(93)決着、ムラサメvsゼファー
改めて見れば、ムラサメ達の戦闘は、鬼気迫るものだった。
お互い防御が出来ない者同士、しかも武器は同じ両手剣であるため、リーチも同じ。
戦いは必然として、間合いを計りながらの斬り合いに徹していた。
もちろん、ムラサメがゼファーに対し、間合いの取り合いで負ける訳がない。
ヒットアンドアウェイで、斬りと火炎弾の攻撃を間断なく繰り返し、常時プレッシャーを掛けつつ切り込んでいく上手さは流石で、店長を全く寄せ付けない。
「妖精の護符」があるからこそゼファーはノーダメージなだけで、内容はあまりに一方的……素人目にはそう見えるはずだ。
だが、俺がこのバトルが鬼気迫って見えたのは、店長が、技量こそ遙かに劣るものの、ムラサメに必死に喰らいついていっているからだ。
あそこまで良いようにやられれば、フィールドマウスみたいに途中で戦闘を放棄しそうなもんだが、店長は全く諦めていない。
ゲームは明らかに素人なのに、この極限の状況下で学習し、その動きが徐々に良くなっているのが分かる。
その執念と闘志は、まるで手負いの飢狼のようにも見えた。
「!?」
二人の距離が離れたところで、ゼファーが何かを投げた。
それはムラサメの「ファイアーボール」と相殺され、中空で爆発する。
「……チッ!」
ムラサメのあからさまな舌打ち。
距離を離したゼファーは次から次に「それ」を投げてくる。
タイミングを狂わされたムラサメに「それ」がヒットし、ムラサメの妖精の護符がピィン、という音を立てて剥がれる。
「……くそ、『コウテツクルミ』か!」
ムラサメの呟きに「何だそれ」と思ったが、名前から判断するに、多分「石ころ」と同じく、原始的な投擲武器だろう。
……そうか、さっき、森の中にずっと居たのは「コウテツクルミ」を集めていたからなのか!?
俺たちがゼファーの「妖精の護符」を剥がそうとしているのと同様、店長も俺たちの「妖精の護符」を剥がすために、ファイアーボール戦法をコピーしたんだ……!
「(……!)」
こいつらは、油断ならない。
ゲームの中で、一般人がゲーマーに叶うはずはない。
だが、奴らはそれ以外の方法は何かないかと知恵を絞り、執拗に食らいついてくる。
「頑張れ、ムラサメ!」
俺は、思わずそう声を上げた。
気合い入れろよ。
油断するなよ。
……でないと、足下を救われるぞ!
デュエルは、お互いの体力満タンのまま続いた。
ムラサメの攻撃は、ゼファーの「妖精の護符」の鎧を削った。
ゼファーの攻撃も、回数こそ多くはないが、ムラサメにヒットし「妖精の護符」の鎧を削った。
勝負は、どちらの「妖精の護符」が、先に切れるか……その一点に終始した。
どっちだ。
ムラサメか。
それとも、ゼファーか。
負けるなよ、ムラサメ……!
「……ぐっ!!」
残タイムが2分を切った所で、遂に均衡が崩れた。
その端緒となったのは、店長のうめき声だった。
「くそ……!」
「……!!」
ムラサメが息を吸う音が聞こえた。
満タンだった、ゼファーの体力ゲージが遂に減った。
遂に、「妖精の護符」が、無くなったのだ!
だが、その体力ゲージの減りは、ごく僅かだった。
「(そうか……!)」
ムラサメは、一度倒されたことで、クラス「パラディン」を失い、パラメータが大幅に低下していた。
パッシブスキル「エクスキューショナー」が発動していてあの程度のダメージというのが、本当に惜しい。
「ムラサメ……!」
でも、行け。
ダメージは通るんだ。
そのまま押し切れ、ムラサメ!
ブレードアーツを喰らわして、倒せッ!
「おっと、お前は動くなよ、フィールドマウス!」
「は、はい……!」
俺は念のため、フィールドマウスに念押しして、戦いの趨勢を見守った。
「よぉし! 覚悟しろ、ゼファー!」
「畜生、テメェ! この野郎!」
白熱した声が、デュエルの空間に轟く。
「ああ、て、店長!!」
「声も出すな、フィールドマウスッ!」
「は、はい!」
「テメェ、ちくちく削り取ってくんなッ! 殺すぞ!」
「やってみろよ! 殺せるもんなら、殺してみろっ!」
NGワードを連呼したムラサメの頭上に、「○す」と表示された、ピンクのアイコンがポップする。
ハラスメントプレイヤーの警告だ。
しかし、それすら気にならぬほど、ムラサメとゼファーは戦闘に没頭していた。
ゲームの……。 いや、仮想世界での戦闘だけど、これはもう本物の殺し合いだ。
二人の飛び交う怒号を聞きながら、俺は改めてそう感じる。
ムラサメの猛攻を受け、体力を徐々に減らしていくゼファー。
ゼファーの攻撃は殆どヒットせず、有効打と言えるものは、不意に投擲される「コウテツクルミ」くらいだった。
「ぐ……!」
「……!?」
だが、今度はムラサメのうめき声。
と同時に、ムラサメのHPが、5%くらい減った。
それは、「コウテツクルミ」のダメージだった。
「(ムラサメ……!!)」
不味い。
遂に、ムラサメの奴も「妖精の護符」が無くなったのか!!
