強い力
「あんた、まえよりも強くなってるわね……」
休日の朝。
ユキは、アンバーと公園でフィールドゲームをおこなっていた。
「そうなの?」
「ぜんぜん攻撃があたらないわよ!?」
ユキはすこし笑った。たぶん、すこしうれしかったのだ。
ユキはテレポーテーションのイメージをまるで自転車を乗りこなすようにかんたんにおこなえるまでに成長していた。
その、つまり瞬間移動能力で、アンバーの高速攻撃を避けていたのだ。
アンバーの火の魔法はとても速かった。
手のひらのなかにイメージして作りだした火球を、ユキにむかって高速で投げ飛ばしてくる。
学校では絶対に見られない速度であり、ユキは最初はそれに手こずった。
「ちょっと本気出すしかないようね……!」
アンバーが声をあげた。
アンバーの周囲に大量の火球が生まれた。
それがユキにむかって一斉に飛んでくる。
ユキは火球を瞬間移動で避ける。
避けたところに、火球が飛んでくる。
フィールドは無限に広いわけではない。広いフィールドならばユキの瞬間移動は有効だっただろう。しかしここはちいさな公園のなかの、ちいさなフィールドであり、ユキの瞬間移動はアンバーの火球とそれほど速度の変わらないものとなってしまうのだ。
なんど瞬間移動で避けても、火球は追いかけてきた。
「早くあたしに一発、入れてみなさいよ!」
アンバーが挑発してくる。
電撃を一発、たたきこめばそれで終了という目標で練習をおこなっている。
ユキだって、なんとか一発、たたきこみたいところだが、アンバーの火球操作がうまくてそう楽にはいかないのだ。
「そうだ」
電気をテレポーテーションしたときのイメージが頭のなかに浮かんだ。それを利用してガードしてしまえばいいのだ。ユキはそう考え、空中を飛んでくる無数の火球をすべて視認する。
みずからの身体にヒットする寸前で、それらすべての火球をテレポーテーション能力で消滅させていった。
「あんた、それ、ずるいわよ!」
「ははは……」
この勝負、ユキの勝ちだった。
ユキは勝利を確信した。
するとそこになにかが飛んできた。
不意の一撃だ。
ユキはとっさにそれを視認する。
特大火球だ。
その真っ赤に燃える火球を、テレポーテーションで消滅させることができない。
おおきすぎてテレポーテーションのイメージが追いつかなかったのが原因だ。
直撃した。
「あわわ……!」
ユキは炎に吞みこまれた。
だが熱くはない。
ディテクタが音声を発した。
『ゲームセット!』
「あたしの勝ちね!」
炎が消えた。
「ずるいよ、いまの!」
ユキはアンバーに指さして声をあげた。
「あんたの甘さが原因なのよ!」
ユキは悔しかった。
勝負には勝っていたというのに、その勝ちを確信してしまったばかりに甘さが出た。
つまりはユキの敗北だったというわけである。
電子フィールドが消えた。
「ふう」
アンバーはベンチに座った。
公園に、イリアがやってきた。
遊びに来たいと言っていたので、だったら公園に誘ったらどうかしら、とアンバーが提案したのだ。
「イリア」
「ユキくん、おはようございます」
イリアはユキに深く頭をさげてあいさつした。
「魔法の練習ですか?」
「ま、そんなところね」
アンバーは、イリアとはじめて話すはずだった。だが、アンバーは初対面の人間に対して恥ずかしさというものを感じないらしく、あっという間に仲良くなった。
「あんたが学校でいつもユキに奉仕しているってやつ?」
「それはおそらくわたしですね」
「なんかユキのディテクタに頻繁にメール来てたりするから、ほかにもだれかいるのかと思ってのよ」
「そうですか」
「シャルナは奉仕、へたっぴだし、べつのだれかがいるとは思ってたんだけど」
「ユキくんには、良くして頂いております」
(なんか、ちょっと意味が違うような……。良くしてもらってるのは、ぼくのほうなんじゃ?)
