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17/30

学校の友達

 学校はひとりで向かった。

 シャルナは部屋でヤマトとアンバーと過ごすという。

 ヤマトがそう言ったのだ。

 もともとヤマトは王の護衛につく予定だったが、王の護衛にはほかの国の王たちの命令で動きだした優秀な魔法使いたちがつくらしい。

 ダラン王がほかの国の王たちに可愛がられていることを知り、ユキはまったく不思議な気持ちになったものである。

 あの首を絞めてくるような男が王たちの愛情を受けているなんてな、って。


「ユキくん、今日もお世話をさせていただきます」

 学校ではシャルナと一緒にいることがおおいが、今日は一緒にはいない。

 だが、まあ、そうではなくてもユキにはほかにも仲のいい友達がいたのだ。

 イリア・アルメリアはユキとおなじクラスであり、じつはシャルナといるよりも長い時間を一緒にいるかもしれない。

 金の長い髪、くりっとした二重の目。同年代の彼女だが、どこか自分よりも大人びて見える。背もユキとおなじくらいで、胸もおおきい(シャルナとアンバーの胸がちいさいのでそう思うのかもしれない)。彼女はエルファド人である。

 そして彼女は他人(ユキだけの可能性もある)の世話をおこなうのが非常にうまかった。ユキは彼女といるととてもしあわせな気持ちとなった。彼女は本当に世話するのがうまいのだ。まるでメイドである。

「あ、うん……」

 ユキは照れて頭を掻いた。

 イリアに世話しなくてもいいよ、と言ってもしつこく世話してくるのでユキはそれを断るのをすでに諦めていた。ゆえに肯定するのだがその肯定がユキには恥ずかしくて仕方ない。

「わすれた教科書はあります?」

「ないと思うよ」

「お財布は?」

「持ってきた」

「もしも教科書やお財布をわすれているようだったら、すぐにわたしに報告してくださいね」

「わかった」

 イリアはユキのとなりの席に無理やり引っ越してきていた。だれよりも近くでユキのことを見ていなくてはならないという精神ゆえに。その世話しなくてはという精神はとても大事だとは思うが、べったりくっつかれるとユキもどうしたらいいのかわからなくなるときがある。

 イリアの世話のせいではないが、ほかのクラスメイトたちによるユキの争奪戦は終息をむかえようとしていた。このごろ、ユキがほかの生徒たちに遊びに誘われたりすることが減ったのだ。

