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8/22

俺達の戦いはこれからだ!

 浴衣に着替えた俺は、サンダルを受け取ると部屋を出た。 まだ食事の時間には早いが、このまま部屋にリアナさんと二人でいるのは危険だと、俺の本能が言っている! そうだ! 部屋も決まった事だし、御子神のところへ報告に行こう! 御子神の部屋の前に立ち、ドアをノックする。

 コンコンッ! ドアが開き、レイラさんが顔を出す。


『はい?』

「柳生です、御子神いますか?」

『少々お待ちくださいませ』


 施設の見学から、帰ってきてくれてたか! 御子神、助かったぜ!

 

「柳生君か……どうしたんだい?」

「おう! 御子神! 部屋が決まったから、報告にきたんだ! この廊下をあっちに行った、突き当り!」

「そ、そうか、わざわざありがとう。 食事の時で良かったのに」

「ああうん! そうだな! 食事まだかな? 遅いよなぁ!」


「どうしたんだい? なんかおかしいぞ?」

「いやほらあれだよ! なんだうん! ほら時間がさ! なかなか経たなくて、暇だからさ!」

「せっかくなんだから、部屋でゆっくりしたらどうだい?」

「いや! 部屋には帰りたくない!!」


 御子神は、飽きれた顔で俺を見る。


「なにを酔っぱらったふりをした、OLみたいな事を」

「なんだ御子神? 酔っぱらったふりをしたOLと、そういう経験があるのか?」

「いや、ないけどドラマで……ほんとなんか変だぞ? なにかあったのか?」


 うん、我ながら変だと思うよ。


「いやほら! 男女で一つの部屋にいると、落ち着かなくてな」

「ああ、トイレいったのか?」

「いや! それは怖くて、まだ試してない!」

「怖いって柳生君……まあお楽しみは、後にとっておいた方がいいね」

「全然楽しみじゃない!」


 御子神は、ため息をついて首を振る。


「それで、用件は済んだのかな? それじゃあ僕は、食事までのんびりさせてもらうよ」


 ドアを閉めようとするので、体ごと挟んで止める。


「まあ待て、御子神……食事まで、少し話でもしないか?」

「それは別に構わないが……君まさかそっちの気が、あるんじゃないだろうな?」

「それは断じてない! ……多分」

「多分ってなんだ!? やっぱり、お断りさせてもらうよ」

「いやいや大丈夫だから! ほんと!」


 しばらくそんなやりとりをしていたら、そろそろ食事の時間らしい……助かったぜ!!


「よし!御子神! 一緒に、飯食いに行こうぜ!」

「なんかほんとに君、大丈夫かい?」


 あきれ顔の御子神と一緒に、一階の食事用ホールに向かう。


「それで? なにがあったんだい?」

「それは……」


 リアナさんもレイラさんも、一緒についてきてるし話せないな……。 さすがに本人のすぐ近くで、さっきの事を話すのは気まずい。 そうだ! 大浴場なら、侍従は着いてこれないって言ってたぞ! よし風呂だ!


「ちょっと、ここでは話せないから。 御子神……あとで一緒に風呂入ろう」

「おい? 君まさか本当に、ホモなんじゃないだろうな? 僕はノーマルだぞ!」

「ち、ちがうから! 本当に違うから!」


 ちらりと、後ろの二人を見て


「男同士じゃないと、話せない事なんだよ」


 できるだけ小さな声で、御子神に伝える。


「ふうん? なんとなくわかったよ。 じゃあ食事が終わったら、風呂行こう」

「食後三十分は、風呂入らない方がいいらしいぞ?」

「だったら三十分経ってから、入ればいいじゃないか」

「三十分、部屋に居たくないんだよ」

「君はバカか? 食事が終わってから、ホールで三十分過ごせばいいだけだろう」


 ……その手があったか!?


