#0 主人公とわたし(悪役令嬢)
「ジアンナ・ゲイル」
名前を呼ばれて、一歩前に進み出る。
隣に立っているのは花村祥子。制服らしい赤いチェック柄のリボンとスカートに灰色のジャケットといういでたちの彼女は「ジアンナ」と同じ”聖暁の乙女”の一人で、異世界から召喚されてきた女子高校生だ。わたしにとって親しみのある黒髪黒目はこちらの世界では神秘的なものに映るようで、彼女に集まる視線は美しいものに対する賛辞だったり、神秘に対するおそれだったりさまざまだった。
お肌もちもちの小顔にぱっちり開いた黒目がちの大きな目。長くゆたかなまつげは、自前だとしたらうらやましい話だ。猫っ毛らしい髪をスカートと同じ柄のシュシュでひとつに結んでいる。
端的に言えば花村祥子は美少女だった。目立つわけじゃないけど目をひかれる。学校でもきっとひっそりと彼女を想う男子生徒は多かったんじゃなかろうか。大人しそうで清楚な感じだからこそ、うかつに近づけないというか。
「これより、そなたたちを聖暁の乙女として認める」
司祭のおじいちゃんが言った。曰く、わたしたちの役目は”聖なる獣”の化身である6人の青年たちと力をあわせ、世界をおおいつくす闇を封じることなのだそうだ。
いうて聖暁の乙女なんて聞こえはいいけど要するに体のいい生贄で、死ぬのは悪役令嬢のわたしだけなんですけどね! しかも主人公の身代わりに、聖なる獣たちにだましうちされるようにしてだよ! 笑っちゃうよね! なにが聖なる獣だ馬鹿野郎。
「よろしくね、ジアンナさん」
何も知らない花村祥子が名前の通り花のような笑みを向けてくる。
わたしは「(率直に)地獄へ落ちろ」と言いたいのをこらえ、ひきつった笑顔を返したのだった。