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憧れていた。空想の存在。世界を救うモノ。英雄。超人。ヒーロー。正義の味方。呼ばれ方は様々だ。他者のために戦い、人の脅威からそれを守る存在。そんな生き方が出来たらどれほど良いと憧れていた。
そんな風に生きて命を燃やせたらどれほど良いだろうかと。でも現実にそんな生き方は出来なかった。俺は自分を守るのが精一杯で、自分の為に生きるのが精一杯で、
とてもじゃないけどそんな生き方はできそうになかった。でも憧れだけはあった。空想、幻想、その中に存在するヒーロー。彼らの存在が俺の心を救った。空想にそれらがあることで、
人はこんなにも気高く生きられる可能性があるのだと思い知ることが出来た。利己的な生き方ではない、何処か利他的な、命を他者の為に使うことの出来る生き方――そんな生き方が出来たのなら――。
「俺は今度こそこの世界で人を救い英雄になってやる」
書庫で本をたくさん読んで知った。この世界には過去大戦争があり、それから現実世界でいうところの一世紀が経っているということ。現在世界は安定しているが、
その戦後秩序が再び揺らごうとしていること。依然として貧富の差があり、格差が広がりありつつあること。そうかこれはまるで、現実世界の写し身。違うのは技術体系と俺に与えられた力。
正義を行うのは難しい。なぜなら誰にとっての正義は、誰かにとっての悪かもしれないから。万人を救う正義は誰かを救わない正義なのかもしれないから。誰かを救うことは誰かを救わないこと、
誰かがそんなことを言っていた。これもきっと空想〈フィクション〉の言葉。でもそれは空想の存在に現実という楔を打ち込んだ言葉。それでも――それでも――。
ここが空想の世界なら、お伽噺の理想郷なら、それがきっと叶うはず。誰もが救われ、全ての命に祝福がある世界を――。空想を現実に出来るこの力があれば、きっと――。