見捨てられた者達
「ブラン、直也と連絡は取れるか?」
ブラン「簡易チュウケイ・セッチナシ・通信ハ・フカノウ・デス」
「やはり、一度戻るしかないか.」
ブラン「ハイ・カラガス・マデ・モドレバ・可能・カト」
ヤクートの町で保護した者達を、ドラゴニアで面倒を見る事にしたのは良いとして
問題は移動手段とアランタの重病人たちの扱いだ。
16式では、全員を乗せきれない、さらに言えば病人たちが移動に耐えられるかと
言えば、甚だ疑問が残るし、そもそも移動に了承してくれるか分からない。
しかし、街に置き去りになどできる筈も無い。
皇国の拠点となっているロストラタの町が手つかずの今、いつ奴らが、再びやって
来るかもわからないのだ。
だが、問題はアルのあずかり知らぬ所でおきていた。
ニック「………………マクシム・ブラッドベリー」
マクシム「男爵か」
ニック「疫病神の裏切者が、こんなところで、何をしている」
マクシム「病人の看病だ」
ニック「今更、罪滅ぼしのつもりか?
デクシス「ねえ、あんた誰?爺ちゃんの知り合い?もしかして病人?」
ニック「誰でもいいだろう、お前には関係ない!」
デクシス「病気じゃないなら、ここにいる必要はないね、出て行って」
爺ちゃん婆ちゃん大好きっ子なうちの子供達の例に漏れず、デクシスもまた
この老人達と仲良くなったらしい。
本人は無自覚の様だが、老人の口が軽い。
年よりたらしの名に恥じぬ働きだ。
わざわざ、デクシスを残した甲斐が有ったという物だ。
ニック「なんだと、ガキが!」
デクシス「言うことを、聞かないなら叩き出すよ」
ニック「やれるものなら、やってみろ」
「片手片足で、何を凄んでいる、馬鹿者!」
ニック「ア、アルセ二オス様………」
「お前が五体満足だったとしても、デクシスには勝てねえよ」
ニック「子供ですよ、いくらなんでも………………」
「デクシスならフォレスト・ウルフ五匹ぐらいなら瞬殺するぞ」
ニック「まさか………」
「本当だ、お前が適う相手じゃない」
ニック「うう………」
「そもそも、争いの原因は何だ」
ニック「そこの爺だ」
デクシス「そこの爺ちゃん」
「あんたか、いったい何者だ、爺さん」
マクシム「………………………………」
ニック「マクシム・ブラッドベリー、ドラン王宮の筆頭執事だった男だ」
「ほお、爺さん大物だったんだな」
マクシム「ただの、老いぼれだ」
ニック「ただじゃない、裏切者だ!」
「落ち着け、どういう事だ?」
ニック「こいつは、王女を逃がすために、俺たちを囮にしたんだ」
「どういう事だ?」
マクシム「………………王女殿下のためだ」
ニック「お前らのせいで、マリカは………」
「王女だと?ドランのか?」
マクシム「………………第六王女、グレース・ルナグラート様だ」
ニック「匿ってやってたのに、聖王国の情報を掴んでいたのに、黙ったまま逃げ
たんだ、俺達を囮にして」
マクシム「王家の血筋を絶やす事は出来ん!」
ニック「おかげで、俺たちは身分を隠して村に紛れる計画を取る暇も無く、逃亡
する羽目になったんだ」
「なるほ、だがそもそも、その王女様とやらは、いったい何処で誰と何を
やっている?」
マクシム「グレース様は、伯爵達と共に、アマルテアの森を抜けてカラガスを目指
しておる」
第六王女の一団は、あちこちで潜伏しながら、辛うじて皇国の奴隷狩りの目を掻い
潜りながら、アランタの街からそう遠く無い、略奪され尽くした無人の廃村に潜伏
していた。
その時に、聖王国ばかりか皇国までもが、追い出されつつあると言う情報を聞いて
まだ皇国の勢力下にある街道を避け森を抜ける決断をした。
余談だが、第六王女の一団が、ここまで敵の目を掻い潜り、情報を手に入れたのは
隠密行動に特化した豹人族の護衛を多数、抱えていたからだ。
ニック「あの、腰抜け貴族どもだけで森を抜けるのか?馬鹿だろ」
マクシム「いや、ごく少人数だが、第三師団の生き残りと連絡が取れた」
ニック「フィガロ・デーシック師団長……真っ先に逃げ出した奴じゃないか」
