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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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魔法戦



逃げ出した若いエルフ達は自己弁護のために、自分で自分を肯定していた。


そもそも、僕たちは、何も好き好んで奴隷狩りに同行していた訳じゃない。

軍部からの命令で仕方なく、従事していただけだ。

誰が喜んで、湯浴みも出来ない、ベッドも無い、エルフの女も居なければ、食事は

不味い、虫だらけの天幕生活などするものか。

だから、面倒な奴隷狩や雑用は、全て劣等種の人間に押し付けて、魔法攻撃にだけ

参加していたのだが、俺達が好きなのは、魔法で相手を一方的に攻撃して蹂躙する

事で、戦闘行為など冗談では無い。

ましてや、相手は、黒の魔導士の第一席だ。

うちの将軍達と同等か、それ以上の力を持っている奴となど、戦える訳が無い。

絶対に勝て無い。


それでも彼らは馬上で相手の居ない愚痴を零すしか出来ない。


「冗談じゃない、あんなのが居るなんて聞いて無いよ」

「無駄口叩いてる暇なんて無いぞ、追いつかれたら、おしまいだ!」

「わかってるさ、そんな事」

「言い争ってないで、なすり付けるセリフでも考えなよ」

すがりつく演技なら任せろ、自信が有る」

「なんて情けない………………」

「あいつの彼女って、お金持ちの娘なんだよ………………」

「余計に情けない………………」

「哀れな………………」

「浮気するあいつが悪いだけだろ」

「同情する価値は無いな………………」


焦っている割には、妙な余裕が有るのには、理由があった。

まず、彼らの乗ってる馬が、バイコーンと普通馬の配合種で足が異常に速い事。

次に、足枷にと拘束していた老人達の半数近くが、死にかけだった事で、絶対に

時間を取られると踏んでいたが、その見積もりは少しだけ甘かった。

つまり半分正解で半分は間違いだった。

確かに老人達は弱っていたし、強引に動かせば命に関わりそうなものも居たのだが

それを、アルが大量に持っている数種類の薬と上級ポーションが動けるぐらいまで

に回復させた。

おかげで、少々時間は掛かったものの、銀月の連中に老人達を託して追撃にかかる

事が出来た。

つまり、彼らエルフの若者たちが思う程、時間は稼げていなかったのだが、まさか

その事が、彼らを助ける事になるなどとは、夢にも思わなかっただろう。


「部隊長!お願いします!」

「助けてくれ、俺達程度の魔法じゃ敵わないんだ!」

「怖いよ~助けてくれよ~」

「俺達、コテンパンにやられたんだ」

「俺達じゃ、歯が立たないんだ」

「魔法が全部、躱されるんだよ~」


街道を占拠地に向かって、急速に近づいて来る一団が有ると報告を受けた、三人の

部隊長達は、慌てて仮設門まで来たが、近づくにつれ、それが自分達の部下達だと

判明すると、途端に困惑の目を向けた。

一体自分の部下たちは、職務を放り出し、あそこで何をしているのか?と。

だいたい、一人や二人ならともかく、ほぼ全員なのは何故なのか。

是非、詳しく聞かなければと、思った途端に、この台詞せりふである。


ガロネ「うるさい!一方的に喋るな!」

エバル「そもそも、いったい、誰から助けろと言うのだ……」

リボル「残りの人間どもはどうした、置いて来たのか?」

エバル「………逃げて来たにしては、怪我も無ければ、服も汚れていないな」

リボル「………………何か嘘くさいな、お前ら」

ガロネ「まさか、職務を放棄して来たんじゃ無いだろうな」


思惑が露見しそうになった彼らは目に見えて狼狽え始めた。

適当な事を言い募ったのだから、あちこち理屈が合わなくなってきたのだ。

だが、このまま戦闘に巻き込まれてしまうのは御免だった。

彼らには、わざわざ命を賭けるほどの、義務も責任も持っていない。

国家に対する忠誠心も無ければ、皇家に対する尊敬もなかった。

それどころか、不満と侮蔑なら幾らでも吐き出しただろう。

元々、精霊信仰の伝統と仕来たりのみで、成り立ってきた国家だったが、ここ数年

は、特に皇族や貴族の横暴が目立ち始め、彼らに対して、元々薄かった畏敬の念は

限りなく、薄くなっていた。

つまり、下位とは言え、貴族のこいつらの盾など、まっぴらだった。

しかし、現状は非常にまずい。

上手い事言って、押し付ける予定が丸ごと瓦解しそうだった。

何とかしようと、考えを巡らしかけた所で最後尾から聞こえた絶叫が全てを押し流

した。


「ひいぃぃぃぃぃっ、き、来た、来た、来たぞ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ」

「早すぎるだろ!なんでだ!」

「俺が知る訳無いだろう!」

「何やってる!早く行けよ!」


遥か彼方に見える街道の奥の奥にポツリと現れたそれは、土埃を巻き上げる黒い点

にしか見えなかった。

しかし、逃げ出した彼らは、それが何か知っていた。

あれだけ時間を稼いだつもりが、ほぼ、役に立っていなかったのだ。


(やっぱりあいつら普通じゃねえ、何が何でも逃げなきゃ!)


