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幕間劇(4) 株式会社カプリコン開発室(常駐スタッフ用)

 ここ、株式会社カプリコンの開発室では、イベント「第二次薔薇戦争」のデータ収集の傍ら、開発者にして主任の茅原と、バイトの橋口が、雑談に興じていた。


 内容は「RPGの攻略法について」。


 茅原は、長椅子に深く腰掛け、バニラアイスを食べながら、作業中の橋口に視線をやるでもなく言う。


「僕が子供の時は、RPGとか攻略本見ながらプレイしていたよ」

「うっへ、本当ですかぁ、茅原主任!? そんなゲームのプレイをして、楽しいんですか!?」


 そう言われると、茅原は口だけで笑みを浮かべ、橋口に視線をやって、話を続けた。


「そりゃ楽しいとも。 稼ぎ場で手っとり早く強くなって、ボスを次々撃破して、レアアイテムを漏れなく確保して、圧倒的な効率でヒロイン奪取、常識を越えた低レベルでラスボスを倒して、ゲームクリアするのはメチャクチャ楽しいよ」

「そ、そうですか?」


 どうも、茅原主任は、いわゆる効率厨らしかった。

 それも圧倒的、な。


「なお言うと、それをクラスメイトに自慢して、連中の悔しそうな顔を見るのがもっと楽しかった」

「は、はぁ……」


 しかも自慢厨というオマケも付いていた。

 明らかに人からは嫌われそうなそのスタイルに対し、橋口は自分の考えをやんわり主張してみた。


「でも、ゲームってのは冒険ですから、何もかも手探りの方が楽しくないッスか? 攻略本見ちゃったら、知る楽しみが無くなる……っていうか」


「それは確かになくなる」

「えっ!? で、ですよね? そうですよね!?」


「でもな、それは非能率に思えるんだ。 それほど意味がないって言うか。 探索の楽しみって、それほど重要かな? さっさと次のゲームをプレイして、その楽しさで埋め合わせれば良いじゃないか」


 うぇぇ、と橋口は思わずうめき声を漏らしそうになった。


「もったいなさ過ぎでしょ、それじゃ!」

「もったいないって、何がだね? まさか、ゲームがかい?」


 そうですよ、と橋口が合わせる前に、茅原は言葉を続ける。


「僕に言わせりゃ、時間の方がもったいないよ。 この世の中には、面白いゲームは沢山あるじゃないか。 でも、どんなヘビーゲーマーだって、全てをプレイできる訳じゃない」

「そ、そりゃそうですけど……」

「僕はできるだけ……。 できるだけ沢山のゲームをプレイしたかった」


 茅原は、どこか遠い目をして、そう言った。


「でも、できなかった。 したかったのに、できなかった。 親に死ぬほど怒られたからね」


 そうですか、と橋口があきれ半分、驚き半分の表情を浮かべた。

 子供の時の話とはいえ、まさか、頭脳明晰で仕事もバリバリなこの主任から、そんなダメ発言が飛び出してくるとは思わなかったからだ。


「まあ、それはもっともだよ。 時間は有限なんだから。 とにかく、ゲームでも目的を決めたら、なるべく寄り道をせず、真っ直ぐかつ効率的に進めた方が良い。 そちらの方が断然良い」


「はぁ……。 じゃ、主任が会社で、社長よりも偉そうなのは、そういう考えだからですかね?」


「かもしれないね」


「はぁ!?」


 橋口としては、効率バリバリの茅原をちょっと皮肉ったつもりだったのだが、あろうことか、茅原はそれを素直に肯定した。


「この、人生という名のゲームを楽しみたいなら、目的ははっきりさせておいた方が良い。 そして可能なら、攻略本も読んでおいた方が良い」


「こ、攻略本……ですか? 人生の!? そんなのあるんですか!?」


「もちろんあるとも。 大学受験における参考書がそうであるように、先人たちが残したハウツー本は、探せばいくらでもある。 もちろん有料でね」


「は、はぁ……」


 人生の攻略本、というのはもちろん何かの比喩なのだろうが、橋口にはピンと来なかった。


「人生を順風満帆に楽しむには、そういう最小限の投資は必要なのさ。 無駄な苦労など、しないに越したことはない」


 橋口は、もはや茅原と会話する気は失せていた。

 会話は、同じような体験を互いに語り合うもの。

 茅原と橋口は、互いの体験と考え方が隔絶し過ぎていて、まともな話にならない、と感じ始めていたから。


「人生がゲームだって言うなら、主任の目的は何ですか? 何をしたらクリアになるんですか?」


 なので、半分投げやりに茅原にそう問いかけたのだが、


「魔王になって、この世界を征服することかな」


 白衣の男は、即答してきた。


「主任……まじめに答えて下さいよ」

「真面目に答えてるよ、僕は」

「もう良いですよ、冗談は。 仕事に戻りましょう」

「そうだね……。 橋口君、どうだい『薔薇戦争』の状態は。 君が担当している、エリアN41の村は、どうなってる?」


 二人は、雑談を止め、しばしパソコンへと向かった。


「んー、主任の言うとおりになってます。 プレイヤーの間で、格差が結構生まれてますね。 勝ってるプレイヤーと負けてるプレイヤーの間とで、持ってる資金量に、差が開き始めてます。 それも、圧倒的に」

