表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/22

気になるあの子

初投稿です

拙い文章で申し訳ありません


「ごめんね!柳生君待った?」


 野中さんが息を切らせながら声をかけてくる。


「ああ……いや全然。 もっとゆっくりで良かったのに」

「ううん……ごめんね」


 そう言いながら野中さんはコピーを俺に手渡した


「ありがとういつも助かるよ」


 野中さんはここ数日授業のノートをコピーしてくれている。


「でも毎日コピーするのも大変じゃないか?」

「ううん……先生が職員室のコピー使わせてくれたから全然大変じゃないよ」


 コンビニでコピーしてたら小遣いだってなくなるし有難いよな…。


「野中さんのノートのわかりやすいから成績あがっちゃうなぁ」

「そう? そうだといいんだけど……ごめん」


 野中さんは俺の右手を見て悲しそうにする。


「野中さん謝ってばっかりだなぁ……大丈夫だって! だいぶ動くようになってきたんだよ?」

「うん……」

「ほんとノート助かってるからさ! ほんとありがとう」

「そ……それじゃあ帰ろうか? わたし今日も一緒に……」


 野中さんはそう言うと俺の鞄を持とうとする。


「ああ……今日はちょっと用事があるから、野中さんは先に帰っていいよ!」

「用事? だったらわたしも……」

「大丈夫大丈夫! 松葉杖にも慣れたし、自分ひとりで歩く方がリハビリになるって先生も言ってたしさ!」

「……ごめんね」


 野中さんは、またうつむいてしまう。


「だから、ほんともう謝らないでいいって! そんなに謝られると困っちゃうよ…… 野中さんは、笑ってる方が素敵なんだからさ」


「え……うん……ごめん」


 野中さんが顔を上げてぎこちなく笑う。

彼女が本来の笑顔を取り戻すのはいつごろなのだろう……。


「と……とにかく野中さんは先に帰ってよ! また明日!」

「う、うん……わかった、また明日の朝校門で待ってるからね!」


 毎日家まで迎えにくるという野中さんを説得して、校門での待ち合わせにしてもらっている。

何度も振り返りながら、彼女は申し訳なさそうに教室を後にした。

 ……毎日この調子じゃ、野中さんがストレスで倒れちまうな。

俺がもっと……強かったら、こんなことにはならなかったのかな?


