(80)定例イベント「第二次薔薇戦争 ~ウォリック伯の反旗~」
DATE : H27.2.8
TIME : 20:11
STID : 00941724
土曜の夜8時、俺は定例イベントの確認をすべく、「リヴァイアサン」にログインした。
ただ、イベントの発表は6時。
プレイヤーの集まるピークから2時間が経過していたこともあり、掲示板の前は閑散としていた。
「(でも、あまり意味なかったな……)」
プレイヤーが集まるピーク時を避けたのは、保科たちに復活されたのを知られたくないとの、意図的なものだった。
だが、イベントの内容……特に他プレイヤーのリアクションとか、アイテム先行販売で遅れを取ったとか、逆にデメリットばかりが多かったようにも思う。
でも、そんな出遅れを嘆いていても仕方ない。
俺は意を決して、村の掲示板をタップし、定例イベントのインフォメーションウインドウを表示させる。
「薔薇よ! 気高く咲く薔薇よ! 血より濃いその赤は、何を意味する!?」
「薔薇よ! 麗しく咲く薔薇よ! 汚れ無きその純白は、何を意味する!?」
ポップロイド「響希カノン」「漣波ルカ」「貴候司クォン」が、例のフランス騎士の格好で、3人揃って細剣を掲げて合唱する。
「国内500万ダウンロード記念! 大規模定例イベント『第二次薔薇戦争~ウォリック伯の反旗~』を開催いたしまぁーす!」
……噂どおり、今回も薔薇戦争か。
公式PKイベント、間違いなく保科たちは出てくるな。
「戦いは終わっていなかった! 生き残った紅薔薇姫と、白薔薇姫! 彼女らの血で血を洗う戦いは、この大地に戦いの因果を蒔いていく!」
「最後に咲くのはどちらの花か!? 相手を破滅させるまで続く、決死のデスバトル第二弾! ここに開幕!」
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『第二次薔薇戦争 ~ウォリック伯の反旗~』
日 時:平成27年2月9日(日) 18:00~20:00
場 所:インスタンスマップ「紅薔薇城&白薔薇城」
内 容:紅薔薇軍の場合:「白薔薇姫の首」の奪取
白薔薇軍の場合:「紅薔薇姫の首」の奪取
報奨金:敵軍のクラスに応じた額になります
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「……?」
敵軍のクラスに応じた額?
何か、前回と書き方が違うような……。
何々……何だって?
"今回のイベントでは、敵を倒した数とクラスの補正パラメータ、そして報奨金の額が連動しています。"
"敵を5人倒したプレイヤー:「ナイト」、各パラメータ補正+250、報奨金額:25,000Cen"
"敵を10人倒したプレイヤー:「ビショップ」、各パラメータ補正+500、報奨金額:50,000Cen"……?
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「レオ」さんの推奨課金額
前回の打倒人数:35名
オススメクラス:『パラディン』
(パラメータ補正:+1750)
クラス必要額 :1,750,000Cen
報償金:1,575,000Cen
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「ふざけんな」と、俺は思わずツッコんでしまった。
175万Cenとか、なんだこのべらぼうな金額。
しかも、補正パラメータ+1750とか、どんだけインフレしてるんだよ!
前は通常ユニットの上限は+500だったろ!
これじゃ、金さえ積めば勝てちまうじゃねーか!
……でも。
だからこそ、逆に美味しいのかもしれない。
俺の持つ「ブラックマンバ・ブレイド」だったら、もしも麻痺と毒が効けば、相手の防御力は関係なしに倒せる。
そして、俺と同じレベルの敵を相手にすれば、この報奨金、1,575,000Cen……15万円か。
ポイント換算で、15万円がゲットできる……!
「15万……?」
それを口にした時、俺は我に返った。
……何を考えてたんだ、俺は。
金を稼ぐのが、このバトルの参加目的じゃないだろ。
保科と店長を倒すのが、本当の目的だろうが……!!
脳内に湧いた強烈な欲望を、首を振って払いのけると、俺は再びイベントの内容を読み進める。
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備 考
・イベントからは脱出できません
(※アイテム、魔法ともに無効化されます)
・参加時に「クラス」を選択します
(※クラスによっては、課金が必要なものもあります)
・倒した相手のクラスと数に応じて、報償金額が変わります
・イベント終了後、生存プレイヤーの課金額は、全額返金されます
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……これは前回と同じだ、多分。
逃げられないデスバトルルール。
通常戦闘では相手の装備を奪えないが、デュエルでなら奪える仕様も変わらず、だろう。
だが、その最後の記載に、俺は大きな違和感を抱いた。
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・「クラススキル」は、今回は存在しません。
・今回のイベントでは、イベント開始時に「紅薔薇」「白薔薇」「黄薔薇」のいずれかを選択しますが、「黄薔薇」軍はNPCユニット「ウォリック伯」と共に戦う事になります。
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黄薔薇軍……?