だが、ユキはそこのツッコミは入れないでおいた。
彼女らの奉仕や世話というものはユキのいた世界とはまったくの別物だからだ。
「フェアリーキャットたちみたいね、あんたって」
「あ、褒め言葉として受け取っても?」
「ええ、いいわよ」
「うれしいです!」
(なんだろう、フェアリーキャットって。そういう人間の種類の名前だろうか……)
「ユキにはぜったい会わせられないわよねえ、あいつらには」
「そうですね。もしかするともう二度と帰ってこられなくなるかもしれません……」
(怖い人類たちなんだ、そのフェアリーキャットという人類は……)
シャルナとヤマトは、マンション部屋に籠っていた。敵が来たらすぐにわかるようにヤマトが火の結界を張っているらしい。
で、ユキたちはその下のちいさな公園を使って能力の練習をおこなっていたわけだ。
ゆえに、下と上の防御をしっかりと固められている状態なのである。
王への攻撃が始まったという情報はまだ、なかった。
ユキたちはそれらの情報に敏感になっていたし、敏感にならなくてはならなかった。
「部屋にあがらないのですか? あがってみたかったのですけれど……」
「あげてもいいんじゃない?」
「ぼくはべつにかまわないんだけど、あのふたりがどう思うかな」
「気にしないと思うわよ?」
ユキたち三人はマンションをあがることに決めた。ヤマトはまず他人が立ち入ってきてもまったく気にしない人なので平気だが、問題はシャルナのほうだった。シャルナが学校のユキの友達に拒否反応を示しており、それがいまも続いているのかどうか……。
「ま、あとでユキは怒られるでしょうね」
アンバーはうれしそうに笑った。
「こんどは怒られるつもりはないんだ……!」
「どこから湧いてきた自信よ、それ、ははは!」
「ぼくもね、戦わないといけないと思うんだよ、シャルナと!」
「あんたが戦っても勝てる相手じゃないわよ、やっぱりあんたはただの馬鹿ねっ!」
「馬鹿って言うな、馬鹿って!」
「馬鹿は馬鹿よ、馬鹿馬鹿っ!」
「くそおお……!」
マンションのエンテランスへ入る。するとそこにたくさんの花が咲いていた。出てきたときには見られなかった真っ赤な花が。
「なんだろう」
「これは魔法の花ね」
「そうですね。きれいです」
「ええ」
と言って、ふたりがユキにたおれかかってきた。
「ど、どうしたの!?」
ユキはふたり分の重さに耐えきれず、そのまま床にたおれた。ふたりの顔を覗きこむとまるで眠っているかのように見られた。
「い、てて……。あれ、眠ってる……?」
ふたりはすうすうと寝息を立てはじめていた。
(眠ってる、かんぜんに。この花が原因かもしれない)
ユキは魔法の花がふたりの眠りはじめた原因だろうと考えた。
そのとき、エンテランスをふたりの人間たちが入ってきた。妙な金の仮面をかぶったおそらくエルファド人のやつと、青い肌をしたラップ人の男だ。仮面のやつの性別はわからなかったが、体格はもしかすると男のものかもしれない。
「きみたちを近づけておくわけにはいかないのでね」
仮面のやつがしゃべった。声質が変化していた。なにかそういう機械を使っているのだろう。
きっと正体を隠すためだ。
「かといって、始末してしまえば怪しまれるわけだ。わかるだろう、王はきみを期待しているのだよ?」
「花の原因は、あなたたちってこと……?」
「タイロの花だ」
ラップ人が一歩、踏み出した。手のなかで、真っ赤な花が咲いた。
ユキは、意識が薄れはじめていた。目蓋が重くなってきていて、もうすでに頭のなかで異能力のイメージを練りだすことができない。
「始末するのはあくまでも王ただひとりのみ。それ以外の殺人はわれわれの邪魔になるだけだからね」
ユキは眠りに入った。




