表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/116

(90)賢者の双眼鏡


DATE : H27.2.9

TIME : 19:18

STID : 00941724、00392354



「スクロール! スリープ・クラウド!」


 俺はスクロールを使用し、ムラサメごと敵全員を寝かしにかかる。

 ムラサメはHPを全損しているが、死亡宣告リメインライトの証である「魂状態」には変化していない。

 完全に死亡するまで、僅かだが余裕はある!!

 

「おーっと残念!」

「はは~ん、残念でした~!」


 だが、斑模様の雲が連中を覆ったにも関わらず、なんと全員が抵抗レジストに成功した。


「スクロール! パラライズ・クラウド!」


 それを見て、すかさず「麻痺」の魔法を仕掛けるが、なんと連中はそれも抵抗に成功した。


「はっは、またも抵抗成功! 俺たち、超天才! 残念だったなぁ、レオちゃん!」

「危なかったねぇ、また同じ手で殺されるところだったよ! 」

「護符買ってて良かったぁ!」


 そうか……すっかり忘れてたけど、俺、こいつらを「スリープ・クラウド」使って倒したんだった。

 だけど、連中はそれを覚えてて、「耐睡眠の護符」を買ったらしい。 

 そしておそらくは、「耐麻痺の護符」も。


「死ね、レオ! 俺たちに拘束系の魔法は、もう通用しねぇ!」


 くそっ、やはりそうか!


「それなら、これはどうだ!? 『スクロール! スタン・クラウド!』」


「!?」


 ブリガンド達が、初めてその名を耳にするはずの魔法「スタン・クラウド」。

 俺の呪文詠唱と共に、画面には紫色の雲が湧き上がる。

 連中はその光景を確認するや、その雲の中から慌てて飛びすさる。


「(……今だ!)」


 俺はその隙に、雲の中心部に居たムラサメに近寄り、「回復薬スーパー」を使う。


「助かったぞ、レオ! ありがとう!」


 ムラサメが倒れたままの状態で、礼を言ってくれた。

 まだムラサメのアバターは伏したままだが、しばらくすれば復活する。


「なぁ、もしかしてさ、今の『ポイスン・クラウド』じゃねぇの……?」

「だよな、俺もそう思った」

「……もしかして、嘘か!? レオ!!」


「あったりめーだろーが! 『スタン・クラウド』は俺がたった今作った嘘魔法だよ!」


 ブリガンド達は、俺の魔法スクロールに対策すべく、わざわざ護符を購入していた。

 ならば、連中が知らない魔法の名前を叫べば、連中は過剰に警戒し、ムラサメを回復できるだけの隙は出来ると思ったのだ。

 もちろん、何のエフェクトもないと説得力が出ないので、アイコンを使って「ポイズン・クラウド」のスクロールは使った。


「ちくしょう……てめぇ! 絶対許さねぇぞ!」

「へへーん、悔しいか? 悔しいなら、こっちにおいで~」


 そう言い捨てて、俺はムラサメから距離を取る。


「あ、逃げた!?」

「追うぞ! ジョーカー、俺についてこい!」

「わかってるぜぇ! 俺たちのコンビネーションアタックで、レオちゃんをぶっ殺しちゃうぜぇ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕だけ置いてきぼり!? 一人で、ムラサメと戦うの!?」


