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庭に出ると、そこには豊かな植物群が自生しておりよく手入れされている様子が見受けられた。鳥のさえずりも聞こえ動植物の豊かな自然体系が構築されている様だった。
「なあ、ここには魔法とか魔術とかってあるのか?」
「野暮な質問ね、もちろんあるわ。人の身体に宿る魔力を鋳造してカタチとして吐き出す、それが魔術、魔法はもっと高度なものだけど、この世界では広く使われているわよ」
「そうか、ならば俺にも使えるのかな?」
「試してみる?」
「ああ」
「ちょっと身体を貸して」
女がそう言うと、男の身体はまるで磁石に引き寄せられるように引っ張られ、女の目の前に止まった。
「これは重力を操った魔術よ、私の魔力で重力に作用し、あなたと私の間に引力を生じさせたの」
「それは凄い……」
男は苦笑した。これでは魔術ではなく最早魔法ではないか。これほどの異能が存在する世界。これならば人は遍く救われ、一人の犠牲も出さずに済むのではないか、そうした夢想が頭に過った時――
「でもね、これだけの力があっても、これを正しく使えなければ意味がない、人はこの魔術という技術を使って罪を、大罪を犯した。そう、多くの人の命が喪われた……」
「戦争か?」
「ええ、技術は人を豊かにする為に生まれたもの、遍く全ての人、そこまで言わなくてもより多くの人がもっと豊かに安全に生きていけるように、けれど人は間違いを犯す、
決して取り返せない人の命というものを代償にしてね。そこらへんの歴史はここの図書館に詳しいわ。興味があったら見ればいいんじゃない」
……魔術、魔法、それらは俺の故郷である科学に当たるものかもしれない、思えば科学は人を豊かにした、それは歴史的な絶対の事実として認められるところだろう。だが広島、
長崎に落とされた原子爆弾や、より効率的に人を殺す為に使われた技術というのも存在する。問題はその技術、力の使いようなのだが、純粋に人を救う為の技術でも、
遍く全ての人を救うことは叶わないことも歴史は物語っている。結果的に多数を生かす為の少数の犠牲、結果として出てしまう取りこぼしてしまうモノ、それらを許さないと現実社会では生きていけない。
だから俺は――
「分かった、図書館には後で立ち寄らせてもらう。ところで一つ頼み事があるんだが、良いか?」
「なにかしら?」
「この世界の基本原理は魔術、魔法で出来ている、それで良いんだよな」
「ええ」
「であるならば、それを俺に伝授してもらいたい。そして出来るならばその力をこの世界の人々の為に使いたい。以前の俺には出来なかったことだ、
世界をより良く出来るならばこれに勝る喜びはないんだ」
「ふーんあなたにそんな願望があったなんて意外ね。意外と博愛主義者?」
「どうかな利己的な人間だよ。俺は」