マクシム「………………それでも戦力には違いない」
「………………あんた、男爵たちを見捨てる事に、反対しただろう」
マクシム「………………」
ニック「えっ?………」
「恐らく、貴族どもか、王女の反感を買ったんだろう」
マクシム「グレース様はまだ八つ、それに侍女どもが、誰とも会わせようとはせん
すべて伯爵の専横じゃ」
ニック「あんたのせいじゃ無いのかよ………………」
「呆れたもんだ、ドランは滅ぶべくして滅んだという事だな」
マクシム「まだ滅んでおらん!グレース様がいる」
「八歳の少女に国を負わせるのか?」
マクシム「いや、伯爵や師団長たちが………………」
「一戦も交えずに逃げた連中に何ができる、聖王国や皇国の食い物になる
だけだ」
マクシム「いや、今は両国とも………」
「俺の保護を期待しているなら、お門違いだぞ」
マクシム「そんな………現に今………」
「なんで俺がそんな阿呆どもの国作りを手伝わなければならないんだ?」
マクシム「なら、今回はどうして」
「助けてくれと、この国のギルドマスターに頼まれたからだ、屑貴族など
助ける義理はない」
マクシム「それでは民が………」
「全員、まとめて、うちの国が面倒を見てやる、お前らは頑張って王家を
復活させればいい、好きにしろ」
マクシム「助力は………」
「そんなになってまで、どうしてお前を捨てた王家にそれほどこだわる」
マクシム「昔、一族を救って貰った恩義がある」
「一族だと?」
マクシム「私は………貂人族だ」
飛び出した言葉に絶句した。
彼が貂人族だからではない、一体どうやれば、あの美形ぞろいの貂人を、種族さえ
判別出来ない程、痛めつけられるのか、と言う事にだ。
「………………誰に拷問を受けた?」
マクシム「ッ………………」
「聖王国か?………皇国か?………まさかドラン?」
マクシム「ビクッ」
「なんとまあ……………ニックの為にも正直に話せ」
マクシム「…………きっかけは王妃でした……」
何の事は無い、マクシムに王妃が好意を持ったのが事の始まりだった。
本来獣人の美醜はその強さにかなり左右されるのだが、国王ガルバスはその点では
かなり劣っていた。
だが、王族と言う地位が、優にそれを凌駕し、補填していたのだ。
権力や財力も含めて、国王の魅力なのだ。
そして、その男の子を孕めば母性が、父親以外の男には魅力を感じなくなる。
だから、国王は一族の保護を代償に、マクシムに後宮で子供達の教育を任せた。
マクシム「だから私は彼女らをお守りする為に、暗殺や護身について学んだ」
結果としてこれが、裏目に出た。
それでなくても、整った顔に、強さが加割り始めた。
他の二人の側妃が全く興味を示さないのに対して、王妃は三人もの王子を授かった
にも関わらず、マクシムに執着し始めた。
王妃には、何故か母性が生まれなかったのだ。
そして、王妃の行動はどんどん過激になって、周りが無視出来なくなっていた。
胸や脚を露出させた衣装を着て、マクシムに纏わり付いた。
執拗に二人きりになろうとしたり、自室に呼び込もうとしたりした。
只の雌の行動だった。
マクシム「そんな状況が続けば、当然、国王の耳に届く」
国王の嫉妬が元凶である王妃に歯向かわなかった理由は、情けない事に国王は王妃
に正面切って問いただすのが怖かったからだ。
恐妻家と言ってもいい。
そして激怒した国王ガルバス、なぜか、その怒りをマクシムに向けた。
だが、何の瑕疵も無いのに首にも出来ないし、気も晴れない。
だから、一族を自国の山間の寒村に匿っていて反撃できないマクシムに不満の全て
を訓告だと言わんばかりに、叩きつけた。
醜くなれば、いや、いっそ死んでしまえば問題は解決するとばかりに、王妃たちの
目前で拷問を始めた。
顔を切りつけられ、耳を削がれ、頭から熱湯をかけられた。
激痛に、叫び声をあげるマクシムに国王の目が怪しく輝き出した。
一方的に他人を蹂躙し、屈服させる快感に酔いしれ、更に、弱腰だの臆病者だのと
