魔王に魅入られた者の末路
この作品は私が夢で見た作品です。
所謂夢日記という奴でしょうか?
ついつい書きたくなってしまったので書きました。
宜しければ楽しんでいってくださいね!
人生って奴は退屈だ。
誰しもが幸福に生きる権利がある。
しかし、幸福を掴むのにはそれなりに努力がいる。
その努力を放棄した人間は何を糧に生きればいい?
そう、結局は何にすがるもなく、何を感じるもなく、ただ平凡な日常を送っていくだけだ。
時には笑って、しかして泣いて。
その何もない日常が……
俺には退屈でならなかった。
「ふぁ……」
いつものように目が覚める。
それ自体について何かを思うことなどない。
顔を洗い、歯を磨き、朝食を取り、仕事へと向かう。
まあ、仕事という名のバイトではあるのだが……
少し苦笑しながら、俺はプールへと向かった。
そう、バイトとはプールの監視員だ。
何かトラブルが起きてないかを監視して、トラブルが起きればすぐに報告。
ただそれだけだった。
「およ、姫じゃん。今日も一段とぺったんだあねぇ。」
そして俺はとあるよく来る女の子によくちょっかいをかけている。
「あら?何かと思えば水着好きの変態おじさんじゃない。」
まあいつもこんな感じの掛け合いにはなるのだが。
「水着好きは余計だろ。」
「変態はいいのね。」
「当たり前だ。」
「即答……」
変態で何が悪いのか。
男なんてみんな紳士で変態的だろ。
「今日も練習か?」
「ええ、そうよ。近々学校でプールが始まるのだから当たり前よ。」
「お前だけじゃねーの?」
「どうかしら?泳げない人にとっては中々の死活問題だと思うわ。」
「そういうもんかね。」
サラッと長い黒髪を搔きあげながら、言う彼女は泳ぎが苦手なのだ。
俺としてはこいつも中々変人だと思うのだが、クラスのみんなからは姫と呼ばれて崇められる程の存在らしい。
にわかには信じられないが……
まあ容姿はそれなりのものは持ってるとはおもうがね。
「ほら、さっさと仕事に行きなさいな。サボってると思われるわよ?」
「うーるせ。どーせ今日も平和で退屈な一日だバーロー。」
「どうかしらね?世の中は常に綻びだらけ。そこに蟻がいたからって理由で人は死ぬのよ?」
「何だそりゃ。」
いつもこいつはこうだ。
時々わけのわからない事を大人ぶったように言う。
「分からなくていいわ。ただ、人生は平凡な毎日の中に混ざる大いなる魔の手がブレンドされてる。今日この日の自分の日常を振り返れば、些細なたわいない日常だとしても、その日常を世界に広げて緩和してみればあら不思議。世の中ではたくさんの人がいろんなイレギュラーに苛まれてるのよ?」
「まずお前はそのよーわからん単語を入れるのどーにかならんか。」
これで小学生だと言うのだから、世も末だ。
「よくわからないのは、おじさんが幸せ者だからよ。」
「さいですかい……ま、今日もせっせと頑張ってくれーや。」
「ええ、言われなくても。」
これで掛け合いは終わり、それぞれの持ち場へと戻る。
俺は近くにある高い椅子の上。
そして、姫は流れるプールだ。
毎回どうして流れる奴に行くのは不明だ。
一度理由を聞いてみたが、流れ行くものに身を任せればなんたらかんたら言ってたので、途中から聞く気が失せた。
ボーッと全体を眺める。
眺め…………
俺はいつのまにか寝てしまった。
「……い…っ!」
「?」
誰かが俺を呼んでる?
