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(83)唸れ! 怒りのオッサン姫

DATE : H27.2.9

TIME : 18:17

STID : 00941724、00392345、00190029、00160104


 俺たちは、あまりに物を考えなさすぎていた。

 薔薇戦争だから、今回も前回と同じ展開になるだろうと……。


 だけど、店長たちは考えていた。

 薔薇戦争のルール変更に伴う、あらゆる展開を。

 そして選んだ戦法は、全軍への個別登録。

 

「もしかして……僕らのことなんて、眼中にないってことか?」

「バカな……」


 そう言いたかった。

 だがやはり、ムラサメの言うとおりにしか考えられなかった。

 つまり、俺たちなんて、いつでも殺せる、と……。


 事実、紅薔薇軍の先頭をフォーカスすれば、バイトの際に幾度も聞いたことがある声質の……でも聞いたことはない内容の声が轟く。


「死ねっ、クソガキどもぉ! このフィールドマウス様に逆らおうなんて、ナメるにもほどがあるんだよ! 10年修行して出直してこい、この青二才がッ!」


 フィールドマウスこと野口さんは、喜々として……。


「ああああっ!」

「何で!? 何でこんな減るの!?」

「こいつ……。 このフィールドマウスって奴、クラスが『紅薔薇姫』だ! だからだよ!」


 白組のプレイヤーを、紙屑を踏みつぶすように、なぶり殺しにしていた。

 フィールドマウスのアイコンは、深紅の薔薇。

 前回、ティアリのウインドウで見たものと同じ。

 間違いなく、フィールドマウスが「紅薔薇姫」だ。


「オッサンなのに『姫』かよ! 絵面最悪だな!」

「だよねぇ~!」


 エナリスとリントがそんな身も蓋もない感想を述べるが、俺はそんな言葉に相槌を打つでもなく、ただある種の焦燥感に駆られていた。


「(そうか……しまった……!!)」


 今回は「バード・イン・ザ・ケージ」のクラススキルがない。

 「姫」も王室という籠を飛び出し、自由に動けるようになったって事だ。

 だが、だとすると、俺には白薔薇姫がどこに居るのか分からない。

 つまり、有利な位置で迎撃する意味は皆無。地形アドバンテージの選択なんて無意味だった、って事か。


「(……くそ!)」


 クラススキルがない。

 たったそれだけの事が、こんなに戦略に大きく影響するなんて。


「つまり……陣取りゲームが、今回は鬼ごっこに変化したというワケだね」


 ムラサメも、俺と同じ結論に達したらしい。

 実に言いえて妙の表現だった。


「しかし、全部の軍に登録するのはどういう意味があるんだ……?」


 俺はそう疑問を口にしたのだが、


「その理由は簡単だよ、レオ! あいつら……! くそっ、そういう理由か!」

「ああ、そういう事ですか!?」

「マズいですよぉ、僕らもPKしましょうよぉ!」


 答えの途中で急に異様な雰囲気になった。


「……!? 何だよ、どういうことだ、ムラサメ!?」

「マジでヤバい。 パラメータの補正率がハンパない」

「? どういう事だ?」

「殺せば殺すほど、奴らのパラメータが上昇してるんですよぉ!」

「何!?」


 相手をPKすればするほど、パラメータがアップ……!?

 確かに、クラス選択の際「PK数に攻撃力補正が連動する」とかなんとか、そんな表示があったような気はするが……。

 あれは、最初のクラス選択だけの話じゃなかったのか?


「レオ……マズい。 フィールドマウスの補正パラメータが、もう6000を突破した……」


 ムラサメが、そう重く呟く。

 6000がどうした、と思ったのだが、ムラサメの基礎攻撃力は1000、クラス「パラディン」の補正率は+1750。

 スキル「エクスキューショナー」で攻撃力が3.5倍となっても、6200辺りでダメージを与えることが出来なくなる事に気がついた。


「行きましょうよ、ムラサメくん! 連中、きっとPKで稼ぎながら、パラメータもアップさせてるんですよ!」

「レオ、行こう、今すぐ!!」


 ムラサメのその言葉には、ただならぬ切迫感があった。


 理由は分かる。

 このままボケッとしていたら、取り残される。

 スキル「エクスキューショナー」を生かすなら、今しかないのだ。


 だけど……!!


