親友
如月美冬と大道菜々が友達になったのは中三の春
家が近所だったから幼い頃から顔だけは知っていた
何度か挨拶したことはある
でも中三まで同じクラスにならなかったのだ
美冬は才色兼備で田舎町の有名人だった
子供会の役員だったしいつもクラス委員長をしていた
小学校の学芸会でもいつも目立っていた
そのくせ天狗めいた素振りを見せず幼馴染みの信頼も厚い
のんびり屋で『うっかり王』と名付けられていた少年の面倒をよく見ていた
童顔の『うっかり王』が中学生になってからイケメンになっても態度を変える事がなかった
気を引くでもなく
威張りちらすでもなく
負担にならない程度の距離感で必要な世話を焼いていた
「うっかり王は美冬ちゃんに依存しすぎ」
おっとり微笑みながら菜々が言ったのだ
美冬も苦笑して
「そろそろ自立の時期かもね」
高校進学を控えた受験年だから菜々の忠告は間違ってはいない
しかしその忠告に毒を感じた者も多かった
美冬はそれ以来うっかり王から距離を置き始め
夏にはボッチ化したうっかり王の姿が痛々しく見えた
秋にはうっかり王と菜々が時折共に下校するようになり
美冬は偏差値の高い進学校へ
うっかり王と菜々は同じ高校へと進んだ
卒業式で美冬はずっと菜々の隣にいた
隙を見て「高校で知り合った友達を大切にしてね」と言った友人もいる
菜々の悪意を遠回しに注意していたのだ
美冬は満面の笑みで「ありがとう」
友人たちはドラマの観客みたいに『親友』を演じる菜々に注目していた
高校生になっても美冬と菜々の仲は親密らしく
さほど頻繁ではないものの時折睦まじい姿が目撃されている
「美冬ってホントお人好しなんだから」
菜々とうっかり王は恋人同士と見られていた
高校三年生になる頃から「美冬が図書館デートしている」との噂が流れた
同じ進学高校のエリート学生で知的な風貌らしい
たしかに背が高くて知的な少年と美冬が連れ立って歩く姿が見られた
美冬は現役で国立の工業大学に合格して幼馴染み達の喝采を浴びた
エリート君の進学先は不明だが「顔は理系」らしい
美冬と同じ高校に通っていた幼馴染みの男子も受験が一段落すると彼が散歩するとなぜか近所の女子達から話しかけられるようになったという
彼女たちにとって美冬はアイドル以上の憧れの的だった
少しオットリしすぎて心配な点を含めて
各地にばらけていた大学生たちも夏休みには帰省してくる
近所のリーダーだった美冬を幹事にクラス会も開かれた
菜々は相変わらず美冬と仲良しのようで二人で話し込んでいたもののうっかり王は現れなかった
その夏、エリート君が美冬・菜々と三人で歩く姿が目撃された
次の夏、お腹が大きくなった菜々とエリート君が腕を組んで歩いていたらしい
幼馴染み達は美冬にかける言葉につまって頭を抱えていた
美冬がエンジニアとして大手企業に勤めはじめた頃
田舎町の病院の院長宅にはエリート君と共にベビーカーを押す菜々の姿が見られた
幼馴染み達の一人とうっかり王の結婚式には美冬と菜々も笑顔で出席している
「美冬が恋人づれで帰省してるぞ」とうっかり王
うっかり王の妻は厭な予感がしたものの
『菜々も結婚してるしな』
今度こそ何も起きないだろうとも思う
なのに
美冬と恋人が菜々夫婦と会食していたらしい
その噂が流れて間もなく美冬の恋人が小さな子供とボール遊びしていたらしい
「どうして腐れ縁を続けるかなぁ」とうっかり妻
エリート君と菜々夫婦は破綻したという
幼い子供は父親であるエリート君が引き取り
美冬の恋人だった男性と菜々が近くの町で同棲し始めた
菜々がホステスになり男を養っている
彼女が働くクラブに美冬が恋人づれで現れた
菜々はにこやかに接待する
◇◇◇◇◇ 菜々サイド
「ホントお人好し」
ひとり帰宅する道で黒い笑みを浮かべながら菜々はつぶやく
「おバカな美冬」
◇◇◇◇◇ 美冬サイド
「悪い事言わないから菜々とは縁切りしなさい!」
うっかり妻からの電話だった
………だって
嫌でたまらないストーカーを紹介するだけで体を張って止めさせてくれたわ
飽きて別れたくなった恋人と後腐れなく別れさせてくれるのよ
下心と本物の愛情を選別してくれる
私の為なら出産してくれるし愛児と離れてもくれる
人生を捧げてくれているの
菜々が私を好きか嫌いかなんてどうでもいい
こんなに便利な親友いないわ
く………暗っ
冬だからって、ダークすぎた
春になったらお気楽な物に挑戦します