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(77)ベーコンレタスバーガーと焼肉セット

DATE : H27.2.5

TIME : 18:33

STID : 00941724



「あのさ龍真、水曜日までに『環境経済論』のレポートを出さないとダメなんだけど……良かったら、ちょっと教えてくれないか」

「何をだよ、礼雄」


 俺は、昼の学食でのぞみさんから承った「リョウくんをリヴァイアサンに誘ってね(はぁと)」のミッションに挑むべく、夜、龍真に電話を掛けた。


「お前だけが頼りなんだよ~、今からノートの要点を説明するから、何書けばいいのか感想くれねぇ? それを膨らましてレポート書くからさ」

「勉強は自分のためにするものだぞ、礼雄」

「でも、他の科目もあるんだよ。 誰かさんが勧めてくれた『リヴァイアサン』のおかげで時間なくてさぁ……」


 最初からいきなり誘うのも露骨かなと思い、まずは試験の相談という体裁を装い、その中に「リヴァイアサン」のキーワードを紛れ込ませる。


「……その講義内容からすると、教授はカーボンニュートラルというより、太陽光発電の将来的な廃棄コストについて懸念しているな」

「マジで?」

「ああ、途中で太陽熱発電についての言及があったろ? 日本での太陽熱発電は、70年代のサンシャイン計画で頓挫したままだが、実際の所は高効率での熱エネルギー変換の可能性はまだ残っている。 実際、これは日本よりも中国の方で研究が進んでいるぞ」

「そうそう、ノートに中国がなんとかって書いてあった!」

「なら、レポートは太陽熱発電をテーマにした方が良いかもな。 最近は低温排熱発電の技術も進んでいるから、カーボンニュートラルという趣旨から考えれば、そちらの材料が教授好みのネタだろう」

「うっはー、さっすがぁ! やっぱお前に電話して良かったよ、龍真!」

「いや、何。 これくらい何てことない」


 そして、レポートの話題が一段落するのを待ち、俺はさりげなく切り込んでみた。


「でさ、お前はまだリヴァイアサン止めたままなのか? やっぱり俺としても、人数が多い方が助かるんだ。 試験が終わったら、またゲームに出てこないか、龍真?」


 だが、しばらく間を置いた後の返答は、


「……断る。 わざわざ無様を晒したくない」


 だった。


 お前、のぞみさんの話じゃ、今も未練たらしくログインしてるって話だろうが!

 そもそも、「薔薇戦争」の真っ最中、俺にメールしたのもお前だしよ!


 と思わずブチまけたくなったが、龍真のプライドの事を考えて、ぐっと我慢した。


『リョウくんは、礼雄くんの事をいつまでも待ってるよ……』


 のぞみさんは確かにそう言った。

 だのになびかない、ってのはアレか。

 ツンデレ的なアレなのか。

 私、そんな安い女じゃないわ、的な。


 「もう……しょうがないわねぇ、貴方がそこまで言うならちょっとくらい力を貸してあげても良いわよ? あ、貴方の事が気に入ったからじゃないんだからね!? た、たた、たまたまよ!?」


 的なフラグなのか、これ。


……うっわ超めんどくせぇ!