「ゴグアアァァァアアーーッ!」


 ゼファーとフィールドマウスの存在に加え、あの巨人騎士……確か、ウォリック伯とか言ってたような。


「うわあああっ!」

「ぎゃああぁぁっ!」


 当のNPCは、見た目どおりの圧倒的な攻撃力を発揮し、白薔薇軍の残党を蹂躙していた。


 あの嵐のど真ん中に、突っ込んで行くのか!?

 全く何も決めてない、無策の状態で、行くのか!?


「レオ、決めろ! どうするんだ!? 今決めろ、お前が!!」

「ま、待ってくれ……!」


 俺は必死に考えをまとめようとしたが、


”お前がバカだからだ”


”考えて、考えて、最後まであがき抜け”


”お前は今、最悪の選択肢を選ぼうとしている”


 脳裏に浮かんだのは、昨日、龍真に言われたことばかりだった。


 どうすれば良い?

 戦うのと様子を見るの、どっちが正解なんだ。

 いや、そもそも、様子を見たところで、別に選べる選択肢なんて、あるのか?


「あのですよぉ、ムラサメくん、僕らもPKして稼げばどうですかぁ……? 基礎力が上がれば、『エクスキューショナー』はまだ通じますよぉ……?」

「リント、それは無理だ。 レオはそういう事を酷く嫌うんだよ、今回は諦めろ」

「えぇ~」


 くっ……。

 そうだ。

 その通りだ。

 それに、ここで様子を見たところで、急に都合の良い打開策が見つかるのか……?


「レオ! おい、決めろ、早く!」

「ま、待ってくれ」

「早くして下さいよぉ、レオさん」

「だ、だから待ってくれって!」


 皆はせかすけど、俺はこれがラストチャンスなんだ。

 もし万一失敗したら、俺の人生は……。


「む、ムラサメくん、見てください、あれ!」

「どうした、エナリス!?」


 だが、俺がそんな愚にも付かない逡巡をしている間に、状況は激変した。


「グルオオオオオゥゥウツツッ!」


 白薔薇軍を全滅させた紅薔薇軍と黄薔薇軍が、今度は同士討ちを始めたのだ。

 そして巨人騎士ウォリックは、今度は紅薔薇軍に突っ込んでいく。


「おい、フィールドマウス、お前何やってんだよ! 姫のくせに先頭切って突っ込んでいくなって!」

「そうだよ! お前が負けたら、俺たちの課金分が無駄になるじゃねーか! 前に出るなよ、おいっ!」


 ……いや、同士討ちじゃない。

 紅薔薇姫であるフィールドマウスは、黄薔薇軍に無謀な特攻を仕掛けることで、彼を守るために付いてこざるを得ない紅薔薇軍を、ゼファーとウォリック伯爵に討たせていたのだ。


「うおわあああっっ!」

「何だよもうこれ! 戦略も何もムチャクチャじゃねぇかっ!」


 そしてフィールドマウスも、チームプレイなど全く放棄して、過剰なパラメータ補正を頼りに、ゼファーの後ろに居る黄薔薇軍の雑兵をなぎ倒しまくっていた。


 その光景を見て、俺は今更ながらに、連中の真の目的を理解した。


「そうか……こいつら、最初からPK目的で、チームを分散して登録してたのか」

「今頃気づいたのかい? でも、こいつらやっぱり、金目当てだったんだね。 もしもその身に危険が迫れば、ゼファーがフィールドマウスを倒してイベント終了。 報奨金は身内だけで移動するから、それほど痛まない」

