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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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ギルドと臨時病棟



見たことも無い異様な姿の馬車が一台、カラガスの正門に現れた。

金属で出来た六輪の、大型馬車を、四頭の馬が引いている。

取り付けられた小さいが、無数の窓は中が全く見えない様になっていた。

そして、若い女性の冒険者が、御者席に二人、後部の外柵に弓をもった一人が護衛

に付いていた。

見たこともない馬車に、美麗な防具を纏った美しい三人の冒険者。

まるで、歌劇のような、その場面に、周りの人々は見惚れていた。


エミリア「ドラゴニア王国所属の冒険者よ、ギルドへの道を教えて頂戴」

  門番「えっ、はっ、はい、伺っています、おい、ドク、お客様だぞ」

  ドク「お待ちしてました、先導しますので、着いて来てください」


必死の形相で走るドクの後ろを、ゆっくりと馬車がおいかけ、何とか辿り着いた時

には、一人の哀れなドワーフが、扉の傍で倒れていた。

そして、ギルドの扉を開けたユリア達を待っていたのは、全員の視線と呼吸音さえ

聞こえる程の静寂だった。

ギルド職員はユリアと後ろに控えている三人の狐人族を、冒険者達は、竜の巫女を

見ていた。


受付嬢A「すごい、なんて綺麗なの………」

受付嬢B「あああ‥‥まるで女神様よ」

受付嬢C「あの狐人の子、かわいいわ~」

 ユリア「何なのよ、いったい…」


一方、冒険者たちの反応は少しだけ、ずれていた。


  冒険者「流れるような身のこなし、美しい」

  冒険者「あの刺す様な視線が、また、たまらん」

  冒険者「あの胸が、胸が、俺を呼んでいる……」

リンティー「視線が気持ち悪い………ねえ、射っていい?」

 カタリナ「止めときなさい………」


取りあえず、この空気に染まれないグレイが声をかけた。


グレイ「皆が申し訳ない、ギルドマスターのグレイだ」

ユリア「ドラゴニアの医療省の筆頭責任者、ユリア・ラインゴールドよ、この子は

    第一助手のスクナ」

スクナ「よろしくお願いします」


スクナは、村人の世話を、長老たちに委ねた。

安全が保障され、スクナの武力に頼る必要が無くなったからだ。

そして、思う所があったのか、スクナは従妹たちを伴って、ユリアに学ぶ道を選ん

だのだ。


グレイ「まずは一休みしてください、おい、お茶を頼む」

受付嬢「「「ああ、おねえさま~」」」

グレイ「シャキッとしろ、お茶だと言ってるだろう!」

受付嬢「「「はい~」」」

グレイ「まったく………」

ユリア「何なの、あれ」

グレイ「あんた達の美しい姿や衣装に見惚れてるんだよ」

ユリア「それほどのものかしら…‥」

グレイ「あの子たち、ついこの前まで戦火の中を逃げ回っていたんだ、だから貴方

    達のような美しさに憧れているんだ、大目に見てやってくれないか…」


持ち直したばかりの国に、出来たばかりのギルド、誰もが、泥にまみれ、這いつく

ばって生き延びてて来た。

飢えを、渇きを押さえつけ、病に、怪我にあがなって、やっと手に入れた平穏、

とても、身だしなみに金を使う余裕は無い。

だから、目の前に現れた、歌劇の女優然としたユリアに見惚れたのだ。


ユリア「………構わないわ、……そうだ、はいこれ」


ユリアは異空庫から、三種類の小瓶を、受付嬢たちに渡した。


受付嬢A「あの、これは?」

 ユリア「私達の美の秘密、これが体用石鹸、これが髪用の石鹸と化粧液よ」


まあ、つまり、ボディーソープにシャンプーとリンスだ。

それを、三組、三人の受付嬢に渡した。


受付嬢B「あ、あり、あり、ありが‥‥」

受付嬢C「うあぁぁぁぁあん」

 ユリア「泣くこと無いじゃない‥‥・」

受付嬢A「だって、だって」

 ユリア「いずれ、遠くない未来に量産するわ、その時はお客になってね」

 受付嬢「「「 はい! 」」」

