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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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蟷螂の斧と解放



ガロネ「《 火の聖霊よ我が力となり敵を討て・火の礫 》」

エルバ「《 水の聖霊よ我が意志を汲みて刃となせ・水の刃 》」

リボル「《 地の聖霊よ御身の手をもって我らを守れ・土の壁 》」


激昂したエルフの部隊長達は、後先考えずに魔法を撃ち放ったが、その全てを迎撃

され、ただの一発もアルには届かなかった。


「遅い!《《《《《《《《《《 火の理::::炎弾 》》》》》》》》》》」


彼らの魔法は詠唱を長くして、その威力を上げた物だった。

普通なら、これ一発でフォレストウルフなど、肉片になってしまう程の威力が有り

それを、何十発も撃ち込んだのだ。

そんな数の魔法を喰らっては、いくら数多くの防御魔法を纏っている魔導士でも、

到底、防ぎきれるものでは無いだろうと確信していた。

だが、それも攻撃が本人に届ばの話だ。


ガロネ「そんな………………馬鹿な………………」

エバル「………………全部、撃ち落としやがった………………」

ガロネ「あいつ、何で火魔法を使ってやがるんだ………………」

エルバ「確か水属性だった筈だが………………」

ガロネ「あり得ねえ!俺の魔法は相打ちだったんだぞ!」


魔法使いにとって、その属性は名前と同じ位、重要な物なのだ。

だから、魔法使いが有名になれば、その属性も一緒に周知されるのだ。


エルバ「俺だって、無効化されたんだ!」

ガロネ「でも何で、あんな数打ち魔法に何で負けたんだ?」

エバル「わからねえよ、そんな事………………」

ガロネ「そもそも、炎弾なんて魔法、俺は聞いた事が無いぞ」

エルバ「まさか、新魔法なのか?」

リボル「おい!どうなってるんだ!手を抜いてるのか!」


土属性の魔法使いであるリボルは土の壁を幾つも出していたが、維持するだけでも

魔力を消費し続けるのだ。

彼にしてみれば、何時までも発動したままでは、困るのだ。


「どれ、こちらも潰しておくか、《《《《地と水の理::::泥流》》》》」


発動と同時に、土壁の根本が泥沼に変わった。


リボル「……………………………………………… 嘘だろ」


次々に飲み込まれていく土の壁を、ただ、呆然と眺めるしか無かった。

そして全員が困惑した。

通常、魔法には相性が有るのだか、それを全て根本からひっくり返されたのだ。

本来、水属性のアルは、火属性の魔法とは、非常に相性が悪いし、それは土属性も

同じだ。

本来、アルが火魔法を使った時点で、エルフ達の魔法は到底、防げる筈が無いのだ

例え迎撃に間に合ったとしても、相殺どころか、撃ち負けるのが当たり前だ。

だが、現実は真逆だった。

物理現象を理解したアルにとって、例え真逆の属性だったとしても、使えた時点で

その威力は途轍も無い物になる。

分子レベルで干渉すれば、後は反応を誘導するだけだ。

だが、この世界の人々は、物質が目に見えない程小さな粒の集合体で、さまざまな

種類が存在しており、それらが集まって世界を作っているなど、夢にも思わないし

理解も出来ない。

特に頭の固いエルフなど、未来永劫、不可能だろう。


リボル「………あんな土魔法、俺でも使えんぞ………………」


種を明かせば、土の粒子を振動させて、そこに空気中の水分を追加して液状化現象

を、起こしただけなのだ。

だから、消費する魔力も少なく、特に膨大な魔力保持者のアルにとっては、減少を

感じられない程なのだ。


リボル「こんな事が認められるか!」

ガロネ「こんな物が続けられる訳が無い!全員撃ち続けろ!」

エバル「うおおおおおおおおおおおおおお」


彼らにとって、未知の魔法、理解出来ない魔法、そして自分の魔法より強力な魔法

