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エル・シャルナ

 希望的観測から言うと、この街でも生きていくことはできるという。ダラン・トルニコスタ王に歯向かうことがなければ、ふつうの生活をおくることができるとシャルナは言う。でもそれはほんとうの自由じゃないのと彼女は言う。たしかにそうかもしれないとユキは思う。

「自由ってなに?」

 ユキはシャルナから街案内してもらっていたが、その際の話の内容はほとんどむずかしいものばかりだった。

「自由というのは、やっぱり好き勝手に生きられることを言うんじゃないかな」

 恋愛感情が湧かないと、女子生徒ともすなおに話すことが可能だった。ユキはそのことにすこしおどろいていた。

 道行く人たちは若者や家族連れがおおかった。おおきなトルニコスタ駅の周辺はいつもこんな感じで人でごったがえしているらしい。

「なるほど」

 シャルナは爆弾発言した。

「なら、やっぱりダランを始末すればいい話だね」

「そ、そんなこと言ってもだいじょうぶなの……?」

 ユキはダラン王を始末するという言葉に過敏に反応した。あたりを警戒し、治安活動家たちがいないか確認した。だが、あたりに黒いローブのロボットの姿は見られなかった。一般ロボットたちが歩いていたり、仕事をしていたりするだけだった。ちいさなロボットたちがおもちゃ屋のウクレレのようなものを演奏していた。

「いまはいない」

「そ、そっか……」

 ユキはホッと胸を撫でおろした。

「むこうの世界ではどんな暮らしをしてたの?」

 それはあまり聞かれたくない質問だった。

「どんな生活、か……」

「話したくない感じ?」

「う、うん……」

「ボッチだったの?」

 そう聞かれると、答えざるを得ないのだった。

「ぼ、ボッチだった……」

 笑われるかと思った。だが彼女は笑わなかった。

「まわりとあわなかっただけでしょ。IQのちがいでそうなったりもするし、気にすることじゃない。あと数年、そっちで生きていればいろいろと変化がおこったかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「そういうものかな……」

