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とことこなつ

作者: 藤泉都理

【第一話 巨大杉】




 夏休み初日。


 祖父母が住んでいる小島に一人で行った少年は今、人間の数よりも多い巨大猪に追いかけられて、生き延びる為に必死でよじ登った巨大杉の樹冠で、あり得ない光景を目にしていた。


 ラベンダー畑があったのだ。

 少年が寝転べるが、寝がえりは打てない杉の枝一面に。

 そして、そのラベンダーに水やりをする少女がいた。








(2022.7.10)




【第二話 山桃の種】




 ここは異世界かと我が目を疑いつつも。

 巨大猪から逃げ切れた安堵と走り疲れに加えて。


 ふかふかの土の上にいるような心地がする枝の上。

 枝葉が絶妙に遮って心地よく注ぎ込む日光の下。

 常に涼しく時に氷のように冷たい風が優しく流れる中。

 ラベンダーに水やりをする少女という長閑な情景を前に。


 少年はうつらうつらと舟をこぎ始めて。

 そして、あと三回頭を左右に振れば、ふかふか枝の上に倒れ込むはずだったのだ。

 少女が少年の額に見事、山桃の種をぶつけなければ。










(2022.7.11)




【第三話 鉢巻き】




「危ないな、おまえ」

「いや、君が額にぶつけたせいだろ」


 思いのほか力強く引き上げられた少年は、杉の枝に跨ったまま無言で見上げた。

 非難めいた眼差しを向けつつ、赤くなっているだろう額を擦りながら。

 手首から手を離して杉の枝の上に立つ少女を。

 年は同じくらいで、丸い黒めがねを目に、というか、顔の半分に、リレーに使う色とりどりの鉢巻きを全身にかけている。


 額に小石のような物をぶつけられて、眠気ばかりか身体も吹き飛んだのだ。

 間一髪で少女に助けられたのだが、少女のせいで危うく落下してひどい怪我を負いかねない状況に遭ったので、素直にありがとうとは言えなかった。


「勝手に私の庭に入って来るからだ」

「庭って。ここは君の土地なの?」

「私の土地と決めた」

「えー」

「だから早く去れ」

「巨大猪から逃げてきたんだよ。もうちょっとここにいさせてよ」


 少女は舌打ちをして、下を見た。

 少年も下を見た。

 巨大杉の周りを巨大猪がうろうろしていた。


「しょうがないな。じゃあ、いさせてやるが、言うことがあるだろう」

「………おじゃまします」


 深々と頭を下げると、足りないと言われた。


「………巨大猪がいなくなるまで庭を見学してよろしいでしょうか?」

「ああ」


 許可が無事に下りました。









(2022.7.12)




【第四話 腐葉土】




「杉の葉が枝の上に積もって、ながい、ながーい時間をかけて腐葉土になって、風とか鳥とかが運んだ植物を育てられるようになったんだ」


 どうしてこの枝はふかふかしているのか。

 新種の枝か、やっぱりここは異世界なのか。

 少年が少女に疑問を投げかけた返事だった。

 少年は目を爛々と輝かせて、優しく植物が生えていない腐葉土をなでた。


「すごいな。植物って。すごいな」

「すごいだろ」

「うん。じゃあ、このラベンダーも自然に育ったの?」

「違う。私が持って来た。巨大猪から守るためにな」

「食べちゃうの?」

「食べる時もあれば、踏み荒らす時もある」

「………怖いし、大切なものが食べられたり壊されたりするなら、この島から逃げればいいのに」

「まあ、美味いしな」

「食べちゃうんだ」

「ああ。美味いもんをたらふく食っているからな。美味いぞ」

「へえ」

「これも美味いぞ」


 少年は少女が指さす方へと顔を上げると、そこには真っ赤で小さくて丸い実がいっぱいなっていた。


「山桃だ。さっきおまえの額に当てたのは乾燥させた山桃の種だ」


 少女は一つ取って口の中に放り込んで食ってみろと言ったが、少年は激しく拒んだ。

 表面が苦手なウニのように、小さなぶつぶつがいっぱいあったからだ。


「美味いのに」

「いいよ」


 美味いのに。

 少女はもう一回言って、もう一つ二つと取って、一つずつ食べた。

 

 種は下に捨てていた。











(2022.7.13)




【第五話 夢心地】




 もう巨大猪はいないからさっさと下りろ。

 山桃を拒んだ後に続いた無言を破った少女の言う通りにした少年は、お邪魔しましたと深々と頭を下げて、用心深く杉を下りて行こう。

 としたのだが。


 今更ながらに気づいた家の屋根よりも上の高さと。

 途中に一本もない足を置く枝(休憩場所)と。

 かさかさして痛そうな杉の表皮に。


 少年が怖気づいていると、少女が下に連れて行ってやろうかと言った。

 怖がっている自分が恥ずかしくなったが、このままではずっと下りられないと危機感を抱いたので、お願いしますと深々と頭を下げると。


 いつの間にか、地面の上に立っていて。

 真横を見渡しても、少女はいなくて。

 でもどうしてか、見上げることはできなくて。

 巨大猪にまた遭遇する前に祖父母の家へと急いで帰った。


 ふかふか土の上を走っているようだった。











(2022.7.14)




