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(82)第二次薔薇戦争、開戦 ~聖戦士の葛藤~

DATE : H27.2.9

TIME : 18:02

STID : 00941724、00392345、00190029、00160104


「それで、どうするんだい? 『クラス』選択」

「……『パラディン』で行く。 負けたら終わりだし、負けるつもりもない。 だからここは限界一杯まで行く」


 ムラサメから問われ、俺がそう返すと、


「さっすがぁ。 ブルジョワは違うぜ」

「いよっ、聖騎士! 言うことがいちいちカッコいいね!」


そんな無粋なツッコミが入った。


「レオをちゃかすなよ、リント、エナリス」

「ふぇい」


 日曜日の午後6時。

 最終決戦を迎えた俺は、ムラサメと……お供のリント、エナリスと共にログインし、前回と同じ「白薔薇軍」を選択、最初のクラス選択を行っていた。


「なら、僕も『パラディン』にしよう。 あの連中も、おそらくは最大まで課金してくるだろうからね」

「……だな」


 俺たちの標的は、バイト先の店長……赤城大輔の「オリオン」、バイト仲間だった保科の「オリオン」、小野田さんの「ミルフィーユ」、野口さんの「フィールドマウス」。 この4人だ。


「ムラサメ、作戦はどうする?」

「まずは様子見、だね。 今回のイベント、黄薔薇組がどう影響するか分からないし、居場所が把握できるまで我慢しようよ」


 無難な作戦だな、と思った矢先に、


「ええ、いつもみたいにPKしないんですかぁ!?」

「ちょっとくらい狩りましょうよ、そうしないと儲けがないですよ」


 リントとエナリスが、そんな不満を漏らした。


「(こいつら……)」


 ムラサメの奴、こいつらと同行している時は、かなり積極的にPKKしてるのか……。


 「リント、エナリス。 今回の目標は、あの『ゼファー』なんだよ。 だから、無駄な戦闘は避けたいんだ」

 「ええ!? あのクッソ強い奴ですかぁ!?」

 「それは止めましょうよ! 割に合わないですよ!」

 「心配しなくて良いよ、作戦は考えてある。 とにかく、奴を探しに行こう」


 奴を探すっつったら……俺、双眼鏡持ってるし、やっぱ高い所に上るのが良いよな。

 となると、様子見をする場所は、白薔薇城の監視塔ベルクフリートがベストだろうな。

 多分、連中はこの城に向かって特攻してくるだろうから、誰が攻めてくるかを見定めて戦えば良い。

 今回は白薔薇姫を護る必要もないから、自在に遊撃ができる。


「(……待て、俺))」


 俺たちは熟慮なしに、前回選択した「白薔薇」を選んだ。

 その理由は、以前の戦闘で白薔薇城の地形を知っているからだ。

 紅薔薇と白薔薇、条件が同じなのなら、自分で優位になれる方で戦いたい。 それは自然な心理だ。


 だけど、それは「紅薔薇」も同じなんだろうか?

 連中が、必ず紅薔薇を選ぶとは限らないのに。


「(多分……大丈夫だよな。多分)」


 黄薔薇という選択肢もある。

 が、普通に考えれば、あれはとにかくバトルしたい、PKプレイヤー向けユニットだ。

 俺を殺そうとしている店長は、おそらく資材や体力の温存を優先するはず。

 なら、俺たちと同じ理由で、地形アドバンテージを取得するだろう。

 