陰口を叩いて居た王妃が、青くなり恐怖に震えている様を見て、如何に自分の持っ
ている権力が強大なのかを実感した。
誰かに遠慮する事も無い、怖がる必要も無い、恐怖を撒き散らせば、相手は勝手に
黙ってひれ伏すのだ。
国王は、自分を見て王妃が恐怖に震えるのが快感だった。
えもいわれぬ征服感に酔いしれ、身震いした。
しかし、このままでは、間違い無く死ぬと思われた時に側妃のアシュリーが割って
入った。
アシュリー「陛下!もうその辺で、子供達が怯えております!」
ガルバス「子供………ああ、そうか、子供が………」
子供達……その一言で我に返ったバルガスは、子供達が向ける恐怖におびえた目
に耐えられず、すぐさま後宮から逃げ出した。
恐怖で支配したい、でも子供達には愛され慕われたい。
この相反する感情が、ガルバスの行動を一貫性の無い無秩序な物とし、当然ながら
それは、国政にも影響した。
国王の指示に一貫性は無く、自分の感情を優先させたと思えば、逆に家臣の進言を
過剰に聞き入れたりと、不安定この上なかった。
この辺りから、国王の歪みは、破綻へと転がり始めたと言ってもいい。
本来、ドラン王国の強みは、質実剛健な獣人による強固な支持にあった。
だが、新興国家であるドランは王家に必要な責任教育など、持ち合わせておらず、
数世代に渡る専横は、勇猛でしられた虎人を、臆病なネズミに変えてしまった。
あっけなく、聖王国に屈した原因の一つだ。
「その側妃が、第六王女の母親と言う訳か」
マクシム「……………ええ、その通りです」
「それで、恩義を感じているのか、はあ………………」
ニック「………………悪かった、八つ当たりだった」
マクシム「いや、説得できなかった私の罪だ」
ニック「………………あんたも被害者だろう」
マクシム「自分で選んだ道だ………………後悔は………………ない」
「嘘をつくな、そんな訳があるか」
マクシム「うう………………」
「だいたい、その足はどうした、失ったばかりだろう」
マクシム「…………………うう」
「おおかた、付いて行こうとして斬られたのだろう」
マクシム「それは違う!」
「ゎたし…の……せぃ…………ごめ………んな…………さぃ……」
その時、傍にいた一人の病人がうめく様に、ささやく様に呟いた。
マクシム「アシュリー様!意識が………………」
ニック「はあ?」
「何てこった、何でこんな所に側妃が居る!」
マクシム「………………置いて………いかれた…………」
ニック「冗談だろ…………………」
「それを受け入れたのか」
マクシム「…………済まない………」
「済まないじゃ無いだろう!」
ニック「何なんだ、何なんだよ、これは!」
マクシム「………同行するように説得したんだが…………」
「まさか、ここに残させる為にお前の足を斬ったのか?」
マクシム「申し訳ない…………………」
「お前が謝るな!」
マクシム「済まない…………………」
「ああ、もう、デクシス!」
デクシス「何?」
「大至急、カラガスに戻って病人を運ぶ馬車を仕立てて戻って来い」
デクシス「わかった、直ぐに出るよ」
「ブラン!」
ブラン《イエス・マスター》
「デクシスと一緒にカラガスに行け、そこで直也と連絡を取れ!」
ブラン「リョウカイ・シマシタ」
冗談では無い、目の前にいるのは、とことん要領の悪いお人よしの老人と、子供を
欲にまみれた連中に奪われた、哀れな病気の母親だ。
こんな事は何度見ても、何度経験しても、絶対慣れない。
看過できないし看過するつもりも無い、微塵も無い。
どんなに時間が掛かろうと、金が掛かろうと、手間が増えようと関係ない。
あの日、直也と語り合った。
俺達はガキだ、信念を曲げてまで、何かを成し遂げたくは無い。
青臭くて結構、ガキはガキの理論で動こうと。
だから、こんな状況を見て見ぬ振りなど出来ない。
頭に昇った血が、なかなか降りて来ない。
「こんな理不尽を俺の目の前に晒しやがって、全員、只で済むとおもうなよ」