【第六話 コーンパン】




涼典りょうすけ。帰ったのか。台所に来い」


 巨大猪に遭遇することなく無事に祖父母の家に辿り着き、がらがらと音が鳴る玄関の戸を開けてはすぐに閉めて、玄関で靴を脱いでいたら台所から祖父の声が聞こえた。

 少年、涼典が早足で台所へ向かえば、コンロの前で何かを焼いている祖父がいた。

 少しだけ香ばしいパンの匂いがするなと思っていたら、台所の流し台で手洗いうがいするようにと言われたので、その通りにしてから祖父を見上げた。


「じいちゃん。巨大猪に追いかけられた。すっごく怖かった」

「ああ。人間より猪が多いからなあ。ばったり会う回数は多いだろうし、危ないから外に行く時はじいちゃんかばあちゃんと一緒にでかけることにしよう」

「今日言ってほしかったな」

「ごめんごめん。言い忘れていた」

「すっごく怖かったし大変だった」

「ごめんごめん。ほら。焼きたてのコーンパンあげるから」

「コーンパン?」

「ホットケーキミックス粉にとうもろこしの粒を混ぜて焼いたパンだ。美味いぞ」


 ほれ。

 丸くて青い皿に乗せられたコーンパンはくすんだ白のパン生地に、ところどころに焼き目の茶色、とうもろこしの粒の黄色が見えていた。


「いただきます」

「めしあがれ」


 祖父は丸ごと一個口の中に入れて、涼典は半分食べた。

 パンはほんのり、とうもろこしはすっごく甘かった。










(2022.7.14)




【第七話 リュックサック】




 先程食べたコーンパンに加えて、そうめん、から揚げ、ミニトマト、ナスとゴーヤの味噌炒め、梅干しの夕飯を祖父母と一緒に食べ終えた涼典は今、用意された襖と畳の部屋で畳と布団の嗅いだことがない少し甘い匂いをかぎながら、布団の傍らで大の字になって巨大杉で出会った少女のことを思い出していた。


 祖父母に話すつもりはなかった。

 少女は巨大杉の精霊か、もしくはずっと昔に悲しい目にあって亡くなった幽霊で、子どもにしか見えないので、大人の祖父母に話しても信じてもらえないから。

 それともう一つ理由はあった。

 もっと話してみたい会いたいとわくわくする気持ちよりも、関わりたくないとびくびくする気持ちが大きくて、もう会う気がなかったからだ。

 

(だってぜったいに)


 めちゃくちゃ変なことに巻き込まれるから。


(今日は巨大猪に追いかけられてせいで出た火事場のばかぢからってやつで巨大杉に登れただけだし。うん。もう忘れよう)


「涼典。お風呂に入りなさい」

「はーい」


 涼典は祖母の声が聞こえたので起き上がり、リュックサックから下着とパジャマを取って部屋を後にした。








(2022.7.15)




【第八話 秘密の扉】





 あの少女のことは忘れようと決めた翌日。

 朝食に牛乳とブルーベリー入りのコーンフレーク、ミニトマトを食べ終えた涼典は、靴を履いて玄関でどこかへ連れて行ってくれるという祖父を待っていたのだが、家の中に戻って来てくれと言われたので靴を脱いで廊下を歩いた。

 台所も居間も自分が寝泊まりしている部屋も祖父母の部屋も通り過ぎて奥へ奥へと向かいながら、祖父の声を辿ると廊下の突き当り、曇り硝子と竹格子の扉の前で立っている祖父を発見した。

 

「じいちゃん。手伝い?何か運ぶの?」


 その扉の向こうは物置部屋だと考えた涼典がそう言えば、祖父はこれは秘密の扉なんだと言った。


「秘密の扉?」

「そう。とある素敵な場所に繋がる秘密の扉だ」

「………ほう」

「信じていないな、涼典」

「信じたいなーって子ども心と、信じられないっておとな心がせめぎ合ってる」

「難しい言葉を知っているなあ」


 すごいすごいと頭を撫でられた涼典はふふんと鼻の穴を大きくした。


「で、どこに通じてるの?」


 褒められていい気になった涼典は祖父の話を聞くことにした。


「んん。それは見てのお楽しみ。と言いたいところだが。涼典はもう見ちゃってるもんなあ」

「え?」

「まあ、そもそも見てないとこの秘密の扉は出現しないんだけどな」

「んん?」

「大丈夫、大丈夫。じいちゃんも一緒に行くから。柚樹ゆきにも持って行くって約束したし。ミニトマト」

「誰?」

「涼典がこれから毎日会いに行く女の子だ」

「え?」


 毎日会いに行かなくちゃいけないのか。

 せっかく自由な夏休みなのに勝手にスケジュールを決められるのは嫌だと言ったが、祖父にとりあえずもう一回会ってから決めてみてくれないかと言われたので、しぶしぶ了承して、扉の向こうへと入って行くと。

