(92)信念の結晶
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思考は現実化する。
素晴らしい話だろう?
君の想像……金持ちになりたいとか、美しい恋人を作りたいとかあるだろう?
それは夢だけでは終わらない。 実際に実現するんだ。
そのためにはどうすればいいかって?
その答えとは「徹底的に考える」ことさ。
夢への情熱はもちろんだが、どうやったらそれが具体的に実現するか、詳細に調べる。 そして成功までの道筋を考える。
さっきの例で言えば、自分の所有する能力で、どうすれば金持ちになれるのか。 どうやったら女性と多く巡り会い、モテることができるようになるのか。 それを真剣に考え抜け、って事さ。
イメージできたかい?
……オーケー、イメージできたようだね。
そして、君の中にある、その成功するためのポジティブなイメージは、君の行動を変える。
成功に必要な要素が、自然と耳に入り、目に付いてくるようになる。
君は意識して、それらしい行動をするようになる。
自分は真の金持ちだと思いこめば、金は舞い込んでくるし、真のイケメンだと思えば、女性は徐々に近づいてくる。
ここで大事なのは「真に」ってこと。
つまり自分に都合の良いイメージじゃダメ。
「本物」のイメージが大事なんだ。
とどのつまり、思考を現実化させるためには、「詳細に、具体的に、緻密に、徹底的に考える」ことなんだ。
最初は、単なる妄想であっても良いんだよ。 覚えておいていてほしい。
力ある虚構は、いずれ実体化し、現実を浸食する。
そのためには、まず考える力を養うことが大事なんだ。
僕もね、ようやっと、学校にはそのために行くんだなぁ、って気づいたよ。 学問を学ぶ本当の意味を。
学問を学ぶ事が大事なんじゃなくて、学ぶ力を養う事が本当に大事なんだって。
ま、僕がそれに気づいたのは、学校を全部卒業してからなんだけどね!
<リチャード・ロア>
株式会社「ググループラス」
日本法人代表CEO
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「どうですか! 望み通り、デュエルです! あれだけ啖呵を切っておいて、貴方こそ承けないとは言いませんよね、レオくん!」
……!?
提示された条件は、俺vsフィールドマウス、ムラサメvsゼファー。
何だ、この組み合わせ!?
策って、何かの意図があるのか?
しかも、何故シングルデュエルなんだよ!?
「……多分、僕たちのコンビネーションを封じようというハラだろう」
「それだけか? 策って言ってたけど、何か他にあるんじゃないのか!?」
「動揺するなよ、勝てば良いだけの話さ!!」
「そ、そりゃ、そうだけど……」
「どうしましたか! 威勢が良かった割には、いきなりダンマリですか!? それとも、降参の相談ですか!?」
「誰がだ!」
……マズい!
ムラサメの奴、アツくなってやがる。
このままだと……。
「この勝負、受けて立ってやる! いいな、レオ!!」
また、選択を人に委ねることになってしまう。
「あ、ああ……」
それだけはダメだと……。
自分で考えて、自分で選ばないと……。
何もかもを他人に譲ることになる、って分かったのに……。
「レオ、『エクスチェンジリング』を貸してくれないか」
「何でだよ!?」
「当たり前だろ! ゼファーの『妖精の護符』の鎧を破るには不可欠なんだ!!」
そう言い、
「レオ、お前なら、フィールドマウスがいかに堅くても、毒で倒せる! ゼファーは『耐毒の護符』を持ってるけど、奴は持たないからな!」
次々と、戦いのプランを提案してきた。
いや、それは、「エネミーアナライズ」で確認した、確かな情報なんだろうけど……。
でも……。 でも……!
「この後に及んで、何を躊躇してるんだよ、レオ! ゼファーの『妖精の護符』さえ剥がしてしまえば、僕たちの勝ちさ! 何を迷ってるんだよ! さぁ、早く!」
「わ、分かった……!」
俺はムラサメの勢いに押され、「回復薬」と「エクスチェンジリング」を交換した。
「……頼むぞ。 絶対に勝ってくれよ、ムラサメ」
「任せろ、レオ!」
これで良かったのか。
確かに、ムラサメは信用できる奴だけど……。
懇願されたからと言って、言われるがままで良かったのか、俺は?