 我が友人ながら、そういう一面があるってのは全然知らなかった。

 ギャルゲーなら、これは精魂込めて何度も口説けば落とせるパターンだけど、相手が男だしなぁ……。


 俺は仕方なく「お前がそう言うんじゃ仕方ないけど、気が向いたらログインしてくれよ」と、当たり障りなく電話を切った。


「はぁ……。 もう、レポートしよ」


 俺が頭をボリボリ掻きながら、コタツに座り直すと、


「礼雄ー、ごはん出来たよー! 早めに食べてねー!」

「あ、はーい!」


 あかり姉に呼ばれたので、俺は階下に降りて食事を待った。


「丼、もうちょっとしたら出来るから待っててね」

「ういっす」


 今日の夕飯は、豚汁とサーモン丼か。


「はいどうぞ、礼雄」

「ありがとう、あかり姉ちゃん」


 あかり姉ちゃんは、可愛らしいヒヨコエプロンを装備し、小夜子叔母さんの指示の元、下宿の皆さんの分も配膳していく。


「(……しかし、女性って何であんなに体のラインがはっきりする服が好みなのかな)」


 今日のあかり姉の上着は、何の変哲もないトレーナーだが、下はツギハギを入れた花柄ジーパンだ。

 しかし、伸縮する素材でも使ってるのか、それはあかり姉ちゃんの肢体にぴったり張り付き、これ以上にないほどに極上なヒップラインを浮き上がらせていた。


「(いいケツしてるなぁ……)」


 従姉妹相手に劣情を催すとか、人としてちょっと危険だが、あかり姉は俺から見ても抜群に美人だし。

 胸もデカいし、俺が年上好きなのは、あかり姉の影響が大きいと言わざるを得ない、うむ。


「いただきまーす」


 あかり姉が席に着くのを待ってから、俺は夕食を頂いた。


「ねぇ、礼雄……。 もう、今日から試験だよね? どう? 大丈夫なの?」

「あー大丈夫、今日はパソコン関係の奴ばかりだったから、余裕余裕」

「そう……明日の試験科目は?」


うわ、あかり姉ちゃん、かなり気にしてるな……。


「えっと、一限目が『マクロ経済学』で、二限目が『福祉経済総論』。三限目が『天体物理学』で、四限が英語。 まぁ全部どうにかなると思う」

「そう……頑張ってね、勉強」

「あ、それと『福祉経済総論』はレポートだけなんだよ。 あの理事長の話が、とても役に立ったんだ。 ありがとう、あかり姉」

「あ、そうなの!? それはよかったよー。 あたしも一緒に付いていった甲斐があったね」

「本当だよ、あかり姉」


「うんうん、叔母さんも嬉しいよ。 礼雄くん、そういう風に、人に感謝の気持ちを伝えるのを忘れないようにね」

「え、ええ……」


 本当のところ、心の底から感謝の気持ちを述べている訳じゃない。

 そりゃ全く感謝の気持ちがない訳でもないけれど、これはこないだテレビで見た、「太鼓持ち芸人」の真似をしているだけなのだ。

 他人の好きな事を覚え、心地よくさせるように立ち回れば、どれだけの効果が出るのかは、琴莉さんとの出会いの中で知った。それは決して侮れないものだった。


 俺には、力を借りても返せるものが何もない。

 だから、せめて言葉だけでも……と思い、自分の気持ち以上に、「ありがとう」と言うようにすることにしたのだ。


「天麒くんにも連絡しなきゃいけないんだから。 礼雄、頑張ってね」

「わ、分かってるって! そこで兄貴の名前、出さないでくれよ!」

「あはは、ごめんごめん。 でも、本当に礼雄は天麒くんが苦手なんだね」


 あかり姉は、どっちか言うと兄貴と仲が良かったからなぁ……。 くそ……。


『続きまして、ニュースをお伝えします。 先日、宇園市で起こった、資産家の夫婦が惨殺された事件ですが……』


 ふと会話が途切れた時、つけっぱなしにしているテレビから、殺人事件のニュースが俺たちの耳に飛び込んできた。


「怖いわねぇ、最近こういうニュース多いわよね」


 小夜子叔母さんが顔をしかめ、そう感想を漏らす。


「宇園市……? え、近所で起こったんですか、この事件?」

「ええ、稗田馬場の方でらしいから、こことは結構離れてるけど、犯人はまだ捕まってないんですって。 怖いわよね。 はい、礼雄くん、お茶」

「あ、あざーっす」


 ニュースを見て、あかり姉がしみじみと呟く。


「資産家の夫婦は、周囲にも愛される、おしどり夫婦だったんですって……可哀想。 何でこんな事件が」

「どうだかねぇ。 ニュースではそう言ってるけど、かなり業突張りの夫婦だったって、人から聞いたよ? 仕事での恨みも結構買ってたみたいだから、借金とか怨恨じゃないの?」


 だけど、あかり姉の感想を小夜子叔母さんがまるごとひっくり返した。


「ええっ、そうなんですか!?」

「らしいわよ。 それにしたって、殺すまでしなくても、とは思うんだけどね。 ……そうだ、礼雄くん、大学で起こった事件はどうなったの?」

「え? 礼雄、大学でもそんな事あったの!?」

「ああ、まぁ、確かにあったけど……。 チンピラの大学生狩りみたいな、そんなのだよ」

「怖い……。 礼雄、一人で居たら危ないよ? 気をつけてね」

「大丈夫だって、今は試験中だから人も多いし、そんなヘタこかないよ、あかり姉」


 食事を終えた俺は、食器を片づけて自室へと向かう。

 そして、レポート作成のためにノートPCを立ち上げていると、唐突に電話が掛かってきた。


「平田 翔太郎……?」


 誰だこれ、とか思ったが、あっこれムラサメの奴だ。

 俺に電話とか、何の用件だよ。


 ……まさか!?


