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当たり前のモノ……。人間が生きていくのに必要な『誇り』とか『思い出』そうしたものが男には欠けていた。人間が尊厳と共に持ちうるものそれが男には無かった。だからか。
男は常に餓えていた、精神的な充足、満ち足りるモノ、そうそれは『物語』だ。フィクションは常に男の精神を一時満たした。しかしその水はすぐ乾く、故に男は『物語』を求め続ける。
特に男が好んだのは『理想』を追求するモノ、このクソッタレな『現実』を超越して夢幻の夢を現実に実在せしめる『理想』。だが『理想』は『幻想』故に現実にあり続けることはない、
近づくことは出来ても到達することはない、故に理想であり幻想。そんな存在するも実在はしない現実における『光』の様なものを追い求めて男は生きていた。
それは現実に生きながら現実に生きていない、極めて危うい生き方だと言える。だが男はそう生きるしかなかった、現実に生きていながら現実に生きていない生き方、それが男の生き方だった。