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#19 もしかしてそちらもクロスオーバーですか?



 決着がついても、けれどアウスは余興をたのしむような風情で片眉を動かしただけだった。それから「おう、終わったか」と神殿の入り口へ向かって片手を挙げる。まるで己の領分を果たしことを相手にアピールするかのように。

(そうか)

 単身に神殿から出てきた金髪の青年を見、わたしは思い至る。こんなわずかな時間で聖都を火の海にしてしまうのだ。当然ルウイがいるはずだった。

 では、彼は今まで何をしていたのか。


「どうだった」

「一足遅かったようだ、もぬけの殻だった。さすが予言者、とでも言えばいいのか」


 アウスが短く問うのへ、ルウイがけだるげに返す。自分に似合うものを貴公子らしく着こなしている細身のルウイと、いかにも面倒くさいと言わんばかりに着崩した大柄なアウスは、ともすると貴族とそれに雇われた傭兵のようだった。傭兵にしては着ているものがよすぎるけど。

 やれやれといった態でアウスがジャンくんに飛ばされた剣を拾った。今気づきましたというようにルウイの眼がわたしへ移り、さらにわたしを守るように立つジャンくん、アレクくんへと動く。

 ルウイが例の手順で前髪を払った。


「やはりきみも『聖暁の乙女』なんだな」


 瞬間、どっと汗が全身からふき出すのを、わたしは感じた。

 今言うーーーーーーー!? その禁止ワードを、よりにもよって、今言うーーーー!?

 それを回避しようとして死んだわたしの前で、よりにもよっておまえが言うーーーーーー?


「待て」


 ジャンくんがアウスたちの前に立ちふさがった。彼らは目的を終え、場を去ろうとしていた。

「なぜこの地を焼いた。いったい貴様らのどんな目的で、オレの同僚たちは、…ひとびとは! こんな理不尽に命を奪われなければならなかった!」

 ルウイは黙って火を起こしただけだった。アウスがそこに風を加えたことで、やがて炎をともなった爆風が膨らむ。なおもジャンくんが動かないので、わたしとアレクくんはあわててジャンくんを回収した。ジャンくんは泣いていた。


 次にわたしが目を開けたとき、そこに化身たちの姿はなく、わたしたちは街の消火活動に加わった。すべての火を消し終え、神殿内に安置されたヴェルニさまのなきがらに対面したときには、白くきよらかな朝日が静かに空を照らしていた。




       *




「おそらくですが、彼らの探していたものは、これだと思います」

 そう言ってジャンくんが見せてくれたのは乳白色の玉だった。真珠よりも白メノウに似ている。大きさは気持ち小粒のスモモほどだろうか。じっとのぞきこんでみると、まるでそれ自体が意思を持っているかのようにじわりと光を孕む。


宝玉(ほうぎょく)、と父は呼んでいました」

「宝玉?」


 反応したのはアレクくんだった。

「覚えてるかな、ジアンナさん。五大聖人はパンディオの魂を受け継いでいるっていう話。聖人はパンディオの魂を手に持って生まれると言われているんだよ」

「それが、宝玉?」

 わたしはジャンくんを見る。ジャンくんがうなずいた。


「肌身離すことなく常に持っていたように思います。人に見せることもあまりありませんでした。おしゃぶりのようなものだからと父は冗談めかして言っていましたが」

 それを、ヴェルニさまはジャンくんにあずけたのだという。まるで今日のことを知っていたかのように。


(知っていたのだとしたら、どうして)


 とは、きかなかった。そんなの、ジャンくんが今一番ヴェルニさまに聞きたいはずだ。だって事前にわかっていたら、五番聖都はこんなふうにはならなかったかもしれないのだから。

 だけど、それはそれで疑問がわく。なぜルウイたちは『第五聖人ヴェルニ』を知っていたのかということだ。だって()()()()()()()『聖()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それをいったらルウイがイドの町に現れたことだってそうだけど、いったい彼らはどうやって第五番聖都と、第五聖人の存在を知ったのだろう。

 まして、聖人が宝玉を持っていることなんて。


(いったい何の目的でヴェルニさまの宝玉を?)

 イドの町では執拗にわたしを殺そうと襲ってきたルウイがわたしに関心を示さなかったのも異様だ。なぜ興味を失ったのか。


(『別の目的ができたから』――?)


 小さく断ってから、ジャンくんがわたしの手をとる。載せられたのは宝玉だ。いったいどういう意図かとわたしはいぶかしむけれど、対して答えたのは宝玉だった。「現在の好感度」なるグラフを空間上に見、わたしは心の中でそれぞれの数値を読み上げる。

(えーと、アレクくんが30で、ジャンくんが20……?)

