ドラン自治領
絶望した元宰相だが、このままでも居られない。
ダラス「では、私はここで、お暇させて頂きます、ジャック、チェスカ」
ジャック「はい」
チェスカ「ここに」
ダラス「全員に引き上げ指示を」
ジャック「了解しました」
「おいおい、皆を放り出して何処へいくつもりだ?」
ダラス「アルセ二オス様‥‥‥」
実際は行く当ても目的も何も無い。
だが、ここにいる理由も無いのだ。
ダラス「生き残っている、お子様達を探そうかと」
「本気で無事だと思っているのか?」
ダラス「分かっています、わかってはいるんです、ですが、もう、私には」
ダラスの忠誠心は、国王ではなく、ドランという国にあった。
代々、宰相の地位に就いて来たバッカニア侯爵家、だからこそ、その教えも忠誠も
すべて国に帰すると教えられてきた。
だが、だからこそ、新生ドラン王国の初なる王冠を戴く者は、一点の曇りも有って
はならない。
次代、三代が善良な治世をするとは、保証できない。
それでも、初代だけは、国の成り立ちの基礎だけは清廉潔白でなければ国が歪む、
そう信じていた。
それを、馬鹿二人が、粉々にしたのだ。
「それで、絶望した訳か‥‥」
ダラス「自分でも馬鹿馬鹿しく思います、でも、どうしようもないんです」
「そもそも、基本から間違ってるぞ、お前」
ダラス「はい?」
「お前が忠誠を誓うのは、ドランと言う国だ、王室である必要はない」、
ダラス「‥‥何の冗談でしょうか?」
「じゃあ聞くが、仮にこの戴冠式が無事終わったとしてだ」
ダラス「はい‥‥」
「一体、誰が幸せになった?そこの屑共だけだ、あとは一人残らず全員、
王女でさえ、不幸じゃないのか?」
ダラス「うっ」
「お前が望んだ国は、そんな国か?」
ダラス「違います‥‥」
「それでも、王国の復活を望むのか!答えろ!」
ダラス「それは‥‥否です」
「そうだ、お前の忠誠心は、国の為にこそ、捧げるべきだ」
ダラス「ですが、それで私にどうしろと‥‥」
「面倒なやつだなあ、お前が国王になれと言ってるんだ」
ダラス「‥‥はい?」
「だから、お・ま・え・が・こ・く・お・う・に・な・れ」
ダラス「はああああああああああああああああああああああああああああ?」
「長っ」
ダラス「なっ、何を言ってるんですか!無理です!」
冗談では無い、それでは簒奪ではないか。
臣下として生きて来たダラスにとって、とても承服出来る事では無い。
「はあ、いいか、よく聞け、ドランに限らず王家の始まりは何だと思う?」
ダラス「‥‥王家は最初から王家でしょう」
「違うな、王家なんてものは、山賊か海賊の成れの果てだ」
ダラス「さ、山賊?いくら何でも‥‥」
「人が集まって、その時一番強かった者が王になって国が出来た」
ダラス「暴論でしょう…」
「だが、真実だ」
この大陸に最初に出来た国家はタス皇国だが、それでも歴史は七百年程度、建国の
成り立ちは、口伝であるが、継承されている。
当時、それぞれの集団が豪族となり、主導権争いが起こった。
そして、他の主要な豪族集団を武力でねじ伏せたのが、初代の国王のタスだ。
「あの皇国でさえ初代は、姓すら無かったんだぞ」
ダラス「しかし、だからと言って、なんで私なんですか?」
「お前が民を見ているからだ!」
ダラス「‥‥‥‥民」
「此処に居る者たちの中で、この国の民を見ていたのはお前ただ一人だ!」
ダラス「‥‥‥」
「お前だけが、民の幸福を考えている!」
ダラス「‥‥‥」
「お前だけが、国の行く末を案じて居る!」
ダラス「‥‥‥」
「国王の責務を全う出来る者がお前意外、何処にいる!」
ダラス「‥‥‥それでも、簒奪には変わりない」
側妃「なら、私と結婚してグレースの父親になれば問題解決ね」
