インターホン
社会人3年目の春。朝は7時05分に目覚めて仕事へ行く準備をする。今日もいつもと変わらない朝だと思っていた。
「あ。ちょっと焦げてる…」
トーストの黒い部分を削ぎ落として一口頬張ったところでインターホンが鳴った。トーストを置いてモニターへ近づく。黒い帽子を深く被っていて顔は見えない。男…いや女にも見える。
「え、だれ…こわいんだけど…」
独り言が部屋に響く。しばらく様子を見ていたがモニターがプツンときれた。まぁいいかとまた机に着こうとした時、またインターホンがなる。
「えぇー、もうなに…こわいってば」
今度は出ることにしてみた。音声ボタンをカチッと押す。
「…はい…」
恐る恐る声を張る。さっきまで俯いていた帽子の男は顔をあげた。黒い帽子からわずかに透き通る金色の髪に、青い瞳がハッキリと見える。日本人?ではないのかと思っているうちに男は日本語で話し出す。
「僕のいうことを聞いてください。とにかく信じて、落ち着いてきい…」プツン…
何を言い出すのか怖かった私はインターホンをつい切ってしまった。
「え…いやいやいやいや、こわ。え、こわ」
宗教か?いきなり朝から来て僕の話をきけ?信じろ?むりでしょ。誰だって無理よ。仕事の準備をはじめよう、まだ出社まで時間がある。あの男も出る頃にはいなくなっているだろう。