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(86)原初の暴力世界

『ウォリック伯が獲物を狙う優先度は、おそらく敵の多さに関係している。 観察していた限りでは、その場に最も数が多い軍を狙っていたからな。 だから、ウォリック伯の攻撃を逸らすには、敵の視界の外までバラけると良い』


「今更、そんな情報を知らされてもな……」


 俺は、一人になった後で、そんなメールが来ているのに気づいた。

 そして、差出人はまた龍真だろうなと思って嘆息した。


「っていうか、イベントの中に居るんなら、手伝ってくれても良いだろ……」


 結局、俺はゼファーを取り逃がした。

 巨人騎士がゼファーを攻撃していたのを見て、俺たちはそれを四方から包囲し攻撃しようとしたのだが、そこでウォリック伯が、ゼファーへの攻撃を途中で放棄し、またもこっちをタゲったのだ。


 俺たちゲーマーが慣れていた、ヘイト値によるターゲットシステム。

 龍真がメールで書いていたものは、それに「数の概念」をプラスしたものだ。それは分かる。

 ゼファー達が「相打ち」でPK数を稼いでいた時までは、確かにそんな動きをしていたから。


 だが、俺たちの時には、巨人騎士はその法則に全く従わず、まるで近寄る蠅を追い払うように……。

 というか、まだ攻撃すらしていないのに、俺たちめがけて必殺技をいきなり繰り出してきたのだ。


『ガイアックス・オウケィアウェイブ!!』


 巨大化した斧で大地をたたき割り、ガード不能の衝撃波の嵐を四方八方にまき散らすという豪快極まる荒技。

 しかもどういう理屈なのか、気絶スタンのおまけ付きという極悪攻撃。


「リント! エナリス!」


 防御力の低いリントとエナリスは、その技で大幅に体力を減らし、そして戦斧の追撃を喰らった。


「わぁああああぁぁぁっ!?」

「すいません、やられました! ムラサメくん、回復をお願いします!!」


 だがそこで、またもウォリック伯は驚愕の行動に出た。

 その声を聞いた巨人騎士は、リントとエナリスの倒れたアバターを踏みつけにしたのだ。

 それは、自身の巨大アバターで妨害することにより、リントとエナリスを回復させない……そんな意思表示に思えた。


 弱った獲物から率先して仕止める、その行為は、俺たちがよく知るコンピュータの行動ではなかった。

 非常に人間臭く、ある意味CPUより冷酷な行動原理アクションだった。


「ムラサメ、ゼファーの奴が逃げちまう!」


 ウォリック伯の執拗な攻撃から逃れたゼファーは、これ幸いにと市街地へ逃げ込む。

 だが、今なら、まだ奴を倒せる!


「ムラサメくん、回復お願いします!」

「まさかぁ、このまま逃げるなんてぇ、しませんよねぇ!?」


 だが、ムラサメの奴は、リントとエナリスの悲痛な嘆願を受けて、

 

