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(87)情弱の空に

 ゴホン、とエルキッドは咳払いをしてから言った。


「……『オリオン』はんの個人情報、買わへんか? 安くしとくで」


 それを聞いて、俺はアパートのコタツに座っていたけど、盛大に後ろにコケそうになった。


「売れるもんは何でも売りたいだけだろ! ホント凄い商人魂だな!」

「当たり前やろ。 この情報、今しか売り物にならんしな?」


 ……今しか? なんで時間制限が?


「レオはんは、負け犬臭ハンパないのに、でもここまで来とる。 せやから、ゼファーはん達を倒す可能性も0やあれへん……と、ワイは読んどる」


 お、おお。 貶されてるのか誉められてるのか、よく分からないけど。 それで?


「もし万一、ゼファーはんやオリオンはんが退場したら、この情報が無駄になるさかい」


 だから、この時、この状況で、俺に売りたいと。


「そう。 まさに旬な情報、って奴や」

「単なる在庫処分じゃねーか。 要らねーよ」

 

 まるでクソゲーの抱き合わせ商法だ。

 いい加減にしとけ、このボッタクリ商店。


「いやいや、レオはんは絶対に知っておいた方がええて! これは、マジでオススメの情報が盛りだくさんや!」

「あのな、オリオンは俺のバイトの同僚だったって事は知ってるだろ? しかも一度は倒した相手だぞ」

「一度倒した相手が弱いままなのは、マンガの世界だけやで。 実際、オリオンはんは力を付けとる」


 と言っても、このイベントの中で、俺は既にオリオンと出会い、しかも、ムラサメの「エネミーアナライズ」で、おおよそだが、オリオンのパラメータを知らされている。

 確か、「それなり」だったはずだ。


「じゃあ、オリオンはんが、また麻痺武器購入してんのは知ってるか?」

「知ってるか? って売ったのお前だろ?」

「いや、せやけど、それでもマジでオリオンはんの情報は買っとき。 お得やで」


 そういや、ムラサメの奴はあれからどうしたんだろう、と思いながら俺は返事をした。


「断るよ。 個人情報ってもまたどうせSNSからだろ? それに俺だって、オリオンのリアルは結構知ってるよ」

「ほう。 じゃあ、オリオンのリアルから、レオはんは何を感じ取ってん? 聞かせてみ?」


 ……これは、さっきの話で言う所の「情報の活用」だ、と感じた俺は、オリオンの情報を私見を交えて伝えた。


 オリオン……保科の家は、弟が引きこもりであること。

そのため、母は宗教に走り、父は苦労が絶えず、結果として、保科はバイトで生活費を稼がなければならなかったこと。

 そのため、保科は弟を酷く嫌い、似たような雰囲気を持つ俺をも嫌悪の対象にした。

 外面は良いのに、中身は粘着質のイヤな奴。

 それが俺の保科への評価だった。


「……へぇ、そんなディープな事まで知ってたとは意外や。 これは一本取られたな、全然知らんかった」

「えっ!?」


 予想外の返事に驚いてしまった。

 っていうか、エルキッドならこれくらい知ってると思ってたのに。


「ワイの知ってるオリオン……いや、保科泰人くんは、SNSではリア充そのものやで。 ええ服買ったとか、どこかに遊びに行ったとか、彼女……ミルフィーユとのイチャイチャ写真ばっかりや」

「何っ!?」


 ミルフィーユ……つまり、小野田さんが、保科の彼女だとッ!?


 エルキッドは、俺の驚愕のリアクションが意外と言わんばかりに話を続ける。


「なんや、レオはん、知らんかったん? オリオンはん、ミルフィーユはんと去年のクリスマスに『フェアリーランド』に行ってんで」


 フェアリーランドッ!?

 東京浦安にある、日本一のゴーヂャスリゾートパーク!? ということは……。


「しかもお泊まりでな」


 うおおおおおおおぉぉぉその情報は知りたくなかったぁぁぁ!!!

 もしかしてと思ったら、やっぱりそうだった!!


「まさか……本当に恋人同士だったなんて」


 俺がそう言うと、エルキッドはポツリとこぼす。


「最悪やな、レオはん……。 恋人同士の雰囲気にも気づかんとか。 童貞丸出しやな……。」


「い、いやちょっとは気づいてた! うっすらは気づいてたって!」

「強がり乙」


 そう切り捨ててから、エルキッドはシミジミと俺の話を反芻した。


「しかし、レオはんの言う、その弟の話は、一度もSNSでは見たこと無いなぁ……っていうか、確かに、家族が出てきた記事すら見たことないな……」


 そして、決定的な一言を言った。


「意外と、彼も余裕ないねんかな」



 ……彼「も」?


 それが、俺の脳裏に、聞き逃せない一言として突き刺さった。


 誰だ、「彼も」って。

 野口さんか……いや違う。


「(まさか……店長?)」


 そういや、さっきのエルキッドの問答。

 何故、店長がこの世界に入ってきたのか。

 リアル弱点の存在、その答え。


「(『金がないから』……か?)」


 金がないから、この世界に入ってきたのか?