 グレイ「気を使ってもらって、申し訳ない」

 ユリア「大したことじゃ無いわ、気にしないで頂戴」


それでも、グレイは感謝することを止めなかった。

立ち上げたばかりの冒険者ギルド、その、業務は多岐にわたっている。

受付だけをすれば良かった過去のギルドとは、別物だ。

当然、彼女達にも、かなりの雑務をこなしてもらっていたが、その働きに報いて

いるとは、到底、言えなかった。

計算も出来ない者ばかりで一向に進まない人材確保、負担が激増する職員、正直

彼女達がいなかったら、早々にギルドは、機能不全に陥っていただろう。

感謝も申し訳なさも、山積みなのだ。


ユリア「それで、アルからの連絡はあったの?」

グレイ「今日の夕方までは到着すると、早馬で連絡があった」

ユリア「ではそれまでに、病床の確報と準備をしましょう、建物は確保できている

    のでしょ、すぐに案内して」

グレイ「ああ、わかった、ギル、案内を頼む」

 ギル「任せろ、すぐそこだ」

ユリア「スクナ、病床と部屋の消毒を、手分けして終わらせて」

スクナ「はい、わかりました」

ユリア「エミリア達は、周囲の警戒・‥‥何してるの?」


見れば、三人とも多くの冒険者たちに囲まれて身動き出来なくなっていた。


 エミリア「だから、防具も武器も直也様に作ってもらったんだってば!」

 カタリナ「総ミスリルなのに金額が安すぎるって、知らないわよ!」

リンティー「もう、開放して~」


エミリア達は、その美しさだけでは無く、身に着けている防具の見事さに惹かれた

冒険者達に群がられていた。

直也が中二病を発症して作った、希少金属をふんだんに使った見事な意匠の防具や

武器の数々。

冒険者に気にするなと言う方が、無理な話である。


  グレイ「あのデクシスと言う、狼人族の少年の防具もその、直也という御仁が

      作ったと聞いたが、これもか」

  ユリア「ふふん、私のナオって凄いでしょう」

  グレイ「ああ、確かに、是非、工房を立ち上げて貰いたい」

 エミリア「ギルマス、それは無理な要求よ」

 カタリナ「直也様は一人で三個師団を相手にできるのよ」

  グレイ「三個師団?化け物か?」

リンティー「そして王国の片翼なの、工房なんて、とてもとても‥‥」

  グレイ「片翼?」

 エミリア「魔王のアルセ二オス様、冥王の直也様、二人でドラゴニアなの」

 カタリナ「その冥王様に、工房の店主になれなんて、ちょっと、ねえ」

  ユリア「そうね、ナオのこれは、趣味だもの、一般販売は無理ね」

  グレイ「しゅ、趣味?趣味でこれか……」

  ユリア「当然よ、貴方も見たでしょ、メイドのブラン達や戦車を」

  グレイ「まさか、あれもか」

  ユリア「そうよ、だから趣味なの」

  グレイ「まるで創造神だな、彼女達、よく作って貰えたな」

  ユリア「そうね、彼女たちは、ナオにとって、妹の代わりだから」


直也は自分の周りの少女たちには、異常に甘く、過保護だ。

それは、紛れも無く、失ってしまった妹を少女達に重ねた代償行為だった。

しかし、それは決して潤う事の無い喉の渇きにも似た呪いなのだ。

例えどれだけ作ろうと、決して満たされないのに、作らずにはいられない。

ユリアには、いつ直也に魂の平穏が訪れるのか見当がつかない。

見守るしか出来ないもどかしさが、心にさざ波を起こす。


グレイ「そうか、なら仕方がない、諦めよう」


ユリアの言い淀む姿を見て、グレイはそれ以上、何も言わなかった。

グレイにしてみれば、ユリアも絶対強者の一画に名を連ねる存在なのだ。

その強者が言い淀んだのだ。

これ以上、踏み込むべきでは無いと、悟った。


ユリア「ええ、そうして頂戴」


ユリア達とギルドの職員は、そのまま隣接する建物を臨時の治療院に仕立てたが

その徹底した掃除と消毒に、手伝っていた全員が目を見張った。

病室替りの部屋からは、ベッドとサイドテーブル以外の物が、全て運び出され、

床や窓どころか、天井までもが、掃除の対象になった。

ベッドは全て消毒液がかけられ、シーツは全てユリアの異空庫の物と、取り換え

られた。

半日近くかかって、やっと受け入れ準備が整った。

