(84)死闘開幕
DATE : H27.2.9
TIME : 18:30
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「やっと姿を見せたか、キリシマ! お前の腕が、どれほどの物か見せてもらおうか!」
「店長ッ……!」
「まさか、ここで逃げるとか言うなよ!? 俺に向かって、あれだけの口を叩いたんだからな!」
「テメェこそ、こんな状況で良くそんな口が叩けたもんだぜ!」
俺はムラサメ、リント、エナリスと共に、ウォリック伯、そしてゼファーとフィールドマウスの連合軍に突っ込んでいった。
「行くぞ、ノグチッ!」
「分かってます、店長! レオくんを囲むんですね!」
だが、実際の展開たるや最悪だった。
目の前には、地響きを立てて突っ込んでくるNPCの巨人騎士・ウォリック伯に加え、ゼファーとフィールドマウスが、俺一人を取り囲んだのだ。
「(俺、これで負けたら、実家に戻らなくちゃいけないんだよな……)」
てっきりバトルロイヤル的な展開になるかと思ったのに、連中は俺の排除を最優先に選んだ。
これが、普通のユルい雰囲気のネトゲなら、まだ付け入る隙も見いだせよう。
だが、店長達はNPCのみならず、自分達の手で俺を確実に必殺する手段を選んできたのだ。
「(くそっ……!!)」
このあまりに絶望的なシチュエーションに、俺は悲惨な未来しか思い描けなかった。
アバターの性能は確実にあちらが上なのに、数の力で迫るとか、正々堂々戦うとかいう発想はねーのかよ、と内心で愚痴をこぼしそうになったが、あの店長がそんな事する訳ないよな、と思い直した。
店長・赤城大輔という男は、貪欲に勝利と利益を追い求め、自分の役に立たない要素は排除する。
そんな奴だったと、あらためて再認識した。
そうだ。
これはゲームだけど……。
本当の殺し合いなんだ。
掛け値なし、生きるか死ぬかの戦いなんだ。
えげつない卑怯な戦法でも、それが有効なのなら、選んで当然だ。
認識が甘いだろ、桐嶋礼雄。
店長みたいな一般人は、ああするんだぞ。
相手を踏みにじる事を厭わない。 躊躇しない。 可哀想だと思わない。
勝つためには、そういう手段を選ばないといけない。
それを選んでこれなかったから、俺は他人に、何もかも譲り続けてきたんだぞ。
死にたいのか?
死にたくないだろ。
実家に帰りたくないだろ。
生き残って、本当の自分を知りたいだろ。
琴莉さんに逢いたいだろ。
だから、死にたくなければ……。
戦え!
勝て!!
例え、どんな事をしてでも!!!
「おおおおおおおおっ!」
知らず、俺の口から気合いの咆哮が迸り出た。
目の前は、絶体絶命の必殺の死地。
生きて帰る事ができる可能性は、ほぼ0だ。
こんな状況に陥る前に、出来る事はあったかもしれない。
だが今は、そんな事を考えていたって仕方ない。
戦って勝ち残る!
それしか、方法はないんだッ!!
「ムラサメ! 俺が皆の攻撃を引きつける! お前が、ゼファーとフィールドマウスを攻撃してくれ! ウォリック伯との戦闘は、その後だ!」
俺はムラサメにシングルチャットで指示を飛ばす。
「……大丈夫か!? あの3人の攻撃を受けきるとか、防御の堅いお前でもムチャだろう!?」
「心配するな! それより、お前の攻撃だけが頼みだぞ! 上手くターゲットを削いでくれよ!」
「わ、分かった! 死ぬなよ、レオ!」
俺は意識を完全にスマートタブレットの中に没入させ、完全な戦闘モードへと切り替えた。
昔、格闘ゲームに熱中してた頃の灼熱の血液が、俺の全身を沸騰させる。
「これでも、喰らいなさいっ!!」
俺の背後から、勢い良く襲いかかってきたフィールドマウス。
6000近いパラメータがあるから、万一反撃されても死なない……そう思っての鷹揚な攻撃だろう。
「え……っ!?」
俺はその凡庸な攻撃をジャストガードで弾き、ブレードアーツを叩き込んだ。
麻痺と毒のエフェクトがそれぞれ1回ずつ出たが、フィールドマウスは麻痺しなかった。
蓄積値が足りないか、それとも「対麻痺の護符」を買い直しているのか。
「死ねッ、キリシマ!」
そして俺がフィールドマウスと交戦中、横から店長のアバター、ゼファーが切り込んできた。
「ふんッ!」
……そんな、雑な攻撃で俺にダメージが通せるかよ!
