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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
105/169

激闘と死闘のダクレス




直也《さあ、ゴミ掃除は終わったが、お前らには、まだ聞きたい事が有る》


冷たく言い放った言葉に、自分達が許して貰ったわけでは無い事を再認識した。

もし、事実を隠蔽したり、虚偽の回答をすれば、即座に首が飛ぶだろう。


海兵「何でも包み隠さず、お話します」

海兵「知ってる事なら、何でも答えます」

直也《良い心がけだ、まず、どこまで侵攻している?》

海兵「恐らく、ダクレスを攻め始めた頃だと………………」

直也《ラウル内海に何隻侵入している?》

海兵「二艦隊、合わせで十九隻です」

直也《同型艦か?》

海兵「いえ、新型艦が七、旧型艦が九、あとは補給艦が二と輸送艦が一です」

直也《新型?ああ、あのクソ鈍足の外輪船か》

海兵「ど、鈍足ですか?」

直也《当たり前だろ、あんな効率の悪い外輪船、最初は遊覧船かと、思ったぞ》

海兵「遊覧船………………」

直也《それに、二艦隊?別々の指揮なのか?》

海兵「はい、第五海将の艦隊と第七海将の艦隊です」


その後は、サイレージ海王国の人口や船舶数、王室や貴族の事等を聞き出したが

その中で一つ、気になった事が有った。


直也《北の大陸国家?初めて聞いたな》

海兵「俺らも詳しい事は、ただ、王家は、存在を機密扱いしていますけれど」

直也《人の口に戸は立てられんからなあ》

海兵「ええ、それと噂ですけど数年前から技術提供が有ると………………」

直也《ほう………………技術提供ね》

海兵「その一つが、新型艦らしいです」

直也《なる程、まだまだ知らない事が沢山あるな、一応、警戒しておくか………》


最低限必要な事は聞き出したので、海兵達を捕虜たちの元に向かわせた。

船底の船艙から、解放された人々が、次々に甲板に上がって来たが、そこいら中に

転がっている海王国海兵の死体と直也達を見て硬直した。

訳が判らぬまま、船艙から連れて来られた先の光景がこれである。


「なんだ、こりゃ」

「死んでるのは、海王国の兵士だぞ」

「なら、俺達は助かったのか?」

「いや、あれを見ろよ、人間じゃないぞ」

「まさか俺達も殺されるんじゃ…………」

「誰か嘘だと言ってくれ」

「そんなあぁぁぁぁ………………」


当然、二百人も捕虜が居れば、反応も千差万別で、混乱は更に激しくなった。

船艙から出れて喜ぶ者、残っている海兵を見て嘆く者、人ならざる直也や修羅達を

見て絶望する者、悲観する者、嘆く者、それぞれだが、殆んどが悲観的だ。

このまま落ち着くのを待っていたら夜が明けてしまう。


直也《あ~、ちょっと話を聞いてくれるかな》

捕虜「「「「「「「 ひいぃぃ、喋った! 」」」」」」」

直也《怖がらないでくれ、危害を加える気はないから》

捕虜「ほ、本当ですか?」

捕虜「なら、海王国以外の国に売られるんですか?」

捕虜「あの、売られるなら、なるべく子供と一緒に………………」

捕虜「儂ら年寄なら、捨てて貰って構わんから、どうか若い者たちに恩情を」

捕虜「お、親父………………」

捕虜「じいちゃん、いっしょが、いいよぉ、はなれるのは、嫌だよぉ」

捕虜「う、うわあぁぁぁぁぁん」


どうも酷い誤解しているようで、とうとう子供まで泣き出してしまった。

このままだと、収集が着かなくなりそうだ。


直也《勘違いしないでくれ!助けに来たんだ!何処にも売ったりしない》

捕虜「助け…………に?」

捕虜「俺達、売られずに済むんですか?」

直也《当たり前だろ、何のためにここ迄来たと思ってるんだ》

捕虜「でも、どうして………………」

直也《ああ、ドランの冒険者ギルドから、救援依頼が来た》

捕虜「ドランの?」

直也《そうだ、その依頼をうちの国王が二つ返事で受けたからな》

捕虜「こ、国王様ですか?」

直也《噂ぐらい聞いた事があるだろう、隣の国、ドラゴニアだ》

捕虜「………………まさか………………楽園………………」


近頃、盛んにささやかれ始めた噂だ。


  ( 楽園が出来た )