「そういうもの。でも、ユキの選択はまちがいじゃなかった。ユキがいなければこの街は暗黒につつまれたままだったかもしれないから」

「ぼくは救世主でもなんでもないよ。ただ強欲に異能力がほしかっただけなんだから」

「でも、その異能がある」

 シャルナはユキのまえで立ち止まった。シャルナが目を見つめてくる。

「テレポーテーション、念力、あと自然的能力も使える。なにも欠点がない。あるとすれば、メンタルだけ」

「自然的能力って、ここで言う、魔法のようなもの?」

「そう」

 シャルナは表情を変えることなく五本の指をたてて火、水、風、木、光をつくる。

「光に関しては、火と近い魔法だけど、でもそれぞれでちがった表現をつかってる。あとは闇の魔法もある。おそらく、それがいちばん強力で、ユキの弱点になる」

「それって呪いとか……?」

「そう」

「どうやってふせげばいいの?」

 ふたりは歩き出した。シャルナがどこへ向かおうとしているのかユキは知らなかった。

「相手の手に直接、触れられなければたいしたことはない。何事にも、直が、重要。直は、距離がないゆえ、発動時間がみじかい」

「なるほどね」

「これ、見える?」

 シャルナはワイシャツのボタンをはずして胸部を見せてくる。ユキは目をそむけた。

「ちょ、ちょっとなにやってるの……!?」

「すでに、闇の魔法を受けてる」

「え?」

 ユキはその言葉に反応し、勇気を持ってシャルナの胸を見る。乳房が見られたわけではないが、かすかに白いブラジャーらしきものが見られた。

 いや、そこではない。そこではなく、その中央付近だ。胸には黒いバツ印のようなものが刻まれていた。

「ほかの女子生徒の嫉妬だと思う」

「ぼ、ぼくのせいだ……」

「気にしないで」

 シャルナはバツ印を指で剥がして捨てていった。まるでシールを剥がすみたいにかんたんに。

「え、どうなってるの?」

「このていどの魔法はわたしには無意味。学校の生徒たちは風を感じ取ることすらもできない。低レベルのあつまり」

「そ、そうなんだ……」

「うん」

 シャルナはブランデイというアニメショップに入店していった。ユキはそのブランデイの看板を見あげて立ち止まった。

「え、ここ入るの?」

 と思わず口に出してつぶやしてしまう。

「なにやってるの?」

 シャルナがユキに振りかえって聞いてくる。

「あ、ごめん」

 ユキはシャルナのもとへ走った。

 店内は、アニメ一色で染まっていた。

 壁には、アニメのポスターがところせましと張りつけられ、ならんだ商品もアニメ関連のものばかりだった。アニメ関連をこれでもかと揃えるからこそ意味があるかのように。

 店員は、コスプレしていた。エルファドとラップ人の女性店員がメイドの姿に変身していた。かわいらしい恰好だ。ふつうのメイド服とは違い、フリルなどが取りつけられていてお洒落だった。

「「「シャルナさま、おかえりなさいませ!」」」

 店員の数人が駆けつけ、シャルナに深々と頭をさげて声をあわせてそう言った。どうやらシャルナはブランデイの常連客らしい。

「ただいまっ」

 シャルナはテンションがあがっていた。表情の変わらない少女だと思っていたけれどそうではなかったようだ。よかった。

 シャルナはアニソンのダウンロードを数曲、購入した。歌は、ディテクタに保存できるらしい。

 ユキは、シャルナがダウンロードしているあいだ、CDのアイドルたちの顔をながめていた。そのほとんどの顔がエルファド人の顔だった。レジ・トルニコスタ国はエルファド人たちのおおい国らしい。ゆえにアイドルたちもエルファド人となるわけだ。ほかの国では、ラップ人がおおかったりゾルガ人がおおかったりするとシャルナは言っていた。

「彼氏ですか!?」

 メイドのひとりが聞いてきた。

「友達だよ」

 シャルナはメイドに答えた。

「そうなんですか。カワイイっ!」

「さっき編入してきたの」

「え、それって今日という意味ですか!?」

「うん」

「そうなんですかー!」

 店をあとにするころには、外はすっかり夜に変わっていた。約三〇分ほどの買い物だったが、学校のおわる時間が遅かったのだ。夜はすこしだけ冷えた。この国のいまの季節の夜は寒いらしい。もとの世界で言うところの東北の春といった感じだ、とユキは思った。

「もう夜か」

「ユキの家はどこにあるの?」

「あっちだよ」

 と指をさすと、シャルナはその方向にむかって歩き出した。

「まさか、ぼくのマンションに来るつもり?」

「家に、ライトがいる」

「え、ライトさんが?」

 ユキはおどろいた。

 シャルナの、その風の魔法に。

 おそらく、その魔法で悟ったのだろう。

「けっこう、ユキのために動いてくれているのかも」

「あ、うん。そうだと思う……」

「恩義があるね」

「うん」

「ちゃんとはたらかないと、だ」

「うん」

 と言いつつ、なにを言ってるのかわからない。

 はたらく?

「王国破壊の救世主になるために」

「え!?」

「え?」

 シャルナはユキのおどろきに首をかしげた。

「ライトさん、そのためにユキにマンションの部屋まで用意したんだよ?」

「ああ……」

 ユキはライトが言っていた「期待している」という言葉を思い出した。それから頭をかかえた。

「どうしよう……」

「二〇〇年前に預言者が死んでからこのときをずっと待っていた。ライトさんはその予言を信じていた。がんばらない理由はないでしょう?」

「え、預言者は二〇〇年も前になくなってるの……?」

「うん」

「そうだったんだ……」

 シャルナが、カバンからワイヤレスイヤホンのようなものを取りだした。それを両耳にはめこんだ。ディテクタを操作して音楽をかけた。シャルナはひとりでアニソンを歌いながら歩きはじめる。ユキは、戸惑っている。自分は戦闘に向かないタイプの人間なのにまるでこれからたくさんの戦闘をおこなわなければならないような状況にいるということを。

「オー、ドリーム、マイガール、夢のような時間だね。でも、ぼくはそれを捨てて、旅に出る~」

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