 名前のタブを切り替えると『抜刀』をスタートとした複雑な回路図のような画面があらわれた。そこから『正眼』、覚えたばかりの『真っ向』が連なっている。回路図によると『抜刀』には派生があるらしく、未収得だからだろう、シールされていた。


 よく見なくてもRPGゲームでよく見るキャラ育成のアレだった。アレクくんの方の原作がわからないので、ここでは仮に「スキルレジストリ」と呼んでおきたい。

 ちなみにジャンくんの方は、タブはあってもレジストリを開くことはできなかった。そういえばNPCって能力値や装備自体の閲覧はできてもいじることはできなかったなとわたしは思いだす。


(でも、タブには登録されてるんだし、ジャンくんってもしかして)


 そこまで考えたところで、わたしはアレクくんに呼ばれた。ジャンくんもアレクくんも、心配そうにわたしに注目している。選択肢もそうだけども二人にはスキルレジストリが見えていないようだ。つまり傍目には、宝玉と熱く見つめあっちゃってる変な人だったわけである。

 のみならず、あるはずのそこに宝玉がなくなっていたので、わたしは思いきり動揺してしまった。えっえっもしかして落とした?


「吸いこまれて、しまって」


 青ざめたわたしにジャンくんが言った。アレクくんも信じられないものを見たような顔をしている。

「わかった、吸いこまれたんだね!」

 うなずいて、わたしは勢いよく上着を脱ぎ放った。煤と焦げたのとで真っ黒になってしまっている。それからベルトを解き、そーれもう一丁と脱ぎだしたところで、だけどアレクくんに止められた。


「何やってんの!?」

「だって、吸いこまれたんでしょ」


 あとから思えばありえない勘違いだったわけだけども、このときは本当に動揺していたのだ。単純に服の中に入ってしまったのだと思ってた。だったら脱げば出てくるよね的な。

 だってジャンくんからしたら宝玉はヴェルニさまの形見なわけでしょ。返さなきゃって思うじゃんね? 思うよね!?


「誤解を招く言い方をしてしまい、本当に、その、申し訳ありません……」


 ジャンくんがほとんど土下座みたいな感じで言った。アレクくんに正しく説明してもらい正しく事象を理解したわたしもまた、その場に崩れ落ちるようにして謝罪をする。いっそ穴に埋めてください。

 その後ジャンくんが聖堂の人に呼ばれ、わたしたちもこのまま聖堂で休むことにした。滞在してた宿屋は焼けてしまったし、ついでに荷物もなくなったので無一文だ。


「悲しんでるひまも、ないね」


 誰にともなくわたしはつぶやく。

 神殿と生活区が開放され、命からがら逃れてきたひとたち、家を失ったひとたちがめいめい疲れたようにうずくまっていた。抱き合って互いの無事を喜ぶ人もあれば、うつむいて我が子をあやす人もいる。ジャンくんが気を遣ってわたしたちに自室を空けてくれようとしたけれど断った。その部屋では今、火事で両親を失った子供たちが身を寄せ合って眠っているはずだ。

 さいわいジャンくんのお母さんが営んでいる孤児院は無事だったとのことだけども、ジャンくんの立場では表立って喜ぶことはできないに違いない。膝をかかえ、これからのことをわたしは考える。


(ふりだしに戻ったな)


 それをたずねるためにわたしたちは五番聖都を訪れたはずだった。ところでアレクくんが当たり前に使ってるから知らなかったのだけども、彼の治癒魔法は上位呪文と呼ばれるたいへん稀少なもので、心臓さえ動いてれば致命傷に近い深手であっても完璧に癒してしまう。これがどれくらいすごいかというと、治癒魔法というのは一般的に、どんなに魔力量、才能があっても中級程度までしか習得できないのだそうだ。なぜかというと単純に天性の区分になるからだ。そのため、五大聖人の特権として扱われている。


 勇者だからだよってアレクくんは自嘲してたけど、それは彼のおこなう奇跡によって命を救われたひとたちが評価することだ。そのアレクくんは疲れ果てて、横になった瞬間に眠ってしまった。きっと耳元でさわいでも体力が回復するまで目を覚まさないだろう。

 あんまり静かにアレクくんが寝てるので、わたしはふと彼が生きているのか心配になる。呼吸をたしかめるかたわら、アレクくんの寝顔をはじめて見たことに気づいた。


「おつかれさま」


 目を閉じると大人びて見えるんだね。掛け布かわりのマントの位置を直して、わたしも目を閉じる。

 自分で思うより疲れていたようで、夢も見ずにわたしは眠った。





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