気の毒です………」

モントレイ「はは、諦めてるさ」


そう言うと、若き元帥で第一王女の伴侶は馬に乗り部隊の最前部に移動した。


部隊長「最近、モントレイ様は、お変わりになられた、良い事だ」


この部隊長は、元々はパンダーム侯爵家の家臣で、三男であるモントレイの子飼い

として、軍に入った男で、モントレイの事は子供の頃から知っている。

だから今まで、顔は美形だが何処か頼りなかったモントレイが、最近になって急に

肝が据わったというか、物事に動じなくなったと喜んだ。

実は、モントレイはこの男や同じ直系の家臣を自分の騎士団に引き入れていた為、

彼の変化は概ね、好意的に受け取られた。

しかし、それは肝が据わった訳では無く、単に酷薄な性格に変わっただけだった。

モントレイの心は毒沼の底に沈んだのだ。

彼の部下たちが、その事を実感するまで、時間は掛からなかった。


パウロ「おーい、近づくんじゃねえぞー、離れろー」

部隊長「何だありゃ!」

パウロ「何言ってるんだ、お前達がせっせと餌を運んで育てたんじゃないか」

部隊長「育てた?」

パウロ「お前らが、死体を与えてたんだろうに、気付かなかったのかい?」

部隊長「こんな化け物を………俺達が………」

パウロ「ここまで育てておいて、化け物なんて、酷いなあ」

部隊長「何て事だ…………………」

パウロ「養殖場の運営、ご苦労さんWW]


ゴブリン特有の薄緑色の肌をしながら、体長は人間の二倍は有り、まるで筋肉の鎧

を纏ったような太く硬い手足。

涎を垂らし続ける口の中に並ぶ、まるでサメのような歯と下あごから伸びる牙。

パウロに連れられるようにして、通路から現れたのは、普通は ガヤ大森林 意外に

は生息しない魔獣ランクB+、ゴブリンの最上種、ハデスゴブリン だった。


ドゴンッ、ドチャッ、ドゴンッ、ドチャッ、ドゴンッ、ドチャッ

(((( グフッ、グフッ、グフッ、グフッ、グフッ ))))


巨大なハデスゴブリンが歩く度に、石を敷き詰めた通路が、その重さに耐えきれず

不快な悲鳴を上げ、流れ落ちる体液が、一方の足を濡らした。

その三匹の巨大なハデスゴブリンの後ろを、成体より二回り程小さい、未成熟体が

無数に、まるでカルガモの雛の様について来ていた。


ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ

(((( ギギッ、ギギッ、ギギッ、ギギッ、ギギッ ))))


