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誘拐

 俺は、新橋の駅で電車を降りると、高ぶっている気持ちを抑えられず走り出した。夕暮れの街は、まだ青い光の残った空がきれいで、上を向きながら走りたい気分だった。SL広場を通り抜けて西新橋へ走った。仕事を終えたオジさんサラリーマンが溢れていたが、それをパイロンのように避けながら走って行った。


 バー・アンカーのあるビルの階段を駆け上がり、ドアを開けた。


 カララン。


「シゲさん、戻りました!」

 シゲさんは微笑み、お祝いのカクテルを俺のために作ってくれる……はずだった。


 金色のバー・アンカーは荒らされていた。

 店の床にグラスや酒瓶の破片が散乱し、シゲさんはカウンターの中に倒れていた。

「シゲさん!」

 俺はカウンターに飛び乗り、中に入った。駆け寄ってシゲさんを抱き起こした。シゲさんは息はしていたが、苦しそうだった。店の中は、何か消毒液のような匂いがしていた。


 いったい何が起こったというのだ。強盗?いくら目立たない店だからって、街には人が溢れている。こんな時間に入るなんておかしいだろう。

「シゲさん、どうしたんです。しっかりしてください」

「う、ううん……」

 シゲさんの目が覚めた。目をつぶって苦しそうに額と腹を手で押さえている。

「ショウ……さん……ううむ……リキが……誰かにさらわれた……」

 シゲさんは薄目を開けたが、指をこめかみと額に当てて、また目をつぶった。


「何ですって?」

 リキさんがさらわれた。誰が?何のために?

「どんな奴でした?顔は見ましたか?」

 シゲさんはまだ苦しそうだ。

「ああ……黒服の三人組……入って来るなり、リキを羽交い締めにして……何かの薬を嗅がせた……リキが倒れると、その次は私だった……腹を殴られて……その後は……ううむ……覚えてない……」

「シゲさん、その黒服の三人組、何か心当たりはないですか?」

「あるには……あるが……奴らが……ここを探せる訳がない……こっちの世界に来れる訳……ない……」


 シゲさんはそこまで言うと、少し待ってくれと、座ったまま壁に寄りかかり、ハアハアと苦しそうに息をした。「奴ら」というのは、いったい?「こっちの世界に」ということは、どこかのパラレルワールドからわざわざリキさんをさらいに来たということなのだろうか。すぐに聞きたかったが、シゲさんは辛そうだった。俺ははやる気持ちを抑えて、シゲさんの調子が良くなるまで待つことにした。


 シゲさんの回復を待って事情を聞いた。シゲさんは「リキの過去を話さねばなりませんな」と言って話し出した。

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