風の魔法の理由
目を覚ますと、昼間の一時だった。学校は遅刻だがシャルナはそんなこと気にしない。
彼から、メールや着信は入っていない。彼はけっこうマイペースな人間なのでチャイムを押して反応のなかったシャルナのことを無視してひとりだけで学校に行ってしまったのかもしれない。シャルナは彼に「おこさないで」と忠告していたのもそれも行ってしまった理由のひとつかもしれない。
「だれか来る」
シャルナはサンダルを履いてベランダに出た。晴れた空のしたに透明の街並みがひろがっていた。高い建物がたくさん立ち並んでいるというのにそれらはすべて透き通って見える。「まるで盲目の街」とシャルナはよく思うのであった。
ほんとうは、ユキがはじめにそう思ったのだった。シャルナはそれをただ真似しただけだったかもしれなかった。
レジ・トルニコスタ国は、中心街にゲートをかまえていた。ゲートは四つあり、そこで検問をおこなっている。検問の対象者はごく一部の人間たちだけだ。おもに王に直結した軍事関係者たちと、それとマフィアの人間たちである。
ライトがユキに話していたそうだが、この街を出入りするのに苦労するのはそういった人間たちだけで、一般人はかんたんに出入りすることが可能だった。
全国民がその対象者となるようならば、一躍世界中のニュースとなり、王は王ではいられなくなる。王は、そうあってはならないのだ。王は自由で、そして横暴でなくては気が済まないはずだからだ。
シャルナは、街の向こう側をながめながらユキのことをかんがえた。
ユキは、どうやってこの世界にワープしてきたのだろう。
だが、もしかするとそれはワープではなく生まれ変わっている可能性もある。
つまり転生だ。
ユキはこの世界で生まれ、どこかのポイントで、すり替わったのかもしれない。
シャルナにはほんとうのことなどわからないが、その少女を風で感じ取ったときに、そうかんがえてしまった。
「昨晩の魔法使いたちよりも、危険な存在かも……」
ある意味、そうかもしれない。
ほんとうに、ある意味で……。
シャルナは急いで学校の支度をはじめた。
そうではなくても、ユキが学校の体育のゲームであばれたせいで有名人になってしまったというのに。
まったく、つぎからつぎへと面倒事が増えていくではないか。
シャルナにとっての問題はダラン王のことなどではない。
シャルナにとっての問題はユキが他人にうばわれるかもしれないという恐怖だけなのだ。
シャルナはユキに救世主としての風を感じたからこそそう言っているだけで、シャルナにとってはダラン王のことなどほんとうはどうでもいいことなのである。
「もう、だれなの、あの赤毛の子は……!」
シャルナはあわてて部屋を飛び出した。