無理矢理前に馬を走らせ始めた後続達に押されて全員が、上官の部隊長を無視して

逃走を始めた。

こんな事が軍本部に知られれば、懲罰は免れないのだが、追いかけて来たあ相手の

正体を知っている彼らにとって、そんな事など、どうでも良かった。

命と比べられる訳が無い。

とにかく、恐怖から、有無を言わせず逃げる事を選択したのだ。

あっけにとられる、三人の部隊長を、その場に残してだ。

だが、彼らは、この行動で命を拾ったのだ。


ガロネ「何だ、あいつら」

エバル「全く、職場放棄して逃げやがった」

リボル「国に帰ったら、軍法会議にかけてやる」

ガロネ「あれを見て見ろ、あいつらあれから逃げたみたいだぞ」

リボル「何だ、変わった馬車だな、あいつら、あれを怖がったのか」

エルバ「臆病者の平民どもめ………………」


そう言いながらも、徐々に大きくなり始めた16式を見て、対策を取り始めた。

彼らの周りには数人のエルフと大人数の奴隷がいた。

戦闘専門の戦奴と雑用係の一般奴隷だ。


ガロネ「まあいい、おい、門を閉めろ」

リボル「戦奴を全員連れて来い!門の外で始末するぞ」

エルバ「弓は柵ごしに広がれ、剣と槍は前で十人づつの隊列を組め」

リボル「もっと、馬車止めを増やせ、ぐずぐずするな」

ガロネ「属性ごとに、整列しておけ、リボル、いつもの通り中央で防御を」

リボル「わかった

エルバ「なら、俺は左だな」


この三人の部隊長達は、エルフの中では比較的、多くの戦闘をこなしていた。

特に反乱を起こした奴隷との戦いが大多数を占めていたのだ。

だから、対人戦闘には慣れていて、迎撃指示も的確だった。

黒の魔導士が相手で無ければ。


ガロネ「さあ、何時でも来やがれ」


そして、待ち構える彼らの、かなり手前でアルは16式を止めた。


    「いいか、今回はエルフ共は一人も逃がさないつもりだ」

デクシス「わかったけど、どうすれば良いの」

    「あそこは小さな宿場町だ、おかげで出入口は街道に沿って二つだけ、此

     れを塞いで誰も出さないようにする、デクシス」

デクシス「はい」

    「お前はブランとルージュを連れて、町の反対側の門を封鎖しろ、それと

     修羅達は、周囲に分散して配置する」

デクシス「わかった」

    「それと、極力、奴隷たちは殺さず無力化しろ、あいつらは命令に逆らえ

     ない様に思い込まされているだけだ」

デクシス「やってみる、でも酷いね」

    「ああ、ろくでも無い、だからこそ犠牲は少なくしたい」


そして、アルは街道のど真ん中を殊更、ゆっくりと町に向かって歩いた。

勿論、デクシス達が配置に着く為の時間稼ぎに他ならないが、占拠地のエルフや、

奴隷達は、少なく無い衝撃を受けた。

特に動揺したのが奴隷達で、まさか相手が、あの寂寞だとは夢にも思わなかった。

一瞬で殺される未来しか、想像できなかった。

もう、頭の中は、逃げる方法を考える事で一杯になったが、エルフ達の反応はやや

違った物になった。

その理由は、寂寞せきばくの名付け親である、自国の第一皇子を見下し切っているからだ。

元々、タス皇国のエルフは魔法使いばかりで、剣技や体術などの身体能力に関する

力は、皆無と言っても、差し支えない。

だから、強さの基準は、どれだけ攻撃力に長けた魔法を使えるかによって決まる。

そして、第一皇子は、この基準から見ても著しく弱かった。


「何で皇族のくせに、あんなに魔力が少ないんだ………………」

「あの、出来損ないが第一皇子だと?」

「廃嫡できんのか?」

「次の皇子に期待するしか、あるまい」

「そもそも、本当に国皇の種か?」

「声が大きい、こんな事を誰かに聞かれたら、縛り首だぞ」


そんな声ばかりが皇宮に満ち溢れた。

事実、陰口を言っていた侍女が三人、皇妃から死を賜る事になった。

それでも、まだ強力な、例えば雷や光などの希少属性なら良かったのだが第一皇子

の属性は風だった。

