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パラレルトリッパー 〜時空間研究所と6人の能力者たち〜  作者: 蔵樹 賢人
第二章 時空間研究所
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失われたトリッパーの捜索

 鬼塚の提案したパラレルワールド間の物流サービスは好調だった。パラレルワールドに事業を拡大し、成果を上げる企業が次々と現れていた。

 しかし、全ての契約企業が成果を上げているかというとそうでもなかった。ある企業では、パラレルワールドに進出したものの、そこには向こうの自分たちが同じ事業を既に展開していて、そこに食い込めることは何一つできなかった。

 しばらくすると多くの企業はそのことに気付き始めた。パラレルワールドというのは、全く別の世界=市場ではなく、ほとんどがこちらと同じ世界だということを。

 時には違う道を歩んでいる世界もあり、それはとても価値があるが、時空間研究所で捕捉しているパラレルワールドは、我々のいる世界を入れてわずか六つ。契約企業のニーズを満たすにはあまりに少な過ぎた。

 ビジネス展開を目的にするならば、もっと多様な世界がたくさん必要だったのである。

 企業は新しいパラレルワールドの開拓を次々に求めて来た。しかし、トリッパーを一人も抱えていない現状では、その要求に応えることができなかった。

 時空間研究所が持っているトリップマシンでは、新しいパラレルワールドを探し出すことはできない。それにはトリッパーの能力が必要だった。

 米国やEUにトリッパーのレンタルを依頼したが、彼らは拒否した。あのお披露目以来、米国もEUも、日本と同じビジネスを展開し始めていたからだ。今や日本、米国、EUの時空間研究所は競合していたのである。


 鬼塚は日に日に精神的に追い込まれていった。それは周りの目からも明らかだった。所長室から変な笑い声がしたり、スタッフの名前を忘れていたり、パソコンにログインできなかったりした。態度が暗く冷たくなったようにも感じられた。周りは心配したが、鬼塚は仕事はきちんとこなし続けていた。


「仙道さん、我々には、新しいパラレルワールドを開拓できるトリッパーが必要です。街中からトリッパーを探し出すのが難しいことは分かりました。それならば、現実的なのは、行方不明になっている三人のトリッパーを探し出し、ここに連れ帰って来ることです。あなたの開発した、トリップマシン、重力レーダー、そして波動測定装置、改良された高次元通信装置を使えば、それが可能なのではありませんか?」


 確かにそうだった。

 同じ三次元空間に置かなければ効果を出せない波動測定装置を、行方不明になっているトリッパーがいるであろう三つのパラレルワールドにトリップマシンを使って持って行く。

 今や、波動測定装置の測定範囲は、その三次元空間全体を網羅する。測定対象の三次元空間の地図やGPSと連動させれば、既に波動を把握している三人のトリッパーの居場所を突き止めることが可能だ。

 そして高次元通信装置と重力レーダーがその詳細な情報をこちらに送って来ることができる。うまくいけば、行方不明になっているトリッパーを救うこともできる。


「鬼塚、やってみよう。三つのパラレルワールドにトリップマシンと数名のスタッフを派遣しよう。それでいいな」

「ええ。一つ注文があります。派遣するのはスタッフではなく、その道のプロにしてください。私が手配しますから」

「プロ?何の?」


「人を捕まえるプロですよ。当たり前でしょう」


 鬼塚はそう言うと、くっくっと笑い、部屋を出て行った。いつも無表情の鬼塚があんな笑い方をするなんて。それに「人を捕まえるプロ」?どういうことだろうか。

 仙道はこの時はそれがどういうことを意味しているか分かっていなかった。

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