女騎士団との出会い
「タクトさん、22歳ね。今は何をされているのですか?」
「今は無職になりました」
「以前のお仕事は?」
「アルティア王国軍の勇者として最前線で戦ってました」
「ふふふ、ご冗談を。冗談はともかく、何されていたのですか?」
SSSランクの証明書を出そうと思ったがない。荷物をまとめる暇もなく追放されてしまったからだ。
「…冒険者として活動していました」
「そうだったんですね。証明できるものはありますか?」
「途中で落としてしまって」
「…わかりました。受けたいクエストのランクはありますか?」
「高ければ高いほどいいです」
受付のお姉さんは何かを考えた後、呆れたように首を振った。
「ダメですよ。そう言って命を落とす方が最近絶えないんです。冒険者カードのない人ほどクエストを甘くみる傾向があるんですよ。以前に活動されていたギルドではどれくらいのランクのクエストを受けていましたか?」
「SSSランクです」
「またまた…」
「本当ですって」
「それならその鉄仮面を取って、お姉さんの目をしっかり見て言ってください」
「いいえ、これは取れません」
「申し訳ありませんが、お顔を見せていただけないと仕事を紹介することはできません」
「鉄仮面の中からならしっかり見て言えます」
「はぁ…もう、しょうがないですね。ならFランククエストならご紹介します。楽にこなせるようになったら少しずつランクアップをしていきましょう。もう、特別ですよ?」
諦めたように彼女はFランクの書類を漁っていく。思わず心の声が漏れてしまう。
「楽すぎて話にならんな」
「ちょ、なんですって?Fランクバカにしたら足元救われますよ!私はこれでも一人では危険だと思っているんです!仲間を連れて行かないとクエストを受けることは許しません」
「いや、Fランクですし流石に大げさというか…」
「ダメです〜、お姉さんのいうことを聞きなさい!まずは仲間を連れてきてください、そうしたらいいクエストを紹介しますから」
「仲間か…」
基本ソロプレイでやっているタクトだったが、人と打ち解けるのが苦手なゆえであった。仲間を探すのは冒険したての頃以来だった。
「仲間って言ってもここ見ず知らずの人たちばかりで…誰に声かけたらいいんでしょう…」
「でしたらこちらで募集かけてる方を選んでおきましょうか?」
「ええ、では頼みます。しかし今日食べるもののお金すらないので今日中に紹介してもらえますか?」
「なんか大変な状況ですね。わかりました、今ある中からできる限り募集を探してみます」
タクトはギルド内の丸椅子に腰掛けて生き抜くための手段を考えていた。なんだかんだ心配してくれるいい人だと思う反面、彼女からはFランクの仕事しか紹介してもらえないことで仕事が限られてきて仲間も案件も今日中に見つからないんじゃないかという不安もあった。ここの街を出てうまそうなモンスターでも捕まえて調理したいが道具すらない。どうしたものかと考えているうちにお姉さんが資料を持ってこっちへきた。
「タクトさん、申し訳ないのですがFランクの仲間の募集は今のところ見つかっていません。しかしランク指定がないものならいくつか」
「ほ、ほんとですか!?飯が食えるならなんでもやります!」
「う〜ん、ご期待に添えるかわかりませんが…」
お姉さんが横に座るとフワッと香水のような甘い香りがしてタクトはドギマギしてしまう。ソーシャルディスタンスを気にしたかったが離れては資料が見えない。
「まずは1つ目。”ガチムチゲイセフレ募集!~オスからメスへ落ちる快楽~ ゲイじゃなくても歓ゲイします”」
「あの、これギルドで募集してるんですよね?」
「はい、そうですよ。この依頼主はたいそうなお金持ちなのですが、ゲイなんです。そしてガチムチ好きなんです。報酬は支払われますから愛人契約と言うことになりますね。ギルドにはガチムチがたくさんいますがなかなか受ける人が見つからなくて…でもここに記載の通り報酬は結構もらえますよ!」
タクトはため息をつく。ストレートである彼はおっさんに掘られるのは抵抗があった。それくらいなら晩飯がモンスターの生肉であることを覚悟しようと思った。