 七色肉汁ハンバーグが、ブリガンドを追いかけようとした、ジョーカー84を呼び止める。


「しょうがねぇ! ジョーカー、ハンバーグと一緒に居ろ!」

「ブリちゃんは!?」

「俺はレオを倒す! こんな汚ねぇ麻痺ヤローに、俺が負けるもんかよ!」



 そう言って、ブリガンドだけが俺に突撃してきた。

 本当は2人が襲ってくるのが理想だったが、そう上手くはいかないか。


「死ね、レオッ!」


 ブリガンドは両手剣使い。

 攻撃力は高いが、防御は出来ない。

 それをちゃんと弁えているブリガンドは、吐いた言葉の威勢に見合わず、きちんとリーチ差を生かした距離からの攻撃を仕掛けてきた。


「お前がな!」


 だが、そのリーチを必要以上に生かした攻撃を、俺は僅かなバックステップで避けた。

 格闘ゲーム経験者でないゲーマーは、総じて間合いの取り方が甘い。そういうやり取りの経験が少ないからだ。


 空振りにて発生した予後動作フォロースルー、身動き出来ない0コンマ数秒。

 俺はその間に、ショートダッシュで間合いを詰め、間髪入れずにブレードアーツを繰り出した。


「!?」


 閃く連続剣の軌跡と共に、「麻痺」と「毒」のエフェクトが舞い散る。

 だが、ブリガンドは毒状態にも、麻痺状態にもならなかった。


「だから効かないって言ってんだろぉ! 護符は全部、ちゃーんと購入済みなんだよ! 死ね!」

「くっ!」


 俺はブリガンドの反撃を、ガードで凌ぐ。

 ちょっと攻撃を欲張りすぎていたせいで、流石にジャストガードは出来ず、ノックバックで距離が開いた。


 だが俺は、その開いた距離を、勢いよく詰めた。


「!?」


 ショートダッシュは、攻撃を誘うためのフェイント。

 焦って繰り出されたブリガンドの攻撃を、今度こそジャストガード。

 そして俺は「シールドパリング」から、再びブレードアーツを繰り出す。


「だーかーら、状態異常は無駄だってんだろ! もう、麻痺の対策は知れ渡ってるんだ! 時代遅れの戦法なんだからよ!」


 だが、俺はその発言を無視して、攻撃を続けた。


「ちょっ、待てよ、お前、麻痺武器は効かな……」


「……」


「ま、待て! 待てって言ってんだろうが!」


「……」


「待て! 待ってくれ! 何だよお前、麻痺効かないって、言ってんのに……!!」


 俺はそれらの発言も無視して攻撃を続けた。

 エフェクトこそ出るものの、ブリガンドは確かに麻痺しない。

 だが、俺の猛攻撃を受け続け、奴のHPはみるみるうちに減っていった。


 麻痺が使えなくても、俺のプレイヤースキルは、ブリガンドよりも圧倒的に上。

 ここまでのやり取りで、それが分かった。

 それに、俺が麻痺剣を持っているのは、それが目的なのではなく、たまたま所持しているに過ぎない。


 時に反撃されるブリガンドの剣をシールドで捌き、ガツガツと攻撃を当てていく。


 護符は確かに状態異常の抵抗値を大幅に上昇させるものの、しかし完全に防ぐ訳ではない。

 ようやっと蓄積値が貯まったか、「毒」の泡エフェクトが、ブリガンドのアバターを襲う。


「助け……! 助けてくれ、ジョーカー!!」

「分かった、待ってくれ、ブリちゃん!」


 それを見て、ブリガンドが遂にジョーカー84に助けを求めた。


 だが、その選択肢を選んだ瞬間、戦況は決着した。


「サザンナイト・エクスプレス!!」

「ぎゃあああっ!!」


 ジョーカー84がその場を離れ、ムラサメと肉汁ハンバーグの二人だけになった瞬間、肉汁の死亡が決定したのだ。


「何ッ!?」


 そしてブリガンドも、膨大な麻痺エフェクトを受け続け、ようやく麻痺した。

 これで、あとはほっといても毒で死ぬ。


「何だ……何々だよ、お前らぁああ!! その強さはぁ!!」


 俺はブリガンドを放置したまま、ムラサメの方向に駆けだした。

 途中で見つけたのは、ブリガンドを救おうとしていたはずのジョーカー84。


 と、その背後から恐ろしい勢いで迫ってくるムラサメ。


「あ……あ!! 助けて!! ごめん、助けて!!」


 と、ジョーカーの奴は、俺たち二人を見てそう言ったが、


「よくもやってくれたな!! 喰らえ、『サザンナイト・エクスプレス』!!」


 ムラサメはその懇願に全く耳を貸さなかった。



DATE : H27.2.9

TIME : 19:25