俺はゼファーの大上段を、これまたジャストガードで弾き、体勢を崩して、ブレードアーツを叩き込んだ。
「何っ……!?」
「ゴォルルゥルルルェアァァァッ!!」
そして、俺の正面では、巨人騎士ウォリック伯が、両手に戦斧を掲げ、天を突くように大きく伸び上がった。
今度はウォリック伯が、俺をターゲットに捕らえたのだ。
……畜生、俺、モテモテだな!!
「ギャルアァァァル!!」
巨人騎士は甲高い叫びと共に、大戦斧で俺の居た空間を地面もろとも叩き割った。
「うぉっ!?」
「何ッ!」
だが俺はもちろん、その大振りな攻撃を余裕で回避し、もしかしたらと思って、攻撃地点に向けて盾をかざしていた。
そして思ったとおり、斧が地面を穿った爆心地から、岩や小石の固まりが周囲に飛び散った。
「何だ!? 触ってもないのに、体力が減った!?」
「何なんですかね、これは!」
それはスプラッシュダメージという。
ボスとかの強烈な攻撃が外れても、岩の破片とかのエフェクトに当たってダメージになる奴だ。
ゲーマーなら、一度見れば描画の仕方から見当はつくが、一般人にはそうはいかないだろう。
「サザンナイト・エクスプレス!」
「ぬおッ!」
ウォリック伯の攻撃がスプラッシュダメージを発生させ、ゼファーとフィールドマウスの動きが止まった時に、遂にムラサメが攻撃に転じた。
奴の必殺技にして最強のブレードアーツ「サザンナイト・エクスプレス」は、期待どおりの破壊力を発揮してくれた。
なんと、ゼファーの体力の、70%を奪ったのだ。
「やるぅ! さすがムラサメ! 行け! そのまま、ゼファーをぶっ殺せッ!」
その展開は、冷静に考えれば当たり前の事かもしれないが、予想外の出来事だったのだ。
俺はアパートでゲームしている事を忘れそうになるほど没入し、ムラサメにそんな声を掛けた。
「てっめえぇええ……!! 邪魔すんな、雑魚がぁッ!!」
ムラサメにはパッシブスキル「エクスキューショナー」が発動しているため、ゼファー達のようなPKプレイヤーに対しては、破壊的なほどのダメージが与えられる。
あと一撃、剣撃を見舞えば、それだけで……!!
「残念だったね、ゼファー!!」
ゼファーは、ムラサメを追い払おうと一撃を繰り出す。
「エクスキューショナー」があっても、補正されるのは攻撃力だけで、基本性能はゼファーの方が圧倒的に上。
斬られれば、一撃で死ぬはずの攻撃を……。
「僕も、『妖精の護符』を身につけてるんだよ!」
無効化した。
「行けッ、ムラサメ! 奴をぶっ殺せ!」
俺は、興奮のあまり、思わず小さく叫んだ。
ムラサメが、ゼファーの硬直時間に対し、避けようのない、まさに必殺の一撃を繰り出す。
「スクロール、エクスヒーリング! プレイヤー、ゼファー!!」
そして、ムラサメの剣は、確かにゼファーに届いた……のに。
「危なかったぞ、ノグチ! ナイスアシストだ!」
ゼファーは斬撃を受けながらも淡い緑色の光に包まれ、みるみるうちに体力を回復していった。
間一髪で、フィールドマウスがゼファーを回復したのだ。
「くそっ、まさかスクロールを使ってくるなんて!!」
一度はこの手に降りてきたはずの勝利が、あっさりと目の前から飛び去っていった。
「ムラサメ、追撃だ! ゼファーを逃がすな!」
だけど、勝利の小鳥が逃げていったのは、俺が原因だ。
ムラサメがゼファーに大ダメージを与えたのを見て、勝てると思って、嬉しさの余り、攻撃の手が緩んでしまった。
俺がもっとフィールドマウスに粘着していれば、奴にスクロールを使わせる暇なんて作らせなかったはず。
「(……)」
そう思うと、背中から、冷や汗が出た。
俺はまた……勝つために、シビアになれなかった。
まだどこか、心のどこかに甘い所があった。
だから、回復を許してしまった。