「まぁ、そうだろうね。 ところで、その村での、勝ち組プレイヤーは、どんな奴なんだい?」


「えっと……」


 橋口は、データ解析用UI「アマテラス」の画面を見ながら回答する。


「戦争に参加しているメンツでは、『エルキッド』が、ぶっちぎりのトップですね。 ……面白いですね、戦闘には殆ど参加してないのに、トップって」

「ふーん……?」


 その報告を聞くと、茅原は立ち上がり、橋口の画面を覗き込む。


「本当だね。 こいつは要注意の相手だな」

「どうも、交渉や売買で、資産を増やしてるみたいです」

「……だね。 でも、戦闘に参加しないんじゃ、なかなかPKも難しいな」

「この、2位以下は簡単そうなんですけどね」


 橋口は、総資産額上位のリストを順々にクリックしていく。


「2位が、『ゼファー』。 こいつは分かりやすいですよ、バリバリのPKプレイヤーです」

「ほう」

「そして、おお~きく差を付けて、3位がゼファーの仲間の『フィールドマウス』ですけど、ま、ここらへんからはそんな差がなくなってきて、ダンゴ状態ですね」

「なるほどな、じゃあこの2強が、他の連中の資産を搾取している構図になる訳だな」

「ですね。 ただ、『エルキッド』は緩やかに資産を増やしているのに対して、『ゼファー』の伸び率は異様ですね。 ……これを見て下さい」


 別モニターでは、「ゼファー」と「フィールドマウス」が、それぞれ黄薔薇軍と紅薔薇軍を率いて激突しているのが見えた。


「上手いもんだな。 なるべく皆で殺し合いしてくれるように、PK数が攻撃力を補正するようにしたのに、それを逆手に取って、自分たちだけで稼いでる」

「こいつら頭良いですね。 プレイングを見る限り、ウォリック伯のターゲッティングの方法も、どうやら把握しているみたいですよ。 これは、僕らの意図が完璧に看破されてますね」

「本当だね……小賢しいね、こいつら」


 茅原はそう感慨深く呟くと、「橋口君、じゃあ、ここらへんで、皆殺しイベントを投下してみるかい?」と言い放った。


「ええっ!? 皆殺しイベントって、マジでやるんですか!?」

「もちろんだよ。 だって、より沢山の死亡者を出して、課金額を失ってもらうのが、僕らの勝利条件だからね。 こういう富の偏りは、経済活性化のためには、あまり好ましい状態じゃない」


 経済活性化……って何のこと? と橋口が思う前に、茅原は言葉を続けた。


「だから、税金って訳じゃないけど、不利な一般プレイヤーにもチャンスを上げようと思うんだ。 それによって、庶民の方々にも、もっと課金をしてもらわないといけないからね」

「わ、分かりました」

「上手くバレないようにやってくれよ」

「はい、じゃあ、行きます……。 このアイコンですよね、『ボス手動操作モード』」

「そうだよ」


 橋口がアイコンをタップすると、別ウインドウでログがさーっと流れる。 そして「order received」の文字が出ると、橋口はパソコンに、USBコントローラーを接続し、テスト入力画面で、コントローラーからの信号が届いているのを確かめた。


「気が引けるなぁ……」

「橋口君、そんな事を気にするな。人生にアクシデントはつきものだよ」

「わ、分かりました」


 橋口が、ウォリック伯を手動で操ろうとしたその時、開発室のドアが大きく開け放たれた。


「た、大変です、茅原主任! 警察から、お電話が!」


 血相を変え、息も絶え絶えに飛び込んできたのは、三谷だった。


「何ですか!? 一体どうしたというのです!?」

「しゅ、主任の妹さんが……! 妹さんが、暴漢に襲われて、意識不明の重体だと……!」


「……何だとッ!?」


 茅原は、一瞬の間を置いて、絶叫した。


「琴莉が!? 一体それはどういう事なんだッ!! もっと詳しく説明しろッ、三谷ィィィイッ!!」


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