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作者: はの

 図書館からの帰りに、猫を見かけた。

 動物を見るのは好きだ。特に猫と烏。犬も好きだけれど、野良犬というのはあまり見かけない。その点、猫と烏はどこにでもいる。

 烏が怖い、不吉、とか言って嫌う人も多いけれど、私は好きだ。賢いし、見ていて面白い。

 私はその時ガードレールの外側にいて、しかも時間は夜だった。だから、鳴き声が聞こえなければその猫には気付かなかったかもしれない。

 猫は、ガードレールの内側の、柵の中の、台座の上にいた。柵は、図書館の自転車置き場の隣にある、草や木がボーボーに生えている、なんだかよく分からない場所を囲っていた。

 そいつは三毛猫で、やや低めの声でにゃあ、と鳴いた。

 私がそちらを向くと、また、にゃあ、と鳴く。

 おなかがすいているのだろうか。

「ごめん、私、なにも持ってない……」

 つい、そう呟いてしまう。

 少し近づくと、毛を逆立てて全身で威嚇された。

 違ったようだ。

 さっき、私が図書館から出てくるときにすれ違った、若い女の人が通り過ぎていく。私が図書館から出たのは閉館時刻を少し過ぎたあたりだったので、あの人も随分と急いでいる様子だった。私が図書館を出てから少ししか経っていない。すごい速さだ。

 にゃあ、と、今度は高い声が聞こえた。

 にゃあ、とやや低い声が鳴き、にゃあ、と高い声が応える。

 高い鳴き声がした方を見ると、薄い茶色のような、橙色のような、きつね色をした猫がいた。いわゆる、茶トラと言われる猫だ。

 私は音を立てないように慎重に、ガードレールを越える。もっと近くで猫たちを見たかった。

 茶トラは、自転車置き場を囲っている塀の上を三毛の方に向かって歩きだした。

 この二匹は仲間なのだろうか。最初は、親子かと思った。でも体の大きさがあまり変わらないから、夫婦なのかとも思った。

 二匹とも、にゃあ、としか言っていないのに、私には、三毛が茶トラのことを呼んでいるように見えた。こっちだよ、と。

 茶トラが自転車置き場から三毛のほうへ行くと、三毛は台座から飛び降りた。

 茶トラが三毛の乗っていた台座に乗り、三毛は隣の台座に跳び乗る。

今度は茶トラがいったん台座から降り、奥の台座に乗る。それを見ていた三毛は、茶トラよりも先に奥の台座へ跳び移った。

 三毛が私の方を見て、こちらに向かってくる。

 柵の間を通り抜け、ガードレールの下をくぐると、私の背後に消えた。茶トラは動かない。

 茶トラを見ていた私は、三毛の方を見ようと振り返る。

 すると、三毛もこちらを振り返った。私を待っているように思えた。

 私が動かないでいると、三毛は少し進んで振り返った。また少し進んで、振り返る。

 これはあれだろうか。小説とかでよくある、『猫が案内してくれる』、という、あれなのだろうか。

 慌てて三毛を追いかける。なんとなく茶トラの方を見ると、ボーボーに茂った草で茶トラが見えなくなっていた。

 それで分かった。三毛は、茶トラから私を、人間を、離すつもりなのだ。

 少し残念に思いながら、三毛の後ろを歩く。

 せっかく二匹も見つけたのに、どちらか一方しか見られないのはなんだか惜しい気がする。

 今日はもう帰ろう。冬の夜、上着を着ていても寒いものは寒い。

 そう思い、自転車置き場と道路を挟んだ向かいにある駐車場で止まった三毛の横を通り過ぎる。

「ばいばい」

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