「グアァア! グルァ! ガルァァアア!」
だが、そこでウォリック伯は、ムラサメをターゲットし、ゼファーもろともに攻撃を見舞ったため、ムラサメは追撃を諦めざるを得なかった。
「くおっ!」
さっきのムラサメの斬撃に加え、巨人騎士ウォリック伯の攻撃の巻き添えになった事で、再びゼファーの体力が半分にまで減る。
NPCの攻撃には、妖精の護符での防御が効かないのだ。
「ノグチ、もう一回だ!」
「はい! スクロール、エクスヒーリング…」
「させねぇよ!」
今度は、呪文の詠唱途中で切りかかった。
さすがに二度、同じヘマをするほどの阿呆野郎じゃない。
「レオくん、貴方!!」
「うっせ! お前等もやってる事だろうが! 俺は勝つ! どんな事をしてでも、絶対に勝ってみせる! 回復なんてさせねぇよ! ムラサメ、頼む!」
「分かった、任せろ、レオ!」
「僕たちも居ますよぉ!」
「こ、ここは任せて下さいっ!」
形勢有利と見るや、リントとエナリスまでもが戦いに参加し、戦闘はバトルロイヤル形式へと移行した。
「店長! そこを退いて下さい、レオくん!」
「退く訳ねぇだろうが! お前等はここで倒す!」
フィールドマウスが、ゼファーを救おうと突進してくるが、俺はそれを体を張って止める。
フィールドマウスの攻撃は当たれば即死だろうから、俺も数少ない「妖精の護符」で防御している。
だが、ゼファーの奴も、3人に囲まれたのを危機と悟ってか、隙を見て「妖精の護符」の鎧を装備したらしい。
ムラサメの攻撃が、当たったのにノーダメージだった。
「はっ……でも、想定内の行動だね」
だが、それを即座に認識したムラサメは、ゼファーの隙を突いてファイアーボールを連打したのだ。
例の連打キャンセルによる、高速の魔法攻撃。
もちろんそれは「妖精の護符」の鎧によって無効化されていくが、鎧を凄い勢いで剥がしていることが想像できる。
なんせ、今、妖精の護符は1枚500円なんだ。
ワンチャンスで、数千円が吹っ飛んでいくのは、店長といえど絶対に痛い……はず!
「この雑魚どもがぁっ! いちいちセコい攻撃してんじゃねーよ! てめぇ、ムラサメってのか!? 現実で出逢ったら、本気で潰すぞ!!」
やっぱり痛いらしい。
いいお値段の鎧を効果的に削られて、店長は思わず頭に血を上らせたようだ。
「程度の低い煽りだね。 それに僕が乗せられるとでも?」
ムラサメは店長の恫喝を、巨大掲示板の書き込みよろしく受け流し、冷静に攻撃を加えていく。
ウォリック伯は、俺たち白薔薇組をターゲットにしているせいか、だが俺たちがゼファーとフィールドマウスと交戦しているせいで、時々、ゼファーとフィールドマウスにダメージが入る。
「リント、エナリス! レオと交代しろ!」
「ええっ、ほ、ホントですかぁ!?」
「急げ! 今まで同様、防御に徹していれば良い! とにかく、時間を稼げ!」
「わ、分かりましたぁ」
……どうやら、ムラサメのMPが切れたらしい。
今度は、俺が魔法で、ゼファーの鎧を削る番か!
「店長、待たせたな!」
「キリシマぁぁっ!」
「ここで決着を付けてやるぜ、覚悟しろよ! ……ぶっ潰されるのは、てめぇの方だ!」
そう威勢の良いこと言いながらも、俺は堅実に「ファイアー・ボール」の連打を放ちつつ、ゼファーの体力ゲージを観察する。
あの体力ゲージが削れ始めた時……それすなわち、「妖精の護符」の鎧を全て削りきった証だからだ。
「どこまでセコいんだ、テメェは! 正々堂々勝負しやがれ、キリシマ!」
「どの口で、お前がそんな事を言ってんだよ!」
俺はゼファーから一定の距離を保ち、魔法攻撃を撃ち込む。
と、その時に
「デュエルに参加を要請されています。 受諾しますか? Y/N」
というメッセージウインドウが表示された。
「(……何だ、これ?)」