「……おい!!」
「え?」
パッと目を覚ます。
「お前何やってんだ!!!!」
「あ!す、すみません……」
いつのまにか寝てたのか、まずいまずい。
「謝るのは後でいい!それより、子供が1人溺れて…」
「はい?」
「良いからこっち来てくれ!!!」
「ちょ、ちょちょっちょ!?」
腕を強引に引っ張られ、連れられた先は……
流れるプールだった。
「……。」
次の瞬間その光景を見て凍りつく。
真っ白に透き通る肌が更に白くなり、くったりと倒れている姫の姿を見て…
「おい、あんたならなんとか出来るんじゃないのか!聞いてるのかおい!」
「は、はは……」
何が平凡な日常が退屈だ。
「はははははははは!!!」
何がいつもと同じだ。
「おいおい、冗談はよしこちゃんだけにしてくれよ!」
結局俺は非日常に憧れてただけの小童だった。
「目ぇ開けろよ!姫!」
姫に駆け寄り、揺さぶりながら声を荒げる。
今更ながら後悔が押し寄せてくる。
俺が……俺が……姫を殺したんだ……
俺があの時しっかり見ていれば……っ!
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫びはもう届かない。
俺は一体何をやってたんだよ!
あの時の時間さえ戻ってくれば……時間さえ……時間さえ……っ!
「ちょっとおじさん邪魔なんだけど。」
「え?」
ふと顔を上げれば流れるプールの中にいる俺。
そして、目の前にはさっき死んだはずの姫が立っていた。
「ひ……め……?」
「何なの?アホヅラしてないで退きなさい。練習にならないわ。」
「姫っ!!!」
「ちょ、なっ!?こらっ…変態……辞めなさい!!」
涙目で肩を掴む俺を本気で振り払う姫。
夢じゃない。
じゃあさっきまでのが夢?
でも、どうして俺はこんなプールの中で夢なんか……
「姫……俺って奴はいつからここに居た?」
「はぁ?今度は何?哲学でも投げかけてるの?」
「ちげぇよ。俺はこんなとこにいる筈がないんだが……」
「哲学にしか聞こえないん…」
「真剣に答えてくれ!」
姫の言葉を遮るように声を出した。
「……はぁもう…さっき突然走って来たと思ったら飛び込んで来たの。もしかして記憶喪失とか言わないわよね?」
軽くため息を吐いた後に俺の事を少し心配そうに見つめてきた。
無理もない…か……
にしても妙だ。
こんなこと、ありえるのか?
「悪いな、なんかどうかしてたみたいだ……」
「いつものことじゃないの。」
「そうだな。」
俺には一体何があった?
仕事が終わり、家に帰ってすぐにいつも敷きっぱなしの布団に寝転がる。
ふと考えてみる。
今回の件で可能性として考えられるものは……
①記憶喪失
②記憶混乱
③タイムスリップ
「……。」
「タイムスリップ…か……。」
あの時俺は本気で時間が戻ればいいと思った。
普通に考えて、記憶混乱が正しそうではあるが……
例えばそうだ。
俺は今からちょっと前、帰り途中にうんこを踏んでしまった。
それ自体をなかったことに出来ないだろうか?
などと、少しくだらないことを本気で考える。
そして、靴の裏を確認しに行った。
すると……
「ないな。」
あのこびりついたどうしようもない糞がなかった。
ほぼ、確定でいいのかな?
アレから色々と試してみた結果、俺には思ったことを現実に出来る能力が備わってしまったようだ。
これは……ふふ……
俺はコレが夢だろうが何だろうが、今の現実に超能力が使えるようになったという事実がある。
それだけで、胸が踊るようだ。
これからの展開をどうするか、俺の手の平なのだから。
それからの人生は楽だった。
嫌なことがあればそれをなかったことにして。
女の子にはこの超能力でモテモテ。
我が物の人生を謳歌していた。
そして、それは俺の変貌に他ならなかった。
いつしか、欲しいと思った瞬間に万引きをし。
少しでもイラッとくれば、それを始末する。
最初は少しだけ……と思っていたのがいつのまにかエスカレートしていったのだ。
欲望は暴走し出したら止まらないと言うが…
まさしく今の俺がそうなのだろうと感じていた。
そして……
いつのまにか俺の周りに人はいなくなっていた。
ニュースでは最早有名人だ。
超危険人物として。
指名手配犯として。
こんなはずじゃなかった。
この力をもっと上手く利用すれば俺はもっと楽しくやれたはずだった。
どうしてこうなった。
いつから壊れた。
いつからこうなった!!!
