疑惑のライト
エヌ・オー・ライトは街頭テレビの王をながめていた。ダラン・ジョード・トルニコスタ王は演説をおこなっていた。これからの国の在り方についての演説だった。以前より覇気が感じられないが、ダラン王はいつもそんな感じだったので、それほど違いはなかった。だが、どこか違っていた。なにかが違う。なんなのだろうか、この違和感は。
「別人だ」
ライトはタバコを吸いながらそう思った。
やはり王は以前の王とは違って見えた。
人間としての雰囲気か。
魔法使いとしての雰囲気か。
なにもかもそっくりだが、ぜんぜん違って見えた。
「だれなんだ、こいつは。なぜ、すり替わった?」
それはいまの王の演説を聞いていればすぐにわかった。
『このレジ・トルニコスタ国を改革する。そのためにマフィアたちを撲滅し、他の国との連携を深める!』
王はそんなことは言わない人間だ。たとえいまの政策がそのようなものだとしても、だ。
王はゲームオタクで、民間人とよく話すタイプの男であった。そのため、ライトともよく話してくれたのだ。彼は警察のことも親身に理解してくれようとしてくれていた。そこでライトは正気を取りもどした。偽者のダラン王を見て、思い出した。
「おれはいったいなんてことを考えてたんだ……!」
口に咥えていたタバコが落ちた。
ライトはそれまでずっと王の始末のことばかりを考えていた。だが、それは闇の魔法でそう思わされていただけだった。
「あいつらにとんでもねえこと吹きこんじまったじゃねえか……!」
オノデラ・ユキと、シャルナ・トルニコスタのふたりにライトは王の始末を頼んでしまっていた。なんてことを言ってしまったのだろうか。ライトはひどく後悔した。
「なにさけんでんのよ?」
はっ、と少女の声にライトは振りかえった。
赤毛の少女がそこに立っていた。
仏頂面のその少女のことをライトはよく知っていた。
アンバー・ナウシカノだ。
「アンバー!」
「な、なによ……」
アンバーは腕組みしながら顔を引いた。
いつも能天気なライトではなかったことに驚いたのかもしれない。
「アンバー、すまん!」
「どうしたのよ、いきなり。まさか、金くれる気になったわけ?」
「金はわたさねえが、というかおれは金持ってねえよ!」
「あっそう。で、なに?」
「おれはとんでもねえことを吹きこんじまってたんだ!」
「へえー」
「ダラン王の始末だよ!」
「ああ、そのことね。なーんだ、魔法で仕組まれてたのね。シャルナもあいつのこと殺したいとか言ってたから、本当のことを言ってるのかと思ってたわっ」
アンバーはおかしそうに笑った。
アンバーは世間にたいしては女王様タイプの人間だ。
人の不幸を笑い、人に命令するのが大好きなタイプの。
だが、ユキに対してだけは素直に従うのである。
まったくオノデラ・ユキという少年はいつも大変だろうな、とライトは時折、思うのだった。
なぜならふたりの女王さまと一緒に暮らしているのだから。
話に聞くところによると、アンバー・ナウシカノという少女もじつはただの少女ではないとかなんとか。ライトは詳しくは知らないが。
「そんなことどーでもいいわよ」
「どうでも……?」
「ええ、どうせあたしたちにダランを殺すことはできなかったわ」
「だが、ダラン王自身はたいした魔法使いではないぞ?」
「ユキが本気出せばチョロイかもしれないけど、あれだけのロボット兵相手にしたら、あたしだってボロボロよ」
「そうか……」
というかお前が戦うつもりだったのかよ、とライトは心のなかでツッコミ入れた。
「ってか、そのユキはどこに行ったわけ? さがしてんのよね、いま」
「そうなのか」
「いなくなったのよ、二日前に」
「なに?」
「マンションのエンテランスで消えたのよね、あいつ。ったく、どこに家出したのかしら……」
「それ、マジでただの家出か? 敵に攻撃されたとかじゃあねえのかよ?」
「敵? いるの、敵なんて?」
「いるだろ」
ライトは街頭テレビを見あげた。空中にモニターが浮かんでいた。