「分かってる! リント、エナリス! 僕は、『ブレイズ・ブレイド』のメンバーを見捨てたりしない!」


 そう宣言し、


「頼む、レオ! すまないが、しばらく奴の攻撃を凌いでくれ!」


 俺にそんな事を申し出てきた。


「(ゼファーは……どうすんだよ……)」


 そう内心で思いながらも、俺はムラサメの盾役を十二分に果たした。

 だが、それは、ウォリック伯が90秒間、そこから全く身動きせず、ただ手持ちで出せるだけの技を出す行為に終始していたからだ。


「む、ムラサメくーん!」

「リント!」

「なんで……何でこいつ、僕たちのアバターの上から、動かないんですかぁ!?」

「エナリス!」


 リントとエナリスにも、自分のアバターが消滅する間際、ウォリック伯が、何故か自分達を確実に殺しに来ている事に気づいたのだろう。


「すまない……リント、エナリス!! くそっ!」

「何で……何で、何もしてないのに、殺されるの……?」


 ムラサメの獅子奮迅の激闘ぶりも空しく、回復猶予期間である90秒が経過し、リントとエナリスは死亡宣告リメインライトを受け、教会へと自動転送された。


「リント! エナリスーッ!!」

「ムラサメくーん!」


「ゴグルゥルルルルェウゥゥウウァァァッ!!」


 だが、二人の死亡を確認すると同時に、ウォリック伯は、次は俺たちと言わんばかりにを猛攻撃を仕掛けてきた。

 俺たちは、ウォリック伯の苛烈な攻撃をなんとか凌ぐも、簡単に倒せる相手ではないと判断されたのか、敵は再度ひび割れた声で、必殺技ボイスを高らかに叫んだ。


『アキュセラ・リング・グローリー!!』


 巨人騎士の全身が、燃え盛る黄金の炎に包まれるという圧倒的な光景エフェクトを見て、


「レオ、ダメだアレは! 逃げよう!」

「分かった!!」


 これは勝てる相手ではないと判断し、撤退を決め込む事にした。


 俺は市街地、ムラサメは森林。


 そして……。


「何で、こっちを!?」


 ウォリック伯は、何故か迷わずにムラサメを追い、そして二人共々に姿が見えなくなった。


 後はもう……。

 ムラサメの奴が、ウォリック伯をなんとか上手いこと捌いてくれるのを願うばかりだった。

 俺が追いかけた所で、共倒れになるのは最も避けたい選択肢だから。


「ふう……」


 そうして、状況は今に至る。

 龍真からのメールに気づいたのも、この時だ。 


 俺はしばらく沈思黙考し、


「……何で、俺、あんな事したんだろ」


 そう呟いた。


 龍真からメールを貰ったせいで、なんとなく自己反省する気になったのか、思い起こせば、ここに至るまでの選択……。

 もっと良い選択肢が沢山あった。

 ゼファー戦で、むざむざ回復させてしまったミスもそうだが、さっきのウォリック伯戦における一番良い選択肢は、


 「リントとエナリスを見捨てる」


 だった。

 これは別に、俺たちが無傷で逃げたいとかそういう訳ではなく、俺たち二人で逃げれば、ウォリック伯は


「リントとエナリスを回復できる人間プレイヤーは、ここにはもういない」


 と判断して、俺たちを追いかけてくる可能性があったからだ。

 そこで俺かムラサメのどちらかが、フィールドを大きく迂回して、リントとエナリスを回復させれば、俺たちは4人で復活できた。


 だが現実は、懇願されるままに戦ったせいで、ウォリック伯はその場から身動きしようとせず、逆にリントとエナリスを見殺しにする結果となってしまった。


 結果論と言えばそれまでだが、そういう選択肢があった事は確かだ。

 戦闘の熱に浮かされ、沸騰した頭では、冷静な戦略をたてる事ができなかった。

 生き延びる可能性に考えが至らなかった。


『頼む、レオ! すまないが、しばらく奴の攻撃を凌いでくれ!』


 そう言ってきたムラサメ。


『自分と同じ性質のムラサメを選ぶとか、負け犬の思考だな』


 このイベントの参加前に、そう言ってきた龍真。


「負け犬の思考……」


 俺はそう呟いた。


 俺もムラサメも、負け犬なのか。 人生の。


 ……いや、そんな事はない。

 ムラサメのおかげで生き残った部分もあった。


 例えば、スキル「エクスキューショナー」。

 PKプレイヤーに圧倒的なダメージを与える、ムラサメのあのスキルが無ければ、ここまで良い勝負にはならなかった。


「そうだ、実際は良い勝負だったじゃん……」


 そうだ、良い勝負だった。

 実際、俺は生きている。


 最初、ゼファー、フィールドマウス、ウォリック伯の3体に囲まれ、同時攻撃された時は、確実に死ぬと思った。

 だが俺は死ななかった。


 その理由は、実は「一対一が3回続いた」からだ。

 連中が同じ色の組だったなら、お互いに攻撃してもダメージを追う事はないため、俺を同時に攻撃できた。

 だが、連中はウォリック伯を利用してPK数を稼ぐため、紅薔薇と黄薔薇、違う色を選択していた。


 そのため「相打ち」の可能性が発生した。

 まして、フィールドマウスは「紅薔薇姫」のクラスを選択していたせいで、パラメータは6000を越えていた。


 例えゼファーといえど、フィールドマウスの攻撃がうっかり当たれば、大ダメージを受けかねない状態だった。


 連中が「相打ち」を過度に恐れた結果、俺は助かったのだ。


「……本当に、何が幸いするか分からないよな」


 それは、あいつらが欲ボケし過ぎた結果の失策だ。

 俺を殺そうと、同じ色の軍に入っていれば、本当に瞬殺されていたろう。

 俺もミスは結構やらかしたが、これは連中のミスによる俺の生き残りだ。


 そうだ、いつまでもボケッとしてなんていられない。

 もっと、考えを巡らさなくては。

 そうしないと、連中の後手を踏み続ける。

 