「(何だよ、この不安感……)」
それは、以前にも感じた感情。
「(お前と同じ性質のムラサメを選ぶとか、負け犬の思考だな)」
龍真の電話での言葉が、今また脳裏に浮かぶ。
そう。
ムラサメは確かに、戦闘では頼りになる。
だが……。
「行くぞ、『ゼファー』!」
「来い、『鋼鉄戦鬼ムラサメ』ッ!!」
……ムラサメは、正解の選択肢を、選べない。
俺にも、はっきりとは分からない。
だけど、ムラサメの作戦には、どこか穴がある気がするのだ。
胸にわだかまる不安感の正体は、おそらく、それ……。
「さあ、私たちもデュエルしましょうか、レオくん」
だが、もはやこうなっては、ムラサメのプレイヤースキルを信じるしかない。
あいつのゲームに賭けてきた情熱と技量が、店長の欲望と課金を上回っていると。
それに万一、ムラサメが負けたとしても、俺が勝てば店長とタイマンで戦える。
「分かったぜ、フィールドマウス! 覚悟は良いな!」
俺は画面に浮いた、シングルデュエル申請に「Y (はい)」をタップする。
「DUEL START!」の文字が、燃え盛る炎と共に画面に飛び込んできて、俺とフィールドマウスのデュエルは、文字通り火蓋が切られた。
「(……負けられない、絶対に!)」
野口さんのアバター「フィールドマウス」は大剣を装備した、重装型のアバターだ。
そして、今、野口さんはクラス「紅薔薇姫」を選択しているため、PKとクラス補正によって、パラメータは6000を越えている。
何の攻撃が当たっても即死の相手だ。
……?
「紅薔薇姫……?」
いや、待てよ。
「おや、今頃気づきましたか」
じゃあ、フィールドマウスを倒してしまったら、このイベントが終わってしまうんじゃないのか……!?
「ええ、そうですよ。 決着が付く前に私を倒せば、隣のデュエルが無駄になりますねぇ」
「……!!」
「それで、提案があります」
……提案!?
「私たちは戦わずに隣の決着が付くのを待ちましょう。 それからデュエルしても、遅くないんじゃないでしょうか?」
……戦わずに待つ?
何の意図があるのか、最初は分からなかったが、隣に目をやった時、フィールドマウスの思惑が分かった。
「お前……」
デュエル中、店長が有利なら、こいつは攻めてこない。
デュエルの制限時間……5分が過ぎるのを待ち、デュエル終了後に2対1という状況を作るつもりだ。
逆に、ムラサメが有利なら、こいつは攻めてくる。
店長が倒される前に特攻し、俺を倒せればそれで良し、倒せなかったとしても、店長たちのデュエルを無効化できる。
それを見極めるために、待とうと言っているのだ。
「おっと、レオくん、よくお気づきで……。 その通りです。 私は戦いたくないんです。 なるべくリスクを少なくしたいんです」
指摘したら、そんなイモ引いた発言をしてきやがった。
「何だお前!? デュエルするんじゃなかったのかよ!」
「デュエルはしてるでしょう、形だけですけど。 それに」
フィールドマウスは、言葉の端に笑い声を混ぜながら、言った。
「レオくん、貴方、実家に連れ戻されるんでしょう?」
「!?」
「という事は、戦わずに粘りまくれば、君はいずれ、この世界から退場する、という事ですからね」
……しまった!!
「それを聞いた以上、私は戦わないですよ。 そして、店長にも戦わせないです。 君を絶対にこの世界から排除するためにね」
何て、ことだ……!!
痛恨の失策。
撒き餌のために晒した情報が、致命傷だったなんて。
「……なら、お前を倒す!」
「ほうっ!?」
「俺はな、学費が稼げさえすれば、当面はごまかせるんだ! お前の装備を売り飛ばして、埋め合わせさせてもらう!」
「な、なんですって……!?」
このチャンスで、ゼファーを倒せると思ったのに……!
だが、今それを悔いても仕方ない。
今出来る、最善の事をやるしかない。
「行くぞ、フィールドマウス!」
この、ゼファーを守る、最も面倒な奴を排除しなくては!