 野中優希(のなかゆき)は、俺のクラスの委員長をしている。

 成績優秀でクラスでも一番人気の美少女だ。

 二か月前、俺はたまたま町中で三人組に絡まれている野中さんを見つけ、助けようとしてケガをした。

 ずっと空手をやっていたし、三人くらいなら余裕だって思っていた。


 二人を速攻で殴り倒して、三人目と向き合った時だ。

もう起き上がってこないだろうと思っていた、一人目の男がナイフを俺の右足に突き立てた。

 反射的に右足に目をやった隙に、三人目の男に殴られて倒れた俺は、その後ひたすら蹴られた。

無我夢中で起き上がり、なんとか相手の攻撃を凌いだけど完全にパニック状態で、いままで習った空手を使う事もできなかった。


 二人目の男はのびていたけど、ナイフで平気で刺してくる奴らと二対一。

 通行人の通報で駆け付けた警官がやつらを取り押さえてくれなければ俺は死んでいただろう。

 即病院に運ばれて緊急手術、そして入院。


 数日前にやっと退院したが、右手と右足がまだまともに動かない状態だ。

見舞いにもずっときてくれていた野中さんは、退院後何かと俺の面倒を見てくれている。


 野中さんは俺の体が元に戻るまで、一緒にいると言ってくれているのだけれど……医者の話では右手は元の様には動かないだろうとの事だ。

 リハビリを続ければ、日常生活はなんとか送れる様になるみたいだけど……ずっと続けていた空手はおそらくもうできないんだろう。


 左手で右手に、松葉杖を装着する。

 まともに動かない右手で、松葉杖を使うには固定しないといけない。

 左脇に鞄を抱えて、教室を出る。


 教室が一階で、助かったよなぁ……階段とか、転ばない方が難しい。

 靴を履き替えて、外に出る。

 上履きを下駄箱に入れるのは無理なので、脱ぎっぱなしだが事情が事情だ。

 朝履きやすい様に揃えてあるのは、多分野中さんがやってくれてるんだろう。


 校舎裏に向かうとお目当ての奴がいた。


「よう桐生!」


 一瞬びくっとした桐生が、俺を見て苦笑いする。


 桐生康平(きりゅうこうへい)は俺の幼馴染……でいいのかな?

 ガキの頃はうちの空手道場に通ってきていて、大会では俺と優勝を争っていた。

 良きライバルってやつ……だった。

 

