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(91)死闘宣誓

 白薔薇城の城内には、誰も居なかった。

 城門をくぐると、各部屋に繋がる中央の間がある。

 俺とムラサメは、ゼファーを待ち受けるべく、ここに隠れ潜んでいた。


「レオ、分かっているな、手順は」

「ああ、奴が来たら、通路に通して逃げ道を塞ぐ……だろ」


 ゼファーは、巨人騎士ウォリック伯が暴れ回る城門前、その少し手前の森の中に隠れている。

 俺たちはゼファーの目的が、フィールドマウスと合流した上で、ここ白薔薇城の最上階に突撃する事だろうと考えた。

 その理由は、PK対象である白薔薇組の残党が居て、なおかつオリオンとミルフィーユと合流できるからだ。


 だが、ゼファー打倒には、大きな問題があった。


 俺の目的は、ゼファーの装備を剥いで、その戦力を失わせ、この世界から退場させる事。

 だが、連中は、このPKイベントで、巨額の富を稼いだ。

 パラメータボーナスがどれだけ補正されようと、それを奪われる可能性のあるデスペナルティデュエルには、まず乗ってこないだろう。


 通常フィールドならいつでも装備を奪えるのだが、その場合、ゼファーを探すのが一苦労だし、なによりも簡単に逃げられる。


 イベントで、連中をデュエルに誘い込むためには、どうしたら良いんだ?


「おいレオ」


 俺がそんな事を考えていたら、ムラサメが唐突に話かけてきた。


「……何だよ」


「鼻息がうるさいよ」


「……緊張してんだよ! 気になるなら、チャットのボリューム下げろよ!」


 っていうか、お前も緊張してるから、そんな些細な事が気になるんだろーが!

 それよりも、ゼファーを単に倒すだけじゃなくて、なんとかしてデュエルに持ち込む方法を考えなきゃいけないのに……!


「来たぞ、レオ!」

「何ッ!?」


 だが、俺は文句を言うより先に、途中で思考を中断させた。

 ムラサメの言うとおり、ゼファーとフィールドマウスが、連れだって入城してきたからだ。

 俺たちは連中の声を拾うべく、チャットのボリュームを最大限にまで上げる。


「くそっ、エルキッドの野郎、さんざボッタクリやがって……!」

「そんなに酷かったんですか、店長」

「ああ、随分足下見られたよ、何様のつもりだ!」


「(何かと思えば、エルキッドの話だね)」

「(俺たちの事は警戒していないみたいだな)」


 あの時、エルキッドと一緒に居た姿を見られたから、俺たちが近くに潜んでいると考えても良さそうなもんなのに。


「(そうだね、でもこれは好都合だ。 行くよ、レオ)」


 俺たちは、連中が逃げられないよう、直線の通路に進むのを確認するや、後ろに回り込んで声をかけた。


店長ゼファー


「ほわぁっ!?」


 まるで、廃屋でゾンビに出会った時のモブキャラみたいな声を上げて、野口さんがこちらに向き直った。


「お前……キリシマ!? ここに隠れていたのか!」

「ああ、理由は分かるよな? ゼファー」

「そうまでして、俺と決着を付けたいのか」

「ああ、決めようぜ。 ……俺が生き残るのか、お前が残るのか」

「はっ……まるでマンガの台詞だな」


 おいおい、マンガっつーか、これゲームだぞ。

 お前、今自分が何やってんのか分かってるのか?