 食事は、日本にあるものに良く似ていた。 ごはんに良く似ている、ごはんという食べ物。 鮭に良く似ている、鮭という魚。 ほうれん草のおひたしに似ている……きりがないか。 醤油や、味噌なんかもあった。 高校生だったタナカイチロウが、醤油や味噌の作り方を知っていたとは思えないんだがな……。 大豆から作るって事は俺でも知っているが、じゃあどうやって作る? って事になると全くわからない。 まあタナカイチロウが建国してから、300年も経っているからその間に工夫したのか? しかしまあ和食が食えるのは、とてもありがたいな。


 御子神と並んで飯を食っていると、近くの男子が大声で侍従とエロい事をしたと自慢している。 何人かの男子が、俺も、俺も、と話に乗っているが……お前ら女子も一緒に飯食ってるのに、よくそんな話を大声でできるな? しかもその当の侍従は、お前のすぐ後ろに控えて給仕をしているんだぞ? ああ、女子の目が冷たい。 ふと少し離れたところに、鷹村が居る事に気が付く。 完全に聴こえてるよな……。


「なあ、御子神」

「なんだい? 柳生君」

「お前はその、なんだ?」

「その話なら、風呂でするんじゃなかったのかい?」


 そうだったよ。 周りの雰囲気に、飲まれてた。


「飯、美味いな」

「うん、まさかここまで似てるとはね!」

「味噌ってさ、保存食なんだよな?」

「ああ、そうらしいね」


「……どれくらい持つのかな?」

「さあ? 試したことないから。 こちらの世界には、保存料とか防腐剤とかはないんだろう?」

「でも戦国時代とかでも、味噌は保存食だったみたいだし」

「どうしてそんな事を、気にするんだい?」


 御子神は不思議そうに、俺の顔を覗きこむ。


「いや、こっちの世界にも味噌があるのが、不思議だったから気になっただけだよ」

「ふうん? そうか」


「……塩分ってさ……体にとって、すごい大事だろ?」

「ああ、そうだね」


「戦国時代の、足軽とかもさ……戦場に、持って行ってたんだろ? 味噌」

「うん、そうか……僕たちも、戦場に出るんだよな」

「ああ、ちょっとそんな事をな……思った」

「そうか」


 二人で、黙り込んでしまう。 周りがエロ話で騒いでる中、俺達だけが今現実を見ている。


「なあ、柳生君」

「なんだ、御子神?」


 御子神は下を見つめながら、つぶやくように言う。


「僕達は、生き残ろうな」

「ああ……生き残る! 俺は、絶対に!」


 御子神と、顔を見合わせて……笑い合う。


「なんか完全に、死亡フラグたってないか?」

「それより君酷いよ! 僕は、僕たちって言ってるのに、君は自分だけ生き残るって言ってたよ!」

「だってなんか、ホモっぽいだろさっきのセリフ」

「ホモは、君じゃないか!」

「だから、俺はホモじゃないって! ……多分」

「その多分が、怪しすぎるんだって」


 こんな風に御子神と笑い合いながら、飯を食うなんて不思議な気分だ。 お互い顔は知ってたし運動部同士、多少は会話もした事があったが……。 けっして仲が良いわけでも、友達って関係でもなかったのに。 今は、友達……なのかな?


 食事を終えて三十分ほど食休みを取ろうという事で、しばらくホールに居たのだが……男子グループと女子グループで、口喧嘩が始まっている。 まあ原因は、男子がメイドさんとエロい事をしているのに、女子が腹を立てたからだ。


「あんたたち、最低!」

「うるせえな! おまえらだって執事とそういう事すればいいだろ!」

「すぐにそうやって、エロい方向に物事考えるのが、最低だって言ってるの!」

「なんだよお前嫉妬してるのか? 俺がメイドさんにちやほやされてる事に。 お前、俺の事好きなんじゃねえの?」

「ばっかじゃないの!! あんたみたいなやつ、勇者でもなければ女の子に相手にされないわよ!」

「うるせえよ! ブス!」

「なんですってえええええ!!」


 おい! 皿を投げるな! 危ないだろ!


「あっぶねえだろうが! このブス!」

「うるさい! おまえだってブサイクだろうが! この童貞野郎!」

「へーん、童貞はさっさと卒業しますから! 美人のメイドさんとな」

「気持ち悪いんだよ! だいたいメイドさんメイドさんってなあ……お前ら仕事でメイドさんに相手されるだけなんだから、プロ相手にするのと変わんねえんだぞ! 素人童貞! 死ね!」

「なっ!!??」


 おっ! いまのはダメージでかいな。 たしかにやる気満々で勇者をたらしこもうとする侍従はプロみたいなもんだ。 さあどう反撃する?