 段ボールが綺麗に置かれた物置場から景色は一変して。

 昨日必死で登った巨大杉の樹冠の枝の上、ラベンダー畑が広がるそこにいつの間にか立っていた。

 










(2022.7.16)




【第九話 ミニトマト】




 うげ。

 思わず言ってしまったのはしょうがない。

 だって、厄介なことになるから忘れようと決めていた少女とこんなにも早く再会してしまったのだから。


(でも、子どもだけじゃなくて大人にも見えてるなら、大丈夫なのかな)


 涼典は祖父が柚樹と呼ぶ少女に透明袋に入れた緑、黄、赤、紫のミニトマトを手渡す様子をじっと見ていたのだが、枝の上で立つ祖父に呼ばれたのでラベンダーが植えられていない枝にまたがったまま祖父に近づいた。

 こうして柚樹と祖父は立ったまま、祖父を間に涼典と柚樹は顔を見合わせた。


「ほら。この女の子が柚樹で、こっちの男の子が俺の孫で涼典。これから夏休み毎日会いに来る予定だ」

「………」

「………」

「おいおいなんだあ。恥ずかしがっているのかあ」


(違うよ、じいちゃん。すごく睨んでいるよ。黒いサングラスしているけどわかるよ。まるで猫が毛を逆立てているみたいに怒っているし嫌がっているよ)


 いい気分はしないが、これで決まりだ。

 あっちも嫌がっているし、自分も毎日会いに行くなんて嫌だし。

 予定はなし。

 彼女と会うのはこれっきりだ。

 帰ったら祖父に言おうと決めた涼典はしかし、柚樹によろしくと小さく言われたことで決意をあっけなく覆して、目を右往左往させながらよろしくと言ってしまったのだ。











(2022.7.17)




【第十話 金魚の提灯】





 よろしくと涼典が柚樹に言ってしまった翌朝。

 砂糖醤油のもち海苔巻きとチーズの海苔巻き、ミニトマトを朝食で食べ終えた涼典は今、一人で秘密の部屋を通って、巨大杉の樹冠の枝の上、ラベンダー畑の一歩手前でまたがったまま、見上げた先でラベンダーに水やりをする柚樹に赤金魚の提灯を渡そうとしていた。


「ここ、植物ばっかだから金魚でもいたらいいんじゃないかなーって思って。でも、ここで本物の金魚は育てられないだろうから、提灯を持って来たんだけど」

「別に植物だけでいいんだが」

「あ。そう、か。じゃあ、持って帰ろう、か、な」


 涼典は祖父に柚樹のことを尋ねなかった。

 ただ毎日柚樹に会ってお話して帰ってくればいいとの情報だけで十分だった。

 余計なことは知りたくない。

 けれど、毎日会うのだから、少しは仲良くなりたい。

 せっかくの夏休みなのだ。

 楽しい思い出をいっぱい作りたい。

 だからまずは、話題づくりも兼ねて夏を感じさせる金魚の提灯を持って来たのだが。


(金魚は嫌いだったのかな。それとも動物全部かな)


「ただ」

「ただ?」

「それは特別に吊るしてもいい」


 涼典が素早く太ももに下ろしていた金魚の提灯を差し出した。

 柚樹は少し慎重に受け取って、山桃が実っていた頭上の枝葉に金魚の提灯についていた紐を結んで吊るせば、ゆらゆらと金魚の提灯がかわいく揺れた。


「ありがとな」

「うん」

 










(2022.7.19)




【第十一話 瞬間移動】




 ゆらゆらゆらゆらと。


 涼典は柚樹と一緒に黙って、枝にぶら下がる金魚の提灯を見つめていた。


 ゆらゆらゆらゆらと。

 心地よく動くのはどうしてか。


 金魚の提灯が喜んでいるからか。

 冷たい風が喜んでいるからか。

 巨大杉が喜んでいるからか。

 柚樹が喜んでいるからか。

 涼典が喜んでいるからか。

 この世界が喜んでいるからか。


 新たな世界を。

 新たな住物を。

 新たな友達を。


(ああ、でも一匹だけじゃ寂しかったかな。明日は黒の金魚の提灯を持って来よう。大きさは同じくらいで。またじいちゃんに一緒に作ってって頼まない)


「と?」


 涼典は蝶の羽ばたきのように瞬きを多くして、首を傾げた。


 おかしい。

 おかしいな。

 ここは祖父母の家の自分が寝泊まりしている部屋だった。

 だって、自分のリュックサックがあるし。

 畳んだ布団も部屋の隅っこにあるし。

 畳だし、襖だし、格子状の天井だし。

 夢。

 さっきまでの出来事は夢?

