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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
104/169

血溜まりの甲板



   ◇◇◇◇ 海王国軍艦隊 ◇◇◇◇ 


「何なんだ!あの化け物は!」

「俺に聞かれても分かりませんよ!」

「全艦とにかく逃げろ!沈められるぞ!」

「どこに逃げればいいんだ!」

「知らねえよ!」


ウラル内海に展開していたサイレージ海王国の艦隊は、今、壊滅の危機に直面して

いる真っ最中だ。

大・小・新・旧、様々な艦船が集まった、十九隻にも及んだ海王国艦隊は足の遅い

順に沈められ、残りはもう、半数を割り込もうとしていた。


※アル君のウィキペディア(Wikipedia)

【ラウル内海】

旧ドラン王国に存在する、国土の四分の一を占める巨大な内海。

水深は、全体的にほぼ、50m前後な為、クラーケンやシーサーペント等の、大型の

水棲魔獣は生息していない。

更にオムの街付近は、ウラル海と外洋の海峡になっており、非常に狭いため、もし

魔獣の侵入があれば、直ぐに避難警報が出せる様に、街には高い鐘楼が建てられて

いる。

おかげで、街は、この世界では珍しく漁業で栄えている。


話は二日程、遡る。

オセの港を出航した直也は、一旦、外洋に出てから、ドランに向けて北上を開始し

たため、やや、遠回りになった。

これは、海底の岩礁などを検知する機械をまだ、開発出来ていないため、座礁する

危険を避ける為に、陸地から離れたルートを通ったためだ。

だが、そのおかげで、北上する海王国の大型艦を辛うじて視界に捉える事が出来た

艦は、ウラル海の海峡から既にかなり離れた場所を航行していたが、奴隷狩りの件

も有り、拿捕する事に決めた。

もし違っても、どうせ碌な事をしていないのは確実だし、全速航行すれば、追いつ

けない距離ではない。


  直也《ノワール、北北西に進路変更、全速前進、捕まえるぞ》

ノワール《イエス・マスター》


別に直也が動かそうが、ノワールに細かい指示を出そうが操船には関係ないのだが

本人が拘ったのだから、仕方が無い。

オタクの血は異世界でも不滅なのだ。

だが、直也がオタク趣味全開で作った護衛艦もどきは、この世界の基準から見れば

異様な程に速かった。

半日程で、最初は豆粒ほどだった船は、いまや完全に射程距離だ。

どんどん大きくなり始めた船影に、海王国の艦は大混乱に陥っていた。


監視「船長!何かが追いかけてきます!」

船長「なんだ!その報告は!魔獣か!」


マストの上から見張りの海兵が大声で報告するが、まったく要領を得ない。


監視「違います!恐らく船です!」

船長「恐らくとは何だ!正確に報告せんか!」

監視「帆もマストも無い、灰色の船らしき物が追いかけてきます!」

船長「………………はい?」

監視「大きさは、我が船の約二倍!」

船長「そんなデカ物が帆も無しに船が動くか!阿呆!」

監視「それなら自分の目で確かめやがれ!もうすぐ見えてくるわ!」

船長「なんだと!貴様!」

海兵「せ、船長………あれ………」


遠くに見え始めた、それに、海王国兵士達の動きが止まった。

自分たちの乗っているガレオン船は、最新ではないものの、船体の大きさだけなら

海王国でも、一、二を争う。

だが今、それを遥かに凌駕する、灰色の巨大な船らしき物体が、高速で追いかけて

来るのだ。


船長「横帆を全て展開させろ!一番帆柱と三番帆柱もだ!急げ!」


もう、彼らにとって取れる選択肢は、逃げの一手だった。

今の彼らにとって、船だろうが、魔獣だろうが、どうでも、良かったのだ。

どう考えても、碌でもない未来しか、考えられなかったからだ。

この海で、いく度も命の危険を掻い潜って来た。

それこそ、嵐に遭遇する事も、クラーケンから逃げ出した事もあった。

無風のベタ凪に遭遇した時など、全員が死を覚悟した事もあった。

そのどれとも違う何かが、追尾して来るのだ。

頭の中に警報がうるさいほど、鳴り響く。

追い付かれたら終わりだと。


船長「風を読め!何としても逃げ切るぞ!」

監視「駄目です!ぐんぐん近づいてきます、速い!」

船長「何だと!」

海兵「もっと速く動きやがれ、ボロ船が!」

海兵「風だ、もっと風を…………」


だが、彼らの願いは叶えられなかった。

多少、風が強く吹こうが、結果は変わらないとばかりに、直也の護衛艦もどきは、

進路を右へ左へと変えながら、海王国のガレオン船に接近した。


船長「な、なんだ、ありゃあ」