「もしもし、桐嶋です! ムラサメか!? 何があった!?」

「いきなりデカい声出すなよ、レオ。 特に何もないよ」

「校内とかで事件とかあったんじゃないのか? それで電話したとか!」

「違うよ、そんな話じゃないよ。 それに、さっきもちょっとログインしてみたけど、ゲームの中でもそれらしい動きはなかった」

「そ、そうか……それなら良かった」


 それを聞いてホッとした。


「じゃ、ムラサメ、お前は何のために電話してきたんだよ」

「話したい事があるんだ。 レオ、お前に。 明日、飯奢ってやるから、その時に詳細は話す」


 なんだ、もったいぶって。


「今じゃダメなのかよ」

「ダメ……って事はないけど、軽い話じゃないからね。 それに、なんだかんだ言って、リアルでまだ逢った事ないだろ、僕らは」

「まぁ、それは確かに」

「だから、一度くらい生身で逢おう。 気に食わなかったら、またネットの中だけの関係に戻せば良い」

「……あ、ああ」


 一度くらい生身で逢おう、か。

 確かにそうだけど、実際聞くとスゲー台詞だな。


「ところで、明日も臨時イベントあるぞ。 今度はクイズ大会らしいから、殺伐としなくて良いんじゃないか?」


 クイズ大会? マジで?


「お前は、あの『ティアリ』って娘と出るのか? それとも、あの『トラウム』って娘か?」


 琴莉さんと、のぞみさん……。

 一瞬、今日の昼のトラブルのことが思い出された。


 っていうか、ムラサメの奴、何を皮肉言ってんだよ。


「いや、今回はパス。 試験勉強あるし、リヴァイアサンのイベントに参加したら、超疲れるから遠慮しとく」


「そうか……。 でも、イベントには極力参加しないと、自分の位置を保てなくなるぞ」


 ……自分の位置?


「ほっとけば、いずれ、他の強力なプレイヤーが台頭してくる、って意味だよ。 レオ、お前、MMOやってたんじゃないのか?」


 あ……。

 それは、確かに。

 MMO等の課金型ゲームで、トッププレイヤーであり続けるためには、金銭・時間・労力を限界までつぎ込み続け、とにかくひたすらに走り続けなくてはならない。

 「ドラグーンファンタジー11」でも、俺は日夜を問わず戦い続けた経験があるが、それでも、トップにはとうてい届かず、中堅ギルドの有望プレイヤー程度にとどまっていた。


 結局、あのゲームでのトッププレイヤーって、一体どんなプレイングをしてたんだろうな……。


「だろ? 『還魂のリヴァイアサン』は、ゲームだけど遊びじゃない。 金が懸かっているだけあって、真剣なんだぞ」

「分かってるよ、てか、今更お前に指摘されることじゃねーよ。 また明日な、ムラサメ!」

「ああ、また電話する! 忘れるなよ、レオ!」


 そして、俺は電話を切った。


 ふと電話の通話履歴を見ると、090……で始まっている、未登録の番号がある。

 着信は昨晩……誰だ、これ?


 あ! これ、琴莉さんか!?


 そうだ、時間的に間違いない。

 これなら、電話とかいつでも出来るじゃん!