 それとも、瞬間移動。

 え、え?

 家に帰って作らなきゃって思ったから?

 え、え、えー?


「おー。涼典。帰った「じいちゃん!じいちゃん!僕!僕ね!瞬間移動ができたんだよ!だってね!さっきまで巨大杉の上にいたのに、急にここに戻って来た」「ああ。そりゃあ、秘密の扉の力だ」


 襖を開けて入って来た祖父の元まで向かっている時も立ち止まってからも、何度も何度も飛び跳ねていた涼典はピタリと止まった。


「え?」

「自由に行けるけど、いつの間にか帰されてんだ」

「え?」

「まあ、そーゆーアトラクション?だと思って。な。楽しめ」


 祖父は昼食ができたから居間に行こうなと言うと、涼典が寝泊まりしている部屋から出て行った。


「え~~~~~」


 涼典は祖父がもう一度呼びに来るまで、肩を落とし眉を下げて部屋にい続けたのであった。









(2022.7.28)




【第十二話 ガーン】




 瞬間移動が使えなくてかなり気落ちした涼典は、昼食も少し残して部屋に戻ってふて寝をしたが、夕方になって目を覚ますとすっきりしたので、祖父に手伝ってもらいながら、赤の金魚の提灯と同じ大きさの黒の金魚の提灯を作り終えた。


 喜んでもらえるといいな。

 夕飯のカレーライスをおかわりした涼典はわくわくしてなかなか眠れなかった。




「いらない」


 ガーン。

 翌日。朝食の枝豆パンとブルーベリーゼリー、牛乳を急いで食べ終えた涼典は秘密の扉をくぐって巨大杉の樹冠の枝に立つや、即腰を下ろして跨ると柚樹に黒の金魚の提灯を見せて、あげると言った。ら。

 柚樹にそう言われて、涼典は開いた口がふさがらなかった。


 本当は。

 ほんのちょっぴり。

 いらないと言われるんじゃないかと思っていた。

 けれど、赤の金魚の提灯を受け取ってくれたから、もしかしたらと。

 もしかしたらの気持ちの方が大きくなっていって。

 だからよけいに、ガーンとなったのだ。


「あ、うん。そう。だよね。うん。ごめん。あの。赤の金魚一匹だけじゃ。さみしいかなって思って。黒の金魚も作ってきたけど。そうだよね。一匹だけの方がじゆうきままでいいよね。うん。よし。じゃあ、持って帰ろう」

「ああ、そうしろ」

「う、うん」


 もう今日は瞬間移動していいのに。

 涼典は本気で思ったけれど、叶わなかった。


「涼典」

「なに?」


 涼典が黙って黒の金魚の提灯を抱えたまま、上の枝に吊るされた赤の金魚の提灯を見つめていると、呼ばれて柚樹を見た。

 柚樹は赤の金魚の提灯を外そうとしていた。

 やっぱりもしかしたら赤の金魚の提灯も本当は嫌だったのか。

 涼典はさらにガーンとなった。


「もう作って持ってくるなよ」

「うん」


 赤の金魚の提灯を受け取った涼典は瞬間移動は期待しないでもう自分の足で帰ろうと、用事なんてないのにあると嘘をつこうとした時だった。

 柚樹が黒の金魚の提灯を渡せと言ってきたのだ。

 涼典は目が点になった。


「え?」

「二匹はうるさいから一匹ずつ交代で吊るす」

「え?」

「どうしても二匹にしたいならおまえの部屋に「う、ううん!いい!はい!」


 涼典は黒の金魚の提灯を柚樹に手渡そうとしたが、あとちょっとのところで動きを止めて渡すのを止めた。


「どうした?」

「あの。本当は金魚の提灯をここに置くの、いやじゃない?」

「いやだけど」

「じゃあやっぱり」

「いやだけど、いやじゃなくなったからいい。一匹だけなら」

「………本当に、いいの?」

「ああ」

「じゃあ、あの、黒の金魚の提灯」

「ああ」


 涼典から黒の金魚の提灯を受け取った柚樹は、赤の金魚の提灯が吊るされてあったところとは違う場所に吊るした。

 涼典はどうしてか喉が熱くなった。












(2022.8.9)




【第十三話 交換日記】




 交換日記みたいだなあ。


 祖父母の家で寝泊まりしている部屋にて。

 涼典は橙の豆電球で照らされている赤の金魚の提灯を見つめた。

 巨大杉にいる黒の金魚の提灯は、柚樹はどうしているかなと想像しながら、電球紐に吊るされて、クーラーの風で微かに揺れ動く様子を見ていると、自然と眠くなるし、自然とよみがえってくる。


