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76高等学校

 76高等学校は魔法使いのための高校だった。生徒のほとんどがエルファド人たちで、ラップ人やゾルガ人はごく少数だった。そこでわかったことは全人類が魔法使いではないということだった。それからもうひとつわかったことがある。この世界の魔法のほとんどはみずからの身を守るために存在しているらしい。魔法は武器として使うのではなく、肉体強化や身体治癒などに使っているということだったのだ。武器として強力なのは、やはり銃器ということだったのだろう。

 世界にはさまざまな人間がいた。ユキよりもちいさな小人がいたり、ゾルガ人よりもおおきな人がいたりしていた。ゆえにユキがクラスに編入してきても、なんら不思議なことはなかったようだった。

 ただ、ユキにはひとつざんねんだったことがあった。

 異世界に移るというから、パラレルワールドのようなものを想像していた。だが、それはまったくのまちがいだった。

 ここは、そういうものとはぜんぜんちがった別世界だった。つまり、ここではかんたんに友達がつくれるのかどうかわからないということだった。それは問題だった。ユキは、友達や彼女をつくりたくて、異能力を手に入れる覚悟をしたのだ。だが、それができなかった。

 まあ、異能を手に入れたからといってすぐに友達ができたりするかどうかはまったくわからない問題だけど。

 それに、ユキはそれでも以前よりも気持ちはよかったのだ。

 この世界で、いやこの世で、と言ったほうが良いだろうか。もっともほしいものが、手に入ったのだ。それだけで、いまはじゅうぶんうれしかった。

 最後にもうひとつ、気になる点があった。

 ユキは、職員室で担任の女性教師と話した。これからクラスにむかって自己紹介をするというときだった。

「魔法使いは女性がおおいんです。そのうえうちの76高校はとくに女性の割合がおおくて、ユキくんはちょっと苦労しちゃうかも」

 女性教師はうれしそうに笑った。まずいかもしれないという気持ちは微塵も感じられなかった。

「でも、女の子みたいな顔をしているし、すぐに受け入れてもらえるとは思うけどっ」

 歳がいくつなのか知らないが、なんだか少女のように話す女性だった。歳に似合わない。その茶髪もおそらく若作りのために染めたものなのではないだろうか。

「あと、ユキくんは異能力者、なんだって?」

「はい」

「ま、その点に関してはみんなぜんぜん気にしないと思うから、安心してちょっ」

 ユキは女性教師に元の世界の昭和の雰囲気を感じた……。


 教室での自己紹介をおえると、エルファド人の女子生徒たちがユキにいっせいにむらがった。ディテクタに、たくさんのメールがとどいた。ディテクタは携帯電話のような機能もそなわっていて、相手がよければこうしてユキにたいしてメールアドレスや電話番号を送ってくることができるのだ。あとはユキがそれらを許可するか拒否するかを選択すればいいわけだ。あたりまえだが、だれのものも拒否することはできなかった。そんなおそろしいことはユキにはできるはずがない。

「ごはん、いこ!」

「えー、あたしが先ー!」

「わ、わたしも行きたいです……」

 どうやらこの世界では目がくりっとまるくて耳がとがっていない人間はエルファド人たちにモテるらしく、ユキはあっという間に人気となった。

 まさに、天国だった。だが、なぜだろう。よろこびは沸き起こってこなかった。

 そこで、はっとした。

 神が述べた言葉を思い出す。

 こどもが作れない。

 まさかそのせいで恋愛感情が消え失せてしまったのだろうか。

 だが、恐怖することはなかった。

 平常心だったわけではない。

 まるでユキは女子生徒たちにたいして無感情だった。

 でも友達は作れるかも、と思った。

 それなら、きっと、たのしい学生生活をおくれるにちがいない。

 いま、かんがえるのは、それだけでいい。

 あんまりおおくのことをかんがえすぎると、自分はメンタルの弱い人間だからすぐに疲れてしまうだろう。

 一時限目の授業がはじまった。授業がはじまってようやくまわりがしずかになった。教室には男子生徒が自分をあわせてたったの五人しかいなかった。男子たちは近くの席にかためられている。

