表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/116

(84)死闘開幕

DATE : H27.2.9

TIME : 18:30

STID : 00941724、00392345、00190029、00160104


「やっと姿を見せたか、キリシマ! お前の腕が、どれほどの物か見せてもらおうか!」

「店長ッ……!」

「まさか、ここで逃げるとか言うなよ!? 俺に向かって、あれだけの口を叩いたんだからな!」

「テメェこそ、こんな状況で良くそんな口が叩けたもんだぜ!」


 俺はムラサメ、リント、エナリスと共に、ウォリック伯、そしてゼファーとフィールドマウスの連合軍に突っ込んでいった。


「行くぞ、ノグチッ!」

「分かってます、店長! レオくんを囲むんですね!」


 だが、実際の展開たるや最悪だった。

 目の前には、地響きを立てて突っ込んでくるNPCの巨人騎士・ウォリック伯に加え、ゼファーとフィールドマウスが、俺一人を取り囲んだのだ。


「(俺、これで負けたら、実家に戻らなくちゃいけないんだよな……)」


 てっきりバトルロイヤル的な展開になるかと思ったのに、連中は俺の排除を最優先に選んだ。

 これが、普通のユルい雰囲気のネトゲなら、まだ付け入る隙も見いだせよう。

 だが、店長達はNPCのみならず、自分達の手で俺を確実に必殺する手段を選んできたのだ。


「(くそっ……!!)」


 このあまりに絶望的なシチュエーションに、俺は悲惨な未来しか思い描けなかった。


 アバターの性能は確実にあちらが上なのに、数の力で迫るとか、正々堂々戦うとかいう発想はねーのかよ、と内心で愚痴をこぼしそうになったが、あの店長がそんな事する訳ないよな、と思い直した。

 店長・赤城大輔という男は、貪欲に勝利と利益を追い求め、自分の役に立たない要素は排除する。

 そんな奴だったと、あらためて再認識した。

 


 そうだ。

 これはゲームだけど……。

 本当の殺し合いなんだ。

 掛け値なし、生きるか死ぬかの戦いなんだ。

 えげつない卑怯な戦法でも、それが有効なのなら、選んで当然だ。


 認識が甘いだろ、桐嶋礼雄。

 店長みたいな一般人は、ああするんだぞ。

 相手を踏みにじる事を厭わない。 躊躇しない。 可哀想だと思わない。

 勝つためには、そういう手段を選ばないといけない。

 それを選んでこれなかったから、俺は他人に、何もかも譲り続けてきたんだぞ。


 死にたいのか?

 死にたくないだろ。

 実家に帰りたくないだろ。

 生き残って、本当の自分を知りたいだろ。

 琴莉さんに逢いたいだろ。



 だから、死にたくなければ……。


 戦え!


 勝て!!


 例え、どんな事をしてでも!!!



「おおおおおおおおっ!」



 知らず、俺の口から気合いの咆哮が迸り出た。


 目の前は、絶体絶命の必殺の死地。

 生きて帰る事ができる可能性は、ほぼ0だ。

 こんな状況に陥る前に、出来る事はあったかもしれない。


 だが今は、そんな事を考えていたって仕方ない。

 戦って勝ち残る!

 それしか、方法はないんだッ!!


「ムラサメ! 俺が皆の攻撃を引きつける! お前が、ゼファーとフィールドマウスを攻撃してくれ! ウォリック伯との戦闘は、その後だ!」


 俺はムラサメにシングルチャットで指示を飛ばす。


「……大丈夫か!? あの3人の攻撃を受けきるとか、防御の堅いお前でもムチャだろう!?」

「心配するな! それより、お前の攻撃だけが頼みだぞ! 上手くターゲットを削いでくれよ!」

「わ、分かった! 死ぬなよ、レオ!」


 俺は意識を完全にスマートタブレットの中に没入させ、完全な戦闘モードへと切り替えた。

 昔、格闘ゲームに熱中してた頃の灼熱の血液が、俺の全身を沸騰させる。


「これでも、喰らいなさいっ!!」


 俺の背後から、勢い良く襲いかかってきたフィールドマウス。

 6000近いパラメータがあるから、万一反撃されても死なない……そう思っての鷹揚な攻撃だろう。


「え……っ!?」


 俺はその凡庸な攻撃をジャストガードで弾き、ブレードアーツを叩き込んだ。

 麻痺と毒のエフェクトがそれぞれ1回ずつ出たが、フィールドマウスは麻痺しなかった。

 蓄積値が足りないか、それとも「対麻痺の護符」を買い直しているのか。


「死ねッ、キリシマ!」


 そして俺がフィールドマウスと交戦中、横から店長のアバター、ゼファーが切り込んできた。


「ふんッ!」


 ……そんな、雑な攻撃で俺にダメージが通せるかよ!