発動した魔法は、そよ風、凡そ戦闘には向かず、殆んどの人間が、表面では、義務

から皇族として扱ったが、裏では心の底から見下した。

だからこそ、異常発生した海魔の討伐を嫌がらせで押し付けられた時に、恥も外聞

も無く、魔道の塔に助力を求めたのだ。

そして依頼を快諾した師匠が、アルを派遣し、処理させたのだが、この話の流れで

現場を見ていない多くのエルフはアルの事を、過剰評価だと思っていた。

何せ、二つ名を付けたのは、無能と蔑まれた第一皇子だからだ。

それに加えて、数年前の聖王国が発表した死亡宣言である。

寂寞せきばくの二つ名に懐疑的だった彼らが誤解するには十分だった。


ガロネ「おい、あれって寂寞せきばくじゃないか?」

リボル「まさか、下等種族だと言っても、国王だぞ」

ガロネ「いや、間違いない、寂寞せきばくだ」

エルバ「それであいつら逃げ出したのか、情けない」

リボル「まあ、あいつらは後で懲罰を加えるとして、これは好機だろう」


彼らの身分は、三人共男爵で、他の残ったエルフたちも騎士爵である。

貴族位が低い彼らは、当然ながら、常に上を目指していた。

そうしなければ、碌に生活が出来ないからだ。

男爵程度では、領地持ちだろうと、国政次官だろうと、収入はたかが知れている。

だが、貴族の義務と見栄はそれなりに付いてくる。

見栄っ張りな妻や娘が居る者などは、更に最悪である。

夜会だ、茶会だと、朝に晩に資金を要求され、用意出来無ければ罵倒される。

中には、家族で慎まし生活を楽しむ者や、収入を増やす為に内職する妻も居たが、

残念ながら、三人の家族は、見栄の塊だった。


ガロネ「ここで寂寞せきばくを始末して、功績にするぞ」

リボル「三人も居れば互角以上に戦える筈だ」

エルバ「上手く行けば子爵もありうるな」

リボル「もし昇爵が無理でも、悪くても、高額の報奨金は確実だ」

エルバ「一国の国王だぞ、金貨300枚は固いだろう」

ガロネ「よし………………これで借金が返せる」

リボル「お前もかよ………………まさか」

エルバ「はは、正解、三人共、借金持ちだ」


彼らは、目の前の魔導士が金貨に見え始めていた。

そのせいか、戦奴達が、じりじり後退しているのに気が付かなかったのだから、

呆れた話である。

そして、初めて彼らは黒の魔導士、その第一席と真正面から対峙した。


   「一応通告してやるから良く聞け、降伏して、捕えた人達を引き渡せ」

ガロネ「何を言ってやがる、お前は此処で死ぬんだよ」

リボル「何が寂寞せきばくだ、この底上げ野郎が」

エルバ「大人しく投降するのは、お前だよ」

   「面白い冗談だな、ああ、もう一つ言い忘れた事が有る、奴隷の諸君!」


アルは大きな声でその場の視線を全て自分に集めた。

そして宣言した。


「俺の名前はアルセニオス・ファンビューレン、隣国ドラゴニアの国王だ、今から

 この糞エルフ共を皆殺しにするので手を出さないでくれ、その後なら自由に行動

 して構わない、勿論、奴隷から解放する!」


この宣言が与えた影響は大きかった。

頭に血が昇って、前に出始めたエルフとは対照的に、目に見えて動揺し始めたのは

奴隷達だった。

特に、洗脳の深い戦奴と違って、ただの恐怖で従っていた一般奴隷達は直ぐに後退

を始めたが、それを見ていた戦奴達も、自分達の行動に疑問を持ち始めた。

他の奴隷の行動と恐怖が、自らの自我を揺さぶり始めたのだ。


ガロネ「貴様!何を勝手にほざいてやがる!」

リボル「そもそも、奴隷は我が国の物だ、解放など許さんぞ」

エルバ「お前にそんな権利は無い!」

   「ぴーぴーさえづるな雑魚が!俺の国では奴隷は違法なんだよ!文句が有るなら

    止めてみな、これから死ぬお前達に止められればな!」

ガロネ「なんだと!貴様………………死ね!」




   そして、ここで初めてエルフとの魔法戦が開始された。

   

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