「ちくしょう……」
コンビニからパクって来た食糧を手に嘆く。
そしてふと気づかされる。
「は、はは……あーあ……また間違っちまったのか。」
ようやく気づかされる。
「これは…呪われた力だったんだ……」
便利すぎるものをダメ人間が持ってしまえば、破滅する。
不幸なのはその力を使ったことじゃない。
その力を俺が持ってしまったことなんだ。
生きにくい世の中……
それを作り出したのは俺自身だ。
そして、ふと光が見えた気がした。
そしてその先に……
「姫……。」
彼女が居た。
俺は深海の中に差し込んだ一縷の望みを掴むように後ろから姫に近付き……
いつものようにちょっかいを出そうとした。
「ひぃめぇ……。」
「ひゃふっ!?」
俺は姫の胸を後ろから掴み揉みしだく。
いつもは出さないような女の子の声に更に興奮してしまい、姫の耳を甘噛みする。
「い、いや…やめ……。」
そして下の方へと手が伸びたその瞬間……
「もういやぁぁぁぁぁ!!!何で何なの!?どうしてっ!?」
姫が本気で叫び出した。
その声に我に返る。
え、あ……どうして俺はこんなこと……
「わ、悪い……怖がられるとは思ってなかったんだ……。」
口に出る台詞もクソみたいな台詞。
俺ってこんな奴だったか?
自分の行動、台詞に吐き気を催しながらも、修正出来ない。
「怖いよ!いきなり掴まれて触られて!怖くない人なんかいないよ!!!」
「ご、ごめん……。」
「ひぐ……ぇぐ……。」
泣きじゃくる彼女を前にして、俺は情けなくも立っていることしかできなかった。
「落ち着いた、か?」
しばらくして泣き止んだ姫に俺は声をかける。
痴漢した側が言うような台詞ではないのだが、俺はその場を立ち去ることは考えてなかった。
今、姫を逃したら自分が本当に自分でいられなくなる気がしたからだ。
「おじさん…最近見ないと思ったらいつのまにか指名手配犯になってるし、意味が分からないわ。」
「……逃げないのか?」
「えぇ…最初は本当に怖かったけど、今は前のおじさんの雰囲気あるもの。何があったの?」
「話せば…長くなるんだがな……」
それから俺はこれまでの経緯を姫にぶつけた。
何かにすがるように……
「……てな感じだ。 笑っちまうぜ…俺なんて結局その程度の人間だったってことなんだからな……。」
空を見上げながら、今までの生活の尊さを感じていた。
普通って奴がどれだけ幸せだったのかを……
「へー……おじさんもなんだね……。」
「えっ……。」
「いいわ。私が唯一の理解者になってあげるわ。その力を使って私を色んな場所……世界中に連れてって!」
「な、おい…お前良いのかよ……。」
俺はかなり動揺していた。
姫が自由なのはいつものことだが、度が過ぎてる。
「良いも悪いもないわ。あなたは世の理を消し去れる力を持ってる。私はそれに便乗するだけよ。それにこれはあなたにとっても悪い話じゃないはず。」
「それは…どういうことだ?」
「あなたがその力を使って暴走するのは枷がなかったから……つまり私がその枷になる。人はね、不思議なものよ?マイナスとマイナスではどんどん助長されていく悪行も…マイナスとゼロだと全て抑制されてしまうのだから。」
「お前はそのゼロって訳か……。」
相変わらずなんて言ってるのかわからない奴だが、たしかに姫と居れば退屈はしないだろう。
そう思いながら俺は姫が良ければ一緒にいこうと思いを固めていた。
「ええそうよ。マイナスは悪。プラスは正義。ゼロは鍵よ。」
「そうかい。」
いつもの姫を見ていると不思議と安心していた。
俺はいつのまにか自然に笑っていた。
なるほど、これがゼロの力か。