最初は隣国で魔導士が国を興したと、行商人達が酒場で話始めた。

娯楽の少ないこの世界では、彼らがもたらす情報は、貴重な楽しみの一つだ。

みんなが、彼らの話を聞く為に、酒を振る舞い、食事を提供した。

興味深い話や、面白い話を持ち込める人気の行商人などは、飲み食いに銅貨一枚

も払う必要が無かったなど、珍しい事では無かった。

特に最近は、モス大河を越えて、信じられないような話が大量に伝わって来た。

始まりは、グラム聖王国軍の敗北、そして、アルギス公国の分裂の噂だった。

だが最近では、隣国ドラゴニアの話題で持ち切りだった。


「あの寂寞せきばくが国を興した」

「強力無比な戦力が存在する」

「盗賊が一人残らず、捕えられて処分された」

「貴族が存在しない」

「すべての種族は平等に扱われる」

「奴隷が禁止されいる」

「生活が落ち着くまでの間、税が免除される」


聞こえて来る、とても信じられない噂の数々。

みんなは誇張し過ぎだと、話の半分も信じていなかったが、それでも心が躍る様

を楽しんでいた。

特に、このラウル内海で生計の全てを立てている漁師町としては、移住など考え

られない。

つまり、物語の一種の様な扱いだった。

その物語の一端が目の前の存在だと言うのだから、驚愕するのも当然だった。


捕虜「つまり、我々は助かったと………………」

直也《そうだ、理解してくれたか?》

捕虜「よかった~」


安心したのか、殆んどが、その場にへたり込んでしまった。

街が襲われ、捕えられ狭い船艙に放り込まれて、絶望していた彼らが、いきなり

開放されたのだから、無理も無い。

だが、優しくそれを待っている時間は無かった。


直也《悪いが、全員向うの船に乗ってくれ、ダクレスの街に救援に向かう》


それからは、慌ただしく移動が始まったが、時間が思いの外かかってしまった。

敵艦から、食料や水などが移されたのだが、流石に量が多かった。

当然、護衛艦にもそれなりの量が積み込んであったのだが、その後の事を考えれ

ば、多い事に越した事は無い。

そう判断したのだ。


「おい、この船、鉄で出来てるぞ」

「帆もマストも無いぞ」

「で、でけえ」

「なんなだ、この船は………………」


何をするにも立ち止まっては、驚愕する人達を無理矢理船室に押し込むと、代表

者となったシモンと言う名の男を艦橋に招きいれた。

これから向かう町の情報を聞くためだ。


 直也《戦闘になったら聞く事が有るかも知れないから、ここで待機してくれ》

シモン「は、はい、私で分かる事なら………………」

 直也《ああ、それで構わない、其処に座っていてくれ》

シモン「わかりました」


艦橋の椅子に座らされた、その異常な光景に魂を奪われていた。

羅針盤も計器類も、そして操舵輪さえも、その用途は何一つ理解出来なかったが

とにかく美しいのだから、目が離せなくなったのだ。


  直也《ノワール、接舷解除、離脱後、進路、東へ全速前進》

ノワール《リョウカイ・シマシタ》


今迄、輸送船の舳先を抑え込んでいた護衛艦はタラップを収納すると、そのまま

後退して、距離を取った後、ほぼ直角に舵を切ってラウル内海に突入した。


              ◇

              ◇

              ◇


そして、それとほぼ同じ頃、ダクレスの街では、海王国軍と住民たちの間で戦闘

が始まった。

当初、直ぐに制圧出来るだろうと、高を括っていた第七海将のボリス・デクスタ

は、想定外の激しい抵抗に遭って、作戦を変更する羽目になった。

いつ迄たっても桟橋を確保できずに、いたずらに犠牲者をだした。

狭い湾内の、それも小さな桟橋一つ、どう取りまわしても直接攻撃に参加できる

船は、二隻が限界だった。

それに対して、街には、オムやメルクスからの避難民が、大勢流入して、戦力が

増大していた。

一度、桟橋に強硬接舷を試みたが、火矢による集中攻撃を受けて、多大な被害が

出た。

矢に倒れる海兵もそうだが、火矢によって、マストの帆が燃え上がり、そのまま

