表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/116

(85)botは電気羊の夢を見るか

 俺はゼファーから一定の距離を保ち、魔法攻撃を撃ち込む。

 と、その時に


「デュエルに参加を要請されています。 受諾しますか? Y・N」


 というメッセージウインドウが表示された。


「レオ、デュエルで決着を付けよう!」


 なんだこれ、と思うより早くムラサメが言う。


「今度のバージョンアップで実装された、『バトルロイヤル・デュエル』だ! 参加してくれ!」

「分かった!」


 という事は、今まで1対1だったデュエルが、2対2も可能になったって事だな!

 俺が「Y (はい)」をタップすると、


ーーーーーーーーーーー


 デスペナルティモードデュエル:

 「ゼファー」 & 「フィールドマウス」 : 

 「鋼鉄戦鬼ムラサメ」 & 「レオ」 

 道具使用なし で バトルロイヤルマッチを行います。 よろしいですか? Y・N


ーーーーーーーーーーー


「もちろんだッ!」


 再度の確認に、俺は再び「Y (はい)」をタップしたが、


「デスペナルティモードデュエルはキャンセルされました」


の一文を残して、ウインドウは消滅した。


「はぁ!?」


 何で!? 何でデュエルウインドウが消えちゃったの!?


「店長! うかつに誘いに乗ってはダメです! レオくんが連れてきた、この『鋼鉄戦鬼ムラサメ』の攻撃力は異常です!」


 フィールドマウスの奴が、デュエル拒否しやがったのか!


「おい店長! まさかここで逃げるとか言うなよ! テメェ、俺に対して何て言ったのか覚えてるか!? 俺は覚えているぞ! もしここでデュエル拒否とかしたら、一生バカにし続けてやっからな!」


 流れは俺たちにある。

 このまま煽りまくって、デュエルに持ち込んでやる!


「ナメんなよ、キリシマ! 誰に向かって口を聞いてると思ってんだ! 望み通り戦ってやる!」

「ダメです、店長! ここでデュエルを受けて、万一負けようものなら、我々が稼いで来た分を全て失いますよ!!

「……!!」

「それに、さっきの魔法攻撃!! レオくん達は、私たちへの対策を考えています!! ここは、一旦退きましょう!」

「お前は、俺に逃げろといってるのか、ノグチ!」


 これはマズい!

 煽って、絶対に撤退させないようにしないと!


「そうだ、逃げるのかよフィールドマウス! 逃げとか、まさにお前の人生そのものだな!」


「くっ、勝手な事を! 店長、逃げるのではありません! 戦略的撤退です! どんな展開になろうと、最後に立ってさえいれば、それが勝利ですから!!」


 店長ことゼファーは、僅かな間、逡巡していたようだったが、


「我々は勝てます! 無用なリスクを負うことはありません、店長!」

「分かった、ノグチ、今回はお前の指示に従ってやる! 一時撤退だ!」


 最後には実益優先を選んだのか、フィールドマウスの説得を受け入れた。


「ありがとうございます!」


「何が撤退だ! 結局逃げてんじゃねーかよ! このチキンどもが! フライヤーで揚げられてろこのクソカス!」


 俺の空しい煽りを完全無視して、ゼファーとフィールドマウスは、巨人騎士ウォリック伯の股下を潜り、俺たちから距離を取ろうとする。

 黄薔薇組であるゼファーは、元々ウォリック伯組なので、混戦でもない限りダメージは受けないし、さっきからウォリック伯は俺たち白薔薇組をターゲットしているので、巨人騎士を殿しんがりとして逃亡するのは、実に頭の良い……俺たちからしたら小癪なやり方だった。


 だが、そこで異変が起きた。

 突如、巨人騎士ウォリック伯が、両手の大戦斧を勢いよく天空に掲げ、しゃがれた声で喋ったのだ。


「ヴァニシング・ホライゾン!」


 ……必殺技ボイス!?