姫の言うことを少しだけ理解しつつ、俺は歩き出す。
「そうと決まりゃ長居は無用だ!行くぞ、姫。まずはアメリカだ。」
「ふふ、らしくなってきたじゃない。良いわ何処へでも連れてって頂戴。あなたが私の知らない世界へ。」
姫もその後を付いてくる。
俺はまたここからやり直せる。
いや、ここが第3の人生のスタートだ。
そう思いながら俺はアメリカへと飛んだ。
「こいつがアメリカだぜ。」
「ふむ……自由の女神像……初めて生で見たけど、意外とちゃちいのね。もっと崇高さを感じるものかと思ってたわ。」
「なんだよその反応……もっと子供らしく喜べよ……」
「あら、どうしておじさんがそんな顔をするの?私の感情におじさんは関係ないわ。奇跡的な桜を見ても私はある意味この程度の反応しか出来ないわ。」
「まず奇跡的な桜ってどんなだよ……。」
全くもってわからん。
「ふふ……わからないでしょうね。しかしてそれがまた良いと言うもの。知らぬが仏とも言うでしょ?あなたはひとしきり物を知らないからこそまだ人の領域を踏みとどまれたのよ。」
「おいおい、その言い分だと姫はもう人じゃないみたいに聞こえるぜ?」
「いえ、私は人よ?あくまでも知っているというだけで、見たことはないもの。」
クルクル回りながら姫は答える。
「そういやお前、学校とか親とかどうすんだよ。」
俺がそれを言った瞬間にピタっと姫の動きが止まった。
「へー……あなたがそれを言うの……。」
「え、な……なんか悪いこと言った、かよ……。」
「そうね、あの時のあなたは人格が悪魔に支配されていただけなのよね。無理もないわ。だからこそ私がこうしているのだけれど。」
「意味わかんねえこと言うなよ…俺がなんかしたのか?」
正直言って記憶にないんだが……
「ええそうね。あなたが私の親を殺した。って言ったら信じるかしら?」
「っ!?」
俺は思わずたじろぐ。
そして絶句する。
意識が混濁する。
「まあ自覚はないわよね。私の親にあったことなかったものね。そこら辺の蟻と同じように潰したものね。貴方は……。」
「そ…そんな……俺…は……。」
たしかに色んなことをしてきたが、人を殺したなんて記憶はない。
どういうことだ。
どういうことなんだ!
「おじさんは勘違いしているわ。確かにおじさんが直接手を下してないとしても、おじさんが原因で、なんてことあると思うわよ?それは私の親だけでなく、たくさんね。」
そう言いながら姫は俺の持っている食糧を指差してきた。
「こ、これが…どうかしたのかよ……。」
冷や汗が出る。
理解できない…というより理解することを体が拒んでいるようだった。
「泥棒。それは本当に物を、商品を盗るだけなのかしら?よく考えてみなさい。」
いつもの幻想的な言葉とは違う。
はっきりと針が突き刺さるような声で俺を指摘する。
「……。あぁ……。」
そして俺は拒んでいた理解を紐解いた。
そうだな、つまりはそういうことなんだろう。
「おじさんのした事、した意味を理解した?そしてそれを嘆いた?罪は一つの過ちから何個も何個も重なっていく重みに耐えれた?それならばおじさんは少しは進歩したということよ。」
「……お前は俺をどうして咎めない。」
力なく返答する。
進歩とかまた意味のわからないことを言ってはいるが、こいつは俺をどうしたいのだろうか。
「起きてしまったものをわざわざ咎める気にもなれないわ。だっていくら刑を処することをしても殺されたという結果は変わらないもの。それはただの復讐心の連鎖であって、何も得られない。仕返しなんて何も生まないわ。だからこそ私はおじさんを利用するの。私がゼロとしておじさんの枷になるの。おじさんは私を見ながら一生罪の意識を持ちながら罪を犯すことの愚かさを噛み締めながら世界を回るの。その上でおじさんは楽しめばいい。私と一緒に楽しめばそれでいい。違う?」