 文字が書いているわけでもないし、音声が流されるわけでもないし、映像が映し出されるわけでもないのに。

 今日の、今日までの柚樹との思い出が鮮やかに頭の中にゆっくりと流れて行く。


 金魚の提灯を吊るしている枝には、ミニトマトを持って行った日以外は様々な野菜や果物、木の実が一日に一種類ずつ実った。

 山桃、きゅうり、ぶどう、すいか、ぶるーべりー、まくわうり、桃、とうもろこし、ねくたりん。

 皮が厚くて手でむけない、すいかとまくわうりを柚樹が手刀で切り分けてくれた時、とてもびっくりして、とてもかっこいいと、涼典は柚樹へ拍手喝采をした。


(あれ?食べてばっかりかも)


 ほとんどしゃべらないで、食べるか、金魚の提灯を眺めるか、ラベンダーに水をあげる柚樹を見ているかだ。

 木の枝の上だから、バドミントンや縄跳びなどの身体を大きく動かす遊びはできないし、かと言って、トランプやオセロなどの部屋遊びをしたいとも思えなかったので、できることは限られる。

 けれど、涼典は満足していた。

 あれやこれややることも、言われることもない、あの静かでのんびりした世界をすごく気に入っていたのだ。


(もしかしたら、すごく、望んでいたのかな)


 うつらうつらと、瞼がゆっくり上下する中、まさか太らせて食べる気じゃないかと、ふと思ったところで眠りに就いたのであった。











(2022.8.10)




【第十五話 秘密の話】




「おい、忠典ただのり。私はいつまであいつの面倒を見なければいけないんだ」


 むっすりとした表情の柚樹を見た涼典の祖父の忠典は、少し難しい顔で夏休みが終わるまでと言った。


「夏休みが終わるまでー?」

「そんなに嫌そうな顔をしないでくれー」

「だって、せっかく一人になれていたのに」

「いやー、ごめんな。でも、どうしても柚樹の力が必要だったんだ」


 忠典は眉を下げて両の手を合わせた。

 柚樹は腕を組んで鼻息を荒くした。


「まったく。面倒を起こしているくせに。何も知らないんだろう?」

「ああ。いいんだ。今は。夏休みを楽しんでほしいから」

「私も夏休みなのに」

「ごめんごめん。でも、涼典は柚樹の嫌がることはしてないだろ」

「そこそこな。でもやっぱり一人がいい」

「なるべく頑張るから。どうかお願いします」


 丁重に頭を下げられた柚樹は、丸い黒めがねをくいっと動かしてそっぽを向き、しょうがないなと言った。

 忠典は満面の笑みを浮かべて、ミニトマトをまた持ってくるからと言ったのであった。


「ミニトマトがなかったらゆるしてないんだからな」

「ああ、本当にありがとな」











(2022.8.11)




【第十五話 秘密の心】




 毎日会うのだから少しは仲良くなりたい。

 柚樹に金魚の提灯を受け取ってもらった、受け入れてもらったことで叶ったような気持ちになった涼典は、この居心地のいい空間でまったりと過ごすことに決めた。

 無理に話題を考えて話しかけたり、話題のきっかけになるように物を持って来たりするのを止めたのだ。

 だから、一言二言だけ言葉を交わして帰ることもよくよくあったが、まったく気にならなかった。

 柚樹との時間も自由だったのだ。

 とても。


(何ができた、何ができないで、比べっこしなくていいし)


 かけっこの競争は好きだ。

 けれど、クラスで、学年で、全部が全部に得点をつけて、順位をつけられるのはきゅうくつだった。

 とても。


(あーあ、このまま。なんて)


 夏休みがずっと続けばいい。

 思うだけ。

 願わない。

 だって学校に行きたいし、知らないことを知りたいし、友達に、先生に会いたいし、話したいし。


 本当だ。

 疲れることもあるし、時々行きたくないって思う時もあるけど、本当の気持ち。


(明日は。水風船を持って行こうかな)


 投げっこをしたら面白いんだけど、枝の上でするのは危ないし怖いから、手のひらでついて遊ぼう。


(本当は花火もしてみたいし、お祭りにも一緒に行ってみたいけど)


 会えるのは、巨大杉の樹冠の枝の上だけだから。


 言わないよ。絶対に。











(2022.8.15)




【第十六話 水風船花火】




「おまえ。色々作るのが好きなんだな」

「うん」


 笑顔でそう言って、涼典が手のひらで水風船を素早くつき始めると、水風船全体が少しずつ黒くなって黒一色に変わったかと思えば、様々な色の打ち上げ花火の模様が浮かび上がり始めた。