モントレイ「いったい何匹いるんだ」

  パウロ「さあ?百は越えたんじゃないかな」

モントレイ「そんな事で、きちんと統率出来るのか?」

  パウロ「まあ、多分、大丈夫だろ」

モントレイ「多分だと‥‥あんまりいい加減だと、上に報告する事になるが」

  パウロ「わかった、わかった、真面目にやるさ」

モントレイ「そう願いたい」

  パウロ「まったく、王族はやりにくいね」

モントレイ「何か言ったか?」

  パウロ「べ~つ~に~」

モントレイ「ふん」


このパウロと言う男は、他人の神経を逆撫でするのを好むが、かと言って他人と親

しくなるつもりなどは無く、それどころか嫌悪していた。

本人は隠しているが、パウロは奴隷だったエルフの母と、母親を買った商王国有数

の豪商が、一晩いくらで売りつけた、知り合いの誰かの私生児だった。


パウロ「…………………地獄で待ってろ」


エルフの、それも五体満足な女の奴隷など十年に一度、有るかどうかだった。

パウロの母親は子爵家の庶子としてに生まれたが、十七歳になっても、魔力暴走の

気配も無く、十九歳になっても魔法が使えなかった。

母親は人間の平民並に魔力が少なかったのだ。

子爵は婚姻の役に立たないどころか、実子達の障害にしかならないと、奴隷として

闇商人に格安で売り払った。

通常なら、闇商人もこんな危ない橋は渡らない。

国境の検閲は魔法を使う為に非常に厳しく、もしバレれば、命は無い。

だが、絶望していた娘は完全に心を閉ざした植物人間状態、声一つ上げない。

これなら探査魔法を掻い潜れるかも知れない、莫大な利益に目が眩み、闇商人は、

賭けに出て、そして勝った。

若い処女のエルフ、金貨300枚(約三億円)の値が付いた。


豪商「さすがに高い買い物だったな」


待ちきれなかった豪商は、その日のうちに若いエルフの体を貪った。

だが、いくら極上な食事でも、毎日では飽きが来る。

それも、異常な程、綺麗なだけで、自分に愛情どころか、憎しみさえ向けない相手

に、すぐに興味を無くした。

だが、飽きたからといって、払った金が戻る訳が無い、おまけに、この散財で商売

にも影響が出ていた。


豪商「月末の支払い………………そうだ、本人に稼いで貰おう」


余りにも高価だった代金を取り戻そうと、貴重なエルフを抱けると、知人を相手に

売春を始めた。

だが、知人が無限に存在する訳でも無く、直ぐに行き詰った。

更に、避妊薬をケチったせいで、誰にも望まれる事の無い忌み子、エルフと人間の

混血児、パウロが生まれた。


豪商「くそっ、男か、まあいい、次がある」


そして、再度子供を産ませて、資金を回収しようとしたが、なかなか上手く行かず

何度も死産を繰り返した。

物心ついた頃から繰り返される、母親の呪詛の声、店が傾き、負債に押しつぶされ

て誰彼構わず、怒鳴り散らす商人の声。

それを聞いて育ったパウロの魂は孤独だった。

母親でさえ、パウロの心の中には居なかった。

馬や羊の方がまだ情を受けられた、パウロは家畜以下だった。

そして、パウロが十歳になる頃、死産に狂った母親は自らの命を絶った。

同時に、生まれた娘を買い取る予定で居た同業者が、資金回収に動き、あっと言う

間に店は潰れ、商人自身も借金奴隷になった。

だが、パウロは解放されるどころか、更なる地獄が待っていた。


娼館主「今日から、ここがお前の仕事場だ」


パウロが放り込まれたのは、娼館が集まる街の一画、その闇の奥の奥、一部の変態

や異常性欲者が集まる、金さえ払えば何も言わない館。

例え目玉でさえ、高額な金を払えば、潰しても咎められない。

悲鳴が金になる、そんな場所がパウロの生きる場所だった。


変態男「ぐへっ、ぐへっ、ぐへへへ、金貨三枚もした初物だ、楽しませて貰うぞ」

パウロ「ひっ、いっ、いやだ!いや‥‥ぎゃああああああああ!」


パウロの最初の相手は、脂ぎった豚の様な変態男、まるでオークだった。

三重顎の閉じきれない口から、息をするたびに唾液が垂れ、洗い切れない股間から

放たれる異臭に吐きそうだった。

そして、パウロは一晩中、犯され蹂躙された。

パウロは男娼専門の娼館に売られたのだ。

ある日は、色白の痩せた変態。

ある日は、色黒の小さな爺。

ある日は、禿げあがった小柄なデブ。

ありとあらゆる変態が群れて来て、パウロを貪り、食い散らかした。

