シャルナの守り方
ダラン王がエア・カーに乗って一般道路を帰っていった。ユキたち三人はダラン王のエア・カーが見えなくなるまで見送った(おれが見えなくなるまで見ていろ!)と言われたからだ。
「ああ、ようやく帰ってくれた」
シャルナは肩をおとしてマンションのエンテランスに入っていく。ユキとアンバーはそれを追いかける。
「あいつのこと、嫌いなの?」
三人でエレベーターに乗りこむ。
「嫌い」
「あ、そうなの」
「うん」
「なんで?」
「うるさいから」
「ああ、だってあいつ、シャルナのことちゃん付けで呼んでたもんね。そういう部分が嫌いなんだ」
「うん」
「Sなわけねっ?」
「S?」
「シャルナはSよ」
「そうなの?」
「そうね、たぶん。あたしもSよ」
エレベーターが十五階に到着した。ユキはふたりのことを警戒しながら箱を出た。
エルファド人はみんな、世話好きなのではないのか。
いや、まあ。
エルファド人にだって、いろいろな人たちがいるだろう。
でも、やっぱり、このふたりは、ただのSの少女なだけのような気がしてならない……。
しかし、アンバーのほうは、料理をつくってくれるし、すこしは世話してくれているような気はする。アンバーに関しては、その口調だけがSなのかもしれない。まあ、まだ詳しくはわからないが。
だけど、シャルナのほうからは、ユキは本当に世話を受けた記憶がいっさいない。むしろシャルナからは命令しか受けていないような気がする。
まあ、だからといって、ふたりの世話を受けたいわけではない。それは断じてないと言えるだろう。
「ユキは眠ってていいからね」
部屋をあがって、シャルナがそう言ってくれた。
ユキは、その言葉にあまえることにする。王のために地上まで降りたけれど、ユキはベッドでずっと眠っていたかったくらいに具合が悪かったのだ。
「ちと、あたし、街に出かけてくるわね」
「うん。なにしに行くの?」
「あ、今日から映画がやるのよ」
アンバーはうれしそうにそう言った。
アンバーはSF映画のファンだったらしい。
シャルナはアンバーについてはいかなかった。
一応、ダラン王が表に出る場合にそなえて身を潜めておきたいらしかった。
「ま、わたしにまで被害が来ることはぜったいにないと思うけど」
「王さまは、シャルナのことが大好きなんだよ」
「それがめんどくさい……」
まあ、思春期にはそういうこともあるだろう……。
ユキには、シャルナの生きてきた環境がすごくうらやましいだけにその理解にはとても苦しむが。
「とりあえず、ユキはわたしのことをまもってね」
「わかった」
シャルナをまもることに関しては、ユキは本気だった。それにこうなる以前からユキはすでにそう思っていた。シャルナたちといっしょにいられるこの環境がいままででいちばん良い環境だと思っている。それをまもらなくてほかになにをまもるというのだろうか。
「まず、パパをわたしに近づけないで」
ユキはしばらくのあいだシャルナの目を見つめていた。
「どういうことかな、それは」
「嫌いだって言ったでしょ?」
「え、そんなに嫌ってるの……? ぼくにはどう考えても、良い親子に見えるんだけどなあ……」
「どこが良いわけ?」
シャルナが睨んできた。
「こ、怖いです……」
ユキは布団を顔面にかけて隠れた。
「ユキがやらなくちゃいけないことのいちばんは、まずそれね」
「は、はい……」
やりたくないです。でも、やるしかないんです……。
シャルナとダラン王のどっちが怖いか。
そんなの決まっている。
シャルナだ。
だからユキはシャルナにしたがうのだ……。
ダラン王はなんだかんだ言っても良いお方のように思う。
国民のことをたいせつに思っているお方だと思う。
「で、つぎに、ほかの女子とのデートは禁止ね」
「デートなんてしたことないけど……」
「これからするつもりでしょ?」
「そんなつもりもないです……」
「でも、ディテクタのメール交換、頻繁に繰りかえしてるよね?」
「それは、みんなと仲良くするために一応、ぼくはがんばっていて……」
「ふーん、そうなの。でも、うれしいんでしょ?」
女子や男子からメールが来るのは当然、うれしい。
でも、いま、ユキはシャルナに「うれしい」と発言できない……。
「うれしくない」とも当たり前に、言えない。
「わかるよね?」
「え?」
「わたしはがんばってユキの世話してるんだから、ユキもがんばってわたしの世話をしないと駄目なの。わかるよね?」
「うん、わかる……」
「わたし、エルファド人だから、そういうことに関しては厳しいの。ごめんね。でも、がんばってね。いま以上に。それがこの日常の当たり前になるんだから」
シャルナはやはり、王女さまなのだろう。ユキはそう思った。それゆえに、その性格のなかにはそういった傲慢な部分がふくんでいるのだろう。それはすこしはがまんしなければならない部分かもしれない。そう考えるしかない……。
「おやすみ、ユキ」
「うん、おやすみ……」
これは安眠できそうにないぞ、とユキは思った。




