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煙草と決意

 結局他の奴が、リアナさんを指名する事は無かった。 おかげで俺は、部屋に移動できるわけだ。


『あの!勇者……ケンイチ様! お荷物、お持ちいたします!』


 俺は下校中だったから、鞄と松葉杖を持っている。 松葉杖は……もう必要ないのかな? 動けるうちは部屋に置いておこう。 しかし鞄持ってもらうのか……。 なんか悪い気がするなぁ。


「いや、いいよ! 自分で持てるし」

『いえっ! そういう訳にはいきません! 側仕えの務めですから!』


 そういうもんなのか? なんか張り切ってるし持ってもらった方が良いのか。


「それじゃあ、お願いします」

『はいっ♪』


 中身は教科書とか、ノートとか、空の弁当箱か。 後で洗わないと、臭いがヤバいことになるな。 弁当か……野中が自分が作ってくるとか言ってくれてたけど、一回くらい作ってもらっておけば良かったかな? 弁当食う時も、食べさせてくれようとしてたっけ。


『あの、ケンイチ様?』

「ああ、ごめん! じゃあ部屋割りを確認して、移動しようか」


 まだ争奪戦が繰り広げられている、広間を後にして客殿に向かう。 しっかし、これホント老舗旅館だわ。 エントランスに行くと、スズキが待っていた。


『ヤギュウさん、侍従が決まったのですね』

「ああ、おかげさまで」

『では二階が男性用の部屋になっていますので、空いてる部屋にどうぞ』


 早い者勝ちか。 まあ別に希望があるわけじゃないが……。 二階に行くと、浴衣を着た御子神と会った。


「おっ? 柳生くん早かったね? 最後まで、残るんじゃなかったのかい?」

「さっさと飯食いたくなったから、途中から参加したんだよ。 てか浴衣?」

「ああ僕たちサッカー部は、グラウンドで練習中だったから汗かいてたし。 着替えが欲しいって言ったらこれだったんだよ」

「完全に旅館だな。 こっちの服も、早めに用意してもらわないとな」


 御子神が、リアナさんを見てニヤニヤする


「しかし柳生君は、そういう子が好みか。 そうだね。 なんとなく野中さんに似てるかな?」


 そうか? 別に意識しないで、適当に選んだだけなんだが……雰囲気は、似てるのかもしれないな。


『あのっ!! ノナカさんとおっしゃられるのは?』


 リアナさんが、おそるおそる聞いてくる。


「ああ! 柳生君が向うの世界で、好きだった子の事ですよ」


 勝手な事を言うなよ、御子神……。


『に、似てらっしゃるのですか? ……わたしに?』


 リアナさんが、俺に問いかける。 近い……近いよリアナさん。


「う、ん? どうだろう? 似てる……のかな?」

『そうですか、好きな方に……』


 うつむくリアナさん。


「そんな事より、お前の方はどうなんだよ御子神」


 とりあえず話題を逸らそう。 うんなんかあれだし! 御子神は、二ヤリと笑うと


「ああそうだね。 レイラさん! こちらへ」


 呼ばれて、メイドさんがやってくる。


『ノリアキ様付の、レイラと申します。 以後お見知りおきを』


 スレンダーで胸は……そんなに大きくないな。 清楚で可愛いタイプ、でもこれって?


「お前こそ! 野中さん、意識しまくりじゃねえか!?」

「はっはっは! そりゃそうだよ! 僕は君と違って、最初から参加してるからね! 出来るだけ自分の理想に近い女性を選んだ」


 第二希望って言ってたくせに……本命の子は、もっと野中さんに似てるのか?