ムラサメが、今までの「踏み込めば攻撃が届く」距離を僅かに離し「敵の空振りを誘って一撃」の距離に、間合い取りを変えたのが分かる。
残り時間を一杯に使って、ヒットアンドアウェイで倒し切るつもりだ。
「くそおっ! 何で当たらねぇんだよ!」
店長は罵声を吐きまくるが、それは当然だった。
ムラサメクラスのゲーマーが本気で間合い取りをしたら、もはや一般人がどうにかできるレベルじゃない。
ムラサメのヒットアンドアウェイ攻撃を受け、ゼファーは体力を徐々に減らし、残体力は残り2割まで達しつつあった。
「あと少しだ! 泣くなよ! 小便チビるなよ! 念仏でも唱えてろ、ゼファー!!」
ハイテンションのムラサメが、店長を煽りまくる。
「テメェ、やめろ! 畜生、やめろ! 俺たちの貯めた金! どれだけ投資したと思ってるんだァッ!! 本気で殺すぞ!!」
「知るかァッ!! デュエルを提案したのはお前等だろうがッ!! 泣き言言うなッ!!」
「もう……護符がない……やめろ……」
「止めるかッ!」
「止めてくれ……。 お願いだ……」
助けを乞う哀願の声。
あの店長の、そんな声を聞くのは初めてだった。
「(……?)」
だが、俺には猛烈な違和感がした。
「お願いだ、頼む……」
そんな声を吐きながらも、店長は抵抗を止めない。
それに……気のせいかもしれないが、心なし、口調にどこか余裕があるような気がするのだ。
「(演技……?)」
唐突に、そう感じた。
まさか、この哀願の声は、演技なのか?
だけど……このシチュエーションで、店長はどうやってムラサメに勝つ気なのだ?
ゼファーの残り体力は、もう1割を切っている。
「コウテツクルミ」も使いきったらしく、さっきから剣による攻撃しか出てない。
もう、削り殺される未来しかないというのに……。
何か、勝つ作戦があるのか!?
「(……止めろ、ムラサメ!!)」
異様に、嫌な予感がする。
だけど、ここで止めて、影響が出たらどうする?
「(……それは、罠だ!!)」
普通に考えれば、ここはムラサメの確実な勝ち。
俺が罠だと考える理由は、フィールドマウスの「策」という言葉。
それと、ムラサメの作戦の「穴」……確証のないそれが、目の前に待っているのではないかという、根拠のない不安。
だが、どう考えても、ゼファーに勝ちはない。
ここでムラサメを動揺させてはいけない。
その考えが、叫びたくなる俺の口を閉じさせていた。
「畜生! こんな所で終わりだなんて……!!」
「ゼファー、これで終わりだッ!!」
そして……。
「終わり」は唐突に来た。
それは信じられない光景だった。
ゼファーの「薙き払い」を避けたムラサメが、ショートダッシュから、最後の一撃を叩き込んだ。
「はぁっ!」
最後の一撃は、まさにトドメとも言うべき、大上段からの袈裟切り。
その刀身は、ゼファーの胴体を、真っ二つにすべく、深々とめり込んだのに……。
ピィン、という音を立てて、無効化された。
「……何だとっ!?」
その光景に、ムラサメが、驚愕の声を漏らす。
「……貰ったぞ、ムラサメーーッッッ!!」
ゼファーが、そう叫ぶ。
「アハッ、ハハハハハハハァァーーーッッッ!!!」
攻撃を無効化され、予後動作でムラサメの体が泳ぐ。
ゼファーは、薙払いの体勢から、同じく大上段からの袈裟切りを繰り出し……。
ムラサメのアバターを両断した。
「え……?」
ガシュッという音と共に、一撃でHPゲージが真っ赤になって消滅した。
「……!!」
「なん……で?」
ムラサメが、信じられないと言ったように、そう呟く。
俺の血の気までが、一気に引いていった。
「やったーーーー!!! 流石です店長!! 作戦、大成功ですね!!」
「やったぞ! 殺してやったぞ、このクソガキがぁッ! どうだ、自分が倒された気分はァ!! ざまぁみやがれっッ!!」
「まさか、最後まで攻撃を当てるチャンスが無かったなんて……。 でも、良かったですね、店長!」
「ああ、流石に緊張したぜ。 どうよ、俺の演技もなかなかだったろう?」
ゼファーとフィールドマウス、二人の会話を聞いて、俺は唐突に、ムラサメの作戦の「穴」に気がついた。
それは、妖精の鎧の着脱は「任意」だって事だ。
ダメージが通るようになったからといって、護符がなくなったとは限らないのだ。
そして、フィールドマウスの作戦にも。
当然の前提だったが、ゼファーは一発当てさえすれば勝てるのだ。
そのために「コウテツクルミ」でムラサメの護符を剥がし、ゼファーの護符がなくなったと見せかけて、攻撃してきた所で護符を再装着し、攻撃を無効化、反撃で倒すという作戦。
「何で……。 最後、突きだったら、僕が勝ってたのに……!」
ムラサメも今それを理解したのか、そう呟いた。
この勝負は、本当に紙一重だった。
一撃を与えれば勝てるゼファー側だったが、ムラサメには隙がなく、反撃は全く届かなかった。
だが、最後の一撃に至り、ムラサメは欲を出した。
あるいは、この苦しい戦いから、一刻も早く逃れたかったから、かもしれない。
どちらにせよ、それが予後動作の大きい袈裟切りを繰り出す原因となり……結果、ムラサメは破れた。
「!?」
フィールドマウスが、許可なく「回復薬スーパー」を使いやがった!
