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vs雑魚戦

 顔中に疑問符を貼り付け、スヴェンの動向を見ている男たち。スヴェンはそのまま、そのうちの一人の目の前までやってきて、にこりと微笑んだ。


 瞬間、男の顔がなぜか恐怖に歪んだ。男の口が動く。しかしその口から怒号が飛ぶよりも先に、スヴェンの右フックが男のこめかみを抉っていた。


「うげっ」


 小さく呻いた男の腹に、スヴェンの左拳が潜り込む。今度は呻き声さえ出すことができずに、三人組の一人が沈んだ。


「て、てめえっ!」

「なんだよ?」


 文句を言いかけていた男に視線を送り、これ見よがしに剣に手をかけた。すると、根性のない男はそれだけで黙り込んでしまった。「ひっ」と絞り出すような悲鳴が男たちの口から漏れた。


「おい、ゲイル。だめだ、ここは逃げるぞ」

「で、でも、サンドラはどうするんだよ!?」

「置いてけ! 見ろよ、あの男の凶悪な顔! 虫けらみたいに殺されて、臓器も血液も全部売り飛ばされるぞ!」


 俺はどこの猟奇殺人鬼だ。


 鏡を見ずとも、額に青筋が立ったのが分かった。

 スヴェンの怒りを知ってか知らずか、男たちは大きく頷くと、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「逃がすかよ!」


 スヴェンは剣を抜いて右肩に担ぐと、遠い方の男に向かって、思い切り投げた。スヴェンの剣は、大振りで、重い。そんな投擲には向かない剣を、スヴェンは狙い違わず投げていた。

 凄まじい勢いで飛んできた剣を、男が慌てて避けようとするが、木の根に躓き、その場で転倒する。その男の真上を、スヴェンの剣が通り過ぎていった。剣は木の皮を砕きながら、太い幹に突き立った。男の千切れた頭髪が空を舞う。


 あと一歩間違っていれば、男の頭蓋は粉々に砕けていただろう。

 男は腰が抜けたようにしゃがみこみ、動けなくなっていた。


(あ……危ねえっ)


 だが、冷や汗をかいていたのは、スヴェンも同じだった。いくらスヴェンでも、この男たちを殺すつもりはない。しかしスヴェンの予想よりはるかに、男の回避能力が低かったせいで、危うく本物の殺人鬼になるところだった。


 スヴェンが肝を冷やしている間に、最後の男……ゲイルとか言ったか? が、臨戦態勢を整えていた。

 瞳に涙を滲ませたゲイルは、引き攣った顔で小ぶりのボウガンを構えている。


「やられっぱなしでいられるかよ!」


 ぎょっとして、左へ大きく跳んだ。


 ボウガンの矢がスヴェンの右肩を掠って、地面に刺さる。スヴェンはゲイルが次の矢を装填する前に、ゲイルとの距離を詰めた。迫り来るスヴェンに焦ってか、ゲイルの動きには精彩が欠けている。

 スヴェンは邪魔な木の根を一気に飛び越え、その勢いのままに、ゲイルのボウガンを蹴り飛ばした。運悪くボウガンがゲイルの鼻にぶつかった。振り抜いた足を地面に踏み下ろすと、今度はその足を軸にして反対の膝でゲイルのこめかみをえぐる。鼻血を撒き散らしながら意識を手放したゲイルを見届け、スヴェンはようやく一息ついた。


「ったく。手間かけさせやがって」


 ため息とともに呟いたとき、背後で草が鳴った。もしや残党かと、急ぎ振り返る。


「なんだ……。お前か」


 そこにいたのは子ドラゴンだった。スヴェンが出てくるなと言っておいたからか、木の陰から顔を半分だけ出して、そろそろとこちらの様子を伺っている。


「もう出ていいぞ」


 声をかけると同時に、子ドラゴンは両手を広げ、ぽてぽてとスヴェンのところに走ってきた。スヴェンの足元まで来ると、ブーツにがしっとしがみ付き、潤んだ目でこちらを見上げている。


 スヴェンはしゃがみ込んで、足から子ドラゴンを引きはがした。怖かったのだろうか。体が小刻みに震えている。


「おどかして悪かった。もう、大丈夫だ」


 右手で頭を撫でてやると、ずきりとした痛みが右肩を襲った。ボウガンでやられた傷だ。

 大した怪我ではないが、痛いものは痛い。つい顔をしかめると、聞いたことのない子ドラゴンの鳴き声がした。


「ぴ……」


 子ドラゴンは、血が流れたままのスヴェンの右肩を凝視している。


「心配するな。大したことないから」

「ぴ……」


 慌てて言うが、子ドラゴンは聞いているのかいないのか、しゃくりあげるように喉の奥を鳴らしている。そして、


「ぴえええええええっ!!」


 耳を覆いたくなるほどの爆音で泣き喚いた。


 スヴェンの剣は結構重いです。普通のひとが投げたら、たぶん肩が抜けます。佐倉は実は剣道有段者なのですが、スヴェンの剣はまともに振れないと思います。もう5年くらい竹刀握ってないし……。

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