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仁義なき夜の戦い

 大浴場を出て少し歩くと、リアナさんとレイラさんが待っていた。


『御湯加減は、いかがでしたか?』

『ケンイチ様っ! ちゃんと綺麗に、洗いましたか?』


 とりあえず、リアナさんは無視しよう


「いい湯加減でしたよ、さっぱりしました」

「すっかり、長湯しちゃったよね」


 少しむくれた感じで、リアナさんが俺の顔を覗きこむ。


『ケンイチ様? 聞いていますか? きちんと、洗いましたか? ちゃんと皮を剥いて』

『リアナ! なにを言っているのですか!!』


レイラさん! しっかり言ってやってください!

 

『洗っていなくても、わたくしたちが綺麗にしてあげればよいのです。 あなたはご不浄のときは、どうするおつもりなのですか?』

『はっ! そうでした! トイレ……わたし頑張ります!』


 だめだ……レイラさんもやっぱり、あっち側の人だよ。 期待した俺がバカだった。 それにトイレってなんだよ……ほんとに怖いぞトイレ。 とりあえずもう、二人は無視して部屋に戻ろう。ちょっとリアナさん? なんで腕、組んでくるんですかね?


「あのリアナさん? 侍従は後ろを、着いてくるんじゃないんですか?」

『夜の侍従は、違うのですっ!』


 なんだよ、夜の侍従って! 怪談かよ!


「なあ御子神……やっぱり俺、お前の部屋に」

『まあ! ヤギュウ様は、四人でする方がよろしいのですか?』

「柳生君……僕はそういうのはちょっと」


 御子神、お前もか!


『ケンイチ様……わたしはできれば、二人きりの方が』


 もういい! わかったお前らとは、まともな会話はできない! とりあえず三人は無視して、部屋に戻る事にする。 腕を組んだリアナさんは、なんか嬉しそうだ。 歩きづらいなぁ……。


 階段までくると、鷹村とばったり会った。


「お、おう鷹村! どこか行くのか?」


 俺と腕を組むリアナさん、そして御子神とレイラさんを見て、軽蔑の表情を浮かべる鷹村……うん、まあそうだよね。


「別に……」

「そ、そっか! 俺達は今から、部屋に戻るところだ」

「そう……」

「うん…………それじゃあ、おやすみ」

「鷹村さん、おやすみ」


 ああ御子神、鷹村はお前の事が好きなのに……。


「……じゃあ」


 鷹村は、外に向かう。 散歩にでも行くのかな? 少し後を、鷹村付きのメイドさんが追っていった。 鷹村は、メイドを選んだんだな……。 まあそりゃそうか。


『ケンイチ様っ!!』


 ああそうだった! とりあえず部屋に戻って、話をしなくちゃ。


「ああ、部屋に戻ろう」

『はいっ♪』


 階段を上ったところで、御子神と別れる。


「御子神! それじゃあまた明日な」

「ああ、柳生君……健闘を祈るよ!」


 敬礼をする御子神。 お前、完全にふざけてるだろ! 御子神はレイラさんと、いちゃつきながら部屋に入っていく。 やる気満々だな・・・ ちくしょう。


「さて俺は俺で、頑張らないとな」

『ケンイチ様! 優しくしてくださいね?』


 そういうことではない!


 

『先に寝室に、行っててくださいっ!』


 部屋に戻ると、リアナさんはそう言い残して、自分の部屋に入っていった。 先にって……後から来る気満々じゃねえか! こないでくれた方が、いいんですけど? とりあえず、汚れ物を入れた袋を置いてベッドに座る。 

 そうだ煙草でも吸うか……。 カチッカチッ! ……なんか火が着けられないな……緊張してるのか? 俺は。 なんとか火を着けて煙草を吸う。 人生三本目の煙草も、やっぱりキツイ。


「げほっげほっ! 桐生……この煙草って、きつすぎねえか?」


 ここには居ない男に呼びかける。 ああ、桐生がいてくれたらなぁ。 いやあいつは俺に、女を抱かせようとしてたから頼りにならないか? くそう桐生め、使えない! ……いや、八つ当たりはやめよう。


『ケンイチ様、お待たせいたしました』


 枕を持ったリアナさんが、部屋に入ってくる。


『し・失礼しましゅ!』


 そう言うと枕を、俺の枕の隣に並べる。


「あー、リアナさん? 話をしようか」


 顔を真っ赤にしたリアナさんが、俺の横に座る。


『そ、そうですね! ピロートークも大事だって、レイラさんが言ってましたし』


 ピロートークって、終わった後にするんじゃ? いやそれよりレイラさん……恐ろしい子っ!


「あーその、なんだ? 浴衣に、着替えたんだ?」

『は、はいっ! ダメ……ですか?』

「いや……似合ってるよ」

『そうですか……嬉しいです』


 あー、この雰囲気はまずいな。 話を変えないと。


「あの、リアナさん?」

『リアナって……呼んでください』

「あ、うん……リアナ」

『ひゃいっ!』


 声うわずってるぞ! 少し笑ってしまう。


「あーリアナ、俺はさ……こういう事は好きな人としか、しないって決めてるんだ」


 リアナが驚いた表情で、俺を見る。


「だからさリアナ、俺は」


 そこまで言ったところで、リアナが俺に抱き着いてくる。 まずい! これはル〇ンダイブか!?