「はっ?」
ユリア「へっ?」
グレイ「なっ?」
「「「「「はああああああああああああああああああ?」」」」」
一気に、場を混乱に巻き込んだ側妃は、さして気にする様子もない。
それどころか、王女に、「あれが新しいパパよ」などと、説明している。
そして、突然求婚されたダラスの脳は、当然ながら理性の留め金が壊れた。
ダラス「え?は?い?なん、あの、なにが、でも、いや、わたし、など、けど」
側妃「生活の面倒を見て下さるのよね♡」
ダラス「は、はひ!」
例え一児の母だとしても、例え病のせいでやつれたとしても、仮にも一国の側妃と
して、王宮の住人だった女性だ、その美貌は、一桁も二桁も違う。
方や二十六歳の側妃よりも十以上年上のくせに、宰相職だからと自制して、妻や妾
どころか恋人さえも作らなかった恋愛ド素人。
結果は目に見えている。
ダラスが拒否などできる訳が無かった。
「よし、決まったな、ダラスが新しい国王だ」
ユリア「そうね、まあ、良いんじゃない」
タロン「何だと、許さ」
デクシス「動くと斬るよ、おじさん死にたいの?」
タロン「ひいっ」
往生際悪く異議を唱えようとした伯爵は、デクシスに剣を突き付けられて、その場
にへたり込んでしまった。
もう抵抗する気は微塵ものこっていないようだ。
その後、諦めたダラスが国王の座に就くことは認めたが、問題はその施政だ。
当然ながら、ドラン国内は、未だ侵略者を撃退出来ておらず、人口も減り、生活を
取り戻す事さえ容易ではない。
準戦闘状態なのだ。
ダラスの私兵は良く鍛えられていたが、数が少なすぎる。
「皇国や聖王国は俺が相手をする」
ユリア「ア二ア新王国は私が引導を渡す事になってるの、海王国はナオね」
「お前は内政だけを考えていれば、当面は大丈夫だ」
ダラス「しかし、財源が‥‥」
国を動かすという事は、人を動かすと言うことだ。
つまり、命令や指示一つにも金が掛かる。
それも、国全体ともなれば、いささか無視できない金額になる。
ダラスの手持ちなど、十日と持たないだろう。
ダラス「今は民に税を、負担を掛けたく無い」
グレイ「国が戻るんだぞ、無理な重税で無ければ民衆だって納得するさ」
ダラス「納得したからといって、生活が苦しくなる事には変わりはない」
グレイ「お前、随分、損な性格してやがるな」
ダラス「不甲斐ない国の尻拭いを国民にさせろと言うのか!」
グレイ「‥‥どうも俺はお前の事を、見誤っていたらしい」
ダラス「期待外れか?」
グレイ「いや、期待以上だ」
ダラス「高評価は嬉しいが、今は金が欲しい、貸してくれ」
グレイ「いきなりかよ…」
「ああ、心配するな、その事も考えてある」
ユリア「最初の資金は、うちの国が出すわ、取り敢えず金貨一万枚ね」
金貨一万枚(約100憶円)に全員が驚愕している。
実は昨夜の内に直也とは相談済みで、資金提供の話は決まっていた。
実際には、ドラゴニアの金貨保有数は既に四万枚を越え、現在も増加中である。
これは、蟻型ゴーレム達が山脈の奥底で巨大で高純度な金鉱脈を発見したからだが
直也の予想では埋蔵量は金貨五十万枚は、軽く越えるだろうとの事だった。
つまり、ドラゴニアにとって全く負担にもならない額なのだ。
まあ本来は、ここまで金貨の製造を急ぐ必要は無いのだが、直也はこの新造金貨で
ア二ア新王国の経済に痛烈な一撃を与えようとしている。
誰からも取引を拒否されるアニアの金貨は、経済活動にとって、重い足枷になる。
経済破綻の引き金になりえるのだ。
ダラス「そんな大金、借りても、利子さえ払えません!」
「ああ、向こう三十年は無利子で、催促も無しだ」
ダラス「ですが、三十年後には‥‥」