 でも、コンビニ経営者だろ?

 やり手なんだろ?

 なのに、何で金が無いって事になるんだ?


「(……まさか)」


 俺はふと、コンビニの店員が、食品を使ったイタズラ写真をネットにアップしたせいで、炎上して負債を抱え、廃業になった事件があった事を思い出した。


「(……いや、俺のせい……じゃねぇよな)」


 一瞬、俺が使えないせいで売り上げ落ちたのかな、と思ったが、それなら俺を速攻でクビにするはずだ。ってか、実際クビになってるんだけど。


 そう。この想像が真実なら、それは店舗運営の問題じゃない。

 何かもっと別の理由で、急にお金が必要になったんだ。


『奥さんは美人やで。 子供たちも制服姿が凄く可愛らしい』


 さっきの、エルキッドの発言。


「(子供と妻……)」


 まさか……慰謝料か?

 不倫とか何かでの。


 俺はそんな推論を組立てながら雑談を続けたが、エルキッドの会話からは、目新しい情報は得られなかった。


「で、どうや、その気になってくれたか?」

「悪いけど、オリオンの情報はやっぱり買わない」

「何でや!?」

「というか、もっと他に聞きたい事があるんだ」


 俺は、先刻の想像……。

 ゼファーが、慰謝料か何かで急にお金が必要になったのではないか、と問うてみた。


「おっと……良い勘してるな」

「それで、一攫千金を目指して、この世界に入ってきた。 違うか?」

「まぁ、おおよそはそういう事や」

「お前が言ってたリアル弱点って、例えば女性関係のこととか……じゃないのか? 例えば、不倫相手が一人じゃない……とか」

「おお、ええ勘してるな! もしかしてワイ、いろいろ喋り過ぎたかな?」


 やっぱりそうらしい。

 女性関係、しかも不倫絡みか。


「(でもなぁ……)」


 その情報を仕入れても、俺には活用できない。

 店長のリアル、しかもそんな人間関係をどうやって追跡し、利用しろというのか。

 一介の学生には無理な相談だ。


 それに……なんとなく気が引けた。


「だから、これ以上の情報を入手するのは、やっぱり遠慮する」


 そう俺が断ると、エルキッドは今日何回目になるのか、またもため息をついてから言った。


「しょうがないな、奥の手出すか」


 ……奥の手?

 何だそれ?


「ミルフィーユが、ゼファーの不倫相手やで」






「……なッ!?」


 理解するのに、たっぷり10数秒を要し、しかも、アパートに居るにも関わらず、大声が出てしまった。


「そしてオリオンは、この事実を知らん」


「なんだって!?」


 本当か、その事実!? 嘘じゃないのか?


「どうやって、そんな事を知ったんだよ!」

「だから、企業秘密や。 でもな、不倫する当人たちはな、周囲にこの事実を知られたくないから、どんな人間でも例外無く、行動がパターン化する。 そこがポイントやねん。 それでな」


 エルキッドはコホン、と咳払いをして、


「この情報、役に立つと思うねんけどな。 使い方次第で、ミルフィーユの行動を制限できんで」

「い、いや、それは確かに」


 これは、随分腐った人間関係だな……。

 ……というか、反社会的な連中にまだ繋がりがある時点で、おかしいと思うべきだったんだな。


「そしてもう一つ、レオはんが知っておくべき、とっておきのネタがあんねんけど、買わへん?」


 そしてエルキッドは、ネタの購入をまたも促してきた。

 にしても、この件では結構途中まで無料公開してくれたな。


「返報性の原理、って奴や」

「何それ?」

「人に何か尽くされたら、お返しをせずには居られない心理。 デパ地下の試食が無料なんは、それを利用しとる」


 はー、なるほどなるほど。

 つまり「無料でこんな食べちゃって悪いなぁ、美味しかったし、何か買ってあげようかな」って心理か。


「買うてくれるか?」

「いや、これだけ知れば十分。 もういい。 買わない」

「うおぉい! 試食食べまくるガキやないねんから、ちょっとは金払ってもええやろ!」

「払ったろ、さっき5万」

「それはゼファーはんの分! 今はオリオンはんの分!」


「いや、言いたい事は分かるけど、オリオンの情報はあまり仕入れたくないんだよ……。 あいつが嫌いだからかな?」


 はぁ、とエルキッドが嘆息し、


「必要性やのうして、好き嫌いで情報を選ぶんか。 情報を疎かにする奴は、予想もせん事で死ぬで」


 と言い捨てた。


 よっぽどお冠だったらしい。


「いやいや、知りたいネタは他にあるんだよ」


 なので、俺はそうフォローした。

 あんなにサービスしてくれた上、せっかくの商品を無碍にしてしまったことで、多少は俺も悪いなぁという気分にはなっていた。

 だから、ちょっとは何か買ってやるか、という気分になったのだ。


「なんやねん、知りたいネタって」

「ゼファーの居場所。 1,000Cenくらいでどうにかならない?」

「お前、いい加減にしろや!」


 せっかく何か買ってやろうとしたのに、何故か俺はマジギレされた。

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