「却下で。そもそもガチムチじゃないです」
「そうですか。2つ目。”物資運搬作業員 ~あなたの腕力を必要としています~”」
「できるかできないかで言えば出来そうですね」
「でもまあみんな時間が空いた時にアルバイト感覚でやる案件ですからね。報酬は期待しないほうがいいですよ」
「そうですか…」
「では3つ目。最後です。”メイド募集!エリート女騎士団<アマゾネス>のメイドをやってみませんか?かわいい子募集!”」
「これは男の俺でもできるんですか?」
「う〜ん、微妙ですね…でも性別については何も書かれてないですし…」
「なんか思ってたのと違いますね。冒険系でパーティ募集しているところとかないんですか?」
「う〜ん、Fランクでは今のところないですね」
ーーグゥ〜〜
「腹減った…」
タクトは空腹だったが今日は飯抜きを覚悟した。運搬作業でも今日いきなり働くってのは無理そうだし、他の二つはあまりにも彼の想像からかけ離れていた。
「あの、もしよかったら…」
ーーガチャ
お姉さんが何か言いかけたところでドアが開き、女騎士団3人組が入ってくる。女騎士の1人がギルド内に響き渡る声でお姉さんを呼ぶ。
「オース!ただいま戻った。お姉ちゃん、クエスト完了の手続きしてくれよ」
「あ、はい、少々お待ちを。ちょっとだけ待っててね」
「コラ、言葉遣いが悪いですよ。すみませんね、お邪魔してしまって」
「いえ、急ぎじゃないので大丈夫です」
受付のお姉さんは女騎士団のリーダーらしき人と何やら話している。
「メイド募集の件ですが人は集まりましたか?」
「あ、その件でお聞きしたいことがあるのですが、性別はどちらでも良いのですか?」
「普通は女でしょう?男で応募があったのですか?」
「ええ、もし良ければそこの彼をと思ったのですが」
お姉さんはそう言い、こっちを指差す。3人組は一瞬誰かわからないようで固まっていた。
「えっと、あなたが指さしてるのはあの鉄仮面でちょっと細身の彼?」
「ええ、そうです」
ハッハッハという笑い声と共に声の大きい女騎士がこちらへ来る。
「なんだよ、お前メイドになりたいのか?いかつい鉄仮面してるくせに〜。ちょっと鉄仮面とってみろよ」
「あ、ちょっと…」
ーースポッ
不意打ちで鉄仮面を取られてしまう。その瞬間、時間が止まった気がした。ああ、終わった。あんなに頑なに隠してきたものがこんな一瞬で終わってしまうなんて...。
「プッ、あはははは!なんだよ、随分かわいい顔してるじゃねえか」
「なんとも言えないマスコットキャラのような感じですね」
「で、どうして彼はメイドになろうと思ったのかしら?」
「彼は非常にお金に困っているそうで今日食べるものもないそうです」
女騎士団リーダーは哀れみの目でこちらを見る。しかし他の2人は違った。
「なんだ、金がないのか。じゃあ私が奢ってやるよ!」
「ですね、困ってる人がいたら助けるのは当たり前です!」
「あ、あなたたち正気なの?こんな汚らしいオスに…」
「オスメスは関係ありませんよ。放っておくわけにはいきません」
「そうだな。一緒に晩飯連れて行ってやろうぜ!ほら、行こうぜ」
2人の女騎士に連れられてギルドを出ようとするが呼び止められる。
「待ちなさい、私らの国は女しか入れない国よ。男を入れてしまったらどうなるかわかってるんでしょうね?」
「ええ、そうですね。でも女王様の許可が下りればその男性も国に入れるはずですよ。女王様の城の中には大量の男性執事がいると聞きましたわ。きっと使用人なら許してくださると思いますわ」
「しかしそこまでする必要はないんじゃないかしら?他の女性メイドが応募するまで待てばいいだけのことでしょう」
「まあ、メイドにするかどうかはともかく、飯だけは一緒に食おうぜ。その後でゆっくり決めればいいだろ?」
「そうですね、私も賛成です」
「…仕方ないわね。そうしましょうか。じゃ、行くわよ」
「は、はい!」
「ちょっとあなた、私にあまり近づかないでくれる?」
「す、すみません」
「ルシ姉は相変わらず男に厳しいねぇ」
タクトは女騎士団と一緒に夕食を食べに出かけた。