「三十年の間に、今より十倍、民を富ませろ」
ダラス「はい?」
「俺の相棒が言うには、民が金持ちになれば、物の価値が上がり、金の価値
は下がるそうだ」
ユリア「つまり、三十年後には、返す金額も下がるって事よ」
ダラス「意味が分かりません」
「俺も受け売りだが、経済とは、そう言う物らしい」
ユリア「つまり、みんなの収入が十倍になれば、物の値段も十倍、逆に借金は十分
の一、金貨千枚になるって事よ」
ダラス「理屈は分かりましたが‥‥」
「実例が有るんだ、遥か彼方の国だがな」
ダラス「しかし、この国ではそんな事には‥‥」
ユリア「ええ、今までは、邪魔者がいたからよ」
ダラス「邪魔者?」
「民の富を吸い上げる、貴族と言う寄生虫の事だ!」
おもむろに、首を回して伯爵やその取り巻き達を睨むと、殆どの者が目を逸らすか
俯いてしまった。
情けない事に、寄生虫呼ばわりされても、誰も反論しない。
正面切って異を唱えられる程の豪の者がいれば、新しい宮廷に勧誘しようと思って
いたが、ここに有用な人間は居ないようだ。
ダラス「つまり、貴族を作るなと?」
「そうだ!」
ダラス「では、領地の運用はどうしろと‥‥」
「村や街、それぞれのまとめ役、その集合体である領地のまとめ役、これを
民間から選べ」
ユリア「そして、給料は国が払うの、そうすれば、私腹も肥しずらいわ」
「もしそいつらが不正を行えば国が厳罰を与えればいい」
ダラス「そんな無茶な、第一、民間に読み書き計算の出来る者など‥‥」
ユリア「居なければ、教えればいいだけ、その為の資金でもあるの」
ダラス「しかし‥‥」
「お前、貴族だけが無条件で頭が良いと思ってないか?」
ダラス「そこまでは流石に、ですが」
「山賊の子孫の血がどれだけ特別だというのか、笑わせるな」
ユリア「民の子供達は、生活が苦しくて学ぶだけの時間が無かっただけ、その証拠
にうちの子たちは凄いわよ」
「ああ、クリッカなんて八歳ですでに、台帳計算は誰よりも早い」
ユリア「あの子だけでなく、ほかの子供達も読み書き計算は完璧よ」
「みんな成人前なんだけどな」
ダラス「そんな馬鹿な…」
「民が豊かになり、国が富めば、子供は学ぶ機会を持てる」
ユリア「十年も待たずに、強靭な国家が出来上がるわ」
教育は国家の礎であり基本である。
アルは日本で暮らした数年間、それこそ嫌と言うほど教育の重要性と、それが齎す
文明と文化の破壊力を実感した。
資源も無い、当然だが魔法も無い、そんな国が他の資源大国と肩を並べ、信じられ
ない程、発展した国を作り上げていた。
おまけに、半世紀以上前には、世界の半数を敵に回して戦い、一時的にとはいえ、
他国を圧倒し、大帝国を築き上げたのだ。
そして現在は文化が、その先兵となり、欧米のみならず、その他の国をも浸食し始
めている。
識字率98%以上の国家とは、これ程恐ろしいものかと思った。
「いずれ魔法より、知識や技術が世界の常識となる」
ダラス「…俄かには‥‥想像出来ませんが‥‥」
ユリア「うちでは、もう始まっているわよ」
「お前は、乗り遅れても気にしないのか?」
ダラス「いいえ、是非恩恵に与らせて頂きたく、ついでに属国にしてください」
「はい?」
ダラス「了承して頂いたようで、有難う御座います」
「いや、待て待て待て、何だ属国って」
ダラス「その方が、都合が良さそうなので」
「いや、短絡的すぎるだろ」
ダラス「焚きつけた責任は取って頂きませんと」
はっきり言って、ここまで負んぶに抱っこでは、国と名乗るのが恥ずかしいのだ。
それに、この国がドラゴニア王国の傘下に入ったと聞けば、後ろ暗い連中は、他国
へ逃げ出すだろうし、、騒ぎだしそうな貴族連中も押さえられる。