 そう、多分、保科たちは紅薔薇組のはずだ。


「じゃあ行くよ、レオ! リント、エナリス! 目標は『ゼファー』、『オリオン』、『ミルフィーユ』、『フィールドマウス』! 他の連中には目をくれないように!」

「わっかりましたぁ!」

「了解!」

「……」


「行くよ、レオ!」

「あ、ああ!」


 そうして、俺たちはデスバトルイベント「第2次薔薇戦争~ウォリック伯の反旗~」に参加した。


「おおおっ!?」


 しかし途端に、画面一杯に俯瞰のマップが表示されたかと思うと、スカイダイビングのような勢いで、一気に地上に落下していく。

 マップがぐんぐん拡大し、雲オブジェクトが一気に画面の脇を突っ切っていった。

 そして、目の前にもの凄い勢いで迫るのは、白薔薇城の尖塔。


「お、おい、これ落下ダメージないよな!?」

「な、ないと思う、多分!」

「『れ、レビテーション』持ってない!? エナリス!?」

「持ってない! 『パイアギル』ならあるけどぉ!」


「「「おおおおおっ!?」」」


 ……そうして、俺たちは悲鳴混じりの自由落下の直後、無事、白薔薇城内に着地した。


「なんだよ、紛らわしい演出だなぁ!」

「一瞬死ぬかと思って、ドキッとしただろおぉ、もうぉ!」


 うん、俺もそう思った。

 だけど、ここは……。


「ここはどこだ、一体?」

「多分、白薔薇城の水道橋だよ、レオ」


 山城は、井戸から汲んだ水を、水路を使って配送する。

 このゲームの水道橋は、城門と水路が一体になったものだ。


「水道橋? また妙なところに出たな……。 位置も高さも微妙だし、城の正門からもかなり離れてる。 ムラサメ、監視塔に移動しないか?」

「そうだね、そうしよう」


 俺たちは、まずは様子見を決め込むために、監視塔へ移動した。

 だが、そこで……予期せぬ人物に出会った。


「やぁ、レオくん。 店長から話は聞いてたんですが、本当に復活してたんですね」

「奇遇だね、レオっち。 で、あんた達も監視?」


「お前等……!? 何故ここに!?」


 俺は、目を疑った。

 白薔薇城の監視塔に、他のプレイヤーに混じって、オリオンとミルフィーユも居たからだ。

 開始早々、紅薔薇軍にもう本丸まで攻め込まれたのかと思ったが、会話ウインドウに浮いたそのマークは、「白薔薇」だった。クラスは……「ゴースト」。

 つまり、無課金での参加……!?


「君らが白組……僕らの味方だと!?」


 俺と同じく、ステータスを確認していたであろうムラサメが、そんな事を小さく叫ぶ。


「おい、じゃあ、あの『ゼファー』と『フィールドマウス』も白組なのか、オリオン!?」


 俺はそう気色ばんで問うたが、


「お前に教える義理はないよ……と言いたいところですけど、教えてあげますよ、レオくん。 別の色です。 城下に出て他の軍と戦えば、多分先頭の部隊に居るんじゃないスかね」

「じゃあ、何でお前等はここに居る!?」

「さっき言ったじゃないですか、監視です。 僕ら、誰かさんのせいで戦力外通告されたんで、白組のスパイしてるんです」


 スパイ、だと……!?


「あー、もう、うっとうしいなそこのサムライくん。 同じ白組なのに、何回もデュエル申し込まないでよ」

「くそっ! まさか……!」


 俺がお喋りしている間、ムラサメはミルフィーユにデュエルの申請をしていたのか。

 だが、拒否された。

 そして、意外なことを言い出した。


「すまんレオ、もう連中とはデュエルできない。 ハラスメントプレイヤーの警告が出た……」


 えっ!? ……味方を攻撃しようとしたからか?


「だと思う。 もう一度申請したら、ネームカラーが白じゃなくなるから、スキル『エクスキューショナー』を失う。 すまない」


「まぁ、そう興奮しないで下さいよ。 僕らは今回、君らとバトルする気はないんで」

「そうだよ、さっさと外に行ってきなよ」

「くっ……」


 こいつらを排除しておかないと、白薔薇城はあっさり陥落、という可能性は少しある。

 しかし、今回は白薔薇城が陥落しても、俺にダメージはない。

 だから、こいつらを無理に排除しようとすることにメリットはない。 それは分かる。


 だけど、こいつらをここに残していっていいものか……?

 俺がそう逡巡してそこに佇んでいると、


「……了解です、店長」


 オリオン……保科が小さくそんな事を呟いた。


 ……?

 なんだ?

 了解?

 何を喋ってる?


「それとも何ですか? レオくん、あのティアリの事でも問いただしたいんですかね?」


 唐突に、ティアリの事を口に出され、俺の心には怒りの炎が唐突に燃え上がった。


「そう! そうだ、お前等、あんな事しやがって! お前等には、人としての心ってもんがねぇのかよ!」

「100万円を奪った強盗犯に言われたくないけどね、レオっち」


……それ、俺のことかよ!?


「あれは、ちゃんとしたデュエルの結果だろうが! ズルなんてしてねぇのに、俺こそ、てめぇらに強盗犯とか言われたくねぇよ! 彼女は……お前等に襲われたせいで、今も入院してるんだぞ、オリオン!」


「レオくん、あれは大変不幸な事故でしたね」


だが、そう切り替えされて、俺はリアルに「は?」と返してしまった。


……事故、だと?


「正直ね、僕らは君らを脅すだけで良かったんです。 誰も好き好んで警察沙汰にしようとしやしませんよ。 すっごいリスキー過ぎると思いませんか?」


「だけど、実際はあんな悲惨なことになっただろうが!」


「そうですね、それは誤算でした。 レオくんのアイデアを聞いて、レオくんたちに装備を奪われた人たちを募集したのは良かったんですが、ネットでもあんなに嫌われてたなんて……。 ま、リアルでも嫌われてますけどね!」


「レオ……」


 ムラサメが不安そうに、俺を呼ぶ。


「つまり、レオくんたちがもっとまともなプレイをしてれば、こんな事にならなかったんですよ。 そもそも、僕やミルフィーユに装備を返してくれれば、僕らだって復讐とか思いつかなかった。 つまり、全部、レオくんの責任です。 その、ティアリって彼女が入院したのもね」


「そんな、バカな!!」


 俺は思わずそう叫んだ。


 なんだって? 全部俺のせい? そんなバカな!!