は、必ず、大量の魔力を消費すると思っていた。

だから、アルの魔法もそうそう、連発出来ない、人数の多いこちらが有利だ。

そう勝手に信じて、魔法を連射し始めた。

だが、物理法則を理解し利用するこの黒魔導士には適応されなかった。

火魔法も水魔法も、更に風も雷も、威力が桁外れに上昇したにも拘らず、消費魔力

は、土魔法程では無いが、驚く程減少した。

おかげで、たとえ一日中、撃ち続けたとしても、魔力不足にはならない。

そうなると、彼らの目算は、どんどん狂い始める事になる。


リボル「お、おい、何時になったら奴の魔力は尽きるんだよ!」

エルバ「もう、俺の方が苦しくなったんだが……………」

ガロネ「そんな馬鹿な………こっちは三十人以上、居るんだぞ………………」


彼ら部隊長達三人の外にも、貴族の子弟たちが魔法兵として戦闘の経験を積ませる

為に同行していた。

そして、例え新兵だとしても、攻撃魔法は使えるので戦闘に参加させていた。

一人対三十六人、間違いなく相手の魔導士が先に魔力切れを、起こす筈だと思って

いたのに、先に息切れし始めたのは、こちらの方だった。

予定の狂った彼らを、更なる現実が追い詰め始めた。


ガロネ「おい、撃ち合う位置が近くなってないか?」

エルバ「やはり、お前もそう思うか、俺もだ」

リボル「くそ、気のせいだと思いたかったぜ」

ガロネ「だが、どうする、このままじゃ押し切られるぞ」

エルバ「どうするったって、このまま撃ち続けるしか無いだろう」


魔法の発動を止めれば、当然、相手の魔法の直撃を喰らうはめになる。

勝てると思って魔法の撃ち合いに持ち込んだが、その目論見は、既に瓦解し始めて

いて、彼らは心底、後悔し始めていた。

実は、アルは魔法の威力と発動速度を徐々に上げ始めていて、そのまま力ずくで押

し潰そうとしていた。

要は、相手の心をへし折り来ていたのだ。

そうする事で、奴隷、得に戦奴達にエルフが盲目的に従うだけの価値など無い、情

けない存在だと、見せつけようとしているのだ。

そしてその効果は直ぐに現れ始めた。


リボル「おい!新兵共がヤバイぞ!」

ガロネ「なんだと!」

リボル「魔法の衝突位置がもう目の前だ!」

エルバ「ありゃ、もう駄目だ…助からねえ……」

ガロネ「冷静に判断してる場合か!その分、こっちが増えるんだぞ!」

リボル「詰んだんじゃないか?これ」


そして、新兵たちに、とうとう魔法が直撃し始めた。


新兵「ぎゃああああああああああああああああああああああ」


直撃を喰らった新兵は、あっと言う間に、下半身を焼滅させられて絶命した。

そして、それを見たほかの新兵達は、すぐに戦闘を放棄して逃げ出し始め、一瞬で

戦線は瓦解した。

屠殺場の家畜に成り下がった彼らは、醜態を晒しながら逃げ惑い、戦場を大混乱に

巻き込みながら、次々に倒されて行った。


 新兵「ひぃぃぃぃぃぃっ」

 新兵「だ、誰か助けて、だれか!」

 新兵「に、逃げ………ぎゃあああ!」

ガロネ「持ち場を離れるな!踏みとどまれ!」

 新兵「うわぁぁぁぁぁ、し、死ぬ、死んじまう!」

 新兵「あ、足が!俺の足が!俺の足がぁぁぁぁぁぁ!」

リボル「撃ち返せ!逃げたら死ぬぞ!」

 新兵「痛ぇぇぇっ、痛ぇよぉぉ、死んじゃうよぉ」

 新兵「嫌だ……嫌だ………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

エルバ「ほっとけ、くそっ、こっちが、危なくなって来たぞ」

リボル「畜生………支えきれなくなってきた」

ガロネ「どこまで威力が上がるんだ!糞ったれがあああ!」


運よく片手だけの被害で済んだ少数の新兵が、逃げ出したが、無視した。

どうせ、ブランや修羅達が守るデクシスの包囲網を突破できる筈が無いからだ。

それに、満身創痍のエルフが、体中から、ありとあらゆる液体を垂れ流しながら、

逃げ出す姿は、奴隷達の精神を強烈に揺さぶった。


(絶対の支配者だと思っていたエルフの、なんて惨めで情けなくて滑稽な事か)