「あいつ? だから、あいつはべつに始末するひつようないし、そもそもダランがユキを攻撃することなんてないわよ?」
「あれは偽者だ。いつからかすり替わってしまったらしいんだ」
「は?」
「本物のダラン王はどこにいるんだろうか……」
「なに言ってんのよ? え、それ、マジ?」
「マジだ」
アンバーは危機感をいだいた表情で、街頭テレビを見あげた。
「あいつ、偽者!?」
「ああ、そうだ」
「だれよ、あいつ!」
「知らねえよ。それはおれが知りたいところなんだよなあ……」
「なにやるつもりよ、あの偽者。国の改革とか言ってなかったかしら。そうなってくると、ちょっとあたし、面倒なことになるのよね……」
「なんだ、面倒なことって」
アンバーはだまっていた。
なにかをかんがえこんでいた。
「とりあえず、ユキをさがすか」
「そうね。あいつに解決させるわ」
「だが、どこにいるんだ……」
「あんた警察でしょ、さがしなさいよ! 捜査官とか名乗ってんだから、見つけられるでしょ!?」
「名乗ってるんじゃねえよ、そうなんだよ!」
「どーでもいいわよ、そんなこと!」
アンバーはそっぽをむいた。本当にこの女はユキにしか振りかえらない横暴な女である。ライトはアンバーが嫌いだった。
「さっきなんて言った?」
唐突に、だれかが話しかけてきた。黒いローブを羽織った金髪の男が。
「あれ、あんた、たしか」
「だれだ?」
「ユキの知り合いだったわよね?」
「知り合いじゃねえよ」
「戦って負けたって言ってたじゃない」
「負けてねえ!」
「そもそもユキには勝てないんだからしょうがないわよ。ま、あたしは勝ったけど」
「てめえが勝っただと!?」
「ええ」
アンバーはすこし自慢げな顔をした。
若いうちというのは戦いに関してうるさかったものだ。ライトもそうだった。
「フィールドゲームか?」
「ええ、そうよ!」
「どうせ不意打ちで勝ったんだろ?」
「うっさいわね、勝負は勝負よ!」
「はっ、不意打ちか!」
「笑うんじゃないわよ!」
「で、きみはいったいだれなんだ?」
ライトは金髪の青年にたずねた。
「おれは治安活動家の人間だ。さっきの王の話が聞きたかったんだ」
「ああ、なるほどな……」
ライトは話していいものかどうか迷った。だがアンバーがあっさり話してしまう。
「あいつ偽者らしいのよ。たぶん本当よ」
「マジかよ」
青年はおどろいた。
青年の名前はジェイクと言うらしい。風の魔法使いということまでアンバーがおしえてくれた。
「ユキはどこだ?」
「それがいないのよ、あいつ」
「は?」
「家出したのね、きっと」
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろうが! シャルナ姫があぶないときに!」
「たしかにシャルナが危険になるかもしれないわね」
「邪魔者は始末されていくかもしれないからな」
「おれたちもその邪魔者になる可能性があるよな」
「ああ。きみは、仲間はいないのか?」
「仲間と呼べるかはわからねえが……。いることは、いるぞ」
ライトは言った。「そいつらは、本当に味方か? もともと敵だったということもあるぞ」
ジェイクは顔を引きつってだまった。
「なら、いちばんあやしいのはあのヤマトって男ね。なんだか執拗にシャルナの監視をしてたみたいだし」
ジェイクがなにかに気づいて駆けだした。
「なんかやべえ状況なんじゃねえのか……?」
ライトはアンバーの耳に口を近づけてちいさな声で言った。
「え、マジ?」
アンバーはそんなライトに目で振りかえって聞いた。
「おれたちも行くぞ!」
街頭テレビ周辺は人だかりが出来ていた。みんな上空のテレビを見あげていた。ライトはそこを走る。
「ユキはどうすんのよ!?」
アンバーが声をあげて聞いてくる。ライトはうしろを振りかえる。
「ディテクタの連絡を待つしかねえだろ!」
アンバーは嫌そうな表情だったが、ようやく走りだす。
ライトは、アンバーとふたりで、ジェイクを追いかける。




