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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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奴隷と洗脳からの解放



「…………あの、お尋ねしても宜しいでしょうか?」


その口調が、示す通り、奴隷達は非常に困惑していた。

目の前の魔導士は、自分達を解放してくれると言った。

事実、今、目の前で支配層だったエルフ達は完膚なきまで叩き潰された。

それこそ、部隊長達は、文書的でなく、物理的に潰されて見る影も無いのだ。


  「構わない、何が聞きたい?」

奴隷「あの、先程の話は本当なのでしょうか、後で逃げ出した罰則を科せたり」

  「しないしない、自由だって言っただろ」

奴隷「では、代金は如何ほど支払えば?私ら金は持っていないのですが…………」

  「だから、要らないって、そんな物」

奴隷「では、やはり労働で対価を………」

  「何でそうなる!金も労働力も要らない!好きにしろ!」

奴隷「ならば、我々は何をして、生きていけばよいのでしょうか……」

  「ただ生きるだけの道さえ知らないのか、どこまで洗脳されてるんだ…」


彼らの殆んどが、物心着いた頃には、奴隷の身分に、落とされていた。

家族も持てず、もし子供が出来ても、子供が乳離れした途端に引きはがされ、施設

に放り込まれて、洗脳教育を叩き込まれた。

他の国であれば、例え奴隷でも同じ人種や獣人種、情も有れば罪悪感もある。

余りに非道な事をすれば、自らの心が疲弊し、耐えられ無くなる。

だが、エルフ達には、それが無い。

彼らにとって、他種族は、言葉の喋れる、意思疎通が出来る家畜なのだ。

家畜に罪悪感は感じない。


  「せっかく自由になったのに何か、望みは無いのか?」

奴隷「……………………………望み…?」

  「ああ、友人に会いたいとか、家族に会いたいとか、」

奴隷「何をもって、友人と?知人ならいるが」

  「友人とは、一緒に遊んだり、夢を語ったり、色々あるだろう?」

奴隷「遊ぶ……腹が減るだけだ…………夢は………昔……持って…もう忘れた」

  「では、家族は?」

奴隷「家族…………持つ事を禁止されていた、考えた事も無い」

  「好きな女とか、恋人は?子供もいないのか?」

奴隷「いない、女は、別の施設で子供を産まされている、娼婦達が言ってた」  

  「なら、奴らに対する復讐でもいい!憎悪でもいい!」

奴隷「奴らは……エルフは………憎い……でもどうしたらいいか…判らない……」

  「お前達………………」

奴隷「……なにも……何も無い…………………俺………空っぽだ………」


生まれた時から、何かを求める事を諦めさせられた。

守ろうとした、自分の心を踏みつぶされてきた。

人としての尊厳は、全て擂り潰されてきた。

人間である事の矜持さえも削ぎ落とされてきた。

感情を無理矢理、放棄させられた彼らの心は、もう死にかけていた。


  「好きな事も無いのか………………なら、嫌な事は何だ?」

奴隷「鞭は………痛くて嫌だな、あと、飯抜きは辛い」

  「そうか!なら、飯を、美味い飯を食わせてやるよ、甘い飴だって………」

奴隷「食事は食事だ?あと、甘いって何だ?」

  「………………冗談だろ、今まで何食ってた?」

奴隷「ゴダ芋と野菜くず………………」

  「他には?」

奴隷「有りません」

  「くそっ、それでかっ!」


見た限り、痩せ気味の若い奴隷は多いが、高齢の奴隷が居ない。

それはそうだろう、そんな偏った食事で長生きできる訳が無い。

そして、僅かに残った性欲を娼婦に吐き出させる。

ここまで欲望を削ぎ落さられば、確かに逆らう気力など生まれないだろう。

皇国の奴隷制度は過酷だと、昔、師匠から聞いた事が有るが、これは過酷の一言で

済ませる代物ではない。


「何が奴隷制度だ、家畜制度じゃないか」


だが、今は彼らを何とかしなければならない、家畜から人間に引き戻す。

このまま解き放っても、飢え死にするか、野生化するだけで、いずれば全滅だ。


「全員、付いてこい」


そのまま、奴隷達を連れて町の中央にある、一際大きい建物にむかう。

恐らく、捕まった人達はそこに居る。

まずは、合流だと思って思っていると、通りの角を曲がってデクシスが、ルージュ

とブランを従えて、現れた。 


    「おう、デクシス、逃げた奴らはどうなった?」