奴隷達が植え付けられていた価値観が、音を立てて崩れ始めた。

あのエルフ達を三十人以上、相手取っても歯牙にも掛けない圧倒的な魔法。

その絶対強者が、自由にしてくれる、解放してくれると言っているのだ。

彼らの心の中で、どんどん大きくなる感情の波紋は、もう誰にも止められない。

それは、三人の部隊長に対しても、如実に現れ始めた。


ガロネ「おい!奴隷ども!今の内に斬りかかれ!」

 奴隷「………………………………………………」

リボル「何をグズグズしてる!早くせんか!」

 奴隷「………………………………………………」

ガロネ「命令違反は後で厳罰だぞ!わかって………いる………の………か…」

 奴隷「………………………………………………」

リボル「む、鞭打ちだぞ、おい、お前ら、何で返事をしない、おい、おい!」

 奴隷「………………………………………………」

エルバ「は、早く、早く弓で奴を射ろ!射ろよおぉ」

 奴隷「………………………………………………」

   

命令されても、奴隷達は動かない。

どれだけ怒鳴ろうが、脅されようが動かない。

奴隷達は、命を賭けて迄、命令に従う事に疑問をもってしまったのだ。

こうなってしまっては、奴隷達の戦力は無いも同然。

そして、三人の命も運命も此処で尽きた。


   「もう十分だな、お前ら、地獄の土産に、面白い物を見せてやろ」

ガロネ「いったい、何を………………」


アルは、今、発動している火魔法を全て消去して、新しい魔法を展開した。


「《《《《《《《《《氷晶::衝突::帯電::雷槍》》》》》》》》》」


黒の魔導士が頭上に展開したのは、激しく回転しながら絶え間なく放電している、

碧く神々しく輝く、巨大な雷槍だった。


ガロネ「なんだよ、ありゃあ………………」

リボル「青く光ってるぞ、本当に雷魔法かよ………………」

エルバ「デカすぎるだろ、あんなの喰らったら………………」


三人は恐怖のあまり、雷槍から目を離せないまま、瞬き一つ出来ずに硬直した。

麻痺した脳は、行動の全てを拒否したのだ。


「ほう、覚悟を決めたのか、なら苦しまずに消滅させてやろう、行け!」


三人は呆然としながら、迫りくる碧い巨大な雷槍を見つめていた。

その僅かな刹那に、やっと自らを振り返り、そして後悔をした。

目の前に居るのは紛れも無く世界最強の魔導士だと。

何で敵対してしまったのか。

どうして、寂寞せきばくの二つ名を軽視したのか。

欲に目が眩んで、無謀な戦いを挑んだ。

他種族だから、人族だからと、他者を見下した。

簡単に、彼らの人生を踏みにじった。

傲慢だった。

思い上がっていた。

その負債をたった今、払っているのだと思うと、諦めも付いた。


    「俺達は……馬鹿だ………………」



  ドガァ―――――――――――――――ンッ


パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ


雷槍が着弾した場所には巨大なクレーターが、出来上がり、舞い上がった石くれが

バラバラになって蒸発したエルフ達の残した服の切れ端に降り注いだ。

その、途轍もない馬鹿げた威力の爆発に、遠巻きに見ていた奴隷達は全員吹き飛ば

された挙句に、腰を抜かしてしまった。

そして、ただ、呆然と眺める事しか出来なかった奴隷達に向かって、その魔導士は

満面の笑みで声を掛けた。


  「さあ、馬鹿は居なくなった、みんな自由だ………ぞ………………あれ?」

奴隷「「「……………………………………………………………………………」」」


奴隷達は啞然としたまま、ただ、じっと見ているだけだった。

そもそも、こんな物を見せられて、冷静で居られるのは、せいぜい、銀月の連中迄

が限界で、それ以外は恐らくみんな同じ反応になるだろう。

未知の物に対する警戒心から、誰も自ら動きたくは無いのだ。

両者動かないまま、どれ程、時間が経っただろう、意を決して一人の男がアルに向

かって、恐る恐る声を掛けた。


奴隷「…………あの、お尋ねしても宜しいでしょうか?」

  

     これが、彼らの第一声だった。





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