「本気ですか、レオくん!? 私を倒せば、店長も倒せなくなるんですよ!?」
「今はお前を倒すことが優先だ! 行くぞ!」
俺は、フィールドマウスの周囲を旋回し、距離を大きめに取って攻撃を仕掛ける。
気合いは十分だが、今のフィールドマウスの攻撃は、何が当たっても即死だ。
「妖精の護符」で何発かは無効化できるが、その保険が切れる前に、奴を一気に倒さなくてはならない。
俺は隙をついて、速攻で飛び込んだ。
「く……!」
だが、俺の武器である片手剣と、フィールドマウスの武器である大剣。 そのリーチと威力には、圧倒的な差がある。
俺の手の届かない所でも、奴の攻撃は届き、しかもガードしたのに体力が2割も削られる。
「おっ……。 これは、意外に減りましたね!」
ガードされても、それなりのダメージを与えられる事が分かったフィールドマウスが、途端に調子づく。
ガードのノックバックで距離が開いたところで、奴はリーチに優れる大上段の一撃を繰り出す。
俺はそれをギリギリ避けたつもりだったが、意外に攻撃判定が縦に長いらしく、判定はガード。 またも2割の体力を減らした。
「妖精の護符」は敵の攻撃がヒットした時に発動するアイテムなので、ガードの削り時には発動しない。
削り攻撃は、種類にもよるが、通常ヒットの10%~3%、気にならないレベルにまでダメージ軽減されるのが普通だ。
それでこのダメージというのは尋常じゃない。 何を喰らっても即死、という見立ては間違いない。
「これならイケそうですね! レオくん、このまま削り取って倒してさしあげます!」
フィールドマウスは、ガードばかりの俺が不利と見るや、調子に乗って攻勢に転じてきた。
だが、それは全くの誤解だった。
俺はフィールドマウスの攻撃をジャストガードで弾くと、シールドパリングで崩し、ブレードアーツに繋ぐという黄金パターンで、連続攻撃を撃ち込んだ。
ダメージは0だったが、ピピピピン、という音で「妖精の護符」の鎧を削っているのが分かる。
「うひぃっ!?」
突然の猛反撃に、フィールドマウスが動揺した声を上げる。
先刻、俺が距離を計りつつも攻撃を受けていたのは、敵の攻撃の種類と、大剣という武器種の正確なリーチを確認するため。
大剣はリーチと威力に優れるが、その攻撃は基本的に出が遅い。
俺なら、タイミングを崩されなければ「ジャストガード」で、削られることなく弾き返せる。
フィールドマウスの攻撃は、大上段からの攻撃と、右からの薙払い、真正面への突き、左からのすくい上げ斬りの4つ。
「真正面への突き」は出が早いので、見てからではジャストガードが間に合わない。
正面を避け、最も出が遅い「右からの薙払い」に対応するべく、俺は敵の正面少し左に陣取って、攻撃し始めた。
「おらぁっ!」
「な……何ですか、これは!?」
格闘ゲームでもっとも重要なのは、間合いの取り方と、攻撃するタイミングの仕掛け。
「攻撃が……当たらない!?」
俺は突き、大上段の攻撃は正面に立たないよう「軸ずらし」で避け、右と左からの攻撃を誘ってジャストガードで弾き、コンボをブチ込んだ。
奴のダメージはしばらく0が続いたが、途中で「妖精の護符」が無くなったらしく、ダメージが通り始めた。
そしてムラサメの情報どおり、フィールドマウスは毒化し、アバターの頭上に紫の泡のエフェクトがポップした。
「うっ、うわ、うわぁぁああぁあっ!」
フィールドマウスを倒すには、一度も相手の攻撃を受ける事なく、かつ回復行動を取らせないために、攻撃を途切れさせず倒すしかない。
「く、くそお……! 何やっても、弾かれる……! 何ですか、それは……!?」
それはそうだ。
もう俺は、フィールドマウスの攻撃をほぼ見切っている。
格闘ゲームで、初心者と上級者の壁があまりにも厚すぎるのは当然の事で、それはこのゲームでも例外ではない。
こいつらがそれを知らないだけ、の話だ。