 俺はゼファーの大上段を、これまたジャストガードで弾き、体勢を崩して、ブレードアーツを叩き込んだ。


「何っ……!?」


「ゴォルルゥルルルェアァァァッ!!」


 そして、俺の正面では、巨人騎士ウォリック伯が、両手に戦斧を掲げ、天を突くように大きく伸び上がった。

 今度はウォリック伯が、俺をターゲットに捕らえたのだ。

 ……畜生、俺、モテモテだな!!


「ギャルアァァァル!!」


 巨人騎士は甲高い叫びと共に、大戦斧で俺の居た空間を地面もろとも叩き割った。


「うぉっ!?」

「何ッ!」


 だが俺はもちろん、その大振りな攻撃を余裕で回避し、もしかしたらと思って、攻撃地点に向けて盾をかざしていた。

 そして思ったとおり、斧が地面を穿った爆心地から、岩や小石の固まりが周囲に飛び散った。


「何だ!? 触ってもないのに、体力が減った!?」

「何なんですかね、これは!」


 それはスプラッシュダメージという。

 ボスとかの強烈な攻撃が外れても、岩の破片とかのエフェクトに当たってダメージになる奴だ。

 ゲーマーなら、一度見れば描画の仕方から見当はつくが、一般人にはそうはいかないだろう。


「サザンナイト・エクスプレス!」

「ぬおッ!」


 ウォリック伯の攻撃がスプラッシュダメージを発生させ、ゼファーとフィールドマウスの動きが止まった時に、遂にムラサメが攻撃に転じた。

 奴の必殺技にして最強のブレードアーツ「サザンナイト・エクスプレス」は、期待どおりの破壊力を発揮してくれた。


 なんと、ゼファーの体力の、70%を奪ったのだ。


「やるぅ! さすがムラサメ! 行け! そのまま、ゼファーをぶっ殺せッ!」


 その展開は、冷静に考えれば当たり前の事かもしれないが、予想外の出来事だったのだ。

 俺はアパートでゲームしている事を忘れそうになるほど没入し、ムラサメにそんな声を掛けた。


「てっめえぇええ……!! 邪魔すんな、雑魚がぁッ!!」


 ムラサメにはパッシブスキル「エクスキューショナー」が発動しているため、ゼファー達のようなPKプレイヤーに対しては、破壊的なほどのダメージが与えられる。

 あと一撃、剣撃を見舞えば、それだけで……!!