「デュエルで勝負しようぜ、店長。 お前にその度胸があるんならな。 それとも、また尻尾巻いて逃げ出すか?」


「誰にそんなクチ聞いてる!? ナメてんのか、キリシマァ!!」


「お前以外の誰が居るってんだよ、このチキン野郎! ビビってねーんなら、勝負を受けろよ!」


 と、俺は店長を煽りたててデュエルに誘うが、


「ダメです、店長! このバトルに戦いに挑むのは! 彼を相手にするのは、リスクがあり過ぎます!」


 と、またフィールドマウスの奴が止めに入った。


「(くそ、またアイツか……)」


 これでは、いくら俺が手を尽くそうとも、奴はデュエルに乗ってこない。


 ……だとすると、方法はこれしかないのか。

 不本意だが、まさかエルキッドの入れ知恵が、こんな所で役に立つとは思わなかった。


「店長……。 俺がエルキッドと一緒に居たのは、見ただろう? その時、お前の秘密も買ったぞ」


 シングルチャットで、ゼファーに脅しをかける。


「何ッ……!?」


「ここでデュエルに乗ってこなければ、お前が隠している事を、お前の家族や保科に全部バラす」


「……。 バラす? ……何のことだ!?」


「何のことだって、トボけてんじゃねーよ! スケベオジサンは金が掛かって大変だな!」


「キリシマぁぁ!! ……お前っっっ!!!」


それは、凄い怒気を伴った声だった。

一瞬気圧されたが、負けては居られない。


「なんだよゼファー、やっぱ図星かよ!」


「人の秘密に踏み込むとか、そんな事して良いと思ってるのかッ!!」


「どうせいずれ、周りにゃバレる事だろうがよ! 悪さしといて、黙って済ませようだなんて、どのツラ下げて言えんだよ!」


「おっ前ぇえぇ……!!!」


「だから、戦えよ! 店長、お前の説教はもう飽き飽きしてんだよ! 俺が退場するか、お前が退場するか、二つに一つだ!」


 だが、俺がそうデュエルに誘っても、それでも店長は乗ってこなかった。


「何だよ店長、やっぱ口だけか!」

「ふん……俺は、お前が信用できないんだよ、キリシマ」

「……信用?」

「確かに、デュエルで装備を奪って退場させれば、俺とお前が、再び出会う機会はそうないだろう」


 だから、そう言ってるだろうが!


「だが、それでも、お前が約束を守る保証はない」

「? どういう意味だよ?」

「俺がデュエルでお前を倒しても、お前みたいな小物は、逆恨みして秘密をバラす。 俺の見る限り、お前はそんなタイプの人間だ」

「お前と一緒にすんな! 俺はそこまでセコくねぇよ!」


 だが、俺はそう返答しても、店長は鼻で笑うだけだった。

 くそ……。 じゃあ、それなら!


「それだけじゃねぇ……。 俺もお前等のせいで、留年しそうなんだよ!!」

「ほう?」

「お前等をぶっ潰して金を稼がないと、この宇園市に居られない!! 実家に連れ戻されるんだ!」


「レオ、お前……」


ムラサメが、呆然とそう呟いた。


「だから店長! 今ここで俺を潰せば、俺はもうこのネージュには当分帰ってこられない! そして、秘密は自動的に守られる! どうよ!!」


 そう言って、俺は店長を誘った。


「お前にだって、これだけの利点がある! なのに、まだ乗ってこないってんなら、テメェはマジでチキン野郎だよ、店長!」


 さぁ来い!

 これだけ撒き餌したんだから、デュエルに乗ってこい!


「ダメです、店長!」

「今だけがチャンスだぜ、店長!」

「……!!」


 ……くそ、まだ乗ってこないのかよ!!


「賭けられるか、お前の人生! 賭けのテーブルに、お前のプライドも乗せてみろよ! そんなのがお前にあるならな!!」

「レオくん、黙って下さい!」

「黙るのはお前だ、フィールドマウス!」

「何ですって!?」


 俺の挑発がフィールドマウスとの舌戦になりかけた時、ゼファーがようやく口を開いた。


「一言言っておこう」

「……何だよ? もったいぶりやがって」


 俺が高校生の時の事だがな、と店長は前置きして言った。


「俺たちはな、隣の高校と、つまんねー事で小競り合いになった。 最初はすぐにカタがつくと思ってたがな、徐々に火種は大きくなり、やがて抗争になった」


 ……? 何言ってんだ、こいつ?


「分からねーか? やられれば、やり返される。 それがずっと続くんだ。 実際、抗争は、俺が卒業するまでずっと続いた」


 ……それが、どうしたってんだよ?