海兵「魔獣……………じゃ…ねえ」

海兵「でけえ………………」

海兵「まるで城塞だ………………」

海兵「お、おい、あれ、鉄で出来てねえか?」

船長「鉄が水に浮く訳無いだろうが!」

海兵「なら何で出来てるんだよ!木じゃねえぞ!」

船長「お、おまえ、口の利き方に………………」

監視「人だ!人影が見えた!」

海兵「はは、まさか、これで船………かよ」

海兵「冗談だろ………………」

船長「ぜ、全員帯剣、戦闘準備」

海兵「お、お、おう」


距離はまだ500m近くあるだろうが、海王国軍は逃げ切る事を、早々に諦めた。

相対速度が違い過ぎるのが理解出来たからだ。

海兵達は全員が甲板に出て来て、弓等を構えて迎撃準備を始めた。


  直也《図体の割には甲板の人数が少ないな》

ノワール《カイジョウ・二ハ・イジョウ・アリマセン》

  直也《拿捕して調べるしか無いか、しかしソナーが無いのは痛いな》

ノワール《カイチュウ・ノ・マジュウハ・カンソク・フノウ・デス》

  直也《簡単に沈める訳にはいかないか………》


実際、この護衛艦もどきは、まだまだ未完成も良いとこだった。

特に問題だったのは、レーダーやソナー等の、電子関係で、魔素を電波に変換する

迄は良かったが、それを、高度なレベルで解析して運用するには、コンピューター

並の電子機器が必要になるが、現在はまだ、無線機程度の技術しかない。

つまり、海も空も視覚に頼るしか出来ないのだ。

ミサイルや未来予想艦砲射撃など、更に不可能で、そのおかげで、この船は護衛艦

のくせに、戦艦並の三連装砲塔が前部に二基、後部に一基備え付けてある。

更に、射撃統制システムは、半分アナログなのだ。

つまり、細かい調整は苦手なのだ。


  直也《ノワール、相手の左舷前方に接舷して航行を止めろ》  

ノワール《リョウカイ・シマシタ》

  直也《沈めるなよ》

ノワール《………ドリョクシマス》

  直也《………………近頃、何だか人っぽいな》

ノワール《キノセイデス》

  直也《まあ、いいか………………》


元々こちらの方がやや、甲板は高いので、ガレオン船の頭を押さえて、そのまま、

外部タラップを展開して行動を無理矢理止めた。

そのせいで、木造船の方は甲板が悲惨な事になっているが、相手は海王国なので、

知った事では無い。

衝撃で転倒している海兵達を見ながら、修羅を連れてタラップを渡った。


海兵「何だ、ありゃ」

海兵「執事………………?」

海兵「馬鹿、人間じゃねぇ……………人間じゃねえぞ……」

海兵「ば、化け物………………」

海兵「三匹も居やがる………」

直也《失礼な奴らだな、おい、海王国のゴミども、責任者は誰だ?》

海兵「しゃ、喋ったぞ」

海兵「あ、悪魔………」


全員が硬直する中、一人の日に焼けた大柄な男が声を上げた。


船長「お、俺が船長のルブラだ!」

直也《ほお、屑にしては、中々潔いじゃないか」

船長「き、き、貴様らは、どこの国の回し者だ」

直也《ああ?何、偉そうに言ってやがる》

船長「ひいっ」


目の前に刀の切っ先を突き付けられた、ルブラと名乗った男は、胆力が尽き果てた

らしく、その場に尻餅をついて震え出した。


直也《まあ、いい、国の名はドラゴニアだ》

船長「まさか………あの魔導士の………」

直也《なんだ、知っているじゃないか、あのライガンとかいう馬鹿の知合いか?》

船長「おまえ、ライガン様を知っているのか?」

直也《ああ、知ってるぞ、ビリアの街で俺が切り捨てたゴミの事だろ》

船長「貴様が殺したのは、曲がりなりにも我が国の海将だぞ!」

直也《ほぉ、海王国では、ごみ屑の事を海将と呼ぶのか、面白い制度だな》

船長「何だと、この賞金首が!」

直也《へえぇ、俺に賞金が懸かってるのか、いくらだ?》

船長「き、金貨、五十枚だ、王女様が懸けた」

海兵「金貨五十(約、五千万円)だと?」

海兵「す、すげえ!」

海兵「だが、こいつヤバそうだぞ………………」

海兵「あんな船に乗って来たし………………」

海兵「なに、この人形野郎を叩き壊せばいいんだろ、全員でかかれば楽勝だぜ」

海兵「それに向うの甲板をみろよ、誰も居ない、こいつらを始末すれば終わりだ」

海兵「そ、そうかな?」

海兵「お、おい、山分けだぞ!」

海兵「ひとり占めすんなよ」

船長「あの船、あの船も、儂らの物だ、ぐひひひ………」


海王国の連中は、現金をちらつかせると、理性を失くす病気にでも罹っているのだ

ろうか、次々と自分の死刑執行書に署名していった。

負けるかもしれないといった思考は無いらしい。

だが、十人程、土下座をしながら命乞いを始めた連中がいた。