『だったらわたしを……わたしを好きになってください』


 うるんだ瞳で、俺を見つめるリアナ。


「うん……でも、今すぐにってわけにはいかないから」

『わたしはっ!! わたしはケンイチ様に助けていただいて……ケンイチ様の好きな方に、似てるってわかって、すごく嬉しかったんです』

「うん……」

『ケンイチ様が好きな方……ノナカ様の代わりでもいいんです。 わたしを……』


 あーこれは完全に、パターン入ったわ。


『抱いてください』


 やっぱりね!


 しかし、これはまずい状況だぞ。 俺は今、リアナに組み敷かれている。 この状況から脱出するには、どうすればいいんだ? マウントポジションを、取られてるんだから……ええっとブリッジで? いや格闘技じゃないんだから、それはダメだろ。 とにかく落ち着こう。 しかしなんか、柔らかいものが手に……。 あーリアナが俺の手を、自分の胸に押し当ててるのか。 うん……この状況でよく冷静でいられるなぁ俺!


『ケンイチ……様?』


 リアナが上気した顔で、俺に話しかけてくる。


『やっぱり小さい胸は、お嫌いですか?』

「いやその、大きいとか小さいとかは関係なくてですね、好きな人の胸なら別にどっちでも」


 ……って何を説明してるんだ、俺は!?


『わたしのこと、好き……ですか?』


 うん、やっぱりそうくるよね。


「あー、そのだからそういうのは、時間がですね」

『好きに……させてみせます』


 っておーい顔が! 顔が近づいてくる……これはキスしようとして? ヤバい! 

 ……むぎゅ!! しまった、つい顔を押しのけてしまった……これは……気まずい

 

『な……なんでそこで、拒否しますかあああああ!!』


 うおう!? 超激怒してる!


『完璧だったでしょう? 完璧な流れだったでしょう!?』


うん、教科書通りの、素晴らしい攻めでした。


『なのにどうしてそこで、顔を押しのけますか!?』


 うん、どうしてでしょうね?


『どうして! わたしじゃ……ダメなんですか……』


 俺の顔にぽたぽたと、涙が落ちる。


「リアナ……」

『ケンイチ……様』

「泣き落としも、通じないからな」


『ちっ……』


 ちっ?


『ちっくしょおおおおお! こうなったら、もう力づくでええええええ!』

「ばっか! お前、それはダメだろ」

『大丈夫です! 大丈夫ですよ! 優しくしますからああああ』

「お前もうホント、女として終わってるぞ!」

『うわあああああああああああん』


 泣きたいのは、こっちだよ!


「落ち着いたか?」

『ひっく、ひっく……はい』


 一時間に及ぶ格闘の末、なんとか勝利した……厳しい戦いだった。


「お前さぁ」

『リアナ』


 あーうぜえ……。


「リアナさあ……もう少しその、恥じらいとか」

『そんなものは、この仕事に就く時にドブに棄てました』


 棄てるなよ!


「無理やりさ……エッチしても俺は、好きにならない」

『……そうですね』


「勇者をさ……この国の為に、働かせる為にやってるんだろ?」

『……そうですね』


「俺はさ……エッチしたいからって、頑張る男じゃないんだ」

『……そうですね』


「きっと好きな子の為になら、命を張ってでも戦える」

『……そうですね』


「お前は、森田一義アワーか!!」

『なんですかそれは!? しりませんよ!!』

「そういう、テレビ番組があったんだよ!」

『テレビってなんですかっ!?』

「あー!! 説明するの、めんどくせえええええ」



「……おかしい、なんでこうなった?」

『ケンイチ様が、エッチしてくれないからですっ!』

「俺が真面目に話してるのに、お前が聴かないからだろうがっ!!」

『お前じゃありません! リアナですっ!』


 あーーー!! もうちくしょう! なんかもう、どうでもよくなってきたぞ! 大体もうエッチするとかって、雰囲気でもねえし……このまま今日は、寝ちゃえばいいんじゃないのか?


『寝たら、襲いますから』


 お前は、テレパスか!?


「よし、じゃああれだ!」

『どれです?』


 もう黙って、聞いてください。


「お前がエッチなことしたら、俺は勇者として戦わない!」

『横暴です!!』

「どっちがだよ!」

『ケンイチ様がですっ!』

「とにかく!!! 俺は好きな子の為に戦うし、好きな子としかエッチはしないからな!」

『だったらわたしを、好きになればいいじゃないですかっ!』


「……おう……だから、俺を惚れさせてみろよ」

『じゃあエッチを!!』

「エッチな事抜きでな?」

『そんなの、どうすればいいんですかっ!?』

「知るかっ! 自分で考えろ!!」


 まったくたったこれだけの話をするのに、どれだけ手間をとらせやがるんだか。


『わたし頑張ります! 頑張りますからねっ!』


 残念だけどなリアナ、俺はここから逃げるつもりだから……絶対にお前に惚れるつもりはねえよ? でももし俺が逃げられたとして、こいつはどうなるんだろう? 勇者に逃げられた侍従、罰を受けるのは間違いないんだろうな……。


『どうしましたか? ケンイチ様?』

「ああ、いや別に」


 ……なんでもねえよ!

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