囚われの金髪
洞窟の中は、想像していた通りに広かった。入り口は目立たないように小さかったから、初見の印象どおり、天然の洞窟を掘って広げたのだろう。
ほとんど岩と呼んでも差し支えないほど固い洞窟を掘るのは、おそらくひどく骨の折れる作業だったはずだ。その分の労力を、真っ当に働く方向に使えば、いくらかの金にはなるのに。まったく理解に苦しむ。
それはさておき、洞窟の奥に進むと、牢屋が並んでいた。とはいえそのほとんどは空で、財宝を貯める物置と化していた。
ほとんど、と言ったのは嘘ではない。たったひとつだけ、中に人がいる牢がある。その人はなにやら白い布でぐるぐる巻きにされ、地面に横たわっていた。頭と思しきあたりから、長い金の髪がはみ出している。
スヴェンは「まさか……」とつぶやきながら、その人に近づく。その白い布には……大量の赤い染みが付着していた。
スヴェンは近くに掛けられていた鉄の鍵を取ると、牢を開けた。錆び付いた牢の割にはスムーズに鍵が開く。頻繁に使用されている証拠だろう。
自然と、手が震えた。伸ばしかけた右手を一度引っ込め、左手をかぶせて握りなおす。ほとんど無理矢理に震えを押さえつけて、ひとつ、ふたつと深呼吸をする。最悪の可能性を想定し、感情という感情を脳から追い出した。
驚くほど冷たく無感情になった瞳を倒れた金髪に向けて、その顔を覗いた。
「……!」
冷静になったはずのスヴェンの手が再び震えた。そしてそれを抱えると、洞窟の外へと向かった。
洞窟の外に出ると、盗賊の頭がスヴェンを見て「ひっ」と叫んだ。
「隊長、それ……」
クリスが金髪を示して言う。
「これが、王子だとよ」
スヴェンはぎろりと盗賊を睨みつけると、金髪の簀巻きを思い切りぶん投げた。
「てめえ盗賊このやろう! ふざけんのも大概にしろよ!」
金髪のぬいぐるみは、顔の部分にへのへのもへじが描かれていた。そして、スヴェンへのメッセージがひとつ。
『偽物でした♡ 心配した? 心配した?』
(誰もてめえの心配なんかしねえよ! 心配したのは俺の首だよ馬鹿野郎!)
スヴェンは内心で思い切り罵倒したが、王子に届いた気はかけらもしなかった。
「言ったよな? 俺言ったよな? 素直に喋れば命だけは助けてやるって。いらないんだよな? 命いらないから、こんなふざけたことに協力したんだよな?」
「ちょっと待ってください助けてくださいほんと反省してますからあっ!」
涙を流して叫ぶ盗賊を無視して、スヴェンはクリスに話しかける。
「ちょっと俺、耳おかしくなったらしい。こいつ今、なんて言った?」
「ちなみに隊長にはなんて聞こえたんですか?」
「どうぞ好きなだけストレス発散してくださいって」
「……まあ、そのくらいならいいんじゃないですか? あ、でも殺さないでくださいよ。事後処理が面倒なので」
「じゃあ九割で」
「うーん……。ま、俺らが立ち去った時に、息さえしていれば良いですもんね。じゃあ、手早くお願いします」
せっかくまとまりかけた相談に、異を唱えたのは盗賊だ。
「お願いすんな助けろよ! あんたら軍の、法律守る側の人間だろ!」
「守る側っておかしいだろうが! 法律破る側の人間なんか、本来存在しねえんだよ!」
「あんたがその一人だろうが!」
「ああ、たしかに。令状ないから、これ傷害罪だわ。
……悪ぃ、いたな。破る側の人間」
「開き直るなあああああああっ!」
盗賊が絶叫する。そもそも、日頃から法律なんぞ一切守っていないくせに、都合のいい時だけ法律なんかを持ち出すとは、おこがましいにもほどがある。
「だいたい、法律が弱者を守るとか思っているのか? 脳内お花畑かよ。いいか、法律が守ってくれるのは、主に権力者の都合だ」
「真顔でそういうこと言うの、やめてくださいよ。あんた仮にもうちの隊長でしょうが。
正義の心で悪を倒すくらいのこと言ってくださいよ」
「サボリ魔の税金泥棒に言われる筋合いもねえな」
「とにかく、隊長も言ってましたけど、今は令状もないんですから。面倒ごと増やすのやめましょうよ」
「ちっ」
スヴェンは露骨に舌打ちをして、盗賊に向き直った。
「運がいいな、小悪党。
まあいい、とにかく、俺たちの探している男について、なんでもいいから話せ」
「も、もう全部話した!」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら盗賊が叫んだ。唾が飛んできたのか、すごく嫌そうな顔をしてクリスが数歩移動した。
「あの子連れの男が、金を握らせて言ったんだよ! この人形を牢に放り込んでおいて欲しいって! それだけだ!」
「おい、待て。
今、子連れって言ったか?」
「あ、ああ。そうだよ。
フードかぶってて顔はよくわからなかったが、まだ小さい女のガキをずっと抱えてたよ」
盗賊の証言を聞いて、スヴェンとクリスは二人して顔を見合わせた。
名前:スヴェン
良い点
だから、ねぇっつってんだろ。
気になる点
王子の性格が直っていません。至急対応をお願いします。
一言
だいたい何話で終わるか、作者なら分かっていたはずでしょう。登場人物の数も分かっているのですから、同じ人間が二度も後書きに駆り出されるような事態は避けられたはずです。
それを怠ったというのは、作者の計画性のなさが原因と言わざるを得ません。
社会人にとって計画を立てて物事に向き合うのは、常識です。作者には是非とも常識を身につけていただきたく思います。