 次の瞬間、ウォリック伯は戦斧を掲げた両手を一杯に延ばし、足を抱え込んだ体勢で、まるでフィギュアスケーターのように回転した。


「うおっ!」

「ぐあああっ!」

「なんですかぁ、この減りは!」


 もちろん、俺はその予備動作プレモーションの大きい攻撃を無難にガードしたが、体力がかなり減った。

 直撃なら即死しかねない攻撃力だった。


 回転が終了し、攻撃判定が消失すると同時に、俺の背中に隠れていたムラサメが飛び出し、すかさずのブレードアーツをウォリック伯に繰り出した。


「サザンナイト・エクスプレス!!」


 ガガガガガガ、と連続する剣撃音と閃く剣光のエフェクト。

 だが、最大の攻撃力を持つムラサメのブレードアーツを以てしても、ウォリック伯の体力ゲージは僅かしか減らない。目視で3%削れたかどうか、ってところだ。


「何だこいつは……!!」


 敵の硬直時間にダメージを与えた後、すかさずムラサメは俺の背中へと戻ってくる。

 あの巨大な攻撃範囲を回避する方法は、俺の背中に隠れる以外ないからだ。


 俺はみすみす、ゼファーとフィールドマウスを取りのがすかと思ったが……。


「ガルァ! グォアオアオォルァ! ギャハァ!」


「何だ……! 何で、俺たちを攻撃してくる!?」

「ゼファー! 二手に分かれましょう!二人固まるのは危険です!」


 なんと、黄薔薇に属するはずのウォリック伯が、同じ黄薔薇組のゼファーを襲い始めた。


「サザンナイト・エクスプレス!」


 それを見て、再びムラサメはウォリック伯のかかと辺りを切りつけるが、ウォリック伯はゼファーを攻撃する事に夢中になっていた。


「おい、ムラサメ、これおかしいと思わないか!?」

「……ああ、おかしい!!」


 それは、ゲーム的にはありえない光景だった。

 通常、この手の巨大エネミーを集団で狩るゲームには、通称「ヘイト値」と呼ばれる数値が設定されており、アクションの内容に応じて貯まるようになっている。

 「サザンナイト・エクスプレス」みたいな、強力な多段攻撃を繰り出そうもんなら、ヘイト値は即座に満タンになり、確実にムラサメをターゲットするはずだ。

 それは雑魚キャラでも、中ボスでも、ピースキーパー「フローズン・タランテラ」でも、共通のプログラムに従う以上、そのルーチンに変わりはない。

 俺たちゲーマーは、その内部数値を予測する事で、エネミーの動きをも予測するのだが、今の動きは、そのセオリーを完全に無視していた。


 ブレードアーツを喰らわせたムラサメが襲われず、ただ逃亡するだけのゼファーが襲われるというこの状況は、どう考えても異常だった。


 そして、おかしいと思える箇所がもう一つ。


 ムラサメが、もう一度「サザンナイト・エクスプレス」を喰らわそうとしたら、ウォリック伯がこっちに向き直ったのだ。


「……!!!」


 俺たちが経験したことのない動作。

 そのありえないリアクションに、一瞬すくんでしまう。

 何故なら、今、ウォリック伯は「俺たちの動きを予測し、待ち構えた」からだ。


 そもそも「プレイヤーの攻撃を待つ」というアルゴリズムは、この手のゲームのエネミーには、ほぼ採用されない。

 通常、攻撃力と体力に勝るエネミーは、その威圧感を十分に示すため、好き放題に暴れるよう設定されているのが常だからだ。

 それどころか、ムラサメが前に出てきたのを見て「攻撃だ」と判断したというのは、間違いなく俺たちの意志を読んでいる、としか思えなかった。


 「(人工知能かい、これ……?)」

 「(まさか。 たかがゲームで、そこまでするのかよ)」


 低級なアルゴならともかく、敵エネミーに人工知能とか搭載されたら、プレイヤーが勝てなくなるだろ。将棋しかり、囲碁しかり……。

 それに、格闘ゲームを征する人工知能とか聞いたことない。


 だが、そう考えると、もう考えられる選択肢は一つしかない。 ありえないが、それしかない。


 「(なぁ……こいつ、もしかして中身は『人間』じゃないのか?)」

 「(レオ、お前もかい? 僕もそう思った。 この雰囲気、まるで格ゲーの対戦相手みたいな感じだ)」


 それなら、ターゲットが途中で白から黄色に変更された理由も分かる。操作者が、CPUから人間になったからだ。


「逃げましょう! あとで、落ち合う場所は連絡します!」

「分かった! 10分後までに連絡しろよ、ノグチ!」


 二手に分かれる事で、ウォリック伯の攻撃を逃れつつあるゼファーとフィールドマウス。


「ああ、ゼファーが逃げちゃいますぅ!」

「どうするんですか、ムラサメくん!」


 ゼファーは市街に、フィールドマウスは森の中へと向かって走り始めた。


 そして、ウォリック伯は、なんとNPCのくせにどちらを追うか「逡巡する様子」を見せた後、ゼファーを追いかけ始めたのだ。


「……間違いなく人間だな、あれは」

「ああ、僕もそう思う」


 あのノイズの混じった行動は、CPUのアルゴリズムではないし、まして人工知能でもない。

 人間だ。

 どういう理由でかは分からないが、ウォリック伯爵は今人間の手によって操作され、かつゼファーを最優先に狙っている。


「僕たちもゼファーを狙おう! これは千載一遇のチャンスだ!」

「そうだな! それしかない!」


 ウォリック伯の攻撃を受け、次々に回復アイテムを使用しつつ、市街地へ逃げ込もうとするゼファー。

 この状況は、どう考えてもチャンスだ!!


「いくぞ! リント、エナリス! ここがゼファー討伐、最後の天王山だ!」

「は、はぁい!」

「わ、わっかりましたぁ!」


「レオ、分かってるな!」

「ああ、分かってる! お前こそ覚悟を決めてくれよ、ムラサメ!」

「まかせろ、行くぞ!」


そうして俺たちは、ゼファーを討伐すべく、ウォリック伯の周囲、その四方から一斉に襲いかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