デクシス「あいつら、逃げてばっかり、ぜ~んぶルージュの餌食になっちゃった」

    「まあ、走るよりも、弓が早いわな」

デクシス「目が合った途端にだよ!魔法戦、楽しみにしてたのに………………」

    「ぎゃはははははは、まあ、次が有るさ」

デクシス「むぅぅ、ホントかなぁ」

    「そんな事より、宴会だ!手伝え!」

デクシス「えっ?………………宴会?………………何で?」

    「細かい事は考えるな!まずは宴会場にいくぞ!」


困惑するデクシスを連れて、奴隷狩りに会った人達が閉じ込められている建物の扉

を吹き飛ばした。


「助けに来た!」

「「「「ひぃぃぃ―――――――――っ」」」」


囚われていた人数は、六十人程、種族も年齢も性別もバラバラだ。

それが、全員、一斉に悲鳴を上げた。

今迄、鳴り響いていた、爆発音や悲鳴が聞こえなくなったと、幾分安心した所で

いきなり轟音と共に、扉を吹き飛ばされたのだ。

当たり前の結果でしかない。


デクシス「アル様、いくら何でも声ぐらいかけた方が………………」

    「あ~、なんか勢いで」

デクシス「アル様が魔法をぶっ放す時って、時々、過剰火力じゃないかと思う」

    「否定する材料がねえ………………」

デクシス「近いうちに、サナかユリアさんに怒られるような予感がする」

    「そ、そん時は、援護してね」

デクシス「殆んど、効果は無いと思う、多分、無駄」

    「そんなぁ~」 


この二人の掛け合いを見て、徐々にみんなの緊張が解けてきた。

いきなり爆発と共に現れて、助けに来たと言われても、反応など出来る訳が無い。

だが、そんな絶対強者が、獣人の、それも少年に見放されたと、嘆いているのだ。

最初に抱いた魔導士への恐れが、音を立てて崩れ落ちて行くのが分かる。

奴隷達にしても、それは変わらない。


「とにかく、全員外に出よう、広場で宴会を始めるぞ!」

「「「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」」」

「いいから、町中の食器を持ってこい、酒も食い物も俺が用意するから」

「わ、わかりました、おい、みんな、早く集めよう」

「「「「「「「「「「お、おう」」」」」」」」」」


全員が、あちこちの家を物色している間に、広場の真ん中に、大きな焚火を用意し

それを囲むように、敷物を並べて車座にしてゆく。

途中、16式を取りに行っていたブランとルージュが合流して一騒動有ったが、準備

は、順調に進んでいった。


デクシス「すっげー、でっかい野営だぁー」

    「喜んでないで、食器を置くテーブルを用意してくれ」

デクシス「オッケー」

    「………OK?………誰に習った?」

デクシス「なおやさま~」

    「だろうね、うん、何を拡散させるつもりなんだ、あいつは…………」

デクシス「さあ?」


みんなが、あちこちから、皿やコップを持ってきた。

中には、エルフ達が確保していた酒や食料も不含まれていた。

更に、アルは異空庫から、様々な食料を取り出し皿に盛りつけ始めた。

農作物の収穫は、まだまだ時間が掛かるが、アルの異空庫には関係が無い。

どんどん山盛りに、焼いたパンを積んでゆく。

準備が進む中、焚火に炙られていた大量の肉から落ちた油が、炭の上で焦げた。

その暴力的なまでの香りが、みんなの鼻腔をくすぐると、あの奴隷達さえも、喉を

鳴らした。


「お~い!全員注目してくれ~!」


まだ、夕焼け空にもなっていない、午後の町にアルの声が響いた。


「俺の名はアルセニオス・ファンビューレン、ドラゴニアの国王をやってる」


保護した住民たちに騒めきが広がる。

纏った黒のローブから、予想はしていたが、改めて聞かされると、やはり動揺して

しまうのは、仕方が無いだろう。

もっとも、その半分は、その見た目の若さと、国王とは思えない気軽さだった。


「この国の冒険者ギルドから頼まれて救援に来ただけで、別に他意はない」


ここで、なぜ、この男がこんな所に居るのかが、納得できた。

普通なら、国王で無くても、黒魔導士など、近くで見る事など、一生出来ない存在

なのだ。

そして、それは今までの常識で、これからの常識ではなくなってしまった。


「そして、もう一つ、タス皇国の奴隷達は、解放した」

「皇国………………の………………」

「………………解放…」


あちこちから、騒めきが聞こえる。

当然だろう。

今迄、自分達を拘束する側に立っていた上に、奴隷と言えば、一部の借金奴隷と、

大多数の犯罪奴隷と認識されている。

だから、奴隷の解放とは、犯罪者の解放と同義語なのだ。