だが、いつも新鮮な悲鳴を上げさせる為、どんなに酷い拷問も、果ては自殺までも

必ずポーションを使って完治させて、朝までには傷一つ残さなかった。

死ぬ事さえ許されない、出口の見えない絶望と苦痛の草原を、無理やり裸足で歩か

される様な物だった。

何度も繰り返される凌辱と拷問にパウロの魂は歪んだ。


パウロ「…………………滅べ…………………」


腐肉が浮かんだ泥沼から抜け出そうと藻掻き続け、贖い続け、そして世界の全てを

呪った。

そしてそれは、パウロが魔力暴走を起こす十六歳まで、続いた。

その後、魔道の塔に引き取られ、師、ダミアノスの教えを受けた。

パウロの歪んだ心を、ダミアノスは長い時間を掛けて癒し、救った。

救ったつもりだったし、救えた、そう信じた。

だが、驚くべき事にパウロは救われたふりをした。

それも不自然にならない様に時間を掛け、十六の少年が完璧に演じ切った。

ダミアノスを騙し切らねば、何時までも自分が自分で居られないから。

何度でも言う。

パウロは歪んでいた、魂の奥底、存在ごと歪んでいた。


パウロ「アハ、アハハ、アハハハハハ、くだらない」


しかし、ダミアノスが死に、魔道の塔を第二席のルドラ・ギリアナスが恐怖で支配

すると、事態は一変した。

ルドラは、他の魔導士達の生い立ちや家族構成以上の隠している秘密などの情報を

執拗に聞き出そうとした。

例え第二席に座っているとしても、実際の実力は、パウロ達と大して差が無いのだ

戦闘になっても、やや有利な程度、絶対に勝てる保証は無い、ならば弱みを握って

反抗出来ない様にすればいい、そう思ったからだ。

コウリスの様に廃人にするには、条件が足りない。

更に言えば、使える手駒も確保したい。

その考えにパウロは乗った。

さも、恐怖で従った演技で、ルドラの持つ知識と魔法を掠め取った。

その与えられた新しい魔法で今、ハデスゴブリンを操っているのだ。


パウロ「足が遅いのが欠点だよなあ~」


魔導士と元帥、そしてハデスゴブリンの一行は夜通し歩いて、城塞都市、ドラムの

裏門に来ていた。

先行した伝令が何が有っても動揺せず、元帥の指示に従う様に通達したのにも関わ

らず、ハデスゴブリンを見た兵士達は驚愕してざわついた。


兵士「何だあの怪物は」

兵士「まさか、襲って来ないよな」

兵士「なあ、大丈夫だよな」

兵士「知らねえよ」

兵士「元帥が傍にいるから、きっと大丈夫だ」

兵士「そう……………だよな……」

兵士「それでも、怖えよ」

兵士「だいたい、ゴブリンがあ、何であんなにでかいんだ」

兵士「………多分、ハデスゴブリンだ…………」


ざわつく兵士達の前に出て来たモントレイが兵士達を叱責して大人しくさせると、

門番に開門を指示した。


   門番「しかし、元帥」

モントレイ「命令だ」

  部隊長「モントレイ様!まだ市民が」 

モントレイ「命令だ、開門しろ」

  部隊長「まさか、貴方は」

  パウロ「うるせえなあ、命令に従えよ」

  部隊長「き、きさま!きさまが!」

  パウロ「すでに手遅れなんだよ、ば~か」

モントレイ「もう引き返せん、命令だ、開門しろ」

  部隊長「!…………………………………わかりました…………………開門!」


そして、開け放たれた裏門を、飢えたハデスゴブリンの未成熟体が押し合いながら

走り抜けて行く。

薄緑色の体色が興奮で赤味を帯びて、その禍々しさを増している。

すぐさま、何かが壊れる音と共に、無数の悲鳴が街中にひびいた。


    襲われて、生きたまま食われる

男の悲鳴、女の悲鳴、娘の悲鳴、息子の悲鳴、子供の悲鳴、老人の悲鳴、

    そして赤ん坊の泣き叫ぶ声。


ありとあらゆる人々の断末魔が、街に解き放たれた、百匹以上のハデスゴブリンに

よって引き起こされた。

兵士達が、その悲惨な光景を想像して、真っ青になっている中、一人だけ、誰にも

聞こえない程の小さな声で呟いていた。


パウロ「うひゃひゃ、喰え、喰い尽くせ、うひゃひゃひゃひゃ」


パウロは歪んでいた、恨んでいた、そして何より‥‥狂っていた。

重く黒い雲が朝日を遮り、まるでこの惨劇を祝福する様に垂れこめた。



      地獄は今、始まったばかりだった。


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