もし、反旗を掲げる貴族が居たとしても、誰も集まらない。
自殺志願者でもない限り、黒の魔導士に戦いを挑む貴族がこの国に居るとは、到底
思えない。
つまり、国の運営に邪魔が入り難いのだ。
「お前なあ…」
ユリア「でも、この際、都合がいいわ」
旧ドラン王国がドラゴニアの属国となれば、他国に対して堂々と声高に侵略行為に
抗議できるし、聞き入れない場合は遠慮なく王宮を襲う事もできる。
本心を言えば、ユリアは新アニア王国が経済的に追い詰められて暴発する事を期待
していた。
そうすれば遠慮なく、直也に頼んで、王宮に16式の砲弾を叩き込めるのにと、思っ
ていた。
あの男を殺す事、それはユリアが生きることの半分を占めているのだ。
「何か不穏な事を考えてないか?」
ユリア「あら、何のことかしら、ほほほほほ」
ダラス「早まった‥‥かも」
「今さら逃げるなよ」
ユリア「おっほほほほほほほほほ、逃がさないわよ~」
ダラス「不安だ‥‥」
「同感だ‥‥」
その後は細々したすり合わせをして、旧ドラン王国は新たにドラゴニア王国ドラン
自治領として、正式に発足した。
自治領主はダラス・バッカニア元侯爵、領主夫人にアシュリー・ルナグラード改め
アシュリー・バッカニアとなった元ドラン王国第二側妃が収まった。
そして、グレース王女を養女とする事で、口うるさい連中は黙らざる得なかった。
ちなみに、十年後には自治領から国に昇格する話になっていたが、ダラスが色々と
理由をつけては逃げ続け、結局はそのまま自治領に収まってしまった。
ダラス「これで、心置きなく内政に没頭出来ます」
「まあ、思うようにやれば良いさ、それと侍女は、うちの国で預かる」
アシュリー「イーダは助かるのでしょうか…」
「あんたを殺そうとした侍女だぞ?」
アシュリー「私が側妃になる前から仕えてくれていた子なんです」
ユリア「どうも、知らず知らずに中毒患者にされたみたいね」
アシュリー「治して‥‥頂けますか?」
ユリア「かなり症状が進行してるのよ、治療してみるけど覚悟はしておいて」
アシュリー「そんな‥‥イーダ‥‥」
長年仕えてくれた侍女だ。
宮廷内の嫌がらせや陰口に二人で泣いた事もあった。
グレースが生まれた時など我が事の様に喜んでくれたのだ。
簡単に切り捨てることなど出来る訳が無い。
「侍女の生死は運次第だが、確実に死んでもらう奴らがいるぞ」
アシュリー「伯爵‥‥‥」
「それと第三師団長だ」
ダラス「ええ、彼らは、民衆の前で極刑に処し、立領の宣とします」
ダラスはこの処断によって、この領地が貴族階級という枠組みから離脱し、新しい
領主一極統治と言う仕組みに移行したとを、周知させるつもりなのだ。
それは、共に同じ国王一極統治を宣言しているドラゴニア王国の庇護下に入る事を
納得させる事にもなった。
最初はドラゴニアの属領になる事への反発も予想していたが、宣言をした瞬間より
民衆からは絶大な支持を受け、結局一部の貴族連中が、幾ばくかの不満を漏らした
程度で終わってしまった。
これには、とある出来事が大きく影響していた。
タロン「こんな、こんな所で終わるのか…儂は‥‥」
フィガロ「クソッ、クソクソクソ!ふざけるな!ふざけるなよ!」
ダラス「往生際の悪い‥‥自分の罪も認められんのか」
フィガロ「うるさい黙れ!たかが女一人が中毒になっただけだろう!」
「たかが?…たかがだと?‥‥‥」
フィガロ「ひいっ」
タロン「うっ」
ダラス「ッ‥‥‥」
グレイ「ごくっ‥‥」
いきなり会話に割り込んで来たアルが放つ、怒気をはらんだ冷たい殺気に、そこに
居た全員が、凍り付いた。
この殺気に、荒事に慣れている筈のグレイまで一歩下がった。
「たかがと言うなら、俺にとってお前こそがたかがだ」