海兵「すいません助けて下さいすいませんすいません」

海兵「逆らいません降参しますごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

海兵「仕事なんです無理矢理なんです命令なんです辞めたかったんです」

海兵「見逃してください死にたくない死にたくない」

海兵「お願いしますお願いしますお願いしますお願いします」

直也《お前ら、俺を知っているのか?》

海兵「オ、オ、オセから生き延びた船に乗ってました」

海兵「本当は、退役を申し込んだんですが………………」

海兵「俺は、地上勤務を希望したのに……………」


どうやら、彼らはオセの港で取り逃がした二隻の艦に乗っていたらしい。

あの恐怖が頭から離れず、退役や地上勤務を懇願したが、却下されたらしい。

だが、情報を引き出すには最適だ、使いでが有る。


直也《質問だ!この船は何を運んでいる?》

海兵「ドランで集めた奴隷と略奪品です」

直也《人数は?》

海兵「二百人程です」

直也《どこに居る?》

海兵「一番下の船艙です」


余程、あの時の砲撃が恐ろしかったのか、それともライガンの両足を切り飛ばす所

を見たのか、彼らは質問に躊躇することなく答えた。

だが、この様子を見ていた海王国の兵士達には、この行為は裏切りそのものだ。


船長「貴様ら!何をベラベラと!」

海兵「軍法会議物だぞ、何を考えているんだ!」

海兵「この腰抜け野郎が!」


直也は海王国の兵士達が、やたらと好戦的な事が気になった。

実際、ビリアの街の惨劇と、オセの敗北は、当然ながら、海王国の王宮に齎された

のだが、報告内容が、余りにも現実離れしている事と、第三海将のポンコツぶりが

赤裸々に記されていた事から、殆んどを捏造して発表した。

敗退したのは、アルギス公国が、大兵力を投入した隙をついて、魔導士が傀儡人形

を使って卑怯にも、正々堂々と慣れない地上戦を挑んだ、勇敢な第三海将ライガン

を罠に掛けたのだと。

生き残った連中からすれば、開いた口が塞がらない発表だろう。

そうでもしないと、王宮の無能ぶりを隠す事も、発狂する第一王女を取り押さえる

事も出来ない。

つまり、上層部は兎も角、それ以下、特に実働部隊には、間違った情報だけが飛び

交う羽目になったのだ。


船長「もういい!全員でかかれ!一番手柄は分け前増額だ!」

海兵「うおおおおおおお」

海兵「死ねぇぇぇぇえ!」

海兵「くそ!邪魔すんな!」


だが、勢いよく斬りかかってきた海兵達の願いは永遠に叶わなかった。


シッ―――――――――― ザシュッ ――――――――――ゴロッ


あっと言う間に、一人の海兵の首が飛んで、甲板に転がった。


チッッ―――――――――― シュッ ――――――――――ドサッ


返す刀で海兵が一人、右肩から左わき腹まで切り裂かれて、声を上げる間もなく、

絶命した。


スッ―――――――――― トシュッ ――――――――――ズザッ


そしてもう一人が、心臓を一突きにされ、何が起きたか認識できないまま、黄泉の

門をくぐらされた。

三人の海兵が、瞬きする間に斬り殺され、流れ出る血で甲板を赤く染めた。


「「「「「う、う、うわあああああああああああああ!」」」」」」

「「「「「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」」」」」」


当然、全員が硬直した後、悲鳴をあげて逃げ惑い始めた。


直也《無駄な事を…………修羅!たいらげろ》

修羅《了・了》

直也《金貨五十枚じゃ、安すぎだ、阿呆ども》


それから甲板は、修羅二体による、ただの殺戮劇場に成り下がった。

幸か不幸か、限られた空間しかない甲板では、修羅から逃げる時間さえまともに、

取る事が出来なかった。

流れ出た血は、甲板の板目さえ分からなくなる程、そこら中を血だまりに変えた。

これからは、人間では無く、魔獣を心配する事になるだろうが、どうせ、もう海中

には、目ざとい小型の魔獣が、血の匂いに誘われて集まり始めている事だろう。


船長「そ、そんな馬鹿な、馬鹿なあああああああああああああ」


最後に残った船長は精神の均衡を失ったまま、直也に斬りかかって来たが、結果は

分かり切っていた。

敵う訳が無い、無駄死にだ。

そして、振り返ると、後ろで一塊になっている、降伏組に話しかけた。



《さあ、ゴミ掃除は終わったが、お前らには、まだ聞きたい事が有る》




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