船体にも引火しかけた。

幸い新型艦だったお陰で、自力で撤退出来たが、従来の船なら、船体に引火して

沈没していただろう。


ボリス「このままでは、じり貧だな」

 副官「どうされます?」

ボリス「どうもこうも、桟橋が駄目なら小舟で、砂浜から上陸させるさ」

 副官「かなり犠牲が出そうですな」

ボリス「仕方ないだろう、こんな地形なんだから、文句は国王に言え」

 副官「まだ怒ってるんですか?」

ボリス「当たり前だろ!こんな禄でも無い任務を押し付けやがって」 

 副官「どうせ、第一王女の嫌がらせですよ」

ボリス「あの行き遅れのアバズレが」

 副官「気持ちは分かりますが、今は抑えて下さい」

ボリス「分かってる、はぁ、船長、湾の入り口まで後退だ」

 船長「了解、後退します」

ボリス「そこで上陸艇を用意させろ」

 船長「わかりました」


ダクレスの街は、絶壁の海岸線にぽっかり現れた砂浜を利用して作られた天然の

要塞みたいな港町だ。

幾つもの港が作れた、なだらかな北側の海岸線と違って、南側は、殆んどが高い

崖になっている。

そこに、たった一つだけの砂浜を有するのが、ダクレスなのだ。

だから、迂回して兵士を上陸させる事が出来ない。

つまり、楽な任務とばかりに、北側を荒らしまわった第五海将から、この南側の

攻略を押しつけられた、貧乏くじを引かされたのだ。


 副官「問題は兵士の数より、小舟の数ですな」

ボリス「艦隊全部で八十隻以上になるんだぞ、足りるだろう」

 副官「ええ、沈められさえしなければ」

ボリス「心配しすぎだろう」

 副官「だと良いのですが」


そして副官の懸念は現実の物となった。

矢の届かない湾の入り口まで、全艦を後退させ、そこから上陸用の小舟に乗って

海兵達が次々と向かってきた。

そして、それを見た漁師たちは、それぞれの漁船で迎え撃つべく、砂浜から漕ぎ

出して行った。

数的には圧倒的に海王国が有利で、隻数は四倍以上の開きがある。

だが、数時間後、結果として、未だに上陸出来ていない。


漁師たちは強かった。

先ず、手漕ぎの上陸艇は、とにかく足が遅い。

使用目的が、なるべく大人数を乗せる事で、速度は二の次にされたためだ。

片や、漁師の船は小型ながら、とにかく速くて小回りが利く。

特に、風が吹き始めると、湾内を縦横無尽に走りまわった。

だが、本当の原因は、漁船に乗っているのが全員老人だと言う事だ。


「がはははは、通れるものなら通ってみろ」

「かかって来い、サイレージのはなたれ小僧ども」

「海魔の餌にしてくれる」

「孫達を奪いに来おって、死んでも上陸など、させんぞ」

「漁師をなめるなよ、ガキども」


彼らは死兵だった。

死兵は強い。

最初から死んでいるのだ、矢の十や二十、痛くも痒くも無い。

戦う前から死んでいるのだ、どれだけ血を流そうと気にもしない。

右手を失くせば左手で、左手が斬られれば、その歯で噛みついた。

命の続く限り闘い抜いた。


「孫や子供を失って生き延びたとて、何の意味がある」

「例え爺になっても、親は親じゃ、責任は果たさんとのぉ」

「後ろに孫がおるんじゃ、一歩も引かんぞ」

「どうせ、後、十年も生きてはおらん、ここで死んでも不都合はない」

「死んだ婆さんを待たせとるでな、向うに行くいい機会じゃ」

「ふぇっふぇっふぇっ、足腰立たんでも、矢止めぐらいには、なるわい」


引き留める息子や孫の手を振り切って彼らは戦いに身を投じた。


「お前達には明日を作る義務があるじゃろうが!」

「孫を片親にするつもりか!」

「年寄りの花道を奪うでないわい!」

「孫の盾になれるなど、こんな機会は二度と無いからのぅ」

「この年で、死に場所を得られるとは、何と贅沢な事か」

「老人では無く、漢として死ねる幸せよ」


そして戦いは凄惨を極めた。

海兵達は、戦う前から老人達の気迫に飲まれ、終始及び腰だった。

そこに、死を覚悟した集団が襲い掛かった。

片や一国のれっきとした兵士、一方、片方は只の民間人の老人だ。

戦闘は一方的になるはずだった。