「残念だったね、ゼファー!!」


 ゼファーは、ムラサメを追い払おうと一撃を繰り出す。

 「エクスキューショナー」があっても、補正されるのは攻撃力だけで、基本性能はゼファーの方が圧倒的に上。

 斬られれば、一撃で死ぬはずの攻撃を……。


「僕も、『妖精の護符』を身につけてるんだよ!」


 無効化した。


「行けッ、ムラサメ! 奴をぶっ殺せ!」


 俺は、興奮のあまり、思わず小さく叫んだ。

 ムラサメが、ゼファーの硬直時間フォロースルーに対し、避けようのない、まさに必殺の一撃を繰り出す。


「スクロール、エクスヒーリング! プレイヤー、ゼファー!!」


 そして、ムラサメの剣は、確かにゼファーに届いた……のに。


「危なかったぞ、ノグチ! ナイスアシストだ!」


 ゼファーは斬撃を受けながらも淡い緑色の光に包まれ、みるみるうちに体力を回復していった。

 間一髪で、フィールドマウスがゼファーを回復したのだ。


「くそっ、まさかスクロールを使ってくるなんて!!」


 一度はこの手に降りてきたはずの勝利が、あっさりと目の前から飛び去っていった。


「ムラサメ、追撃だ! ゼファーを逃がすな!」


 だけど、勝利の小鳥が逃げていったのは、俺が原因だ。

 ムラサメがゼファーに大ダメージを与えたのを見て、勝てると思って、嬉しさの余り、攻撃の手が緩んでしまった。

 俺がもっとフィールドマウスに粘着していれば、奴にスクロールを使わせる暇なんて作らせなかったはず。


「(……)」


 そう思うと、背中から、冷や汗が出た。


 俺はまた……勝つために、シビアになれなかった。

 まだどこか、心のどこかに甘い所があった。

 だから、回復を許してしまった。


「グアァア! グルァ! ガルァァアア!」


 だが、そこでウォリック伯は、ムラサメをターゲットし、ゼファーもろともに攻撃を見舞ったため、ムラサメは追撃を諦めざるを得なかった。


「くおっ!」


 さっきのムラサメの斬撃に加え、巨人騎士ウォリック伯の攻撃の巻き添えになった事で、再びゼファーの体力が半分にまで減る。

 NPCの攻撃には、妖精の護符での防御が効かないのだ。


「ノグチ、もう一回だ!」

「はい! スクロール、エクスヒーリング…」


「させねぇよ!」


 今度は、呪文の詠唱途中で切りかかった。

 さすがに二度、同じヘマをするほどの阿呆野郎じゃない。


「レオくん、貴方!!」

「うっせ! お前等もやってる事だろうが! 俺は勝つ! どんな事をしてでも、絶対に勝ってみせる! 回復なんてさせねぇよ! ムラサメ、頼む!」


「分かった、任せろ、レオ!」

「僕たちも居ますよぉ!」

「こ、ここは任せて下さいっ!」


 形勢有利と見るや、リントとエナリスまでもが戦いに参加し、戦闘はバトルロイヤル形式へと移行した。


「店長! そこを退いて下さい、レオくん!」

「退く訳ねぇだろうが! お前等はここで倒す!」


 フィールドマウスが、ゼファーを救おうと突進してくるが、俺はそれを体を張って止める。

 フィールドマウスの攻撃は当たれば即死だろうから、俺も数少ない「妖精の護符」で防御している。


 だが、ゼファーの奴も、3人に囲まれたのを危機と悟ってか、隙を見て「妖精の護符」のマクロを装備したらしい。

 ムラサメの攻撃が、当たったのにノーダメージだった。


「はっ……でも、想定内の行動だね」


 だが、それを即座に認識したムラサメは、ゼファーの隙を突いてファイアーボールを連打したのだ。 


 例の連打キャンセルによる、高速の魔法攻撃。

 もちろんそれは「妖精の護符」の鎧によって無効化されていくが、鎧を凄い勢いで剥がしていることが想像できる。


 なんせ、今、妖精の護符は1枚500円なんだ。

 ワンチャンスで、数千円が吹っ飛んでいくのは、店長といえど絶対に痛い……はず!


「この雑魚どもがぁっ! いちいちセコい攻撃してんじゃねーよ! てめぇ、ムラサメってのか!? 現実で出逢ったら、本気で潰すぞ!!」


 やっぱり痛いらしい。

 いいお値段の鎧を効果的に削られて、店長は思わず頭に血を上らせたようだ。


「程度の低い煽りだね。 それに僕が乗せられるとでも?」


 ムラサメは店長の恫喝を、巨大掲示板の書き込みよろしく受け流し、冷静に攻撃を加えていく。


 ウォリック伯は、俺たち白薔薇組をターゲットにしているせいか、だが俺たちがゼファーとフィールドマウスと交戦しているせいで、時々、ゼファーとフィールドマウスにダメージが入る。


「リント、エナリス! レオと交代しろ!」

「ええっ、ほ、ホントですかぁ!?」

「急げ! 今まで同様、防御に徹していれば良い! とにかく、時間を稼げ!」

「わ、分かりましたぁ」


……どうやら、ムラサメのMPが切れたらしい。

今度は、俺が魔法で、ゼファーの鎧を削る番か!


「店長、待たせたな!」

「キリシマぁぁっ!」

「ここで決着を付けてやるぜ、覚悟しろよ! ……ぶっ潰されるのは、てめぇの方だ!」


 そう威勢の良いこと言いながらも、俺は堅実に「ファイアー・ボール」の連打を放ちつつ、ゼファーの体力ゲージを観察する。

 あの体力ゲージが削れ始めた時……それすなわち、「妖精の護符」の鎧を全て削りきった証だからだ。


「どこまでセコいんだ、テメェは! 正々堂々勝負しやがれ、キリシマ!」

「どの口で、お前がそんな事を言ってんだよ!」


 俺はゼファーから一定の距離を保ち、魔法攻撃を撃ち込む。

 と、その時に


「デュエルに参加を要請されています。 受諾しますか? Y/N」


 というメッセージウインドウが表示された。


「(……何だ、これ?)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