「う……うるせえブス!」


 だめだな完全に負けてる。


「なあ、御子神」

「なんだい? 柳生君」


 よくこの状況で落ち着いて、茶なんて飲めるな。


「どうするんだこれ?」

「さあ? どうしようもないんじゃないかな?」


「とりあえず、風呂行くか?」

「そうだね」

「行こう」「行こう」


 そういう事になった。


 食事ホールから出ると、リアナさんとレイラさんが入口で待っていた。 いつの間にか外に出てたのか。


『ケンイチ様! お着換えとタオルをお持ちしました』

『ノリアキ様どうぞ』


 なるほど、着替えを持ってきてくれたのか、さすが気が利くな。


『大浴場はあちらですっ! ごゆっくり、おくつろぎください』

『わたくしどもも、お風呂をとらせて頂きますので、どうぞごゆるりと』


 侍従さんたちもお風呂に入るのか。 まあそりゃ入るよな。


「リアナさん達も、大浴場へ行くの?」

『いえわたしたちは』

『わたくしどもは、こちらのお風呂に入る身分ではありませんので』


 どこかに侍従用の、風呂があるのか?


『ではノリアキ様、後程』

『ケンイチ様! 綺麗にしてきてくださいね!』


 やばい、これ完全にヤバい!


 大浴場は本当にデカい岩風呂で、岩肌を伝ってお湯が流れてきている。 カランは無くシャワーの代わりに打たせ湯の様な物があり、そこで頭や体を洗う様だ。 石鹸もシャンプーも、あったので一安心。


「なあ? シャンプーって、何で作ってるのかな?」

「さあ? 頭髪に優しい素材で、作った石鹸なんじゃないか?」


 まあしかし、風呂はやっぱり気持ちいい。


「ところで柳生君、話があるんじゃなかったのかい?」


 そうだった!


「ああ、御子神……お前は、レイラさんとはどうなんだ?」

「どうって? まあいい感じだよ」

「いい感じってのはどんな感じだ? こう……ル〇ンダイブとかしてくるのか?」

「ル〇ンダイブ? なんだいそれは?」


 さっきの話をすると、御子神は大爆笑した


「あっはっはっは!! なんだそれ! バカだ!! バカな子がいるよ!!」

「まあバカだよなあ……さすがにあれはないわ」

「いや、バカなのは君もだよ柳生君、あはははは」

「なんで俺が、バカなんだよ」


「そのル〇ンダイブ……ぷっ、いや失礼。 ル〇ンダイブより前に、いい感じにはならなかったのかい? さりげなく誘ってきたりとか」

「まあそんな感じは、あったのかもしれないな」

「彼女たちはさ……僕たちを、誘惑しなくちゃいけないんだよ」

「ああそれはなんとなく、わかってるよ御子神」


「普通の高校生男子なら、簡単にひっかかる。 僕も含めてね」

「お前もかよ!?」

「だけど君があまりにも朴念仁だから、強硬手段に出たんだろう?」

「うん、そうだな」

「もっと、うまくやらなきゃだめだって」

「でも俺は……その気がないんだぞ?」


 御子神は俺の顔を見て、真剣な表情をする。


「柳生君……」

「な、なんだ御子神」

「君、やっぱりホモなんじゃ?」

「それは、もういいっつーの!」

「ははは! でも違うんなら、どうして?」

「そういうのはさ……好きな子としたいんだよ」

「ピュアか!!」

「ピュアで悪いか!」


 二人で、顔を見合わせて笑う。


「しかしなぁ、それにしたってリアナちゃんかい? やり方が下手すぎるな」

「ああ、さすがにあれはな……ひくよ」

「もっと上手い事ムードを作って……いやムードはなくても、こっちがその気になる様に」

「お前そういうの、リアナさんに教えるなよ? 絶対だぞ?」

「僕が教えなくても、今頃レイラが教えてるだろうけどね」


 そうだった! 今頃あの二人は作戦会議中だった!!


「部屋に、帰りたくない……」

「だから君は、酔っぱらったふりをしたOLか!?」

「だからお前は、それを見た事があるのか!?」

「「あっはっはっははは」」


 なんだかなぁ。 こうして話してると楽しいけど、どうしよう?


「なあ、御子神?」

「なんだい、柳生君」


 風呂から上がって、着替えながら話す。


「今日、俺お前の部屋に」

「だが断る!」

「断るの、早いな!?」

「僕は君と違って、レイラさんとお楽しみの時間があるんだからね! 邪魔されたくないよ」

「やっちゃうのかぁ」

「やるよ! 僕はやるさ! 今日は記念すべき日だ!」

「でもお前さぁ……モテるじゃん? メイドさんじゃなくても、ほら一緒に転移してきた女子とかさぁ」


 具体的には、鷹村とか。


「うーん、たしかに中には僕の事好きで、前に告白してきた子とかも居るけどねぇ」


 おお!? それって鷹村か!?