 そして、俺は琴莉さんに電話しようとして、ふと思いとどまる。


「電話って……。 何を話すんだよ……」


 正直、今は電話しない方が良いような気がする。

 のぞみさんの事を伝えてもヤブヘビだろうし、ノートの事を伝えても「返して。 今すぐ返して」とか言われても困る。

 それに……。


 「琴莉さんのアバターって、超強いよね。 チート?」


 そんな話題を振るとでも? 冗談だろ。

 ゼファーはチートではなかったが、琴莉さんのアバター、ティアリへの疑義はまだ晴れていない。

 できれば、ゼファー同様に、チートでないことを望みたいのだが……。

 そう、俺がまだこのゲームのシステムを全ては知らないから、チートだと思いこんでるんだ……。


 俺は自分にそう言い聞かせると、スマートタブレットをしまう。

 そして琴莉さんのノートを開いて、「環境経済総論」のレポートに取りかかり始めた。

 龍真から聞いたテーマを元に、ノートPCで語句の意味を調べ、アイデアをまとめていく。


 ……琴莉さん。

 君がノート貸してくれたから、俺はなんとか単位取れそうだよ。 ありがとう。


 ノートの隅に頻繁に書いてある、


「達也……俺、お前の事が、前から好きだったんだ……」


 美少年同士の恋愛物語のセリフは、見なかった事にしとくね……。



DATE : H27.2.6

TIME : 11:12

STID : 00941724,00392354



2月6日、火曜日。 後期試験二日目。

 一限目の「マクロ経済学」をなんとか乗り切った俺は、二限目の「福祉経済総論」で、自慢の出来のレポートを速攻で提出。

 時間が空いたので、ムラサメに電話をしたら、奴もこの時間が空きってことなので、少し早めの昼食を取ることになった。


 「で、場所はどこなんだよ、ムラサメ」

 「ちょっと遠いが、南部バイパスに『天餡門』って焼き肉の店がある。 そこに来てくれ」

 「……わ、分かった」


 場所は知らないが、マップ検索で場所を探す。


 「『天餡門』……。 え、これ、超高級店じゃね……?」


 まさか奢るって天餡門でか、と思いながら、俺は南バイを自転車で疾走する。

 「天餡門」の前まで行くと、巨大な中華街の門の真下に、コートと肩掛けバッグ、メガネという出で立ちの大学生らしき人物が居た。

 

 「……やあ、レオ。 やっぱり、ゲームの中の顔とよく似てるね。 すぐ分かったよ」

 「お前が……ムラサメか」

 「お前、僕の本名知ってるだろ? まぁ、もうムラサメで良いけど。 じゃ、行こうか」

 「マジで? あのさ、ここ、高級店じゃねぇの? お前、ここに行く金とかあるのか?」


 すると、ムラサメは薄く笑って言った。


 「あるさ。 というか、お前も持ってるだろ? 昨日のイベントで荒稼ぎした分がさ」



 俺たちは、怪訝そうなウェイターから奥へと通された。

 チラチラ周囲を伺うと、高級そうなスーツに身を包んだビジネスマンの集団や、社長と秘書といった風情の客。

 俺たちみたいな学生や、家族連れなんてのは全く見あたらない。

 マジモンの高級店か。


 「場違い感がウルトラマックスだな」

 「金さえあれば問題ないよ、レオ」


 多分こいつも初めてだろうに、ムラサメの奴は堂々と歩みを進め、予約していたらしい個室へと入り込んだ。


 「どうぞ、キリシマ・レオくん」

 「ああ……」


 中では、既に別のスタッフが待機しており、俺たちが部屋に入ると同時に、焼き肉用の網に火を入れた。


 「それでは、ご注文がお決まりになりましたら、ベルでお呼び下さいませ」


 そう言って、ウェイターの男は慇懃に礼をし、下がっていく。


 「スゲェな、ここ……。」

 「基本はファミレスと同じだろ、ただ高級ぶってるだけで。 ま、レオ……。 とにかく食べなよ。 話はその後だ」

 「ま、それじゃ……」


 俺はムラサメに勧められるまま、メニューを開く。

 だが、その表に載っていたメニューは、どれもこれもが、俺の知る焼き肉の相場、その金額の数倍以上した。


 牛ロース1人前(A5ランク)が、6,000円?

 カルビクッパが3,500円?


 ……なんぞこれ?


 「け、結構高いな」

 「ムラサメ、やっぱ無理すんなよ。 ワリカンで行こう」

 「無理してない。 遠慮なく、好きなものを頼めよ、レオ」

 