『社会ってのは、不平等で、悪人ばかり、信頼や友情はかけらもない。 あるのは、常に利害を天秤にかけた駆け引きばかり、だ』


 兄貴の言葉を思い出すまでもなく、世の中の人間は、騙し騙され……。

 いや、勝つために知恵を絞っている。


 それは、よりよい生活を得るために。

 リアルで言えば、金とか恋人とか友人とかのために。

 ネトゲでいえば、良い狩り場での経験値稼ぎ、レアアイテムのハックスラッシュのために。


 一時期、外国人プレイヤーがRMT (リアル・マネー・トレード)のために、あるゲームの狩り場を朝から晩まで封鎖して問題になった事があった。

 自分達だけがゲームのリソースを確保するのが目的だった。


 だがそれは、リアルの連中だって、似たようなもんだ。

 自分達だけが金や恋人を得るために、他人を追い落とすという話は良く聞く。


 それが、悲しいけど、現実だ。


 だが、その外国人プレイヤーが、結局は国内の有志と死闘を繰り広げた結果、ゲームから退場させられたように、ゼファーとフィールドマウスもこの世界ゲームから絶対に排除させられなくてはならない。


 そう。 


 あいつらだって、今この瞬間ですら、また俺をどうやって殺そうと考えているはずだから。

 その策を上回らないと、連中は殺せない。



「……何考えてるんだ、俺」


 そこまで一気に考えて……だが、俺は自己嫌悪に陥った。


 「ゲームはフェアに遊ぶもの」なんて豪語してた頃のことが、ずいぶんと過去に感じられたから。


 生活に……いやメンタルに余裕があったから、あんな生ぬるい事を考えていられたんだろうな、と痛切に感じた。

 真剣になっていたなら、あそこまで甘い事は考えていなかっただろう。


「(……でも)」


 それは、正義の、はずなのに。

 なんで俺は、人殺しこそが正義だと、今、思ってるんだろう。


「(……いや)」


 いや、俺は本当は、分かっていたんだ。

 高校生の時に受けた、いやそれ以前からの、耐えがたい理不尽の数々。


 そう。


 この世界は……汲めども尽きぬ、無限の暴力で出来ている。

 理性と平和と博愛の精神で、どんなにこの世界を美しく覆おうとも、その下から剥がれ覗くもう一つの世界。


 それは決して否定されえぬ、この世界の、もう一つの天理法則。


 感情と闘争と侮蔑が支配する、あまりにも醜い、原初の暴力世界。


 そう。 俺は、気づいていたんだ。

 これが……この世界の真実なのかもしれない、と。


「(違うだろ……)」


 でもそうじゃない。

 この世界に、正しい事を愛する人は大勢居るじゃないか。

 事実、俺だって、清く正しく競争する事は好きなのだ。

 好きな事にだったら、努力する事も厭わないのだ。

 俺にとって、格闘ゲームがそうであったように。


 あの時の楽しさは嘘じゃないと思いたい。

 本当のこの世界は、美しく楽しいものだと思いたい。


 だがそれが実は、この世界の真実は、無限の暴力が広がる醜い場所で、しかもこれからの先の人生のフィールドが、灰色の荒野ばかりだとしたら。


 それは、もうため息しか出てこない結末だ。


「……こんな事考えてても、しょうがないだろ、俺」


 やめよう。

 こんな事考えても、意味がない。

 どんなに気が進まなくても、今は勝つことだけを考えなくては……。


「(あの連中は、今、どうしているだろうか)」


 ふと「ゲームは、他人の気持ちを理解しなければ負ける」という言葉を思い出した。


 それが、この局面で、店長や野口さんの気持ちを考えることになろうとは予想もしなかったが、とにかく、俺は連中になりきって考えた。


 ……あの人たちは何を考えてる?


「……ダメージ回復」


 だよな。

 巨人騎士との戦闘でのダメージは甚大だった。

 しかもこの後、俺たちとの戦闘が続く可能性があるとなれば、どこかでどうにかして、回復を試みるに違いない。


 ……でも、このイベントステージのどこで?

 まさか、回復アイテムとか売っているのか?


「……エルキッド!!」


一瞬、奴はこのイベントにログインしているんだろうかと考えたが、


「間違いない……! 連中は、エルキッドを探してる!!」


 エルキッドの奴が、このイベントに参加していない訳がない。

 戦争こそが、最も儲かる市場だと理解しているあいつなら。


 グダグダ考えている間に、無駄な時間を食った。

 ムラサメの事も気になるが、先に連中の、その回復という選択肢を潰さなくては!


 俺はエルキッドに有料メールを飛ばすと、


「ええで、白薔薇城の水道橋で落ち合おうか。 知ってるやろ?」


 という返事が、即座に返ってきた。


「……わ、分かった。 でも……」


一瞬、場所の具体的な指定に、何故だ?

と思ったが、メールに問いかけた所で、ごく当然の事ながら、返事はなかった。

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