こちらは攻撃を一度でも受ければ即死なのがスリリング過ぎるが、幸いにして「妖精の護符」の存在が、精神的な余裕になり、タイミングのシビアなジャストガードを外す事なく成功させ、攻撃を続ける事が出来ていた。
「うわぁ、ああ、もう、止めてくれぇ!!」
「!?」
一方的にボコられ続けるフィールドマウス。
だが、体力が半分を切った所で、奴はパニックを起こしはじめ、ガチャプレイ……メチャクチャに剣を振り回し始めた。
その初心者特有の予想できない挙動は、俺にとってナチュラルなフェイントとなり、不意の被弾に繋がった。
「(……ぐ!)」
1フレームを奪い合う世界では、一瞬の判断ミスでダメージを喰う事もしばしばある。 どんなプレイヤーだって、最後まで完璧なプレイなんてのは不可能なのだから。
だが、初心者のガチャプレイには、距離を取って冷静に対応するのがセオリー。
俺はすかさず接近戦から中距離戦に移行し、敵の空振りを見極めて、その隙にダッシュからのブレードアーツを撃ち込む戦法へと切り替えた。
そして、俺の計画どおり、フィールドマウスは足掻きも空しく、またも良いようにボコられる。
「……何で! 何やってもダメなんですかぁ!?」
「これが実力差なんだよ! 終わりだ、フィールドマウス!」
横目でムラサメの方を見れば、あちらはまだ体力満タンのまま、剣での刺し合いが続いていた。
予想に反し、全くの均衡状態が続いていた。
……ムラサメには申し訳ないが、フィールドマウスの思惑が発覚した以上、こいつはここで倒す。
そうしないと、また一からの出直しになってしまう!
「スクロール!」
だが、俺はフィールドマウスのその声を聞いた瞬間に、慌てて距離を取った。
「……『キュア・ポイズン』!」
「(……しまった!)」
攻撃魔法かと思って距離を離したら、解毒スクロールだったとは。
というか、持ってると考えた方が自然だったのだ。
「耐毒の護符」を持たないのなら、危急時に対応できるだけの代替策があるはずなのだから。
そして、俺が動揺している間に、フィールドマウスは、「回復薬スーパー」を使った。
「(……くそっ!)」
俺は再び、フィールドマウスに剣を叩きつける。
だが、毒状態から復帰したフィールドマウスは、もはや攻撃の意志すら捨て、盾を構え、完全に護りに入った。
俺は上段・下段と剣を振り、攻撃を散らす事が、ブレードアーツを封じられた事で、ダメージ効率が悪くなった。
「(学習、された……)」
野口さんはゲームの素人だ。
でも、同じ行動を繰り返すCPUじゃない。
知性ある人間だ。
同じ戦法ばかりでは、いずれ対応される。
どうする。 効かないのを覚悟で、こっちもスクロールによる攻撃に切り替えるか?
「(う!?)」
だが、そんな事を考えていた矢先、突如フィールドマウスが剣を振ってきた。
俺は一瞬ガードするか迷ったが、「妖精の護符」で無効化し、その隙にブレードアーツをたたき込もうと判断。
ピィン、と音を立て、俺のアバターの胴を薙ぐ、フィールドマウスの攻撃は無効化された。
「(……よし!)」
そして俺の攻撃を受け、またも奴は毒化した。
「今度こそ終わりだぜ、フィールドマウス!」
……次はスクロール、と言われても避けないぜ!
このまま最後まで押し切ってやる!
「スクロール!」
……避けない! これはブラフだ!
「『ギャラクシー・エクスプロージョン!』」
……何ィィッ!?
俺の剣が奴の盾を叩き、魔法が完成したと思った俺は、慌てて距離を取った。
……だが、何も起こらなかった。
「スクロール、キュア・ポイズン」
「……お前、この野郎ッ!!」
しつこすぎるぜ!
そうまでして生き残りたいのかよ!
「そうですよ、レオくん! 私の気持ち、貴方には分からないでしょうけど、生き残りさえすれば、私の勝ちですから……!」
俺は再び剣撃の嵐をお見舞いし、フィールドマウスを毒化させるべく戦う。
「私はですね……最近まで、御山崎技研って会社で働いてたんです。 ご存知ですか」
……!?
