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フォレストとタツ

本編終盤~エピローグ後あたりのお話です




5年という月日は長いようで案外短い。

竜也がいないその間に3割くらいのスタッフが入れ替わっていた。

しかし知る顔もまだまだ多く、かつて彼がこの場所にいた時の空気感はしっかりそのまま残っている。


かつてアイドルとしてグループの最年少だった自分が今度は音楽ユニットの年長者としてこの場にいるとは自身の事とは言え何とも不思議な感じがする。

そしてそんな感情は竜也だけではなく、事務所に所属する全ての人間が感じていることでもあった。


特に強く感じているのはフォレストの面々だろう。

同グループの仲間が別グループの後輩へと立ち位置を変えたのだ、いくら間に5年という歳月があったとしてもそうそう簡単に慣れるものでもない。




「あー…、一応敬語使った方が良いのか?」



気まずげに竜也がそんなことを言う。

いくら元同期と言えども、現在はシュンと共にぼたんを立ちあげた新入りなわけで。何とも微妙な立ち位置なのだ。



「…やめろ、お前に敬語使われるのは気色悪い」



複雑な顔をしながら竜也の問いに即答したのはシゲだった。

そしてそれに同調していたのは大地だ。



「そうだな、お前はそのままで良いよリュウ。俺達にまで気遣う必要ない。一応、同期だろ?」


「えー…、あの生意気なリュウが跪くとことか見たい気もするんだけど僕」


「…悪趣味すぎんだろ、お前。俺はどっちでも良い、面倒くせえ」




対して不満げな顔をしたのは隼人で、心底どうでも良さそうなのがタカ。

相変わらずこの2人は協調性に欠けるななどと口にすれば面倒事になりそうなことを思いながら、竜也は苦笑して頷く。


どうやらこいつらは全員そろって変わっていないらしいと確信する。

寡黙で真面目なシゲ、八方美人でお人よしな大地、マイペースで人付き合いの下手な隼人、ぶっきらぼうで細かいことを気にしないタカ。

国民的アイドルなんてステップに上がろうが、自分のスタンスを崩さない。

意志が強く、周りにのまれない奴らだ。

ここまで駆けあがって来たのはだからこそだろうなと、今の竜也なら素直に信じられる。




「…理想と現実はやはり違ったか」



しかしフォレストの裏の顔を初めて目にするシュンにとってはそんな感想にしかならなかったようだが。

それも無理はないと竜也は思う。

なにせフォレストの表の顔は、基本全員笑顔なのだ。


シゲは寡黙だが全員を見守る父ポジションだし、隼人は気まぐれ猫だが嫌みなく対応しているし、タカもワイルド系ではあるが気さくで兄貴肌全開なのだ。

この面子の中で裏表の顔に大した差がないのは大地くらいのものだから、多少ショックを受けても仕方がないとは思う。

…いや、感心したように眺めているあたりでそうではないとも竜也は気付いたが。




「ああ、シュンだっけ。ごめんな、放っておいて。俺は大地、よろしく。凄腕のピアノ奏者なんだって?」


「…いえ、昔の話です」


「昔って…てめえ若いだろが。何言ってんだ」


「若くないです、成人してますから」


「……見た目に寄らず頑固そうだね、シュン。そんなんでよくリュウと組んでるよね。リュウなんて頑固だし生意気だし疲れない?」


「慣れました」


「おい、シュン。慣れましたって何だ、少しはフォロー入れろ」


「…リュウ、お前年長者だろうが。もう少し威厳だせ、何だその情けないツラ」




そんな感じでシュンとフォレストは意外なまでにスムーズに親交が深まっていった。

人付き合いは得意じゃないと言っていたが、案外シュンのようなタイプこそが好かれやすいのかもしれない。


芸能界は欲望を持った人間が多い。

自己主張の激しい人間も多い。

目立つために手段を選ばない人間だって山ほどだ。

そんな中淡々と素のまま対応するシュンはさぞ新鮮だろうと竜也は思う。


まあ確かに遠慮のない物言いはするが、根の性格は悪くないし人の価値観に口出しをすることもない。一緒にいて気が楽な相手だとは思う。



と、竜也がそんなことを考えていると、不意にシゲが「タツ」と竜也のことを現在の芸名で呼ぶ。

思わず竜也は目を見ひらいてシゲを見返した。




「お前は確かに同期だが、ここからは敵同士だ。あっさり落ちてガッカリさせんじゃねえぞ」



そうしてニヤリと笑うシゲ。

テレビ以外では滅多に見せないシゲの笑顔。

しかもテレビでは見せないような意地の悪い笑み。


その珍しい彼の表情にもう一段階目を大きくした竜也は、その真意を読み取りフッと小さく吹き出した。




「上等だ。心配しなくても今や音楽技術は俺の方が数段上だからな。俺だってただ黙って5年過ごしてきたわけじゃねえよ、見てな」


「…ふん、口だけは達者だな」


「さあ、口だけかな。今にお前らより上に行ってやるから」



そう返す竜也の目にはもう迷いがない。

真っ直ぐ前だけ見据え自信と決意を宿らせ、シゲを見据えている。


その成長を内心嬉しく思いながら、シゲはそこでやっと意地悪さも何もない純粋な笑みを浮かべた。



「よく帰って来た。頑張れよ」



竜也が変わった様に、フォレストの面々だって前に進んできた。

繋いでいたのは短くも濃かったフォレスト結成当時の思い出。

甘えたで何事にも中途半端だった竜也に、ただただプライドばかりが高く尖ることでしか自己主張できなかった自分達。


こうして再び交わったことは奇跡的だと、この時はその場にいた全員が感じていた。



「おう、ただいま」



満足そうに笑う竜也。

その充実していると分かる表情に、シゲだけじゃなく大地やタカ、隼人までもが穏やかに笑っていた。







「さて、本日のゲストですが!いやあ、長かったね。ついに、ついにアイツが帰って来ましたよ皆さん!」



それから数日が経った頃。

テレビからはそんな大地の明るい声が響いた。


フォレストの冠番組。

毎週ゲストを呼んで、トーク、体験、チャレンジ、色々なことをしながらゲストを深く掘り下げていく人気番組だ。



「本日のゲスト、ぼたんの2人です!」



テレビでは実に5年ぶりとなるフォレスト結成メンバー全員集合。

観客達の声と混ざってフォレストの面々が「おかえり」と声をかけ無邪気に竜也に抱きつく。

5年経っても途絶えなかった絆にフォレストファンのみならず、多くの視聴者が感動したらしい。


もっともその中心で当事者の竜也は笑顔を張りつけたまま、抱きついてくる裏表ギャップの激しいメンバー達を気味悪そうに見ていたわけだが。

ただ、それでも半分くらいは本心で歓迎してくれているとも理解していたから、何だかんだ嬉しい気持に抗えなかった。


もう1年以上も前のそんな感情をつい最近になって竜也から聞いた千依は、ふふっとテレビを眺める。



「ちー、って…まあた見てんのソレ」


「うん、充電完了!」


「…はあ、付き合い始めてからどんどんあいつ侵食領域広げてるな」


「…へ?」


「何でもない。ただタツが憎いだけ。さ、続きしようか」


「うん、頑張ろう千歳くん」


「ん」




ぼたんと奏。

この2組がフォレストに追いつく勢いで成長し、やがて日本の音楽界を引っ張る存在になるのはまだもう少し先の話。






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