「それで? お前浴衣で、どこ行くんだ? 風呂か?」

「いや! 風呂は時間が限られてるって、言ってただろ? とりあえず、この施設を見学に行こうかと思ってね」


 そういえば、そんな事言ってたか。


「見学って言ったって……別に大した物は、無いんじゃないか?」

「手持無沙汰なんだよ。 勉強もする必要が、なくなったし」


 こいつ……家に帰ってから、勉強してるのか? さすが成績上位、ちゃんと努力してるんだな。


「お前、どこの部屋にした?」

「別にどこの部屋でも一緒だろうから、階段に近いところにしたんだよ。 そこの部屋さ。 っておい、僕の部屋を知ってどうするんだ?」


「別に他意はねえよ。 ただまあ知ってる奴、お前と鷹村くらいだしさ。 まあ鷹村とは仲が、いいわけじゃないけど」

「鷹村さん? そういえば、君と同じクラスだったっけ? ふうん……野中さんだけじゃなくて、鷹村さんにも、気が合ったとは知らなかった」


「ちげーぞ?! 今回のメンバーでちゃんと顔と名前が一致するのが、お前と鷹村さんだけだって事だよ! それに鷹村さんは」

「鷹村さんは? なんだい?」


 いや……勝手に気持ち伝えるとかは、流石にまずいよな。


「別になんでもない! まあそういうわけだから! 偶にお前の部屋に遊びにでも行こうかなって、そんな程度のことだよ」

「遊びに……ね? そういえばトランプとか、チェスがあるって言ってたな。 借りてくるか?」

「チェスはわかんねえよ。 将棋かリバーシにしてくれ」


 まあ、弱いけどな。


「ああそうだ、柳生君」

「なんだ?」

「トイレには気を付けろよ……あれは、破壊力がヤバい!」


 破壊力? どういう事だ?


「破壊力ってなんだよ? 爆発でもすんのか?」

「ああ……あれはある意味では、爆発級だ」


 トイレがヤバいってのはキツイな。 まあたしかに、ウォシュレットとかも無いんだろうし。


「御忠告どうも! 気を付けるよ」

「ああ、じゃあ僕はいくよ! 君も部屋が決まったら、教えてくれ」

「ああ、じゃあな」


 御子神は階段を下りていき、その後を御子神のメイドのレイラさんが着いていく。 うん、やっぱり似てる気がするな。


『あのっ! ケンイチ様? ……やっぱりレイラさんの方が、良かったですか?』


 リアナさんが、少し悲しそうな目をしている。 選ばれない悲しさを引きずってるな。 トラウマにならなきゃいいけど……。


「そんなことないよ! とりあえずリアナさん、空いてる部屋を探してくれるかな?」

『あっ! はいっ!』


 リアナさんには仕事をしてもらって、自分が優秀な侍従だってことを自覚してもらおう。 そうすれば自信も、取り戻すだろうし。


『ケンイチ様っ! こちらの部屋が空いておりますっ!』

「ありがとう! リアナさん」


 どれどれ? うおっ?! 広いな……無駄に広い。


『入口を入ってすぐの、こちらがわたし用の部屋になります! わたしが部屋にいる際に何か御用がある時は、こちらのベルを鳴らしてくださいませ!』


 侍従用の小部屋ってやつか。 普段はここで控えてるってことだな。 まあずっと部屋に居られたら落ち着かないしな。 しかし、音とか丸聞こえなんじゃないか? 気を遣うことになりそうだなぁ……。


『ケンイチ様、お荷物はどちらに置けばよろしいですか?』


 ああ、鞄ずっと持ってもらってたな。 とりあえず……。


「うんベッドの横に、置いて貰えるかな?」


 松葉杖は入口の脇にでも、立てかけておこう。 そういえば、個室にも風呂があるって言ってたけど何処だ?


『ケンイチ様? 何かお探しですか?』

「ああリアナさん! 風呂があるって聞いたから、どこかなって思って」


 リアナさんが少し驚いた顔をして、そして頬を赤らめる。


『そっ、そうですね! お風呂ですか……あのっ! おっ、お湯の準備をしなくてはいけませんが、今そのっ! 用意してきますので!』


 慌てて部屋を出ようとする、リアナさんを引き留める


「えっ!? ちょっとリアナさん? 入るわけじゃなくて、場所をちょっと確認したかっただけだから!」

『そっそうなのですか? わたしとしたことが、とんだ粗相を』

「いや別に大丈夫だよ! それよりお風呂と……トイレの場所を、知っておきたいかな」


『はい! こちらがお風呂の脱衣所になります! 洗面所もこちらにございますが、洗面の際はお水を用意する必要がありますのでお申し付けください! 奥が浴室ですが、お湯もこちらでは出ませんので用意してくる必要があります』