ウォリック伯……?
俺はいぶかしく思いながら、リンク先が設定されたその文字列をクリックすると、ウォリック伯のインフォメーションウインドウが別窓で開いた。
「何だこれ」
そこに居たのは、血塗れの戦斧を両手に掲げた、凶相の巨人騎士だった。
見た目はメチャクチャ怖い。
多分、ステータスが万単位に設定されてる、「こりゃ絶対に叶わない系のNPC」という雰囲気だった。
じゃあ何だ、今回は三つどもえの戦いなのか……?
黄薔薇軍の勝利条件がないけど、これはどうなるんだ……?
しかし、簡単に結論は出てこない。
……前回のイベントでは、チームを組んだ連中が圧倒的に有利だった。
ムラサメはもちろん、できれば南原先輩たちにも仲間になってもらいたい。
「ムラサメ、か」
だけど、こういう時こそ、龍真に頼むべきじゃないのか……?
確かにムラサメは直接戦闘では圧倒的な強さを発揮するが、戦略となるとちょっとどうか、という気がする。
フローズン・タランテラの正体を看破したり、南原先輩を信じるな、というメールを出したのは龍真だった。
あの戦局を見極める力があれば、さらに混乱しそうな今回のイベントでも、正解を導いてくれる気がする。
「でもなぁ……。 龍真とムラサメじゃなぁ……」
この二人を同時にパーティに入れることはできない。
どちらかを選ばなくては。
「……どっちを選べば良いんだよ」
混乱する戦局で優位に立ちたいのなら、龍真だ。
でも、窮地に陥った時に助かるのは、ムラサメ。
「……シール買いに行こう」
俺は結論を保留することにした。
それよりも、シール。
前回のバトルでも、スクロールでの攻撃魔法が大量に使用されていた。
それが、あのリヴァイアサンのウェハースチョコによるものだというのは明白だ。
俺は、自分の新しいスマートタブレットを見る。
脳裏に、エルキッドの声が響いてくる気がした。
「買い占め……か」
金はある。
今は戦いのために投資しよう。
龍真とムラサメ、どちらを選ぶかは、買い物しながら決めよう。
俺は外に出ると、チャリで近くのコンビニへと出かけた。
……そこに、あいつが居るとは思ってもおらずに。
DATE : H27.2.8
TIME : 21:11
STID : 00941724、01001249
「奇遇だな。 まさか、こんな所で逢うとは思わなかったぞ、桐嶋」
「店長……!?」
俺は、リヴァイアサンのチョコを買い占めるため……いや、チョコに封入されてる、アイテムシールをゲットするために、下宿近くのコンビニに寄った。
だが、そこに……しかも、菓子棚に居たのは、俺のバイト先のコンビニの店長だったのだ。
あの世界で、資金力にものをいわせて闊歩する、最強最悪のアバター「ゼファー」の本体。
何で……他店のコンビニに!?
「お前、復活したんだな」
「……!」
「それで、チョコのシールを集めに来た。 図星だろ」
「く……!」
「だが諦めろ。 もう在庫はどこの店にもないぞ。 保科たちにも手分けして買い占めさせているからな」
「店長……!!」
だが、俺がそう言うと、店長は目を細め「ちょっと来い」と、俺の手を引いて、店を出ようとする。
「何すんだよ!」
「話がある。 いいから来い」
そして、俺が連れていかれたのは、人気のない路地裏だった。
「一体、何……!」
だが、その言葉を言い終わるよりも先に、俺の腹に店長の蹴りがめり込み、俺はヒキガエルみたいな声を上げながら地面にうずくまった。
「……れ……れん……ひょ……」
声が出ねぇ……。
「桐嶋、お前いつになったらよ、店を辞めるんだよ」
……?