「小さい会社ですから、レオくんは知らないでしょうね。 あれだけ尽くしてきたのに、そこをリストラさせられて……。 妻と娘に、逃げられました。 退職させられてから、腐って家に籠もってたから、愛想つかされたんでしょうね」
……何の話だよ!?
「でも、家族を失って、初めて分かったんです! うるさいだけの妻と娘でしたが、私にとっては、かけがえのない家族だと! 私の生き甲斐だったのだと!」
「それが、今、何の関係があるんだよ!」
「私は、絶対に負けられないんですよ! 娘に……もう一度逢いたいんです! 金さえ持っていけば、もうダメ親父なんて言われないはず! もう失ってしまった、家族の団らんを、もう一回くらい味わえるはずなんですからぁっ!!」
フィールドマウス……野口さんは、そう絶叫しながら、俺の攻撃を耐え凌ぎ、挙げ句の果てには逃げ回り始めた。
「逃げるなテメェ! それでも男かよ!」
「娘に……逢いたいんです! もう一度、お父さんって……そう呼んでもらいたいんですよ!!」
「(くそ……!)」
萎える。
「それでもレオくん、貴方は、私の稼いだお金を、奪うつもりですかぁ!!」
ここで人情に訴えかけるのが、奴の作戦なのだと分かっていても、戦闘の意欲が、みるみる失せていくのが自分でも分かる。
リストラと娘の話は本当だ、と直感してしまったから。
「(でも……でも)」
俺は、大嫌いな兄貴の顔、家族の顔、あかり姉の顔、そして病院で寝ている琴莉さんの姿を思い浮かべ、無理矢理に闘志を引き出した。
「だからっつって、お前等みたいな連中を見逃せるかっ!! 人を騙して儲けた金を持っていって、娘さんがアンタの事を、見直すとでも思ってるのかよ!?」
「見直しますよ! レオくんには分からないかもですが、金だけで動く人間が、この世には五万と居るんですよっ!!」
……なん、だと……!?
「この世の中、良い人ばかりじゃないんです! 真実の愛情だなんて、ウチの家族にはないかもしれません! ……でも、それでも良いんです! 私は、娘の笑顔が見たいだけなんです!!」
「……それ以上、言うなっ!」
「お願いします! どんなに無様でも良い……! 娘に……娘に、逢わせて下さい!」
「いい加減に覚悟を決めろよ、お前! 自分の意志で戦場に出てきた以上、戦え!」
「お願いです、お願いです! 許して下さい!!」
「うるせぇ! もう聞かねぇ!!」
本当は、野口さんは戦っている。
俺が情とか、義理に流されやすい人間だという事を知っている。
だから彼は、俺のその弱点を付いてきた。
自分の恥部を吐露してまで、攻撃の手を止めさせようとしている。
攻撃を止めさせれば、野口さんの勝利だと、分かっているから。
だから俺は耳を貸さずに、たとえ卑劣と言われようと、フィールドマウスをなぶり殺しにしなくてはならない。
だけど……。
「お前……。 そうまでして、娘さんに逢いたいのかよ……」
「そうです!」
俺の手は、またも、止まってしまった。
なんなんだよ、俺……。
「……この状態で、隣のデュエルの決着が付くまで、待ってやる。 でも結果次第では、お前は倒す」
「それでも構いません!」
「あと、身動きするなよ。 回復行動とか取ろうもんなら、すぐ斬る」
「それでも構いません! ありがとうございます! ありがとうございます、レオくん!」
譲ってはいけないのに、俺はまた人に譲ってしまった。
自分への苛立ちが、俺の言葉を荒くする。
だけど……。
これは完全に悪手だ。
デュエルの制限時間は5分、俺たちがデュエルを始めたのはムラサメたちより少し後。
だが、ムラサメたちのデュエルは、未だ体力は満タンのまま拮抗している。
この状態が続き、引き分けなんて事になったら、その残り少ない時間内では、フィールドマウスは倒せない。
それは、フィールドマウスも理解しているはず。
だから、おそらく……。
デュエルの残タイムが残り1分とかになったら、フィールドマウスは今の約束を破って、攻撃を仕掛けてくるはずだ。
俺は気を緩めず、ムラサメ達の戦闘を見守った。