「なんだよ! 誰だよ! 教えろよ!」

「一年の宮藤真咲、うちのマネージャーの子だよ」

「おおモテモテだな! で? どうしたんだ?」

「いや君知ってるよね? 好きな子がいるからって断ったよ。 僕は野中さんが、好きだったんだから」


 あっそっか。


「それに宮藤は、侍従に執事選んでたしね」


 執事選んでるのかよ!


「じゃ、じゃあ他の子とかは?」

「正直恋愛対象になるかどうかはわからないよ。 そりゃあ中には、かわいい子もいるけどね。 でも、今まで好きだと思った事はないんだし。 目の前には、今すぐエッチできる好みのタイプの、メイドがいるんだから」


 やっぱりお前も、目先のエッチかああああ!


「でも、これから好きになるかもしれないだろ? さっきの話じゃないけど、勇者を篭絡する為にエッチする子よりさ。 普通に恋愛できる子の方が、よくないか?」

「なあ、柳生君……」


 おう、迫力あるな……御子神?!


「僕はね……エッチがしたいんだ!」


 うおう! なんかカッコいいぞ御子神!


「そして目先のエッチに飛びついたら、その時点で女子生徒からは嫌われる! だからもういいんだ! 僕は目先のエッチで、満足することに決めたんだ!」


 ある意味……漢だぜ……御子神。


「そうか、御子神。 なら俺はもう何も言わねえよ」

「ああ、柳生君……僕は今日、大人になるよ!」



「しかしなあ、御子神よぉ」

「なんだい、柳生君」


 コーヒー牛乳の様な味の、コーヒー牛乳という名の飲み物を飲みながら、俺達は脱衣所で話している。


「一体俺は、どうしたらいいのかなぁ?」

「うん……それはもう僕の、知ったことではないね」

「俺を見棄てるのか、御子神!?」

「僕なら間違いなく、目先のエッチに飛びつくからね! エッチしないとか意味わからないよ」

「うん、そうだよな……」

「もういっそのこと、覚悟を決めてしちゃえば?」

「まあ……そういう手も、なくはないよなぁ」

「おっ? やるかい?」

「いやあ、こればっかりはなぁ……」

「へたれだね!」

「そう言ってくれるなよ、ピュアと呼べ」

「はいはい、ピュアピュア!」


 くそう、バカにしやがって!


「まあ、上手くやるしかないね」

「だから、やりたくねえんだって」

「いや、そうじゃなくてさ」


 御子神が、俺を見つめる。


「上手く、躱すんだよ」


 上手く躱す?


「いいかい柳生君。 彼女たちは勇者を、たらしこむのが目的だ」

「お、おう」

「それは、何の為だい?」

「それは……勇者がこの世界で、魔王を倒す気にさせる為だろ?」

「ああ、そうだね。 そうだと思う」


 御子神が、頷く。


「僕たちをたらしこんで、この世界にとどまるのは良い事だ! この国の為に働こう! という気にさせようとしている。 そうだろう?」


 うん、そうだな


「だったら君は、別にエッチなんてしなくても、働く気があるという意思を見せればいい」

「でもそれでも、エッチしようとしてきたら?」

「その時は君の信条である、好きな子としかしないって事を、話せばいいさ」

「話して、通じるのか?」

「だからそれを、上手くやるんだよ」


 自信ねえなぁ……。


「リアナちゃんの事を、好きになってからしたいとかさ」

「いや、他の子を好きになったらどうするんだよ」

「その時は、その時さ」

「適当だな!」

「いや別に他の子を、好きになったって構わないのさ。 だってその子も、この世界にいるんだからね! その子の為に魔王を倒すわけだから、向うとしても何も問題ない」

 

 おお? そういうもんか!


「御子神……やっぱお前、頭いいなぁ」

「モテる男は、断るのも上手くやらなきゃいけないからね。 こういうのは慣れてるんだよ」

「自分で、言うなよ」

「「あはははは」」


 結構長く話していたので、入浴時間が終了した。 脱衣所で長話をしていたので、他の男子からは変な目で観られたが……。


「さてじゃあ……いきますか」

「ああ、戦場へ……」

「僕と君は、全く違う戦いをするけどね」


 そうですね! さあ俺の、貞操をかけた戦いが始まる!!

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