「こいつらぁ……!!」


 大軍を目にしている時は「勝てるのか……!?」と思っていたが、その数は見る間に減っていき、紅薔薇・黄薔薇軍共に、ほんの何人かまでプレイヤーは減った。


 皆は……きっと、ゲームを楽しもうとか、ちょっとお金を稼ごうとか、そんな気持ちで参加してたはずなのに。

 圧倒的な資金力を持つ店長たちの前に全員がPKされ、養分になってしまったのだ。


 それを見て、唐突に怒りが湧いた。

 皆が参加し、そして恩恵を預かるべきゲームのイベントを、自分たちの稼ぎのためだけに利用した、という光景が許せなかった。


「……行こう、ムラサメ! 確かに、今しかない! 悪い、俺につきあってくれ!」


 一抹の不安はある。

 ゲームのイベントを自分の思い通りに動かそうとして、それが現実に上手くいってしまった……。

 連中の計画性と、状況の把握能力は尋常じゃない。


 だけど、もう行くしかない。

 ゲームを否定されるということは、俺を否定されるという事と同義語だから。


「レオ、できればもっと早く決断してくれよ……と言いたいけど、行こう! 行くぞ! リント、エナリス!」

「僕らは防御に徹すれば良いんですよね!?」

「ああ、それで良いよ」

「でも、あの3体を同時に相手は難しいですよぉ!」

「ゴチャゴチャ言うなよ、いざとなれば撤退すれば良いからさ。 例のスクロールはまだあっただろ?」

「あ、ありますぅ。 『パーミットトランスファー』ですよねぇ……?」

「ならいいよ、行くぞ!」


 俺たちは、ゼファーとフィールドマウス、そしてウォリック伯を倒すため、紅薔薇軍と黄薔薇軍のただ中に飛び込んだ。


「待て、ゼファー! フィールドマウスッ!」


 俺がそう叫ぶと、


「……何だ、お前か、キリシマ」

「レオくん、今さら出てきても遅いですよ。 既に、大勢は決してしまいましたよ」


 紅薔薇軍と黄薔薇軍が、ピタリと抗争を止める。


「あいつが……レオか?」

「あの時、女と一緒に居た奴な」


 そして、生き残った連中の中から、そんな声が聞こえた。

 もしかして……こいつら、琴莉さんを襲った連中か!?


「俺と戦え! デュエルで決着を付けようぜ! あれだけデカい口叩いておいて、よもや怖いとは言わねぇだろうな、店長!」


「テメェみたいなカスが怖いもんかよ」


 店長は、サラッとそう言った。


「だがな、お前とは戦ってやる。 まずはこいつとだ、キリシマ!」


 そう叫ぶと、ゼファーとフィールドマウスの周囲に居た連中が、まるで嵐を避けるかのように、巨人騎士から逃げ出した。


 と同時に、


「グルォォオオオッッッ!」


 巨人騎士がこちらを向き、眼光を赤く輝かせ、口から焼け付くような白煙を吐いた。

 そして、ブレストプレート(胸鎧)の中央に描画されたエンブレムが、紅薔薇から白薔薇へと変化した。



「……マズい、避けろ、リント、エナリス!」

「ヤバい、アレは俺たちをタゲったぞ!」


 ムラサメと俺がそう叫ぶと、敵の巨人騎士……ウォリック伯爵は、「グガァァアアァァァッ!!」と、狂戦士さながらに、双手の大片手斧を俺たちの居た場所に突っ込ませた。


 もちろん、敵が予備動作プレモーションを起こした時には俺たちはもう避けていたが、カスッただけで即死級の攻撃だろうな、という予感はした。


「ど、どういう事なんですかぁ!? 黄薔薇は、この敵を操れるんですかぁ?」


 リントの言うことは最もだった。

 最初、NPCであるウォリック伯は白薔薇軍を倒し、その後に紅薔薇軍にターゲットを移した。

 そして、今また再び、俺たち白薔薇軍に狙いを定めた。

 この都合の良いターゲッティングは何なんだ!?


「わからないよ! だけど、奴が僕らをターゲットしてるのは間違いない! 行くよ、レオ!」

「……戦うのか、コイツと!? ムラサメ!」

「そうだよ、あの蜘蛛と同じさ! 僕とお前なら、倒せるはずだよ!」


 それは、俺とムラサメとで、NPC「フローズン・タランテラ」と戦った時の事を言っているのだろう。

 だけど、俺にはそんな勝利のイメージは全く湧かなかった。

 何故ならあの時は、しばらく敵の動きを観察していたし、龍真が「倒せるボスだ」と判断したからこそイケると思ったのだ。


「何やってるんだよ、レオ! 早く来いよ、戦え!」

「あ、ああ、分かった!」


 不安材料が多すぎる。

 そもそも、このウォリック伯は、本当に倒せる敵なのか。

 こいつが「倒せないNPCピースキーパー」だったなら、俺たちはこの時点で詰んでるんだぞ。

 だったら、こいつを無視して、ゼファーを倒した方が良いんじゃないのか。



 ……ムラサメ、この選択肢は本当に正解なのか?



 俺はそんな疑心暗鬼に囚われつつも、ウォリック伯と剣を交える事にした。

 だから、システムアイコンに浮いた、一通のメールに気づいたのは、ウォリック伯との戦闘が終わって……。



 俺一人、になってからだった。


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