 つってもなぁ……。


 「んじゃ、この『ファミリーセット2人前』から食べないか、ムラサメ」

 「そ、そうだな」


 俺たちはウェイターを呼び、ファミリーセットを注文。

 すると、驚くほど速攻で肉が来たので、俺たちはロースやカルビを早速焼き始めた。


 「……うめぇ!!」

 「本当だ!」


 庶民派大学生二人が、何げなく食べた肉を口にして、そんな感想を漏らす。

 いや、マジでスーパーの肉なんかと全然違う。

 とろけるような柔らかさと歯ごたえ、そして肉々しい味でありながら、生臭さの全くない、まさに「新鮮な肉」の味わい。

 肉単体でも旨いのに、この皿に入った、焼き肉のタレと塩とゆずしょうゆ?みたいなのも、市販品とは比較にならない旨さだ。


 「うっめぇえぇ! マジうめぇ!」

 「……本当だな! おい、レオ、塩舐めるんじゃない」

 「だって、これ絶対に普通の塩じゃねーぞ。 中に何か良い香りのが混じってる」

 「だからって、貧乏人臭いことをするなよ! おい、この特上カルビ行ってみないか?」

 「あ、いいなそれ! ……あ、ごめんムラサメ、この霜降りサーロインてのも試して良い? なんだか超美味そう」



 「……くそっ、本当においしい! すいませーん、ご飯大盛り!」

 「この、ガーギル三元豚行ってみようぜ!」

 「くっ、サンチュもなかなか美味だ! ただの草じゃないな!」

 「シメはカルビクッパだよな! おこげ最高!」

 「デザートは杏仁豆腐に決まってるだろ! くっ、ココナツミルクと、タピオカがこんなに……!」



 そうして、俺たちはしこたま飯を食べ終えた。


 「美味かったぁ……。 こんな飯、初めて食べた」

 「僕もだ。 やっぱり、金を積めば美味い物を食えるってのは、本当だな」

 「サンキュー、ムラサメ。 こんな飯奢ってくれて」

 「もちろんタダじゃない」


 それを聞いて、俺は肉を口から吹きそうになった。


 「んはぁ!? ムラサメ、お前、飯奢るって言っただろうが!?」

 「本題はこれからだよ。 というか、ここには話をしに来たんだ。 ご飯はそのついで、さ」


 そういや、そうだった……。


「で、レオ。 お前、昨晩はどれくらい儲けた?」

「何の話だよ」

「トボケるな。 イベント『薔薇戦争』の結果だよ。 僕は、昨日52万円儲けたよ」

「何……おまっ、そんなに!?」


 52万。

 俺は55万だけど……。

 それは、PKで資産をため込んでいた「オリオン」を倒した事が大きく、報奨金はそれほどでもなかった。

 一体、ムラサメの奴はどうやって稼いだんだ。


 すると、ムラサメはカシスソーダをひとすすりしてから答えた。


「でも、そんな動揺してないじゃないか、レオ。 やはり、お前も同じくらいか、それ以上に儲けたんだね」

「……。」

「多分、あの女と一緒に狩りまくったとか、そんな所だろうな」

「違うよ、俺はデュエルで、オリオンを倒しただけだ。 ティアリはそんな関係ない」


 だが、ムラサメはカラン、とグラスを鳴らして言った。


「へー。 僕の協力なしで、あの『オリオン』の奴を倒してしまうなんてね……。 やっぱり底が知れないね、レオ、お前は」

「何が言いたいんだよ」


 ムラサメはグラスを置くと、俺の目を見据えて言った。


「僕のギルドに入れよ、レオ」

「は? もう入ってるだろ」


 あの、「ブレイド・ブレイズ」っていう香ばしい名前のギルドに。


「そうじゃない。 僕のパートナーになって欲しいんだ」

「はぁ……ぁあ?」


 パートナー?

 何だこれ?