「暴力は永遠に続くんだよ、キリシマ。 お前は、この現実が、分かっているのか?」


 そう言われて、俺はゾッとした。

 奴は覚悟を決めたらしい。


「分かってるとも!」


だが、俺がそう返しても、奴は鼻で笑っただけだった。


「お前とは、最後までブツからないとダメなようだな……。 いいとも、決着を賭けよう。 俺か勝つか、お前が勝つか」

「望む所だぜ!!」


 だが、それを聞いて、フィールドマウスが金切り声を上げた。


「止めて下さいぃ、店長ぉぉ!! レオくんに何の秘密を握られているかは知りませんがぁ、彼とのデュエルに挑むなんて、無謀です!!」

「おじけづくな、ノグチ! ここが正念場なんだ! 奴をここで一気にぶっ潰す!!」

「ダメです! この戦いは、もはや貴方だけのものではないんです! 勝たないとダメなんですよぉ! 私は、妻と娘に、このお金を渡したいんです!」


そして、フィールドマウスは絶叫した。


「そうすれば……せめて娘にだけでも、私は逢えるかもしれないんです……!!」


「うるせぇ!! 俺の言うことが聞けないのか! それ以上俺に逆らうと、クビにするぞノグチ!!」


「そんな!?」


「(……凄い展開だな、レオ)」

「(だろ。 俺がイヤになる気分、分かるだろ)」

「(ああ。 それに、あのノグチとか言うオッサン、負け犬臭がハンパないな)」

「(……うん。 今知ったけど、野口さん、多分リストラされてウチのコンビニに来てたんだろうな)」


「わ、分かりました……戦います、店長……」


「(うわぁ、立場弱過ぎだろ……)」


 ムラサメはこのパワハラ劇に閉口していたが、そのおかげで、及び腰だったフィールドマウスも、渋々デュエルの場に参加する事になった。


ーーーーーーーーーーー


 デスペナルティモードデュエル:

 「ゼファー」 & 「フィールドマウス」 : 

 「鋼鉄戦鬼ムラサメ」 & 「レオ」 

 道具使用なし で バトルロイヤルマッチを行いま


ーーーーーーーーーーー


 ……だが、せっかくのバトルロイヤルデュエルは、またも途中でキャンセルされた。


「……おい!? 何やってんだフィールドマウス! またキャンセルかよ! 逃げてんのかよ!」

「レオくん、提案があります! 私たちは、道具使用ありのシングルマッチなら、承けます!」

「はぁ!?」

「おい、ノグチ! 何を勝手に決めてる、お前!」

「店長! 私には、『策』があるんです!」

「……策だと!?」


 そう言って、連中はシングルチャットに切り替えたのか、黙ってしまった。


「(策……!?)」


 そして、少しの間を置いて、連中からデスペナルティデュエルの申請があった。


 道具使用ありモードで、ムラサメvsゼファー、俺vsフィールドマウスという組み合わせ。


「どうですか! 望み通り、デュエルです! あれだけ啖呵を切っておいて、貴方こそ承けないとは言いませんよね、レオくん!」


 ……!?


 何だ、この組み合わせ!?

 策って何かの意図があるのか?

 何で、シングルデュエルなんだよ!?


「……多分、僕たちのコンビネーションを封じようというハラだろう」

「それだけか? 策って言ってたけど、何か他にあるんじゃないのか!?」

「動揺するなよ、勝てば良いだけの話さ!!」

「そ、そりゃ、そうだけど……」


「どうしましたか! 威勢が良かった割には、いきなりダンマリですか!? それとも、降参の相談ですか!?」


「誰がだ!」


 ……マズい!

 ムラサメの奴、アツくなってやがる。

 このままだと……。


「この勝負、受けて立ってやる! いいな、レオ!!」


 また、選択を人に委ねることになってしまう。


「あ、ああ……」


 それだけはダメだと……。

 自分で考えて、自分で選ばないと……。

 何もかもを他人に譲ることになる、って分かったのに……。


「レオ、『エクスチェンジリング』を貸してくれないか」

「何でだよ!?」

「当たり前だろ! ゼファーの『妖精の護符』の鎧を破るには不可欠なんだ!!」


 そう言い、


「レオ、お前なら、フィールドマウスがいかに堅くても、毒で倒せる! ゼファーは『耐毒の護符』を持ってるけど、奴は持たないからな!」


 次々と、戦いのプランを提案してきた。


 いや、それは、「エネミーアナライズ」で確認した、確かな情報なんだろうけど……。

 でも……。 でも……!


「この後に及んで、何を躊躇してるんだよ、レオ! ゼファーの『妖精の護符』さえ剥がしてしまえば、僕たちの勝ちさ! 何を迷ってるんだよ! さぁ、早く!」

「わ、分かった……!」


 俺はムラサメの勢いに押され、「回復薬」と「エクスチェンジリング」を交換した。


「……頼むぞ。 絶対に勝ってくれよ、ムラサメ」

「任せろ、レオ!」


 これで良かったのか。

 確かに、ムラサメは信用できる奴だけど……。

 懇願されたからと言って、言われるがままで良かったのか、俺は?


「(何だよ、この不安感……)」


 それは、以前にも感じた感情。


「(お前と同じ性質のムラサメを選ぶとか、負け犬の思考だな)」


 龍真の電話での言葉が、今また脳裏に浮かぶ。


 そう。


 ムラサメは確かに、戦闘では頼りになる。


 だが……。


 ムラサメは、正解の選択肢を……。



「行くぞ、『ゼファー』!」


「来い、『鋼鉄戦鬼ムラサメ』ッ!!」



 ……選べない。


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