その動きは・・・ト〇・・・いやル〇ン!?
『ケンイチ様、灰皿をお持ちいたしました』
ベッドに腰かけて待っていると、リアナさんが灰皿を持って戻ってきた。
「ああじゃあ、サイドテーブルに置いてもらえる?」
『はい!』
じゃあ灰皿もきたことだし、人生二本目の煙草にチャレンジするかな? 煙草を咥え、ライターで火を着けようとした時。
『お着けいたします』
リアナさんが小さな箱を、こちらに差し出した。
「これは?」
『はい! こちらの世界の、着火装置です! 紙巻や葉巻などに、火を着ける魔導具です』
「火を? さっき火の魔法石は、危ないって言ってたけど」
『簡単な装置なら、危険はないですから! どうぞ!』
カチッという音と共に、火が着いた……うんライターだな。
「ありがとう」
軽く息を吸いこんで、煙草に火を……。
「ごほっごほっ!」
『ケンイチ様っ!? 大丈夫ですか?』
「大丈夫大丈夫! ちょっとむせただけだから」
やっぱり、二本目の煙草じゃ慣れないよな。 しかし煙草は絶対に、必要になるはずだ。
「ねえ、リアナさん?」
『はい! なんでしょうかケンイチ様』
返事をしながら、俺の隣に座るリアナさん。 なんで?
「な、なんで隣に座るの?」
『あの、えっと……申し訳ございません! はしたないマネをっ!』
慌てて飛びずさり、立ち上がるリアナさん。 うん、直立不動じゃなくてもいいんだけどさ。
「えっとそれで……この世界の紙巻について、訊きたいんだけど」
『はい! どういった事でしょうか?』
「どれくらいの値段なの?」
『嗜好品になりますし、紙巻は少々お高いです……庶民では手が出せないです』
「えっ? そんなに高いの?」
『はい、わたしは吸わないので、詳しくはわかりませんが……たしか五本入りで、銀貨一枚くらいはしたかと』
あー通貨単位が違うのか?
「えっと通貨単位が日本と違うのかな? うーん? 銀貨がどれくらいの価値なのか」
『あっいえ! 銀貨は一万円です!』
「えっ? 円?」
『はいっ! 初代皇帝陛下が円にすると、お決めになられましたので』
タナカイチロウさんか……。 とりあえず財布を取り出す。
「えっと、こういう紙幣とかは?」
千円札を見せてみる。
『これが日本のお金なのですか!? こういった紙のお金は、こちらにはございません』
紙幣は無いのか、財布重くて大変そうだな。
「ええっと、じゃあどういう感じ?」
『はい! 青銅貨が十円、銅貨が百円、大銅貨が千円、銀貨が一万円、大銀貨が十万円、金貨が百万円、大金貨が一千万円です。 金貨は大きな商取引くらいでしか、使われませんけど』
「最小単位が10円なのか? だったら一律一桁下げればいいのに」
『初代皇帝陛下が、その方が物の価値がわかりやすいと……』
日本に合わせたのかタナカイチロウ。 でも結局リアナさんは銀貨一枚って言い方してたし……通貨単位としては通用してないんじゃないのか?
「しかし煙草が一万円かぁ……高いなぁ」
『大商人の方とか貴族の方くらいしか、お吸いにならないです』
「俺が欲しいって言ったとして、貰えるのかな?」
『嗜好品ですから、許可はいりますが……多分大丈夫じゃないかと』
少し心配だが、一応手に入りそうだな。
「それじゃあ紙巻? 手に入れてもらえるかな? 持ってきた煙草だけじゃ、すぐになくなっちゃうだろうし」
『かしこまりました! 他に御用はございませんか?』
「うん食事ってあと、どれくらいかかるのかな?」
リアナさんは、首をかしげて考える
『おそらく、あと一時間くらいかと』
一時間かあ……腹減ったんだけどな。 っていうか今何時なんだろう? 向うと時間が一緒ってわけじゃないだろうし。
「そっかあ、じゃあまったりしながら、待つしかないか」
二本目の煙草をもみ消して、何をしようか考えていると。
『あの……ケンイチ様?』
うおぅ! リアナさんが、急に顔を覗きこんできた。
「なに? リアナさん?」
『一時間ほど、時間がありますよっ!』
「ああうん、一時間だね?」
『はいっ! 一時間ですっ♪』
なんだろう? 一時間に何か意味があるのか? ああそうか。
「リアナさん」
『はっはいっっっ!!』
答えながらリアナさんがまた俺の横に座る。 ……いやだから、なんで座るの?
「えっと」
『はいっ!』
両手で俺の手を握ってくる。 近い近い!
「一時間あるから」
『一時間あるから!?』
「その間、自分の部屋で休憩してていいよ」
『…………はい?』
「とりあえず、食事の時間まで待機してて」
『…………』
なんだ、この沈黙は?