「皆の不安も良く判るが、彼らは生まれながらの奴隷なんだ」

「ええと、それは?」

「ああ、犯罪者でも、借金持ちでもない、赤ん坊の時から奴隷だ」

「ひでえ………………」

「皇国の奴隷って………………」

「本人に責任なんて、無いじゃないか」


ここに来て、みんな奴隷達の異常性に納得がいった。

常日頃から、彼らから良くも悪くも人間らしい欲望が感じられなかった。

何を見ても、それこそ、銅貨や銀貨どころか、エルフ達の持っていた金貨にさえ、

全く興味を示さないのだ。

全員が、感情の揺らぎがない、まるで人形の様な印象だった。


「おまけに、食い物はゴダ芋ばかりで、肉なんて殆んど口にした事がないらしい」

「ゴ、ゴダ芋って、ゴブリンでも食わないぞ」

「ずっと、そればっかりって………………」

「俺だったら、耐えられない」

「悲惨過ぎるだろ」


此処で、奴隷達に対する、認識が変わり始めた。

何だか、表情の乏しい得体の知れない連中から、散々虐げられ感情さえ無くした気

の毒な奴隷達になりだした。

そして奴隷達も、支配者のエルフが居なくなって、困惑していた所にアルだけでは

無く、ただの平民からも憐憫の視線を向けられた事により、自分達の置かれている

立場が、異常で虐げられた物であると認識し始めた。

お互いの立場から来た感情の相違が交じり合えば、これ以上わざわざアルが言葉を

尽くす必要は無かった。


「肉も酒も用意した、せっかくの宴会だ、みんなで一緒に楽しもうじゃないか」


焼けた肉が、片っ端から、皿に乗せられ、配られてゆく。


「う、うめえぇ~、何だこりゃ」

「おい、胡椒だ、胡椒がふってあるぞ!」

「これが………肉………なんて美味いんだ………………」

「おう、あんちゃん、ここまで美味い肉はめったに食えないぜ」

「ほら、こっちも焼けたぜ、いっぱい食わなきゃ損だぞ!」

「あ、ああ………………すまない」


焚火から少し離れたテーブルに、最近作り始めたドライフルーツの山と棒付き飴

を出してやると、子供と女性が群がった。


「飴だ~」

「あま~い」

「砂糖だ、砂糖が使ってあるわ」

「幸せ~」

「この干した果物の甘みが、ああ、美味しい………………」


嬉しい事にモルナ達が作り始めたドライフルーツが非常に好評で、小さな女の子

が、口いっぱいに、ほおばっている様子は写真に撮って、モルナ達に見せてやり

たかったが、伝令は、デクシスにでも担って貰おう。


「おう、野郎ども、次は酒だ!コップを持って並びやがれ」

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


暗くなり始めた夕焼け空に、歓声が上がる。

勿論、冷たいお茶や、果実水は酔っ払いとは反対側に用意してある。

混ぜる訳にはいかないからだ。

酒が入れば、男達の心の垣根は、どんどんなくなって行き、今では肩を抱き合い

訳の分からない歌を歌い始める始末だ。


「ぎゃははははは、何だよ、その歌」

「俺が、たった今作ったwww」

「ばははは、道理で下手だと思ったwww」

「下手じゃ無くて、みょうちきりんなんだよwwww」

「ちげぇねぇ、あははは」


酔っ払いには、国も地位も人種も職業も無い、ただ、等しく酔っ払いなのだ。

胸襟を開くのに、酒は非常に優秀なアイテムだ。


「わはははははは、飲め、飲め、酒なら幾らでも有るぞ、心配するな!」

「やったー!ごちになりますwww」

「任せろ!」


太陽が、その勢力を失い、夜が全て支配し始めた頃、西の空が一瞬赤く輝いて空

を明るく染めた。

全員が、驚いて、西を向いたまま固まっていると、暫くしてから爆発音らしき物

が聞こえて来た。


「何だこの音は!」

「光ってたぞ!」

「おい、あっちはダクレスの街の方じゃないか?」

「ああ、間違いない、ダクレスの港だ」

「あすこには、俺の親父たちが居るんだ」

「俺の娘夫婦も………………」

「海王国に襲われているんじゃないか?」

「そ、そんな………………」


一部の住人達が不安に駆られて騒ぎ始めたがアルには、この爆発音に覚えが有る

この世界で、誰も知らない聞いた事の無い音だろうが、俺と直也は知っている。

紛れも無い。

いつの間に作り上げたのか、紛れも無く、艦砲射撃の音だ。

つまり、ダクレスの街で直也が猛威を奮っている、つまり海王国の命運が尽きた

事の証だ。



「みんな安心してくれ、あれは俺の半身が、海王国の連中を叩き潰してる音だ」


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