「水道がないって言ってたもんね、どうするの?」

『はい! 水の魔法石と火の魔法石を使って、お湯を作ります』

「魔法かぁ……便利なんだろうね」


『こちらの湯桶に水の魔法石で水を張って、そこに火の魔法石を入れてお湯を沸かします! そしてこちらの桶に水を張りまして、適温になる様に混ぜて』

「なんか便利な様で、不便だね」


『火の魔法石は危険なので取り扱いが難しいのです。 なので常にこちらに置いておくわけにはいかなくて……。 こちらでの入浴をご所望の際はお言いつけくだされば取りにまいりますっ!』


 石取ってきてお湯沸かして、混ぜて浴槽に湯を張って……結構な重労働だぞ


「大浴場の方も、同じ方法なの?」

『いえっ! 大浴場はそれ用の設備が整っているので、お湯が自然に浴槽に貯まりますが。 魔法の維持が大変なのだと聞いております!』


 まあとりあえず、風呂は大浴場で入ろう。


「それでトイレは……」

『はいっ! こちらです!』


 案内されて隣に行くと、そこは……脱衣所?


『こちらがトイレの、脱衣所になります!』

「はっ?! トイレの……脱衣所?」

『はいっ! 奥の扉に入ったところが、トイレになります!』


「えっと」

『あっ!? ご使用になられますか?』

「いやっ! こっちも場所が、知りたかっただけだから!」


 破壊力ってのが気になるしな。 しかし脱衣所って? まあいいや……とりあえず場所はわかったし、使う時にまた聞こう。 風呂、トイレ、寝室……あとはキッチン?


「キッチンなんかは?」

『お食事は一階のホールで、お取りいただく事になります! お申し付けくだされば、こちらでの食事も可能です! 軽食などもわたしが、運んでまいりますので』


 料理は用意してもらえるから、する必要なしか。


「じゃあ、あとは寝室かな」

『はっ……はいっ! ベッドはこちらです』


 リアナさん、急に動きがぎくしゃくしだしたぞ……どうしたんだ? おおーベッドでけえ! なんだこれ何人寝られるんだ? しかし作りが旅館だから、布団かと思ったけど中は洋室なんだな。


「えっと、じゃあとりあえず」

『ひゃっ! ひゃいっ!』


 返事が上ずってるぞ?


「リアナさんに、お願いがあるんだけど……」

『は・はい! 覚悟はできてますので』


 なんの覚悟だ?


「灰皿、持ってきてもらえるかな?」


『……はいいい?』

「あっ? 灰皿わからないのかな? えっとね」


 制服のポケットから、煙草とライターを取り出して見せる。


「これさ煙草って言うんだけど……こっちにも、有るのかな?」


 箱から一本取り出して、リアナさんに渡す。


『紙巻ですかね? こちらの物とは少し違うようですが』

「ああ、あるんだ? それを吸いたいんで、灰受ける容器を」

『灰皿でしたらこちらの世界にもございますっ! ……ご用意いたしますので少々お待ちくださいっ!』


 なんかリアナさん怒ってる? 灰皿知らないってバカにされたとでも思ったのかな?


「お、おねがいします」


 リアナさんが部屋から出て行った。 煙草か……。 桐生からこれをもらったのついさっきの事なんだよな。 なんでこんなに懐かしく感じるんだろうか? 勇者とか異世界とかそんなの……初めて吸った煙草で見てる幻覚とかならいいのにな……。 


「まあ煙草にそんな幻覚作用あったら、そんな簡単に買えるわけねえよな」


 そうだ、これは現実! いくら現実ばなれしてるとしても、立派な現実なんだ! 現状を受け止めろ柳生拳一! 俺は絶対……逃げ出してみせる!

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