『か……かしこまりました』
とぼとぼと侍従用の部屋へ去っていくリアナさん。 仕事したくて仕方ないんだな……。 でも他にやってもらうこと無いしなぁ。 さて一時間どうやってつぶすか? スマフォも使えないし、テレビなんて物も無いしな……。 体が動く様になったんだしトレーニングでもするか? いや汗だくになるだろ。 風呂に直ぐに入れるわけじゃないしなぁ……。 さて本当に困った。そういえば、御子神のやつは部屋に戻ったかな? 御子神とオセロでもするか?
そんな事を考えていると、リアナさんが物凄い勢いで部屋に飛び込んできた。 え? もう一時間経ったの? 向うとこっちの時間の違いってやつか?
『ケンイチ様っ!! お着換えをお持ちいたしました!』
息を切らせて、浴衣を見せるリアナさん。 なんか怖いよ?
「き、着替えか。 あ、ありがとうリアナさん」
『いえ! 侍従の務めですから!』
「そ、そっか……じゃあそこに、置いておいてくれるかな?」
『へ?』
「いや、着替えるからそこへ……」
『では! お手伝いいたしますっ!!』
なんだその動き!? ル〇ンダイブか?! とりあえず躱す。 サイドテーブルに足をぶつけて、ベッドに倒れ込むリアナさん。 ああ灰皿が! いや灰皿の心配よりリアナさんを心配しないと。
「だ、大丈夫?」
『大丈夫です! 痛くないです! いえ最初は痛いかもしれないけど、頑張りますからっ!!』
「わけのわからないこと言ってないで! 落ち着いて! 深呼吸! 深呼吸しよう!」
リアナさんをなだめる。 ……なんか怖いよこの人。 目が完全に血走ってるし……。
『わ、わたしは落ち着いています! 大丈夫です!』
「いや全然落ち着いてないよっ!? いいから深呼吸して!」
なんとかなだめると、リアナさんはしぶしぶ深呼吸しながら脛をさすっている。 やっぱり痛かったんだな。
「着替えは自分でするから! 仕事熱心なのはいいけど、ほんと自分でやるから!」
『お着換えのお手伝いは、侍従の務めなのに』
「いやなんか着替えの手伝いって、手つきじゃなかったよ?! 怖いからほんと」
『わ、わかりました。 そこまでご自分でなさりたいとおっしゃるのなら我慢します』
「わかってくれて、本当にありがとう!」
落ちてしまった吸殻を片づける、リアナさんを尻目に上着を脱ぐ。 リアナさんは脱いだ上着を素早く受け取りハンガーにかける。
「あっどうも」
『いえいえ♪』
……あれ? リアナさん出て行かないぞ?
「あのリアナさん?自分でやるからいいよ?」
『それだけは譲れませんっ!』
なんだこの気迫は……。 空手の試合でもここまでの気迫を感じたことないぞ? 仕方ない、ワイシャツを脱いでリアナさんに渡す。
「えっと」
『ワイシャツは、お洗濯しておきますね♪』
ああ、うんそうじゃなくて……。
「ズボンを」
『はい♪ お受け取りいたします!』
脱げってことか……しぶしぶズボンを脱いで渡すと、リアナさんが下着を渡してくる。
『こちら、新しい下着になります♪』
「えっと? 履き替えろと?」
『はぁい♪』
それはさすがに……。
「ダメだろ!!」
『なんでですかっ!?』
「とにかく、それはダメだ!」
『やはりわたしが、お手伝いをした方が?』
「そういうことじゃない!」
『じゃあ、どういう事なんですかっ!?』
これは、あれだな……いくら鈍感な俺でもわかる。 貞操の危機ってやつだ……完全にこの人やる気だよ! いや犯る気だよ! 俺だって男だし? そういう事に興味がないとかそういうわけじゃないし? 桐生との約束だって本当は楽しみだったし? いやそんな事考えてる場合じゃねえ。 このまま犯られていいのか俺?
「お……お風呂!!」
『はい?』
「下着はお風呂入ってから、履き替えるから!」
『ま、まあそうですね……履き替えるなら、キレイにしてからですよね』
よし俺よくやった!
『では、お風呂の支度をいたしますね♪』
「いや大浴場で入りますっ!! ほんとでっかいお風呂とか楽しみだなぁ!」
『そ、そうですか? 大浴場の中は、わたし同行できませんが……』
「うん! 大丈夫! ありがとう! じゃあ浴衣着るから! それ貸してくれるかな」
リアナさんから浴衣を受け取り羽織る。 ……あっぶねえええええええ! しかし……こういうやりとり、男子全員してるのか? 勇者を篭絡する為の、色仕掛け……侍従怖い!!