表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/116

(80)定例イベント「第二次薔薇戦争 ~ウォリック伯の反旗~」

DATE : H27.2.8

TIME : 20:11

STID : 00941724


 土曜の夜8時、俺は定例イベントの確認をすべく、「リヴァイアサン」にログインした。

 ただ、イベントの発表は6時。

 プレイヤーの集まるピークから2時間が経過していたこともあり、掲示板の前は閑散としていた。


「(でも、あまり意味なかったな……)」


 プレイヤーが集まるピーク時を避けたのは、保科たちに復活されたのを知られたくないとの、意図的なものだった。

 だが、イベントの内容……特に他プレイヤーのリアクションとか、アイテム先行販売で遅れを取ったとか、逆にデメリットばかりが多かったようにも思う。

 でも、そんな出遅れを嘆いていても仕方ない。

 俺は意を決して、村の掲示板をタップし、定例イベントのインフォメーションウインドウを表示させる。



「薔薇よ! 気高く咲く薔薇よ! 血より濃いその赤は、何を意味する!?」

「薔薇よ! 麗しく咲く薔薇よ! 汚れ無きその純白は、何を意味する!?」


ポップロイド「響希カノン」「漣波ルカ」「貴候司クォン」が、例のフランス騎士の格好で、3人揃って細剣レイピアを掲げて合唱する。


「国内500万ダウンロード記念! 大規模定例イベント『第二次薔薇戦争~ウォリック伯の反旗~』を開催いたしまぁーす!」


……噂どおり、今回も薔薇戦争か。

公式PKイベント、間違いなく保科たちは出てくるな。


「戦いは終わっていなかった! 生き残った紅薔薇姫と、白薔薇姫! 彼女らの血で血を洗う戦いは、この大地に戦いの因果たねを蒔いていく!」

「最後に咲くのはどちらの花か!? 相手を破滅させるまで続く、決死のデスバトル第二弾! ここに開幕!」



ーーーーーーーーーーーーーーー


『第二次薔薇戦争 ~ウォリック伯の反旗~』


日 時:平成27年2月9日(日) 18:00~20:00

場 所:インスタンスマップ「紅薔薇城&白薔薇城」

内 容:紅薔薇軍の場合:「白薔薇姫の首」の奪取

    白薔薇軍の場合:「紅薔薇姫の首」の奪取


報奨金:敵軍のクラスに応じた額になります


ーーーーーーーーーーーーーーー


「……?」


敵軍のクラスに応じた額?

何か、前回と書き方が違うような……。


何々……何だって?


"今回のイベントでは、敵を倒した数とクラスの補正パラメータ、そして報奨金の額が連動しています。"


"敵を5人倒したプレイヤー:「ナイト」、各パラメータ補正+250、報奨金額:25,000Cen"


"敵を10人倒したプレイヤー:「ビショップ」、各パラメータ補正+500、報奨金額:50,000Cen"……?


ーーーーーーーーーーーーーーー


「レオ」さんの推奨課金額


前回の打倒人数:35名

オススメクラス:『パラディン』

(パラメータ補正:+1750)

クラス必要額 :1,750,000Cen

報償金:1,575,000Cen


ーーーーーーーーーーーーーーー


 「ふざけんな」と、俺は思わずツッコんでしまった。

 175万Cenとか、なんだこのべらぼうな金額。

 しかも、補正パラメータ+1750とか、どんだけインフレしてるんだよ!

 前は通常ユニットの上限は+500だったろ!

 これじゃ、金さえ積めば勝てちまうじゃねーか!


 ……でも。


 だからこそ、逆に美味しいのかもしれない。

 俺の持つ「ブラックマンバ・ブレイド」だったら、もしも麻痺と毒が効けば、相手の防御力は関係なしに倒せる。

 そして、俺と同じレベルの敵を相手にすれば、この報奨金、1,575,000Cen……15万円か。


 ポイント換算で、15万円がゲットできる……!


「15万……?」


 それを口にした時、俺は我に返った。

 ……何を考えてたんだ、俺は。

 金を稼ぐのが、このバトルの参加目的じゃないだろ。

 保科と店長を倒すのが、本当の目的だろうが……!!


 脳内に湧いた強烈な欲望を、首を振って払いのけると、俺は再びイベントの内容を読み進める。


ーーーーーーーーーーーーーーー


備 考


・イベントからは脱出できません

 (※アイテム、魔法ともに無効化されます)


・参加時に「クラス」を選択します

 (※クラスによっては、課金が必要なものもあります)


・倒した相手のクラスと数に応じて、報償金額が変わります


・イベント終了後、生存プレイヤーの課金額は、全額返金されます


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ……これは前回と同じだ、多分。

 逃げられないデスバトルルール。

 通常戦闘では相手の装備を奪えないが、デュエルでなら奪える仕様も変わらず、だろう。


 だが、その最後の記載に、俺は大きな違和感を抱いた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


・「クラススキル」は、今回は存在しません。


・今回のイベントでは、イベント開始時に「紅薔薇」「白薔薇」「黄薔薇」のいずれかを選択しますが、「黄薔薇」軍はNPCユニット「ウォリック伯」と共に戦う事になります。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 黄薔薇軍……?