STID : 00187632,00187839,03290588,04294001



「それで、バールさんは、このイベントをどう見てるんですか? 勝ち抜くためのアイデアとか、何かあります?」

「どうって、これは純粋なバトルイベントだよ。 凡人プレイヤーである、僕の出番なんてないさ」


「(……何だか、随分自虐的ね)」

「(あ~ん、そのニヒルな姿もステキだよぉ)」


「? どうかしたか、トラウム?」

「うん……? 何だか、今、ゴツンとか言う音が聞こえたような……」


「じゃあ、バールさん、このイベントで勝ち抜けるのは、どんなプレイヤーだと思います? ほら、ジル、しっかりして!」

「しっかりって、ブン殴ったの、あんたでしょ」


 ジルはジャンヌに小声でそうツッコむ。

 バールハイトはアイテム「双眼鏡」から目を離すと、ポツリと言った。


怪物モンスターだな」


「……?」


怪物モンスターだけが、このイベントで勝てる。 まともな人間で、このイベントを勝ち抜く方法は……ちょっと、考えつかないな」


「どういう事ですか?」


「このイベントは普通じゃない。 人の心理……特に、『狂気』を増幅するように作られてる」


「『狂気』……?」


 意味を掴みかねた様子のジルに対し、バールハイトは淡々と説明を加える。


「君は、課金をした事があるかい?」

「え? ええ、まぁ少しは」

「最初、課金をした時は、どうだった? 全く抵抗なく課金できたかい?」

「んー、少しは抵抗感ありましたね。 無料のはずのゲームに、後から何千円も払うのって、どうなのって」


「……でも、このゲームは課金しないと戦えないからねぇ。 まともな武器防具を揃えとかないと、他のプレイヤーにすぐ殺されて、全く進めない作りだし」

「だよね、それが課金しちゃう原因なんだよね」


 ジャンヌの返答に、ジルが補足し、二人で同意する。


「でも、課金も一度やってしまえば、なんてことなくなるだろう?」

「それは……確かに」


「一度体験すると、次からは抵抗感がなくなる……」


 バールハイトは、ジルとジャンヌに近づきながら言った。


「これは君だけじゃなくて、万人共通の心理だ。 ゲームの運営会社は、その事をよく理解してる。 だから『無料ガチャ』なんかで課金を疑似体験させ、それによる戦力的アドバンテージを課金のモチベーションに繋げようとしてるんだ」


「……? え、え?」


「クスリを最初はタダで配って、中毒になってから高値で売るのに似てるよね。 売人ブッシャーの手口だね」


 困惑するジャンヌとは反対に、ジルは理解を示した。


「君の例えはちょっと恐ろしいけど、まぁそういうことだ」

「でもそれが、どうかした? それは別に、このゲームだけの話じゃないと思うんだけど」


「僕はね」


 バールハイトは、再びイベントフィールドを見渡しつつ、話を続ける。


「この『還魂のリヴァイアサン』は『PKプレイヤーキル』を体験させる事が目的のゲームだと、僕は思うんだ」


「……え?」


「以前から薄々思ってたんだ。 PKの度、お互い、相手の生々しい叫びを聞くことになるだろう? その時だけ敵ボイスを遮断する事は可能なはずなのに、だ。 あれは何のためにわざわざ残してあるんだろう、って」


「……」


「僕はあれね、人を害する事に慣れてもらうため、だと思ってるんだ」


 東条亜紀奈と仁藤靖実は、アバターではなく、現実で顔を見合わせた。


「そしてこのイベントも、PKに慣れてもらうためのイベントだ。 PKすればするほど稼げるという設定、しかも装備は奪われない。 となれば、普段はPKをしないプレイヤーでも、その心理的障壁……抵抗感はかなり低くなる」


「そういうもの……なんですか?」


 人を害することに慣れる。


 東条と仁藤の女子二人組には、その感覚は理解し難いものだった。


「それは間違いないと思う。 リアルで人を殴るのは、素人にはなかなか難しいけれど、格闘家や暴力団は、比較的簡単に人を殴れる。 倫理感ではなく、やはり慣れの問題なんだよ」


「……」


「この、『慣れ』に加えてもう一つ。 『賭事』が、何故法律で禁止されているのか、分かるかい?」


 そこまで深く考えた事は、ジルとジャンヌにはない。


「正気を保つのが難しいんだ。 ギャンブル経験のある人間なら誰もが知っている。 お金が絡むと、人は本当に……容易に健全な判断力を失う。 もう本当、簡単に『狂気』に陥るんだ」