「何だテメェ! 勝手に動けば切るって言っただろうが!」
「はははははは!! もう無駄ですよ!! 2対1になりましたから! 我々の勝利です!!」
そう言って、またもフィールドマウスはあちこちと逃げ回る。
「待て、テメェ! 戦え、フィールドマウス!」
「お断りいたします!」
「おい、ノグチ! 時間切れまで、絶対に殺されるなよ!」
「やめ……止めろ!! 僕の装備を剥がすなッ!」
視界の隅で、倒れたムラサメの上で、ナイフを取り出すゼファーの姿が見えた。
「止めろォッ!! ムラサメの装備を、剥ぐなぁッ!」
「誰に言ってんだ! 俺たちに向かって、さんざ偉そうな事を言ってたのはキリシマ、テメーらだろーがッ!!」
「止めろ、止めてくれぇっ! 僕の装備! 止めろぉーーーーっ!!」
「誰が止めるかよ! 死ね!! 死ねッ!! 退場しやがれ!! もう二度と、その顔見せんなよッッ!!」
そう言って、店長は、ムラサメのアバターにナイフを突き立て、装備を剥いだ。
「止めろぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっ!!!!!」
魂切るムラサメの叫び。
本気の絶叫だった。
「……うるせぇよ!! 負け犬は黙ってろ! ……ははあぁっ!」
そして、俺たちのデュエルもドローで終了した。
「……やったぞ! 『鬼哭剣【天翔蝶鳳】』を奪い取ったぞ!」
「本当ですか!?」
「あ……何だ? コイツ、報奨金0じゃねーか! 剣もそんなに強くねぇしよ……! クソがッ!!」
「やめろ、ゼファーッ!!」
デュエル復帰と同時に、俺はゼファーに切りかかったが、奴は装備奪取時間の45秒に保護され、無傷だった。
「おっと」
そして、奴は「回復薬スーパー」を飲み、全損直前だった体力を回復させていく。
「レオ……。 レオぉ、お前は勝て! 勝って、僕の装備を、取り戻してくれぇ……!! お願いだぁ……!!」
「ムラサメーーッ!!」
ムラサメは、悲痛な涙声を残して消滅した。
「良いでしょう! 2対1のデュエルなら受けて差し上げますとも! うっひゃっひゃっひゃ!!」
「フィールドマウス、てめぇ……!!」
さっきまで、娘がどうとか言って、泣きわめきかけてたじゃねーか!
「そうでしたかね? 忘れましたね、もう」
「はっ……。 そんな事言ってたのか、ノグチお前」
「いえいえ、そんな恥ずかしい事言いませんよ、店長」
どっちにせよ……と良いながら、フィールドマウスは、デュエル申請画面を表示させてきた。
ーーーーーーーーーー
デスペナルティモードデュエル
「ゼファー」&「フィールドマウス」vs「レオ」
道具使用ありでバトルロイヤルマッチを行います。
参加しますか?
Y (はい): N (いいえ)
ーーーーーーーーーー
「君も退場してくれれば、そんな事実も消滅しますからね! ははははは!!」
俺は躊躇なく、「Y (はい)」をタップ。
「うおわぁっ! ば、バカですか、君はぁッ!? まさか、ホントにデュエルに参加してくるなんてッ!? て、ててて店長! キャンセルお願いします、キャンセル!」
「逃げんのかよ、お前等!!」
「店長、絶対にデュエルを受けてはダメですよ! このまま粘れば、レオくんは自動的に退場しますから! デュエルはしたんですし、義理は果たしました!!」
「戦えテメェ!! 2対1でも、俺はテメェらに負けたりしねぇ!!」
「ふん……いくらお前でも、俺たちを相手に、2対1で勝てるとは思えないがな」
「なら戦え、今すぐ!!」
正直、俺も2対1で勝てるとは思っていない。
だが、フィールドマウスもゼファーも倒せず逃げられてしまったら、奴らの言うとおり、俺は自動で退場になってしまう……!!
「へぇ。 ……じゃ、4対1ならどうですか、レオくん?」
「お前……? 何で、ここに? どうやって……?」
通路の反対側から、まるで俺を挟み撃ちするようにそいつらは現れた。
「そんなの、魔法に決まってるじゃないですか、レオくん」
オリオン……!?
そして、ミルフィーユ……!?