「花火ができないから代わりに。じいちゃんに手伝ってもらって」

「ふ~ん」


 柚樹は水風船を少しだけ見てラベンダーに顔を向け直した。

 興味がなかったか。

 涼典はけれど落ち込まずに水風船を見ながら、手のひらで素早くつき続けた。


(早く来ないかなあ)


 この島では花火大会は開催されないと知って少し残念だったけど、夏休みが終わる五日前にある島の小さなお祭りに祖父に連れて行ってもらえるので、とても楽しみにしていたのだ。


「おまえ」

「ん?」

「夏休みの最終日に帰るって?」

「うん」

「夏休みがずっと続けばいいって思うか?」

「思うし、思わない」

「そうか」

「うん」

「家にも帰りたいし、学校にも行きたいか?」

「うん」

「そうか」

「………もしかして、さ」


 涼典は水風船を手のひらでつく速度を遅めて、柚樹を見つめた。


「僕が帰ってさみしい?」

「いいや、早く帰ってほしいと思っている」

「うん。だよねえ」


 涼典はがっかりせずに、いや、少しだけがっかりして苦笑いを浮かべてから、ふと。首を傾げた。

 柚樹の全身にかけている、リレーに使う時の色とりどりの鉢巻きの数が減っているような気がして。

 ひゅんと。背筋が凍った。


(もしかして。でも。もしそうなら)


 僕は会えなくてさみしいよ。

 言おうとして、でも、どうしてか言えなかった。











(2022.8.27)




【第十七話 杉様】




 守りたいなあ。

 強く想ったのか、弱く願ったのか。

 わからない。

 ただ、守りたかったと思った。

 ラベンダーを。

 ずっとずっとずーっと守りたいと思い続けた。


 そうしたら、いつの間にか、いた。

 巨大杉の樹冠の枝の上に。

 とても高いところだった。

 けれど、少しも怖くなくて、立ったまま、ラベンダーを腐葉土の中に植えて水をあげた。少しくったりしていたラベンダーはたちまちしゃんと背筋を伸ばして元気になった。

 安心した。

 ここならもう危なくない。


「杉様が根負けした子かな」

「杉様?」


 いつの間にか立っていたおじいさんがこんにちわと言ったので、こんにちわと返した。


「杉様ってなんだ?」

「君が今まさに立っているこの巨大杉のことだよ」

「私はこの杉様を根負けさせられたから、ラベンダーが安心して暮らせるここに来られたのか?」

「ああ」

「そっか」

「ああ。けど、ここにいるためには色々決まりごとがあるんだ。守らないと、ここにいられなくなるだけじゃなくて、君自身にもよくないことが起こる」


 いいかい、よーく聞くんだよ。

 ラベンダーを守れるなら。

 ラベンダーと自分だけの静かな世界を守れなら。

 そう思って、おじいさんの言うことをよく聞いた。











(2022.8.29)


 


【第十八話 ときーどき】




(いい世界だったのに)


 おじいさん、もとい忠典や忠典のお嫁さんの星明あかりが時々ここにミニトマトを届けに来るくらいで、基本的にはラベンダーと自分だけのすてきな世界。

 だった。

 あいつが来るまでは。




 柚樹は涼典を見た。

 島の夏祭りで取ったというヨーヨーで一人おとなしく遊んでいる。

 笑顔で。

 よっぽど夏祭りが楽しかったのだろう。

 言葉にはしていないが、全身がはしゃいでいる。

  

(まあ、ほとんどはしゃべらないけど。時々作った物を持ってくるし、金魚の提灯は置いていくし)


 ラベンダーと自分の世界が一番なのは今も変わらないし、早く帰ってほしいとも思っている。

 けど。

 めちゃくちゃじゃまだとは思っていない。

 時々なら。ときーどきなら、別に。いても。

 でも多分、絶対。


(こいつは自分だけの想いで来たんじゃないって、忠典が言っていたから。解決したら、来なくなるな)


 夏休みがずっと続けばいいし、続かなくてもいいって。

 家にも帰りたいし、学校にも行きたいって。

 そう言っていたから。


(まあ。違う気持ちもあるから、ここに連れて来られたんだろうけど)


 柚樹は頭の上の枝につるされている赤の金魚の提灯を見つめてから、同じ枝に実っているいちじくをもぎって、涼典に食べるかと訊いた。

 涼典はねっちょりした食感と、皮で口の中がちくちくするから苦手だから食べないと言った。

 確かに少し嫌だな。と柚樹は思ったが、かぶりついた。

 甘くておいしかった。










(2022.8.29)


 


【第十九話 あさって】




 消えちゃうの。


 消えちゃいそうな声で言った涼典は目をまん丸にしたかと思えば、口を両の手で押さえていた。




 この夏休みだけにしか会わない人だった。

 いくらここが、柚樹と過ごす静かな時間が心地よくたって。

 つかず離れず、なんて言わない。

 離れたってだいじょうぶ。

 会えなくなったってだいじょうぶ。

 だけど、一生会えないのは嫌だ。

 きっと。絶対。見たくなる。

 柚樹の顔を見たくなる。

 ときーどき。

 そっけなくたっていいんだ。

 言葉を交わしたい。


 消えてほしくなんかない。


 言わないはずだった。

 秘密の気持ちだったはず。


 どうして言葉にしちゃったんだろう。


 あさって。家に帰っちゃうから?