 ウォリック伯……?


 俺はいぶかしく思いながら、リンク先が設定されたその文字列をクリックすると、ウォリック伯のインフォメーションウインドウが別窓で開いた。


「何だこれ」


 そこに居たのは、血塗れの戦斧を両手に掲げた、凶相の巨人騎士だった。

 見た目はメチャクチャ怖い。

 多分、ステータスが万単位に設定されてる、「こりゃ絶対に叶わない系のNPC」という雰囲気だった。


 じゃあ何だ、今回は三つどもえの戦いなのか……?

 黄薔薇軍の勝利条件がないけど、これはどうなるんだ……?


 しかし、簡単に結論は出てこない。

 

 ……前回のイベントでは、チームを組んだ連中が圧倒的に有利だった。

 ムラサメはもちろん、できれば南原先輩たちにも仲間になってもらいたい。


「ムラサメ、か」


 だけど、こういう時こそ、龍真に頼むべきじゃないのか……?

 確かにムラサメは直接戦闘では圧倒的な強さを発揮するが、戦略となるとちょっとどうか、という気がする。

 フローズン・タランテラの正体を看破したり、南原先輩を信じるな、というメールを出したのは龍真だった。

 あの戦局を見極める力があれば、さらに混乱しそうな今回のイベントでも、正解を導いてくれる気がする。


「でもなぁ……。 龍真とムラサメじゃなぁ……」


 この二人を同時にパーティに入れることはできない。

 どちらかを選ばなくては。


「……どっちを選べば良いんだよ」


 混乱する戦局で優位に立ちたいのなら、龍真だ。

 でも、窮地に陥った時に助かるのは、ムラサメ。


「……シール買いに行こう」


 俺は結論を保留することにした。

 

 それよりも、シール。

 前回のバトルでも、スクロールでの攻撃魔法が大量に使用されていた。

 それが、あのリヴァイアサンのウェハースチョコによるものだというのは明白だ。

 俺は、自分の新しいスマートタブレットを見る。

 脳裏に、エルキッドの声が響いてくる気がした。


「買い占め……か」


 金はある。 

 今は戦いのために投資しよう。


 龍真とムラサメ、どちらを選ぶかは、買い物しながら決めよう。


 俺は外に出ると、チャリで近くのコンビニへと出かけた。

 

 ……そこに、あいつが居るとは思ってもおらずに。



DATE : H27.2.8

TIME : 21:11

STID : 00941724、01001249



「奇遇だな。 まさか、こんな所で逢うとは思わなかったぞ、桐嶋」

「店長……!?」


 俺は、リヴァイアサンのチョコを買い占めるため……いや、チョコに封入されてる、アイテムシールをゲットするために、下宿近くのコンビニに寄った。

 だが、そこに……しかも、菓子棚に居たのは、俺のバイト先のコンビニの店長だったのだ。

 あの世界で、資金力にものをいわせて闊歩する、最強最悪のアバター「ゼファー」の本体。


 何で……他店のコンビニに!?


「お前、復活したんだな」

「……!」

「それで、チョコのシールを集めに来た。 図星だろ」

「く……!」

「だが諦めろ。 もう在庫はどこの店にもないぞ。 保科たちにも手分けして買い占めさせているからな」

「店長……!!」


 だが、俺がそう言うと、店長は目を細め「ちょっと来い」と、俺の手を引いて、店を出ようとする。


「何すんだよ!」

「話がある。 いいから来い」


 そして、俺が連れていかれたのは、人気のない路地裏だった。


「一体、何……!」


 だが、その言葉を言い終わるよりも先に、俺の腹に店長の蹴りがめり込み、俺はヒキガエルみたいな声を上げながら地面にうずくまった。


「……れ……れん……ひょ……」


 声が出ねぇ……。


「桐嶋、お前いつになったらよ、店を辞めるんだよ」


 ……?