「全部俺のせいっていうか、全ての原因が君です、レオくん」

「そうそう。 今までの自分の人生振り返ってみなよ。 君が周囲を幸せにしたことなんて、あった? 大体、周りの人間から、怒られ、ウザがられ、嫌われてた毎日だったでしょ?」


「……!!」


「それと一緒っスよ、レオくん。 君は存在するだけで、周りを不幸にする害虫です。 お願いですから……早く、消えてくれませんかね? この世界から」



「……オリオンッッ!! ミルフィーユ!!」


 俺は怒りのあまり、思わずデュエルウインドウを開けようとしたが、


「やめろ、レオ! 撤退しよう! エナリス、『パイアギル』を!」

「ええっ!? れ、レアなのに!」

「急げ! 早く!」

「は、はぁい……」


 俺はオリオンとミルフィーユに突撃しようとしたが、突如、光の玉に包まれ、白薔薇城から離れた山岳地帯に降り立った。


「ムラサメ、何で邪魔した! 俺ならあいつらを倒せるのに!」

「冷静になれよ、レオ! あいつら、自分で戦力外とか言っておきながら、そこそこ良い装備を身につけてたんだぞ!」

「……え?」

「僕がデュエルに参加できないのを聞いて、唐突に思いついたのかもしれないけど……下手すりゃ、2対1をOKして、逆にボコられる勢いだったぞ」


 だから、無理矢理に移動したのか……?


「そうだよ。 『パイアギル』、脱出不可能イベントからも脱出できる、超レアスクロールだったのに、もう奥の手は使えない」

「ま、マジか……すまなかった」

「しかもこんな、くだらない理由でね」

「だ、だから、悪かったって!」

「とにかく、ゼファーとフィールドマウスを探そう。 奴らの言ってる事が本当なら、派手にドンパチやらかしてる連中を探せばいいからな」


 そして、俺たちは再び移動を開始したが、その最中に、ムラサメがシングルチャットを叩いてきた。


「……さっき、連中から言われたこと、気にするなよ、レオ。 僕だって、周りの人間からは疎ましがられてたんだ。 お前と一緒さ」

「ムラサメ……」


 きっと慰めてくれてるんだろうけど、救いのない慰めだなぁ……。



DATE : H27.2.9

TIME : 18:17

STID : 00941724、00392345、00190029、00160104


 俺たち4人は「ゼファー」と「フィールドマウス」を探すべく、マップを疾走していたが、その二人は……比較的あっさり見つかった。

 しかし、これは……。


「……どういう事だよ」

「どういう事だって、一人で納得するなよ。 説明しろ、レオ」

「双眼鏡くらい買っとけよ、ムラサメ」


 まず、紅薔薇、黄薔薇、白薔薇軍は、城下町の平原で、三つ巴の混戦を繰り広げていた。

 だが、より厳密に言うと、紅組と黄組が白組を挟撃し、一方的に殲滅せんめつしていたのだ。

 そして、紅組の先頭に居たのが「フィールドマウス」、黄組の先頭に居たのが、NPCの巨人騎士「ウォリック伯」と「ゼファー」。


 この圧倒的過ぎる暴力の嵐の前に、対抗できる白薔薇の勇者が居るはずもなく、白組は見る間にその数を減らしていった。


「おい、レオ、それって……」


 ムラサメの言いたいことは分かった。


 俺たちは、あまりに物を考えなさすぎていた。

 薔薇戦争の続編だから、今回も前回と同じ展開になるだろうと。


 だけど、店長たちは考えていた。

 薔薇戦争のルール変更に伴う、あらゆる展開と対策を。


 そして選んだ戦法は、全薔薇軍への個別登録だった。

 

「もしかして……僕らのことなんて、眼中にないってことかい?」

「そんな、バカな……」


 そう言いたかった。

 だがやはり、ムラサメの言うとおりにしか考えられなかった。

 つまり、俺たちなんていつでも殺せる、今回は放置、だと……。


 事実、紅薔薇軍の先頭をフォーカスすれば、バイトの際に幾度も聞いたことがある声質の……でも聞いたことはない内容の声が轟く。


「死ねっ、クソガキどもぉ! このフィールドマウス様に逆らおうなんて、ナメるにもほどがあるんだよ! 10年修行して出直してこい、この青二才がッ!」


 フィールドマウス……こと、野口さんは、喜々として……。


「ああああっ!」

「何で!? 何でこんな減るの!?」

「こいつ……。 このフィールドマウスって奴、クラスが『紅薔薇姫』だ! だからだよ!」

「パラメータ補正…。 ご、5000!? ウソだろ!?」


 白組のプレイヤーを、紙屑を踏みつぶすように、なぶり殺しにしていた。

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