デクシス「あっ、本気で怒ってる」
ユリア「竜の尻尾を、わざわざ踏む馬鹿は、此処にも居たのね」
ダラス「ユリア殿、ここは何とか収める訳には‥‥」
ユリア「あんなに怒ってるのよ、無理に決まってるでしょ!」
ダラス「あの侍女は、お知り合いでしたか‥‥」
ユリア「違うわ、怒っているのは麻薬を使った事によ」
ダラス「‥‥取り締まりを徹底させる事にします」
グレイ「‥‥うちのギルドも協力する」
ユリア「そうして頂戴、でないと王城が消滅するわよ、例えでなく実際に」
一方、アルと敵対した第三師団長の周りからは、波が引くように、人垣が消えた。
誰も、魔法のとばっちりで死にたくは無い。
そして、フィガロと言えば、ゆっくりと近づいてくるアルに対して、身動き一つ出来
ないまま、痛む腕も相まって、滝のような汗を流していた。
真正面から殺気をぶつけられて、一体自分が何者の逆鱗に触れたのかを、今やっと
実感したのだが、既に手遅れだった。
「このゴミくずが!お前に相応しい死をくれてやる、有難く受け取れ!」
振り上げた右手を振り下ろすと、フィガロの足元に銀色の魔法陣が浮かび上がる。
フィガロ「いっ、嫌、嫌だっ、嫌だあぁぁぁぁっ」
<<<<<天の理・地の理・分子振動>>>>>
フィガロ「ギャッアガアァァァァギィィィィィィィ…‥‥ッ」
フィガロの全身から湯気が立ち上り、目や耳の、穴という穴から血が噴き出した。
体の内側が沸騰するという、信じられない激痛にフィガロは、散々のたうち回った
挙句、人間の原型を留めない死体となり下がった。
ダラス「うううぅぅぅ、何とも、これは、いやはや」
グレイ「‥‥凄まじいのぉ、絶対に喰らいたく無いぞ」
グラス「同感だ」
一方、こちらの身内はというと…
ユリア「この新魔法、グロ過ぎよ、見るに堪えないわ」
デクシス「アル様、今度もやりすぎだと思う、火力過多」
ユリア「今度?前にもあったの?」
デクシス「うん、何度か」
「デ、デクシス、内緒って言ったじゃないか!」
デクシス「あっ、忘れてた‥‥」
ユリア「サナとナオに報告しなくちゃ、帰ったら説教ね」
「勘弁してください、ごめんなさい」
だが、この過剰ともいえる惨劇は、多くの不満分子の心をへし折った。
そもそもが、大した胆力も能力も持ち合わせていない連中なのに、その上、地獄は
此処に有ると言わんばかりの魔法を見せつけられたのだ。
たった一言の陰口や不平を口にするのさえ、多大な苦痛を伴った。
実力行使など、夢のまた夢である。
ちなみにグレース王女の目と耳は母親がガッチリ抱え込んで、娘に何一つ届か無い
ようにしていた。
この日、旧ドラン王国は自治領として、国土はそのままに復活した。
その報は、直ぐに国中を駆け巡り、あらゆる場所に変化をもたらす事になる。
特にロストラタの街を占拠していた皇国軍は、ドラン国内より一兵も残さずに撤収
し、自国に引き上げた。
再び急襲したアル達は人っ子一人居ない街を見て、連れ去られた人々の未来が閉ざ
された事を実感し、言い知れぬ敗北感を味わった。
「どいつもこいつも、報いは必ず受けて貰うぞ」
その見事な撤収ぶりを見て悔しさに捨て台詞を吐いた魔導士と街を、銀月のバルガ
は悄然と見ていた。
本来なら、あの台詞も悔しさも、ドランの者が負うべき責だ。
それを、いくらこの国の孤児たちの保護者だからと言って、縁もゆかりもない個人
に頼らざるを得ない自分達が情けなくて堪らないのだ。
バルガ「アルセ二オス様、ここは一旦…」
「わかってる、今、国境を超えても何も得られない」
バルガ「悔しいです、奴ら、好き勝手に荒らしやがって」
「いずれ、利子を付けて返してもらう」
バルガ「はい、必ず」