だが、いざ始まってみれば、追い回され、逃げ回ったのは海兵のほうだった。

ひとたび、乗り込まれれば、首でも落とさない限り暴れまわった。

海兵の剣など一向に気にする事なく、突っ込んで来るのだ。

何一つ躊躇しない、脅しなど全く通じない、これ程恐ろしい兵士はいない。

腹を剣に貫かれた老人は、そのまま相手に抱き着いて、短剣をその背に突き立て

た後に絶命した。

両手を斬られた老人は、油断した相手の喉に噛みつき、引きちぎった。

回避も浮いている気も無い漁船に激突された舟は、浸水を止める間もなく、波間

に沈んでいった。

数倍する海兵達が、恐怖で逃げ回り醜態を晒した。

流れ出た血は海面を真っ赤に染め上げ、海底に沈んだ骸は、小さな魔獣達の晩餐

に変わった。


ボリス「臆病者どもが!海兵たる誇りは無いのか!」

 副官「どうします?撤退させますか?」

ボリス「馬鹿を言うな!相手はもう終わりだ!」

 副官「なら、このまま押し切るだけですね」

ボリス「………その覚めた物言いは何とかならんのか………」

 副官「生まれつきです」

ボリス「幼馴染だぞ、知ってるわ、まったく」

 副官「なら、とっとと諦めて下さい」

ボリス「このまま作戦継続だ」


ボリスの予想通り、それから間もなく決着はついた。

老人達の乗る舟はもう、片手にさえ足りない数しか浮いていない。

当然、生き残っている人数も十人にも満たない上に、全員が満身創痍だ。

ただ、気力だけで、銛を構えていた。

それでも優に、四倍近い敵を倒していたのだ。

これは、驚異的であり、奇跡でもあった。


ボリス「やっと、排除出来たな」

 副官「ええ」

ボリス「強かったな、うちの海賊海兵ろくでなし共など、足元にも及ばん」

 副官「ええ」

ボリス「不満か?」

 副官「ええ」

ボリス「今、見限れと」

 副官「ええ」

ボリス「………………………………潮時か?」

 副官「千載一遇のチャンスかと」

ボリス「……………上手く離脱できるか?」

 副官「その為に、この艦を部下で固めました、大丈夫です」

ボリス「わかった、手柄と指揮権を譲ると、第五海将に連絡を」

 副官「もう文は書き終えています」

ボリス「はぁ?」

 副官「おい、伝令兵、隣の旗艦に矢文を撃ち込んでこい」

ボリス「………………最初から決めてたな、お前」

 副官「当たり前です」

ボリス「まったく………………」


そして、連絡を受け取った第五海将の艦隊は、第七海将の旗艦、ブルーローズが

離脱し始めたのにも気が付かずに、港に向かって一斉に動き始めた。


ボリス「馬鹿めが、まだ町には抵抗する男達が残っている、直ぐには落ちんぞ」

 副官「略奪にしか、意識が向いていないのでしょう」

ボリス「欲が服を着ている様な男だからな」

 副官「さすがは、第三王女の婚約者ですな」

ボリス「金の亡者を妻に迎えるんだ、強欲で当たり前だろう」

 副官「その間に、我々は逃げ出させて貰いましょう」

 船長「もうすぐ最大船速です、進路の指示を」

ボリス「海岸沿いに最短距離でラウル内海を出る、その後は南下だ」

 船長「了解、進路北西西、全速前進」

ボリス「あんな国とは、とっととおさらばだ」


その後、ラウル内海の海峡が見え始めた頃、闇に包まれ始めた空が真っ赤く染ま

り、驚いて、後方を向いたボリス達の耳に、途轍もない爆発音が聞こえた。

言うまでも無く、直也がダクレスの街を攻めている海王国艦隊を、叩き潰し始め

たのだ。


ボリス「なんだ、ありゃあ」

 船長「あそこは、ダクレスの街あたりです」

 副官「原因は、分かりませんが、嫌な予感しかしませんね」 

ボリス「同感だ、途轍もない災厄が暴れている気がするぞ」

            ・

            ・

            ・

  「「「「「「全力で逃げましょう!」」」」」


それが、海王国海軍の旗艦ブルーローズ乗員全ての意志だった。



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