 交通事故に巻き込まれて怪我をしてから、道場には来なくなった。

 詳しい事は結局教えて貰えなかったが、きっと今の俺と同じ様な状況だったのだろう。


「なんだよ空手部のエースか、脅かすなよ」


 ……空手部のエースか。


「もう空手部じゃねえよ……」

「なんだよ、ケガ治ったらまたやるんだろ?」

「ああ……怪我が治ったら……な」

「……そっか、すまん」


 謝りなれてない、桐生の顔を見て少し笑ってしまった。


「いや気にすんな、そんな事よりお前に用があったんだ」

「俺に!? お前が俺に用とは珍しいな? 一体どんな用件だ?」

「お前が今やってた事だよ、桐生」

「俺が?」


 何を言っているのか、わからないといった表情の桐生。


「煙草だよタ・バ・コ!」

「あん!? 煙草……お前が?!」

「おう! 空手やってた時は、煙草なんて吸う気にならなかったけどな……ちょっと興味がわいた」

「わかりやすいグレ方するな! お前」

「お前には、言われたくないけどな」


 桐生がくれた、煙草を咥える。


「なんかこれ、スースーするな」

「メンソールだからな、火着けるぞ」

「お、おう……どうするんだ?」

「そこからか……咥えたまま軽く息吸ってろ、そうじゃないと火がつかん」


 桐生がそう言いながら、火を着けてくれた。


「げほっ、げほっ! なんじゃこりゃ! こんなもん美味いのか? よく吸うな」

「まあ、慣れるとな…… で? どうだ初めての煙草は?」

「あー……頭ぽーっとするな……美味いとはとても思えないが……最近の悩みが少しマシになる気がするよ」


 桐生は無様にむせながら煙草を吸う俺を見つめると、ポケットから煙草の箱を取り出して渡してくる。


「よし! じゃあ慣れるまで吸ってみろ! まだ買ったばかりだから結構入ってる」

「いいのか?」

「おう! ほれライターも」

「悪いな」

「なーにいいってことよ! ただ自分で買おうなんて思うなよ?」

「なんでだ?」


 尋ねると桐生は、少し小馬鹿にした感じで。


「今は未成年者は、煙草買えないんだよ!」

「いや元々未成年者は、煙草買っちゃいけないだろ」

「まあな、でもそういうことじゃなくて最近うるさいのよこれが」

「じゃあお前、どうやって買ってるんだよ?」

「兄貴に横流ししてもらってる……一箱500円で」

「たっけえなぁ! じゃあ欲しくなったら、お前に売ってもらうしかねえのか」

「ああ! 600円で売ってやるよ!」


 ぼったくりやがんなぁ……でもなんで不良連中が、みんな桐生のところに煙草もらいに行くのかの謎は解けた。


「カートン買いなら割引価格で卸してやるよ、まあこっちだって危ない橋渡ってるんだからそれくらいはな」

「危ない橋?」

「未成年者に煙草売ってるんだから、十分危ないだろ?」

「偉そうに言うなよ」

「別に偉そうになんかしてねえよ! で、用件ってのはこれだけか?」

「ああ……あとお前の顔が、ひさしぶりに見たくなった」


 そう言うと、桐生は少し悲しそうな顔をする。


「まあ……空手やめてドロップアウトしたって点じゃ、先輩だからな」

「ああ……すまん」

「いやいいぜ、道場行かなくなってどれくらいかねぇ…… まあグレるなら色々俺が教えてやるよ! 女の抱き方とか?」


 俺の背中を叩きながら、桐生が笑う。


「いいな! 今度教えてくれ」

「おう!? ……お前がまさか、乗ってくるとは思わなかったぜ! よし、近いうち声かけるわ」


 ひとしきり笑うと、桐生が真面目な顔に戻る。


「なあ……本当に空手はもうやらないのか?」


 真剣な眼差しだ。 こいつなりに、心配してくれてるんだろうな……。


「いつか治ったら……またやるよ! 趣味程度なら、出来る様になるだろ」


 俺は今上手く笑えてるんだろうか? やっぱりぎこちないのかな? 野中さんみたいに……。


「そうか、趣味か……だったらお前がさ」

「うん?」

「治ったら俺にも声かけろよ! 俺もまた一緒に、趣味程度の空手……やるわ」

「そっか、それもいいな! また一緒に、やるか!」

「おお!」

「おぅ!」


 ガキの頃みたいに桐生と笑いあって、少し気分が晴れた気がする。

 よし! 明日からリハビリ頑張るか。


「それじゃあな桐生、まあここならめったに見回りこねえけど、先生には見つかんなよ? 新しい取引場所探すのも、めんどくせえからな!」

「ああ! 俺も帰るとするよ……じゃあな桐生」


 先にスタスタと歩きだした桐生の背中を見ながら、俺もゆっくりと歩きだす。 やっぱり松葉杖はキツイな……。

 やっとの事でグラウンドに着くと、もう桐生は校門を出ていくところだった。

 一瞬こちらを見て何か言ってる様だったが、多分女を抱かせるとか言ってた件だろう。

 

 あの楽しそうな顔を見ると、冗談だったとは言えないな……。

 まあいいか……そんな童貞卒業も、今の俺には有りなのかもしれない。


 グラウンドでは、運動部のやつらがランニングをしてる。 サッカー部と陸上部か……青春してるなぁ。

 俺も少し前までは、こいつらと一緒に青春してたんだけどな…… 人生なんて、何が起こるかわからないもんだ。


 うん……あれは? 校舎の陰から、サッカー部の練習を見つめる女子生徒が……好きな男でもいるのか? うん、こっちも青春してるね! ってあれは……鷹村か?


 鷹村聖(たかむらみずき)は、俺のクラスメートだ。

 学校では人気のある方で、告白した奴の数は数えきれない程って噂だ。

 ……もちろん、全員玉砕してる。 そんな鷹村が、サッカー部の誰かを好きって事なのか?


「へえ、鷹村がねぇ……どいつが好きなんだ?」


 今までは空手一筋でこんな事気にする暇もなかったけど、他人の恋愛ってのも面白いな。

 完全に野次馬根性丸出しで、少し観察する事にする。

 鷹村が、目で追ってるのは……御子神?


 サッカー部のキャプテンでイケメン、その上成績も上位でモテモテ。 完全チート野郎と言われる御子神典明(みこがみのりあき)か! ……うんやっぱり、人間顔は大事だな。


 ちなみに俺、柳生拳一(やぎゅうけんいち)は、成績は中の下で顔もそこそこ……そこそこのはずだ……悪くはないはず! 空手だけが取り柄のスポーツ少年ってやつだった。

 今じゃあその取り柄も無くなって、さてどうしよう?


「なんだかなぁ……」


 ああ、目の前がなんか明るい……涙で世界が、歪んで見えるってやつか?


 ……いや、これ明るすぎないか?

 なんだこの光……グラウンド!?

 グラウンドが……光ってる?


 なんだ? なにかの爆発事故!!!!!????






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