 どういう展開だよ。


「僕はさ、デュエルで稼いだんだ。 自分の実力より少し上のPKプレイヤーを狙ってさ……。 レッドプレイヤーはスキル『エクスキューショナー』の事を知らないからね」


 スキル「エクスキューショナー」。

 対PKプレイヤーに対しては、攻撃力が最大で350%アップする、驚異のパッシブスキル。

 発動条件がホワイトネームカラーである事なので、そりゃレッドカラーの連中は、このスキルの事を知らないだろう。


 でもそれが続くのも、スキルの詳細が知れ渡るまでだ。

 それに、ムラサメがPKKをし続けている事が分かれば、やがて周囲は警戒し出す。

 そうすれば、今はたまたま稼げても、この後はそうは行かない。

 相手はいつまでも同じ戦法が通用するコンピュータではなく、人間なのだ。


「それは僕も懸念してる。 だから、もっと強力な軍団を作って、手強い勢力と戦える力が欲しいんだ」


 それを聞いて、俺はコーラを喉から戻しかけた。


「お前……!」


 あの、リントやエナリスが居るだろが。


「いや、そのためには、普通のゲーマーじゃダメなんだ。 レオ、お前みたいなマジキチな奴でないと」


 俺がマジキチって……。

 一瞬、鶴羽先輩事が脳裏に思い出される。

 マジキチはあのレベルくらいからだろ……。


「僕のアバターは、どうしても防御に不安がある。 集団戦では、どうしても盾になる存在が必要なんだ」


「……それが、俺だって?」

「ああ。 今だから言うけど、お前が側に居る時が、一番安心して戦えたよ」


 それは……俺もだ。


 ムラサメが側に居た時が、一番心強かった。

 普段はともかく、いざ戦闘になって誰かを選べ、となれば、こいつが一番頼りになる。


「だから、礼雄……。 新生『ブレイズ・ブレイド』に入れ。 僕と共に戦ってくれ」


 でも、俺とムラサメの見ている先は違う。

 ムラサメは、とにかくゲームで先に進め、金を稼ぐ事を考えている。

 だが俺は、皆……。

 龍真やのぞみさん、マキアにルナ、そして、ティアリに……。

 みんなと一緒に、楽しくゲームがプレイしたいだけなんだ。


「もちろん、お前とも。 ムラサメ」


 金が稼げるってのは、スパイス程度の要素で良い。

 だが、俺がそう返事すると、ムラサメは愕然とした表情を見せた。


「何を言ってる、レオ……! 『リヴァイアサン』は、ゲームだけど、遊びじゃないんだぞ!」

「遊びだろ、どう見ても。 ゲームにマジになるなよ」

「金が稼げるコンテンツは、もう既に遊びじゃない!」


 そう言って、ムラサメはテーブルを、バァンと叩いた。

 その勢いに、俺の身は一瞬すくむ。


「そうかもしれねぇけど……。 ムラサメ、俺は、このゲームを、あくまでも『ギャンブル性の強いゲーム』としてしか思ってない。 世間にはギャンブルにのめり込む人は多いけど……その結末が大抵どうなるかは知ってるだろ? 考え直した方が良いぞ、お前こそ」


 それに、遊びじゃなかったとしても、それは「リヴァイアサン」のサービス終了までの話だ。

 永遠にこの「稼げる」ゲームをやっていられる訳じゃねーんだぞ。


 俺がそう正論を吐くと、ムラサメは俯いて黙り込んだが、


「『薔薇戦争』は終わってないんだ……。 今週末、また大型イベントがあるってもっぱらの噂なんだ」

「……マジか?」

「確かにお前の言う事は正しいよ、レオ。 だけど、こんなに簡単に金が手に入るチャンスは、そうそう無いんだぞ! それを逃し続けたら、きっと人生で負け組になる!」

「お前……」

「僕と一緒に、大金を稼ごうよ、レオ。 『1000万円が手に入る』って噂があるじゃないか。 あれ、きっと本当だよ。 僕はこのまま、トッププレイヤーで居続けたいんだ!!」


 まだトッププレイヤーにはほど遠いだろ……。

 そりゃ、多少は稼げるようになったかもしれないけど。


「そうさ! 僕たちがこうしてのんびり食事している間にも、本物のトッププレイヤーの連中はずっとプレイし続けて、何百万・何千万も稼ぎだしてるかもしれないんだ! 僕らが得られるかもしれないお金を、先に奪われてるんだぞ!」

「いい加減にしろ、ムラサメ!」


 俺がそう怒鳴ると、ムラサメはハッと我に返った様子だった。


「レオ、お前……。 皆で仲良くゲームしたいとか、本当にそんな事を考えているのか」

「ああ。 このゲームは、皆真剣だろ? 手加減がないって所が、気に入ってるんだ」

「はっ……本気でそんなヌルい事を」


 だが、ムラサメは、そう吐き捨てた。


「じゃあ、ティアリ……。 彼女を僕にも紹介してくれよ」

「何言ってるんだ、お前」

「こないだの態度は謝る。 だけど、僕にはとにかく、強い仲間が一人でも欲しいんだ。 この先の世界を見たい」


 この先の、世界を見たい……。


 そして、ムラサメは語気強く言った。


「それが、MMOプレイヤーだろ」

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