「あそこに偶然お前が現れたのは偶然じゃなかったってことか。」
「そうね。私はおじさんを探していたわ。出会い方は予想外だったけど、こうして目的は果たされてるの。私は今までやりたかった世界旅行。知らないもの探しを行える。そう仕返しなんかよりよっぽど有意義だと思わない?」
「なるほどな。」
それを言ってしまってることが、枷とか言ってることが既に仕返しではあるんだがな…
まあいい、俺はこの子を一生見ていくんだ。
そして、一生守っていくんだ。
何があっても……
それから俺たちは色んなところを回った。
東南アジアも、欧米も、ヨーロッパも……
色んなとこを見て回った。
俺が何度も見たであろう世界は色を変えていた。
一人きりだった頃と見る景色、姫と見る景色。
まるで違う。
俺はいつしか幸せになっていた。
この生活がいつまでも続いて欲しいと願った。
そんなことあるわけがないのに。
いつかは終わりを迎えるのが人生だと言うのに……
「はぁ……はぁ……行ったか?」
「そうね。まさかこんなスリリングな旅になるなんて思ってもなかったわ。」
「そういうことを言ってんじゃねえよ!」
「怒鳴らない。焦るのは分かるけれど、取り乱してはいけないわ。捕まったら終わりなのはあなただけではないの。」
「くそ……。」
俺たちは追手に追い詰められる状況にいた。
無理もない。
俺は指名手配犯であるのだから。
今までは難なくやり過ごせてきてはいたのだが…
今回は訳が違った。
「まさか、向こうも超能力者だなんて、ね。私の意見としては逃げ回るのも手だけれど、いっそのこと倒してみるのもいいんじゃないかしら?と思うのよね。」
「嫌に野蛮な発想だな、おい。」
「あ、そういえば人を殺したことはなかったのよね。失敬したわ。そうね、だったら逃げましょうか?永遠にも近い地獄の闘争だと思うけれど…。」
「んなこたわかってんだよ……。」
どこに逃げようが結局見つかり、追い詰められる。
最早俺の心理など読まれているのではないかと錯覚を起こしそうなほどだ。
奴は……何者なんだ……。
「逃げるのは諦めましたか?なら素直に捕まって下さい。」
「っ!?」
奴の声が聞こえた瞬間に姫を抱いて飛び退る。
いつのまにか後ろにいたのか……。
「流石にもう分かってくれましたよね?あなたが私から逃げるのは不可能だと。」
「はっ……そんな根暗そうな顔しながらやけにアクロバットに動くんだな……それとも俺の後ろに瞬間移動か?」
そう、俺らの後ろは高い塀があったはずだ。
それを飛び越えたかするしか後ろに立つ手段はない。
「顔は関係ありません。しかし、恐らくあなたよりは機敏に動けますよ。私こう見えてスポーツ得意ですから。」
長くボサボサとした髪。
だるんだるんのシャツ。
下は古びたチノパン。
靴に関してはボロボロのシューズ。
見た目だけみたら俺でもなんとか出来そうではある、が……
「そうかよ。ただ捕まるわけにはいかないんだ。前は一瞬でも悔い改めるのは良いかとか考えたこともあったにはあったんだけどよ。」
「そうですか。では今からでも考え直して下さい。私に捕まるのと自首するのではこの後の人生が違いますよ?」
ゆらっと近づいてくる。
「はは……無理だな。だって俺には……。」
「俺には?」
「やりたい事が出来ちまったんだよ!」
グッと腕に力を込めてまた俺は別の世界へと飛んだ。
そうだな、今度は敢えて日本にでもおりてみっか!