(2022.8.30)


 


【第二十話 こころ】




 ここに来られるのは。

 たましいじゃないんだ。

 もし、たましいが身体から抜け出してしまったら、ゆうれいとなって、柚樹の身体は動けなくなるけど、今の柚樹の身体は元の世界できちんと動いているし、意思を持っているし、意識もはっきりしている。


 こころなんだ。

 こころの一部。

 こころもぜんぶ抜け出してしまったら、身体は動いていても、意思は持たないし、意識もはっきりしていないから。


 ここは杉様が創った世界。

 そして、俺、忠典とお嫁さんの星明がこの世界を守ったり、柚樹のように来る人に案内したりしている。

 まあ、来る人は時々だけどな。

 杉様を根負けさせられた人だけ。 

 

 一部だけだけど、こころがずっと身体から離れていたら、戻れなくなって、そのこころがなくなってしまう。

 柚樹にとっては、ラベンダーを守りたいっていうこころ。

 なくしたくないだろう。

 だから、ずっとここにいるわけにはいかない。

 夏休みや冬休みみたいに長い休みの午前と午後だけ。

 夕方から夜はきちんと帰ること。


 うん。そのラベンダーは本物。

 だから安心するといい。

 でももしラベンダーも一緒に帰りたくなったら、きちんと言うこと。

 杉様がきっと帰してくれるから。












(2022.8.31)




【第二十一話 風鈴の音】




 消えちゃうの。


 思いもがけず尋ねてしまった涼典は、柚樹から答えを聞く前に祖父母の家に戻されてしまっていた。

 しかも、その翌朝。

 涼典は祖父から今日は行かなくていいと言われてしまった。


 明日は夏休み最終日なのに。

 明日の午後には涼典はこの島を離れて家に帰るのに。


 家に。





 ちりんと、風鈴の音がした。

 ちりんと。

 かろやかで涼しい音。

 だったのに。

 どんどんどんどん。

 音が大きくなっていく。

 耳をふさぎたくなるくらいに。

 どんどんどんどん。


 聞こえる。


 家に帰らなくていいという声も。











(2022.8.31)




【第二十二話 夏の音色】




 家に帰らなくていい。

 そう言われて、そっかあと思った。

 思ってしまった。

 家に帰らなくていいんだ。

 この静かでまったりした世界にいていいんだ。

 じいちゃんとばあちゃんと柚樹と巨大杉と。おっかない巨大猪と。

 いついつまでも。


 いついつまでも?


 本当に?


 ずっとずっとずーっといたいの?


 はんぶん。

 かどうかは正直よくわからない。

 けど。

 多分。

 はんぶん。は。






 ねえ。

 ねえ、柚樹。

 僕は。






 カランと。

 音が鳴った。


 氷が溶ける音色だった。

 下駄で地を歩く音色だった。

 神社で鳴らす鈴の音色だった。

 金魚の提灯が時々鳴らす音色だった。

 ビー玉がラムネ瓶に当たる音色だった。






 ねえ、柚樹。

 僕は君がいないとさみしい。

 だから、消えないで。


 そう言ったら、柚樹に言われてしまった。


 消えそうなのは、おまえだと。












(2022.9.2)