「お前はもう店を辞めたつもりかもだがな、面倒なんだよ」
「意思表示もせずに途中でいなくなるのは。 事務処理がな」
そう言って、店長は俺を引き起こすと、手のひらで俺の顎を打った。
脳が揺さぶられ、風景がぐらつく。
俺はまたも、地面に這いつくばった。
目の前に見えたのは、店長の革靴だった。
「ムカつくんだよ。 お前みたいに、社会の常識を知らねぇ奴は」
「それに、ゲームの中での悪態、なんだありゃ? ゲームの中だからって、何をしても良い訳じゃねぇんだぞ」
……はぁ? どの口で言ってんだ、お前が。
「何だその目は! お前、保科の家の事知ってるんだろうが! 俺は奴のために金を稼いでやってるんだぞ!」
次々に襲いくる店長の平手。
ズシッ、ズシッと染み込む打撃は、スゲエ痛い。
だが、高校生の時の先輩たちのリンチと比べたら、かなり手加減をしているのも分かる。
自分が傷害罪にならないように、だ。
決して外傷だけは付けないように俺を殴っている。
「……ふざけんな」
「ああ?」
「ふざけんな、って言った。 それならお前が保科の給料をアップさせてやれよ。 個人的に金を貸してやってもいいだろ」
俺になすり付けんなよ。
「お前ッ……!!」
だが、本気になっては殴らないだろうという俺の思惑を、店長はあっさり裏切り、俺を本気でブン殴った。
昔、ふざけた野球部の連中のバットが顔に当たった時と、同じくらい……いや、それ以上の衝撃が頭を襲い、俺は地面に叩きつけられた。
「か……!!」
「殺すぞ? 本気で」
そして、俺の新しいスマートタブレットが、ポケットから転がり出た。
「……ふん、やっぱりクラウドにバックアップを取ってたのか。 お前は、やはりゲームの中で始末するしかないな」
始末、って……。
「店長……。 あんたの仲間か? 俺たちを襲った連中は……」
「そうとも。 だが、保科に言ったんだろ? 『ネットの連中に呼びかけて襲わせた』というアイデア」
……しまった!
そういや、「薔薇戦争」の前に、オリオンを呼び出した際、そんな事を言ったような……!
という事は、杵島くん事件と保科たちは、無関係だったのか……!?
「あいつらは、ゲームの中で、お前に殺された連中だ。 だから、俺も素性は知らない」
と、店長はそう嘯いた。
だがそれは、多分嘘だ。
ゲーマーにあんな暴走族まがいの格好をした奴が……いないとは限らないが、絶対に少数派だ。
「……警察に言うぞ」
「何をだ? 今殴った分をか? 傷害罪で訴える気か? でも、その程度じゃ俺は留置所には入れないな」
「お前等は、あの子も襲っただろうが……!!」
「ああ、『ティアリ』な。 だが、俺が指示した訳じゃない。 お前を襲った際に巻き添えになっただけ、だ。 悪いのはお前だ」
……それも違う。
あの時、小野田さんは、琴莉さんを見つけて「ラッキー」と言っていた。
無関係の他人なら逃がせば良いのだ。
間違いなく、こいつらは琴莉さんも標的にしていた。
「許さねぇぞ、テメェ……」
「口の聞き方に気をつけろッ、桐嶋ァ!!」
そう言って、俺はまた殴られた。
「桐嶋……明日のイベントは邪魔すんなよ。 次に邪魔すれば、容赦なく殺す」
店長は凄みを利かせ、そう言った。
だけど、人生の全てを失いかけている俺に、今更怖いものなど、なかった。
「フザけてろ。 お前らこそ、全員負かして退場させてやる。 ……課金した分、全部奪ってやる。 泣いてわめいても、絶対に許さないからな」
「桐島ァァァアァッ!!」
俺は店長に胸ぐらを掴まれ、引き起こされ、川の欄干まで連れていかれる。
欄干の3m下は川、気絶して叩きこまれれば命がないかもしれない。
「どうしたよ、店長」
「殺すぞ、本気で!」
「なら、確実に留置所行きだな。 ……いや、刑務所かな」
「俺が本気でテメェを殺せないと思ってんのか? ナメてんのか、テメェ!」
「お前はともかく、お前の奥さんと子供はどうなんだ? 殺人鬼のパパを持って幸せな家族だな」
「……ぐ!」
捨て身の人間と、守る物がある人間とでは、おのずとその強さは違う。
こっちはなりふり構ってられねーんだよ。
「心配すんなよ店長。 決着はゲームの中だけで、付けてやる。 逃げんなよ」
「ぐ……くぅっ!」
そして、俺はまたも道路に思い切り叩きつけられた。
「覚えてろ、桐嶋! 退場させられるのは、お前の方だ!!」
そう言い捨てて、店長は去っていった。
「……痛ってぇ……」
最悪だ。
俺がゲームに復活したことはあっさりバレた。
奴らは俺を見つけ次第、積極的に狙ってくるだろう。
一方的な奇襲は不可能、激突必至だ。
「ムラサメ……」
事ここに至って、俺は龍真かムラサメか、をようやく決める事ができた。
やはり、あいつらと直接対決するなら、パートナーはムラサメしかいない。
あいつのスキル「エクスキューショナー」に賭けるしかない。
そして、もう一つ、やる事がある。
あの人たちを仲間に出来れば、店長に勝てるかもしれない。