「これなら裏をかいたろ。」
「そうかしらね。アレがそんなに生易しいものだと良いのだけど。」
「俺もそう思うわ。ふぅ…なんとかならんもんかねぇ……。」
「それよりおじさん。やりたい事って何なのかしら?私初耳なんだけど?」
「あーアレなー……んなもん決まってんだろ。」
俺は姫の頭を掴みそのままわしゃわしゃと撫でる。
「お前との世界制覇だ。」
俺は最高の笑顔でそう告げた。
そうこれこそが俺自身の本心。
姫の存在は枷とかそういうんじゃなくて、もっと素晴らしい何かだと思ってる。
確かに俺は姫を不幸にしたかもしれない。
その罪滅ぼしだとか心の拠り所だとか義務感とか……
そういう気持ちから始まったもの。
だけど、最早俺の中でその形は大きく変わっていた。
いつのまにかそれが生き甲斐でそれが目的で…
多分それを取られたらもう俺には本当に何もなくなる。
「へぇ……おじさんにしてはカッコいいじゃない?」
「もっと照れるとか期待したんだがな。」
「私がそんなラブコメ的展開が出来る性格だと思ってるのかしら?」
「ごもっとも。」
「ふふ…。」
「ぷ、くく…」
「「あーっはっはっはっは!!」」
2人で笑い合う。
恥も外聞もあったもんじゃない。
2人して笑い転げていた。
「なるほど、それはそれはいい心がけだと思います。しかし、犯罪は犯罪です。罪には罰が必要なのです。それを清算してからでも遅くはないと思います。」
「けっ……もう来やがったか……。」
「はい、もう来ました。」
ゆらっとまたしても俺らの前に立ちはだかる。
「お早い到着ね。言っておくけど、私は何も罪を犯してはいないわよ?」
「はい分かってます。阿久野さんに関しましては、私の施設で保護するように言われてます。」
こいつの苗字阿久野って言うのか。
「その施設は私を十分に満足させられるようなもの?」
「おい、お前…。」
まさかここに来て裏切るようなことを言うんじゃないかと心配してしまう。
「そうですね。あなたには一通りの身体検査を受けた後に自由な暮らしと多額の資金を用意します。約束します。恐らく一生困りません。」
「ひ……っ!?」
俺が何かを発言しようとしたら姫に口を手で覆われた。
「愉快ね。確かにそれなら私の目的だけは果たせそうね。でも、結局それでは意味がないの。目的だけを達成させるなんてそんな損したくないわ。」
「損?何処に損があると言うのですか?」
「到達点までの周りの景色を楽しまなきゃ損よ!私はおじさんと一緒に世界制覇をしなきゃ意味がないわ!時に笑い、時に泣き、時に喧嘩し、時には馬鹿をする……そんな旅じゃないと目的を達したところでそれは損でしかないわ!」
「……そうですね。言いたいところは理解しました。しかし、どうしてそれを今言うのですか?」
「あら?分からない?私はねある種の種を蒔いてるの。いつ実るか分からないけど、必ず実らせてくれるわ。それが向日葵だろうか朝顔だろうか見当もつかない……でも必ず実らせてくれる。そう信じて種を蒔いてるのよ。」
俺すら分からないようなことを姫はつらつらと吐き出す。
まるで時間でも稼いでるような……
「っ!」
俺はここにきて理解した。
姫が何を期待しているのか、を……
姫は…俺が奴を倒すと……それを期待しているのだ。
言葉で実際に言われたわけではない、が……
分かる。
俺をリスペクトするような言動。
これは普通じゃ有り得ない。
アイツが俺を貶すようなことはあっても褒めるようなことは絶対に言わない。
種を蒔くという待っているかのような比喩。
さっきの話で言っていた、奴を倒すという姫の言動。
くそ……だとしたらどうすれば……
俺はこの力を使って戦いはおろか、喧嘩すらしたことがない。
戦い方なんて分かるわけがない。
でも、でも……
「そうですか、何を言っているのかを理解することは不可能ですが、あなたが私の意見を聞き入れるつもりがないことは分かりました。」
「ふふ、そうね。でも私は知っているわ。あなたが運命より強き意志を持っていること。だとしたらそれはそれより更に強き意志を持って叩き潰さなければならない。」
「すみません。もう阿久野さんの発言には耳を傾けないようにします。ですので、、田中さんはここで死んでください。」
いつのまにか奴が俺の目の前に立っている。
いつのまにか首筋めがけて振ってくる一撃。
そして、まさかの俺のこのストーリー初の本名。
一瞬で色々なことが起きたそして何より……
「え?」
理解したのは尻餅をついた時だった。
「ひ……め……?」
「これは……。」
「っぐ……っ!」
いつのまに俺は姫に突き飛ばされた?