【第二十三話 少し】




「いったのか?」

「うん。言ったし、行ったよ」

「ああ、よかった。これで元通り静かな生活だ」

「最後かもしれないんだから、会えばよかったのに。涼典。口には出さなかったけど、秘密の扉がなくなっていて、がっかりしていたと思う」

「なんで会わないといけないんだ?」

「少しは仲良くなったから?」

「仲良く、なったのか?」

「私たちにはそう見えたけど」

「ふ~ん」

「興味ない?」

「ああ」

「だから、涼典が呼ばれた時も呼び戻そうとしなかった?」

「怒ったか?手助けに行かなくて?」

「うーうん。忠典と私でどうにかできるって思ったんでしょう?」

「ああ」

「怒ってないよ。ただ、来てくれるかなーって思っただけ」

「………なあ」

「うん」

「あいつをここに連れて来たやつと、あいつをここにずっといさせようと呼んだやつって同じやつか?」

「うーん。私もよくわからない。正体不明。どっちもね」

「じゃあ。あいつはまた、知らない間に来るのか?」

「それはないと思う。ここが杉様が守るこころの世界だってわかったから。知らない間にはもう来ないと思う」

「じゃあ、知っている間には来るかもしれないのか?」

「うん」

「うげえ」

「もしかしたら、元の世界で会ったりして?」

「どうせわからないさ。私の顔、サングラスで見えなくしていたし」

「どうかしらね」

「やめてくれ」

「はいはい。また当分会えないんだから、そんな顔でまたねって言ってほしくないんだけどな」

「別に私はずっとここにいてもいいのに」

「少しは。でしょ。そして、少しは帰りたいって思っている」

「少しな」

「うん。少し。だから待っているから。冬休みに会いましょう。忠典はごめんね来れなくて。涼典をいっぱいいっぱい呼び続けて疲れて眠っているの」

「星明も疲れたんだろう」

「うん。でもやっぱりまたねは言いたかったから。待っているって言うのも」

「秋休みがあればいいのに」

「そうだよね。あれ?でもなかったっけ?」

「………ないと、思うけど。あったか?」

「あったらいいね」

「ああ。じゃあ、また。ありがとう。星明。忠典にも言っておいてくれ」

「うん」

「じゃあ、またな。ラベンダー」











(2022.9.2)




【第二十四話 かき氷】





「つかれたなあ」


 杉様が創り出した世界からこころの一部が身体に戻って。

 現実の祖父母が住む島から船に乗って電車に乗って自分の家に帰って。

 今。

 自分の部屋のベッドに仰向けになった涼典は呟いた。

 もう一度。

 疲れたなあと。


『すんごく遊びも夏休みの宿題も手伝いも張り切ってやっていたから、身体がすんごく疲れているぞ』


 静かにゆったりと過ごしたい。

 そのこころが身体から抜け出したので、なんでもかんでも張り切ってやっていたらしい。


「楽しかったけどさあ」


 ごろごろごろごろ。

 右へ左へ真ん中へ。

 身体を転がしてベッドの端でうつ伏せになって。

  

「消えないってわかったのはよかったけどさ。最後くらい会ってくれたっていいじゃないか」


 口をとがらせて、枕に顔を埋めていたが。

 かき氷を食べようよとの母親の誘いに顔を上げて。

 今行くと扉の向こうにいる母親に言ってベッドから下りて。

 机の上に置いてある黒の金魚の提灯を見てから部屋を出た。











(2022.9.4)




【第二十五話 ぶどう飴】




 かき氷を食べて、明日の学校の準備をして、夕飯の魚介類たっぷりのソース焼きそばを食べて、テレビを見て、お風呂に入って、歯磨きをして、自分の部屋に戻って、ベッドに横になった途端、一秒で眠りに就いて。

 涼典は夢を見た。


 杉様が作った世界。

 巨大杉の樹冠の枝の上。

 夢の中でも立てなくて跨ったまま。

 赤と黒。

 二つの金魚の提灯を見上げながら、食べていた。

 カリッとした甘い飴の中に果実が丸ごと一個入ったぶどう飴を。


 おいしいね。

 涼典がはしゃいで言えば。

 おいしいな。

 柚樹がそっけなく言う。

 もう会えないの。

 涼典がそっけなく言えば。

 会えないな。

 柚樹もそっけなく言う。


 そっか。

 そうだ。

 でも僕は時々会いたいな。

 私も。時々なら会ってもいいと思ったが。

 思ったけど?

 やっぱり一人がいい。杉様の世界には、時々忠典と星明が来るくらいで。私とラベンダーだけがいい。

 そっか。

 そうだ。

 そっかあ。

 そうだ。

 じゃあ、杉様の創った世界じゃないところなら?

 杉様の世界の私とだったから、おまえも気に入ったんだろう。

 わからないよ。

 わからなくない。絶対そうだ。私も。杉様の世界に来たこころの一部のおまえだから、時々ならいいと思ったんだ。こころがぜんぶ集まったおまえとは絶対会いたくない。

 そっか。

 そうだ。

 じゃあ。

 じゃあな。

 やっぱり一度会ってみようよ。一度会ってだめだったら諦める。

 いやだめんどうだ。

 うん、だね。やっぱり。杉様の世界で会いたいかな。

 そうか。

 うん。

 そうか。

 うん。

 とき、どき、なら、まあ。いや。おまえ。別の巨大杉を探せ。そして。声をかけろ。それで、本当に時々なら。来てもいい。

 別の巨大杉。

 そうだ。

 時々なら行ってもいいの。

 本当に時々ならな。

 そっか。

 ああ。

 そっかそっか。うん。じゃあ。またね。柚樹。

 ああ。

 またね、柚樹。

 またな、涼典。
















 ふえていく。

 ふえていった。


 杉様の世界に住むものが。


 守り人の忠典と星明が来た。

 ラベンダーが来た。

 黒と赤の金魚の提灯が来た。

 そして。

 柚樹が定期的に訪れた。

 涼典と杉様を根負けさせられた子どもが時々訪れた。













(2022.9.4)







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