「お前はもう店を辞めたつもりかもだがな、面倒なんだよ」

「意思表示もせずに途中でいなくなるのは。 事務処理がな」


 そう言って、店長は俺を引き起こすと、手のひらで俺の顎を打った。

 脳が揺さぶられ、風景がぐらつく。

 俺はまたも、地面に這いつくばった。

 目の前に見えたのは、店長の革靴だった。


「ムカつくんだよ。 お前みたいに、社会の常識を知らねぇ奴は」

「それに、ゲームの中での悪態、なんだありゃ? ゲームの中だからって、何をしても良い訳じゃねぇんだぞ」


 ……はぁ? どの口で言ってんだ、お前が。


「何だその目は! お前、保科の家の事知ってるんだろうが! 俺は奴のために金を稼いでやってるんだぞ!」


 次々に襲いくる店長の平手。

 ズシッ、ズシッと染み込む打撃は、スゲエ痛い。

 だが、高校生の時の先輩たちのリンチと比べたら、かなり手加減をしているのも分かる。

 自分が傷害罪にならないように、だ。

 決して外傷だけは付けないように俺を殴っている。


「……ふざけんな」


「ああ?」


「ふざけんな、って言った。 それならお前が保科の給料をアップさせてやれよ。 個人的に金を貸してやってもいいだろ」


 俺になすり付けんなよ。


「お前ッ……!!」


 だが、本気になっては殴らないだろうという俺の思惑を、店長はあっさり裏切り、俺を本気でブン殴った。

 昔、ふざけた野球部の連中のバットが顔に当たった時と、同じくらい……いや、それ以上の衝撃が頭を襲い、俺は地面に叩きつけられた。


「か……!!」

「殺すぞ? 本気で」


 そして、俺の新しいスマートタブレットが、ポケットから転がり出た。


「……ふん、やっぱりクラウドにバックアップを取ってたのか。 お前は、やはりゲームの中で始末するしかないな」


 始末、って……。


「店長……。 あんたの仲間か? 俺たちを襲った連中は……」

「そうとも。 だが、保科に言ったんだろ? 『ネットの連中に呼びかけて襲わせた』というアイデア」


 ……しまった!

 そういや、「薔薇戦争」の前に、オリオンを呼び出した際、そんな事を言ったような……!

 という事は、杵島くん事件と保科たちは、無関係だったのか……!?


「あいつらは、ゲームの中で、お前に殺された連中だ。 だから、俺も素性は知らない」


 と、店長はそう嘯いた。

 だがそれは、多分嘘だ。

 ゲーマーにあんな暴走族まがいの格好をした奴が……いないとは限らないが、絶対に少数派だ。


「……警察に言うぞ」


「何をだ? 今殴った分をか? 傷害罪で訴える気か? でも、その程度じゃ俺は留置所には入れないな」


「お前等は、あの子も襲っただろうが……!!」


「ああ、『ティアリ』な。 だが、俺が指示した訳じゃない。 お前を襲った際に巻き添えになっただけ、だ。 悪いのはお前だ」


 ……それも違う。

 あの時、小野田さんは、琴莉さんを見つけて「ラッキー」と言っていた。

 無関係の他人なら逃がせば良いのだ。

 間違いなく、こいつらは琴莉さんも標的にしていた。


「許さねぇぞ、テメェ……」

「口の聞き方に気をつけろッ、桐嶋ァ!!」


 そう言って、俺はまた殴られた。


「桐嶋……明日のイベントは邪魔すんなよ。 次に邪魔すれば、容赦なく殺す」


 店長は凄みを利かせ、そう言った。

 だけど、人生の全てを失いかけている俺に、今更怖いものなど、なかった。


「フザけてろ。 お前らこそ、全員負かして退場させてやる。 ……課金した分、全部奪ってやる。 泣いてわめいても、絶対に許さないからな」

「桐島ァァァアァッ!!」


 俺は店長に胸ぐらを掴まれ、引き起こされ、川の欄干まで連れていかれる。

 欄干の3m下は川、気絶して叩きこまれれば命がないかもしれない。


「どうしたよ、店長」

「殺すぞ、本気で!」

「なら、確実に留置所行きだな。 ……いや、刑務所かな」

「俺が本気でテメェを殺せないと思ってんのか? ナメてんのか、テメェ!」

「お前はともかく、お前の奥さんと子供はどうなんだ? 殺人鬼のパパを持って幸せな家族だな」

「……ぐ!」


 捨て身の人間と、守る物がある人間とでは、おのずとその強さは違う。

 こっちはなりふり構ってられねーんだよ。


「心配すんなよ店長。 決着はゲームの中だけで、付けてやる。 逃げんなよ」

「ぐ……くぅっ!」


 そして、俺はまたも道路に思い切り叩きつけられた。


「覚えてろ、桐嶋! 退場させられるのは、お前の方だ!!」


 そう言い捨てて、店長は去っていった。



「……痛ってぇ……」


 最悪だ。

 俺がゲームに復活したことはあっさりバレた。

 奴らは俺を見つけ次第、積極的に狙ってくるだろう。

 一方的な奇襲は不可能、激突必至だ。


「ムラサメ……」


 事ここに至って、俺は龍真かムラサメか、をようやく決める事ができた。

 やはり、あいつらと直接対決するなら、パートナーはムラサメしかいない。

 あいつのスキル「エクスキューショナー」に賭けるしかない。


 そして、もう一つ、やる事がある。

 あの人たちを仲間に出来れば、店長に勝てるかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