いやそんなことよりも、そんなことよりも!!
「おい!何やっ…!?」
またしても姫に制止される。
今度は血まみれの手の平で。
「なんて…声、だし……てるの…ほら……もっと前を向きなさいな……ごほっ!」
姫はなんとも言えない優しい表情をしていた。
そして吐血を繰り返す。
方から斜めに深く刻まれた斬撃は、最早その少女が立っていることさえ不思議だった。
「私がなぜこんなことをしたのか…分かる?げふ…まあ…その、胸に色々、と刻むが良いわ。魔女に惚れられた…憐れな家臣さん?」
ドサッ…
それだけを言い残して彼女は…
姫は倒れ伏した。
血溜まりと共に。
瞬間俺の中で何かが崩れた音がした。
「……なるほど、まさか阿久野さんがここまで私の行動を読んでくるとは…これで私も犯罪者、ですか。中々やりますね。」
「んで…。」
「何か言いましたか?」
「なんでそんな平然としてられんだよ…」
「そう見えますか?これでも私かなり焦ってるんですけどね。これからの身の振り方とか…」
「そういうことじゃねえよ…」
「はぁ…あなたたち2人揃って私の常識では測れませんね。いやはや過去最高に面倒くさい相手ですよ。」
何かが心の奥底でグツグツと煮えている。
「知ってるか?足枷を外された猛犬ってのは、何をするか分からないんだぜ?」
「いきなりわけがわかりませんね。とりあえず、私も犯罪者だからと言ってあなたを見逃す理由にはなりません。無駄死にとまでは言いませんが、彼女の目的は果たされることはありません。」
そうか、これが…枷が外れたマイナスか……
心の中で呟く。
「ならお前に教えてやろう。どれだけ狂暴なのかを。」
「何を言……っ!?」
奴は次の瞬間驚いた表情をしていた。
まあ無理はない。
一瞬で右腕が消し飛んだのだから。
「お前の過ちを俺が世界に刻み込んでやる。」
初めてかもしれない。
ここまで純度の高い"怒り"を感じたのは……
「くそ……。」
奴は走って逃げ出した。
「もう何処かに飛ぶ集中力も残ってないか?なら絶望しろ。俺はお前を殺戮するだけでは飽き足らんだろう。死よりも恐ろしいものを味わわせてやる。」
一瞬で距離を詰める。
今度は奴の左脚が消し飛ぶ。
「ぐあっ!」
瞬間奴は倒れこむ。
しかし血は出ない。
そう出ないようにしている。
地獄の苦しみを味わわせるために。
「死ぬことは弔いじゃない。永遠の苦しみこそが葬いだ。てめぇの魂が解放されることがあると思うなよ。今からお前は世界の終焉を見ながら、一生苦しみの中で生き続ける。」
俺はそう言い残してその場を去った。
そうなれば後は一瞬だった。
世界を壊し、殺し、無くし、消し……
全ての終焉を迎えるのに10分とかからなかった。
「はははははははははははははははははははははは!!!!!」
その中心で目一杯に叫んでやった。
姫の居なくなった世界全てを憎むように。
恨むように。
そして、俺は自殺した。
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「……どう?これが私の本気。世界の壊し方よ。」
「また……救えなかった……」
「気に病むことはないわ、大天使さん。あなたと私の世界のゲームは、まだまだこれからだもの。」
「ふふ、魔王に励まされる時が来るとはね。僕も地に落ちたものだよ。いいよ、次こそ救ってみせるさ……次の世界で勝負だ、姫。」
「望むところよ、王子。」
これにてこの世界はお終い。
また飽くなき天使と悪魔…いや大天使と魔王の世界遊び(ワールドゲーム)は次の舞台へと移るのだった……。
どうだったでしょうか?
今回の作品は魔王と大天使の一ゲームにすぎません。
生きた人間を自分の駒として使うその所業。今後はいかになるのか。
これからの展開もある程度構想はあります。
今回はこれで終わりですが、また次のお話も上げますので宜しければ見ていってくださいね!