「すいません、あたし達、そこまでギャンブルにハマった経験とか、ないんで……」


「それが普通さ。 でも、平安時代では『双六』という賭博で、貴族同士が怒りのあまり切り合いしたそうだよ」


 このイベントはどういうものか……という意見を聞いただけなのに、バールハイトはこのイベントどころか、ゲームの性質までこと細かく説明してきた。


 ジャンヌはその意味不明さに閉口寸前だったが、ジルは理解している様子で、簡略にまとめた質問を返す。


「じゃあ、みんな運営にまんまと乗せられて、殺し合いのゲームに参加している、と?」

「そういうことだ」

「で、課金の差額が運営の収入になる訳だよね?」


 このイベントでは、課金して「クラス」を選択し、そしてパラメータを補正し、PKバトルに挑むよう設計されている。

 勝てば相手の報奨金が手に入るが、それは相手の課金額と全く同じではなく、いくらか割り引かれる。

 その割り引かれた分が運営……株式会社カプリコンの収入となる。


「そのとおり。 本来は、このイベントでPKに慣れてもらい、PKプレイヤーの裾野を広げるのが目的だったはずなんだ」

「……だった?」

「そう。 だが実際は違った。 このイベントの性質に気づいたあるプレイヤーが、一攫千金を狙いにきた」


「誰ですか、それ?」


「『ゼファー』と言う。 聞いたことないかな?」


「え!?」

「あ!!」

「君らも、出会ったことあるんだね」

「あ、ありますあります! あのスッゴく赤くて強くて嫌な奴!」

「だからかぁ……ジャンヌが一撃でやられる訳だわ」


「彼は賢いよ。 PKする事でパラメータが伸びると分かってからは、先駆者利益を得るために、『同士討ちによるパラメータ上昇とPK数稼ぎ』という方法を考えた」

「そして、この計画的スタートダッシュに、付いていける個人プレイヤーは誰もいなくて」

「悔しいことに、他の皆は、彼の財布になり果てた」


「……そんなことが」


 限られたリソースを奪い合う、多人数参加のゲーム……MMOでもボードゲームでも、この先駆者利益をどれだけ確保できるかが、攻略の肝となる。

 先んじた者だけが人を征する事ができるのだ。


「あと、このイベントが始まってから、白薔薇姫がどこかに隠れたままなんだけど」

「!?」

「白薔薇姫も多分、ゼファーたちの一味だ。 プレイヤーネームは『ユカ』」


「そんな……!? そこまでして儲けようと!?」


 ジルとジャンヌは、このイベントを観察していた賢者の考察を聞かされて、衝撃に打ちのめされた。


「腐ってるよ」


 それが、ジルの感想。


「残念ながら、それが現実さ」


 これが、バールハイトの感想。


「このゲームシステム、そしてこのイベントの性格は異常だ。 あそこに居る連中は、リアルで殺し合いを初めてもおかしくないと思う」


「殺し合い……!?」


「だって、彼らの手持ちの資産は、もう百万円単位になっているんだよ。 手元にある数百万が無為に奪われて、許せる人間とか居るのかな?」


「……!?」


「残念ながら、僕はいないと思う。 そういうシチュエーションで、まともな判断力……いや、正気を維持するのは、極めて困難だ」


 バールハイトは、二人から離れると、再び双眼鏡を取り出し、観察を続ける。

 そして、小さく呟いた。


「レオ……」


「お前、そこに居ていいのか……?」



DATE : H27.2.9

TIME : 19:25

STID : 00941724、00392354



「おいムラサメ、結構パラメータ上がったな!」

「……だな。 『パラディン』が『ゴースト』になった分は全然埋められてないけどさ」


 俺たちはブリガンド、ジョーカー84、七色肉汁ハンバーグを倒した事で、報奨金とボーナスパラメータをゲットした。


 報奨金はブリガンドが9万で、ムラサメによると、ジョーカーは7万、肉汁が5万だったらしい。


「(一人倒して、9万……。 凄いな)」


 高レベルのクラスを選択したアバターなら、10万円を越えても全然おかしくない。

 そして、アバターのパラメータが、約20ずつアップした。


「(これ……店長たち、どれだけ稼いだってんだよ……)」


 今になってみて、連中の動機が初めて分かる。

 PKして、これだけの報奨金とパラメータボーナスが加算されるなら、俺たちそっちのけで金を稼ぐ事に夢中になるだろう。


 あの時、店長たちは同士討ちで稼ぎまくっていた。

 最終的なパラメータボーナスを仮に2000程度だと低く見積もっても、100人を倒している。


「(300万は……軽く越えてるよな、どう考えても)」


 一人あたりの課金額が3万としたら、300万。

 幅があり過ぎて正確な見積りは無理だが、100万円単位の稼ぎは確実だ。


 それを考えると、脳髄の温度が徐々に上昇してくるような感じがした。

 背中までもが熱くなり、スマートタブレットを握る手が、汗ばんだ。


「急ごうぜ、ムラサメ! ゼファーの奴、フィールドマウスと合流するかもしれない。 早いうちに奴を倒そう!!」

「ああ、行こうよレオ!! 損した分は、連中で取り返してやる! 奴ら全員、皆殺しだ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