ユリアにとっては、まだまだ不満だが、これ以上になると、建て直しになる。


グレイ「ここまで、綺麗にせねばならんのか………………」

ユリア「ええ、そしてこの状態を常に維持するの」

グレイ「その衣装も、その為か?」

ユリア「ええ、汚れが一発で分かるでしょう」


ユリア達が来ているのは、白衣と看護服、それも直也が限界まで白く仕上げた糸を

使って織り上げた物だ。


グレイ「確かにそうだが………………」

ユリア「これだけで、怪我人や病人の生存率が三割は上がるわよ」

グレイ「そんなに上がるのか!」

ユリア「詳しい事は、落ち着いたら、説明するわ」

グレイ「ぜひ、お願いしたい!」


ギルドに、いや、この国にとって、これ程貴重な情報は。滅多に無い。

聞き逃す訳には行かないのだ。

何が有っても、例えドラゴニアに出向く事になろうともだ。

そして、その日の夕方、アルたちが重病人の集団を抱えて帰って来た。


   「すまない、遅くなった」

ユリア「細かい話は良いわ、急いで病室に運び込んで!治療を開始するわ!」

   「それなんだが、全員がほぼ、手遅れ‥‥」

ユリア「はあぁ?医者でもない貴方が勝手に手遅れだぁ?」

   「あ、いや、でも」

ユリア「医療の入り口をかじった程度の貴方が自分の判断で?」

   「うっ、いえ、あの」

ユリア「ど素人が勝手に患者の命運を決めてんじゃ無いわよ!」

   「ひっ」

ユリア「命の火が消えるまで、あがき続けるなが医者ってものなの!」

   「はいっ」

ユリア「わかったら、とっとと患者を運びなさい、このトウヘンボク!」

   「わっかりましたああああああああああああ!]

ユリア「まったく…‥‥」


まるで、教師に叱られた生徒の様に、慌ただしく追い立てられる黒の魔導士の姿を

見て、全員が認識を新たにし始めた。

どうも、自分達は、まだまだ、世界の常識を知らなかったらしい。


 グレイ「アルセニオス様が…………怒られた?……」

  ギル「信じられんのだが………………」

  ダグ「幻覚か、幻覚だよな………………」

  ジド「あの、寂寞が、まるで、まるで…………」

  ガウ「嘘だ、嘘だと言ってくれ」

  ドグ「これだと、わし等など、虫以下なのでは………………」

 グレイ「………………やはりユリア様が最強なのか」

デクシス「ねっ、俺の言ってた事、本当だったでしょ」

 ブラン《アア・・・・ゴカイ・ガ・ドンドン・広・ガッテ・・・》


そして、そんんなデクシスを見つめる一人の目があった。

勿論、スクナだが、以前の様に近寄る事も、飛びついて来る事もしなかった。

今自分が今しなければならない事は、そんな事では無い。

村人達はアルや直也のお陰で、命を脅かされる事の無い生活を送れている。

いざ彼らを守る為に戦う必要が無くなると、自分は皆を守りたかっただけで、別に

戦闘が好きな訳でも、武芸に興味が有る訳でも無い事に気が付いた。

直也やデクシスの修行風景を見ても、自分もやりたいとは、微塵も感じない。

それよりも、ユリアが作った製薬工場を任せられて、生き生きと働くエマの姿が、

羨ましくて仕方が無かった。

港町からやって来たという、自分とそれ程、年の変わらない少女は、若いながらも

工場を切り盛りしていた。


スクナ「あたいも、誰かを救う仕事がしたい………………」


そう思い、ユリアの元を訪ねて、その末席に加えて貰ったのだ。

今のスクナに雄にかまけている時間は無い。

覚える事も、学ばなければならない事も山積みなのだ。

けが人も病人も、スクナが一人前になるのを待ってはくれない。

患者を何としても救いたい、例え今は未熟だとしても。

だが、その真摯な姿勢が、誰もが見落とした小さな症例を発見した。


スクナ「あの、ユリアさん、この患者さんのここ、おかしく無いですか?」


     スクナの一言が、この病棟を不夜城に変えた。



出稼ぎに、行ってました。

また、明日から稼ぎに出ます。

投稿の間隔が開きます、御免なさい。

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