「おまえ、どんな魔法使えるんだ?」

 男子たちの話は魔法のものだった。それを知ってユキはすこし安心した。女子たちがいつあそべるのかとかそういう話ばかりだったからだ。

「ぼくはテレポーテーションなんかができるみたい……」

「テレポーテーション?」

 男子たちはたがいの顔を見あわせた。

「魔法って言ったら、火とか水だろう?」

 ラップ人の男子が言った。

「え」

「まあ、すこし特殊なタイプの人間なんだろう?」

 ゾルガ人の男子が言った。

「ああ、なるほどな」

 この教室ではラップ人もゾルガ人も仲がよさそうだった。嫌い合っているのはおそらく一部の人間たちだけなのだろう。

「魔法は守備だけのものだと思われてるが、おれたちは攻撃で生きていく。攻撃こそ最大の魅力だ!」

「銃器にもまさる魔力を手にすれば、それなりに戦場でも活躍できるだろう?」

「たしかにそうかも」

「おれたちはそこを目指している!」

「ま、おれたちだけじゃないとは思うけどな」

「そうだな!」

「魔法は守備だけじゃねえってことを世の中に証明するんだ、いいかんがえだろう?」

「うん、いいと思う」

 以前の地球でも異能の攻撃タイプを目指す学生がたくさんいた。その仲間入りできた気がしてユキはうれしかった。


 昼休み。

 食事は、食堂で取ることになっている。弁当を持参してもいいが、その弁当もなるべく食堂で取ろうという方針らしい。

 ユキは、何人かの女子生徒に誘われ、いっしょに食事を取った。エルファドの人たちは世話するのが大好きらしく、ユキはその女子生徒たちにまるであかんぼうのように世話してもらってしまった。

 エルファドの人たちがなんでもかんでも先にやってしまうので、ユキはどうしようもない様子でただ茫然と椅子に座っていた。この料理を食べてみないか、こっちの料理もおいしいですよ、とどんどん皿に料理が増えていく。だが、ユキは小食なのでそんなにおおくは食べられなかった。

 みんなに悪いので、ユキはそれらを一生懸命に食べた。そのせいで少々、気分が悪くなった。

 女子生徒たちは、過度な世話をしてしまったことを後悔した。すると、こんどはユキにひたすらあやまってくる。腹を撫でてきたり、やさしく頬をつかんでユキの顔色をうかがってきたり。

 ふと、ひとりの女子生徒がうしろを通りかかった。

 その女子生徒がこう、ぼそりとつぶやいた。

「異能のちから」

 ユキははっとうしろを振りかえった。

 そこにはひとりの青い髪をした背のちいさな女子生徒が立っていた。


「どうしてそれを知ってるの?」

 ユキはその女子生徒についてくるように言われ、ふたりで廊下で話すこととなった。

「星のようにかがやいて、風のように吹けば、いろんなものが見えてくる」

 女子生徒はユキのあらゆることを知っていた。

「小野寺ユキ。十五歳。ここではないべつの宇宙からの訪問者。神の存在。――対価」

「なんでそこまで……」

「わたしはべつに預言者でもなんでもないけれど、あなたのことだけはよくわかる。ぐうぜんというものは、やはりどこかで必然的なものがあるものだから」

「よくわからないけど、まわりにはあんまりひろめないでいてもらいたいんだ」

「わかってる」

「そっか、よかった……」

「でも、条件」

「条件?」

 彼女は言った。

「わたしが、友達、第一号」

 それはまるでユキの支払った対価の意味を理解したうえでの言葉のように聞こえた。

 女子生徒の名前は、エル・シャルナ。

 エルファド人で、風の魔法使いだった。


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