 うれしいような、うれしくないような。

 ユキは複雑な気持ちだった。


 なにかとくに変わったことがおこることもなく、放課後をむかえた。

 廊下へ出て、おそらくべつのクラスまで走っていき、シャルナが登校してこなかったことを知ると、イリアは教室に帰ってきてユキの腕を捕まえてくる。

「一緒に帰りましょう!」

「あ、うん、いいよ」

 シャルナがいないので、ユキはイリアと一緒に帰ることにした。

 べつにそこにおおきな感情というものは存在しなかった。

 ただイリアという友達と一緒に下校するという感情のみがユキのなかにあっただけだった。


「わたしにやってもらいたいことはあります?」

「いや、とくにないよ」

「わたしにしかできないようなことがあればすぐに言ってください。シャルナさんにできなくて、わたしにだけできるようなことがあれば」

「わ、わかった……」

 イリアはシャルナのこととなると熱くなる傾向がある。ユキはそこの対処にいつも困る。

「選択するのはユキくんですからね? シャルナさんではありません!」

「そうだね……」

 いったいなんの選択の話なんだろう、とユキは首をかしげた。

 ふと、イリアと手と手がぶつかって「あ」と互いに声を漏らす。ふたりで恥ずかしくなり互いに手を引っこめる。

「ごめんなさい……」

「ごめん……」

 そこで足をとめたユキはふと、クレープの屋台車がスーパーの前にとまっていることに気がつく。

「買いますか?」

「食べたいなあ」

「なら買いましょう!」

 イリアは屋台車に走っていった。ユキはそれを追いかけた。


 ちいさな公園のベンチに腰かけてクレープを食べる。

 シャルナと下校しても寄り道しないのでこれはとても新鮮な寄り道だった。

「なんかたのしいな」

 友達とこうして寄り道することをすこしだけ夢見ていたユキはそんな声を漏らす。

「え、本当ですか!?」

「うん」

「ユキくん、わたしとてもうれしいです!」

 イリアは笑顔になった。

「これからもこうしてユキくんと一緒に下校したいですけど、うまくいかないですよね……」

 それからイリアはしょんぼりした口調でそう言いだした。

「え、なんで?」

「だってシャルナさんがいますから……」

「三人で一緒に帰ればいいじゃないか」

「できますか?」

「できるでしょ」

 そこでユキはシャルナが言っていた言葉を思い出す。ほかの生徒たちとは関わらないように、とシャルナがきびしい口調で言っていたその言葉を。

 あ、できないかも。

 一緒には帰れないかも……。

 ユキはまずいことを言ってしまったな、と後悔した。

 でも、説得しなくちゃいけない。

 友達なんだから、一緒に帰るくらい、ゆるしてもらえないと困る。

「シャルナさんからメールが来たのです」

「メール?」

「ユキくんと関わらないで、と……」

「え……」

 シャルナ、とんでもないことするな……。

 姫だから、そういうことも怖くないのかもしれないけど……。

「すこし恐れています。だいじょうぶでしょうか……」

「だいじょうぶだよ……」

 ユキも自信がなくなってきていた。

「あ!」

 と突然、イリアが声を出した。

 ユキの頬に手を伸ばしてきてなにかを取った。

 どうやらチョコレートがくっついていたらしい。

 イリアはユキの頬からそれを指先でぬぐい取って自分の舌で舐めた。

「あ、ごめん」

 ユキは恥ずかしくなった。

「まかせてください、ユキくんのお世話はこのわたしに!」

 イリアはそう言って笑顔を覗かせてきた。

 ユキは動揺して頭を掻いた。

 ディテクタが鳴った。

 画面が宙に飛び出してきてメール通知を知らせてくる。

「シャルナさんからですね……」

「う、うん……」

 ユキはイリアの目のまえでメール文をひらいた。

『どこにいるの? 早く帰ってきて』

「帰られたほうがいいのではないでしょうか?」

 そうかもしれないが、そうするとイリアが悲しむような気がした。

 ユキはどうするべきか、迷った。

 とにかくふたりでクレープを食べおえるまでベンチに座っていようと話した。


「帰られたほうがいいですよ!」

 とクレープを食べおえたイリアは跳ぶようにベンチを立った。

 ユキはゆっくりと立ちあがった。

 なんだか身が重い。

 帰りたくないのかもしれない。

 シャルナのことは嫌いではないが、ほかの友達を遠ざけることはないのではないだろうか、とユキは思っているのかもしれない。

 ユキはそれが嫌なのかもしれない。

 空は夕焼けだった。

 太陽が西の方角へ落ちようとしている。

 レジ街の西側にはおおきなトルニコスタ駅がある。

 公園の出口もその方向だ。

 そのとき、その出口の方向から強い風が吹きつけた。ユキは思わず転んだ。

「ゆ、ユキくん!?」

 転倒するほどの強風だった。

 つまり魔法である。

 黒いローブの男が公園内へ入ってくる。

「反応が遅いぞ」

「い、てて……」

 ユキは肘をおさえながら立ちあがる。

 男はフードを取る。金の髪が逆立っている。

 ジェイクだ。

「つねに警戒してろ」

「警戒って……」

 ぼくは戦闘側の人間じゃあないんだぞ……? とユキは思う。

「なにがおこるかわからねえんだ。てめえも戦うときがかならず来る」

「そんなこと言われても……」

「レジ街にあやしい影がチラつくような気がするんだよな……」

「あやしい影……?」

「とにかく警戒しておけ。デートなんてしてねえで」

 ジェイクは去っていった。

 イリアがユキを見つめていた。なにがおこったのだろうという目をしていた。

「あのかた、治安活動家ですよね……?」

「あ、うん、そうだね……」

 イリアには事情を話しづらかった。

「いったい、どういう関係なのですか……」

「それは……」

「説明しづらい関係なのですね?」

「う、うん……」

 イリアはすこしの間をあけて、

「まあ、いいでしょう。あのかたに闇を感じることはありませんでしたから」

「闇?」

 ユキはイリアを見た。闇と言ったことにユキは疑問に感じたのだ。

 イリアが言った。

「わたしは闇の魔法使いですので」

「え」

「他人の闇の部分には敏感なのです。あのかたは良い人です。もちろんユキくんも良い人です。だから一緒にいたいのです!」

「そ、そっか……」

 なんというか。

 ユキは苦笑いを浮かべる。

 イリアはいつもほのぼのしていて癒し系だと勝手に思っていたが。

 まさか魔法の本質はその真逆とは微塵も思わなかった……。

「さあ、帰りましょうか。シャルナさんにすこしだけあいさつして帰ることにします」

「あ、うん、わかった……」

 ユキは怖がりながら一緒に帰った。

 レジ街は夕暮れへと姿を変える。

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